医師で連続起業家の物部氏に聞く、事業テーマと創業メンバーの選び方|医師の起業

橋爪:2023年のヘルスケアスタートアップの資金調達額は700億円前後と、年々増加傾向にあります。また、スタートアップによる新医療機器などの薬事承認、保険収載の事例が増加しており、M&A件数も伸びています。

このような潮流の中で、医師の起業も活発化しており、私たちBeyond Next Venturesも多くの医師起業家が立ち上げたスタートアップに投資をしています。

今回は、「なぜ起業する医師が増えているのか」、そして、「事業の成功につながる事業テーマや創業メンバー選び」について探ります。

お話を伺うのは、医療系スタートアップ界隈で頻繁に名前の挙がる精神科医 兼 起業家の物部真一郎氏です。物部さんは、医療分野での起業から事業のピボットを経て、マイナビ社によるM&Aに成功しました。以降、シリアルアントレプレナーやエンジェル投資家として活躍している稀有な人物です。

M&Aまで経験した数少ない医師アントレプレナーである物部さんの目から見た、医師の起業家が事業で成功するための秘訣を伺います。

プロフィール

物部 真一郎

精神科医/合同会社ovelo 代表社員/日本スタンフォード協会理事/高知大学医学部特任准教授/ビジネスアナリスト

物部 真一郎

1983年京都府生まれ。高知大学医学部を卒業後、精神科医として医療現場に従事。その後、スタンフォード大学経営大学院に進学し、MBAを取得。同校在学中の2014年、医師のための皮膚科相談プラットフォーム「ヒフミルくん」起ち上げるとともに、株式会社exMedio(エクスメディオ)を創業。2019年企業売却、2022年代表退任。以降、医療向けのサービス開発や投資活動に注力。2023年1月、高齢者の孤立や孤独の課題解決を目指す会社「超楽長寿」を設立。

橋爪 克弥

Beyond Next Ventures株式会社 パートナー

橋爪 克弥

2010年ジャフコ(現ジャフコグループ)入社。産学連携投資グループリーダー、JST START代表事業プロモーターを歴任し、約10年間一貫して大学発ベンチャーへの出資に従事。2020年に当社に参画し、医療機器・デジタルヘルス領域のスタートアップへの出資を手掛ける。2021年8月に執行役員に就任。投資部門のリーダーを務めるとともに、出資先企業のコミュニティ運営を統括。主な投資実績はマイクロ波化学(IPO)、Biomedical Solutions(M&A)、Bolt Medical(M&A)等。サーフィンが趣味、湘南在住。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了

医師の起業家が増えている二つの理由

最近は医療従事者が起業するケースや、医師による起業家が増えていると感じています。その理由はいったい何でしょうか?

物部:医師の起業家が増えている理由は大きく二つあります。

一つは、「プログラミング技術が以前よりも身近になったこと」です。直感的な操作で開発が行えるノーコードツールの登場により、かんたんなサービスやプロダクトであれば医師が自ら作れるようになり、開発のハードルがかなり下がりました。加えて、マッチアップイベントなどを通じて、比較的容易に医師とエンジニアさんがつながれるようにもなりました。

もう一つの理由は言うまでもなく、「医療現場にまだまだ課題が多い点」です。医療従事者として臨床現場に立てば、非効率な部分がいまだに多く存在することがすぐに分かります。一方、起業家目線で見れば、医療現場は起業ネタの宝庫だとも言える。もっとも危機感を抱き、課題を見つけやすい立場が医師なのだと思います。

どんな非効率が残っているのでしょう。

物部:例えば、患者さんの情報や伝達事項を用紙から転記したり、データをExcelで管理したり、わざわざ物理的に人が移動をして用紙を受け渡したりするなど、非効率な点を挙げればきりがありません。「なぜこのままの状態が放置されているのか?」と感じることが多いのが、医療現場だと思います。

その一方で、医療関係者ではない一般企業に務める友人などから話を聞くと、ビジネスの現場や、企業間の情報伝達の手法はとても効率化されています。そうした比較情報からも、医師は課題を感じやすい立場なのではないでしょうか。

なるほど。2021年の日経メディカルOnlineの調査では起業に関心のある20~30代の医師が3割ほどいましたが、物部さんも医師起業家は増えていると感じていますか?

物部:医師の起業家の数は実際に増えていると思います。私が直接、起業の相談を受ける件数の体感値もそうですし、スタートアップイベントなどで出会う起業を検討している医療者の数も増えている印象です。

実際に、臨床現場にも「起業」という概念が浸透しつつあります。新潟県独自の制度に、研修医の2年間で経営スキルを身につける研修プログラム「イノベーター育成臨床研修コース」があります。これは「臨床能力を養いつつ、経営戦略など起業や経営に必要なスキルを身につける」というユニークな研修制度です。講師陣の豊富な経験と知識に基づくメンタリングを受けることで、研修医たちは医療と経営の両面でスキルを磨くことができます。この事例から分かるように、今は臨床現場で起業という単語を当然のように耳にする時代だと思います。

多くの医療課題から事業テーマをどう選ぶか

起業において「課題の見つけやすさ」は、とても大事なポイントだと思っています。ただ、医師は課題を見つけやすい立場である一方、ビジネス視点で事業のテーマを選ぶのは難しそうです。物部さんが事業テーマを選ぶ際に意識しているポイントはありますか?

物部:事業テーマを選ぶ際のポイントは二つあります。一つは、「マインド」です。一度起業をすると、経営が続く限り一つのテーマに対して5年や10年はコミットして向き合うことになります。その間も「モチベーションを保ち続けられるのか」「人生をかけられるテーマなのかどうか」は考えたほうがいいです。

つい最近もある起業家が、まだキャッシュが残っている段階なのに「やる気を失ったので辞めます」と言って会社を閉じました。よく投資家がOKを出したものだと思いつつも、自分がやりたくない課題に向き合い続けることはできないし、続けても時間の無駄です。

課題に取り組み続けられるかどうか。周囲に対して「私はこの課題を解決する人です」と言い続けられるかどうか。これが、テーマ選びのチェックポイントになります。

単なるお金儲けではなく、続けられるかどうか?

物部:医療系の起業家の良いところは、単に儲かるからと事業を始める人があまり多くないことです。しかし、だからといって、目の前に困っている人がいるからと、見つけてしまった課題にサッと飛びつくのはおすすめしません。それが「自身のパッションが本当に途切れない課題であるかどうか」をぜひ見極めてほしいです。

もう一つの事業テーマ選びのポイントは、「課題を解決しても100人しか喜ばないものは、どうやってもビジネス化はできない」です。つまり、必ずしも莫大な利益を生まなくてもいいのですが、黒字であることは、ビジネスをする上での必須条件だと思います。

例えば補助金など外部からの資金でしばらくは存続できたとしても、急な政策等の変更によりお金が入らなくなったら、事業は閉じざるを得ません。途中で終わってしまわないためには、「黒字化の道筋を作れる課題(事業テーマ)」と「それを解決できるビジネスモデルを組み立てられるかどうか」を見極めることがかなり重要です。

黒字化できるビジネスモデルに必要な考え

物部さんは競合企業のIR情報や原価、利益率、KPIなどを細かく分析した上で、事業計画を練っている印象です。ビジネスモデルの研究に余念がなく、収益化にこだわりがあります。黒字化に必要な考え方はありますか?

物部:当然ビジネスですから、売上とコストのシミュレーション、市場分析は確実に行うべきだと思います。

そもそも論ですが、自分が思いついたアイデアは、自分にしか思いついていないことは少なくて、誰かがすでに事業を始めていたりします。ですから、ほかに先行事例がないのかを調べることは、当たり前にするべき行動です。

具体的にどんなシミュレーションを?

物部:例えば、売上の要素を、1. 顧客単価、2. ユーザー数、3. 購買頻度の三つほどに分解するとして、それらの予測をそれぞれで立ててみます。簡単な感度分析(収益性に影響を与える変数・パラメーターの変動が、売上などの結果にどの程度の影響を及ぼすかを分析する手法)をしてみて、「この程度までなら外れても黒字になるな」などの予測は、起業前に必ずしたほうがいいでしょう。

ビジネスモデルを作る上で意識していることはありますか?

物部:常日頃から考えることです。「この会社はなぜこんなに利益が出ているのか」、逆に、「なぜこんなに良いサービスなのにあまり儲かっていないのか」。何かしらの理由が必ずあるのですが、じゃあどうすればいいのかという答えはありません。ならば、自分で答えを考えるしかない。そうやって研究してビジネスモデルを考えていくのは、とても面白い作業ですね。

物部さんにたまにお会いすると、「この会社知ってます? とても儲かっているらしいですよ」と、常日頃からビジネスモデルを考えている様子が伺えます。

物部「儲かっている」ということは、結果として社会のニーズに沿っているとも言えます。ですから、儲かっている理由を考えるのは楽しいです。

特に医療系のサービスは、儲けるのが難しい。だからこそ、儲かっている医療系スタートアップは間違いなく何かしらの理由があります。その分析から、事業展開のヒントを得ることにつながっていきます。

その上で、BtoBサービスの場合は買い手が限定されるので、どういう条件が整ったらサービスを利用してもらえるか、プロダクトを買ってもらえるのか、購買意向を持つ対象者からヒアリリングして見極めたほうがいいでしょう。

一方、BtoCサービスの場合は、サービスのテスト版が比較的安価に作れますから、起業前にまずテストして反応をみてから、黒字化の道筋を作れそうかどうかをあらかじめ確認しておくといいと思います。

チームビルディングに必須条件「目指す未来への共感」

私も起業の相談を受ける立場ですが、いちばん多いのが、課題やビジネスモデルの見つけ方です。そして次に多いのが、チームの作り方。どうやって仲間を見つけ、作り上げるべきか。そんな方に向けたアドバイスはありますか?

物部:まずは、どんなリーダーでありたいかを考えましょう。リーダーのタイプは、大きく二パターンに分けられます。強いリーダーシップを発揮するいわゆるワンマンタイプの「一人リーダーシップ型」と、集団経営体制を志向する「グループでのリーダーシップ型」です。

私の場合は後者で、一人ですべてを決めることはできないし、前者の方法は非効率だと考えています。後者の場合は、背中を預けて信頼できる人と一緒に創業することがとても重要です。

次にメンバー集めですが、とにかく創業期は、「行動・実行につなげるためのディスカッションができるメンバー」を集めましょう。仮説検証をしまくらなければならない段階で、禅問答のようなディッスカッションはまだ必要がないタイミングです。いろんな意見交わすにしても、最終的には「信じて任せられる人」がチームメンバーでないと、スピーディーな経営判断が必要な創業期を乗り越えるのは難しい。

急速に事業を起ち上げる中で人材の多様性はまだ不要ですし、思考が近しい人同士で同じミッションやビジョンに共感し、目指したい同じ未来へ向いていることのほうが重要です。もちろん、事業のステージが先へ進めば、多様性がとても重要になるフェーズが必ず来ます。

私の場合は、同じような考え方を持つ友人と一緒に起業して、喧嘩もしますが毎日が部活動みたいで楽しいです。課題に対する最適なチーム構成にしたら、結果的にそうなりました。

価値観を共有できるチームであること。意思疎通のコミュニケーションコストが低いこと。これらが重要なのですね。

物部:医師の場合、必然的にエンジニアさんと組んで事業を進めることになりますが、どうやっても医療の共通言語は通じ合いません。しかし、「ロジック」は合わせられます。言語の不一致をロジックで補ってコミュニケーションコストを低くはできるので、やはり同じ考えとビジョンへの共感を持ったメンバーとスタートすることはかなり重要です。

良いエンジニアと出会う方法

特に医師の場合、身近にエンジニアがいないケースも多く、メンバーの探し方に悩むようです。どうやって見つけたらいいのでしょうか?

物部:まず大前提として、一緒に事業をやれるエンジニアを見つけられないくらいだったら、おそらく起業は難しいと思います。起業を目指している段階では、「自分はこういうことをしたい。している」と周囲に言いふらしまくるはずですが、その種まきの中で出会えないということは、ビジネスモデルの磨き込みや選定が不十分な可能性があります。

解決したい課題や目指すビジョンを語って発信していれば、必ず仲間に出会えます。起業を検討している人は良いエンジニアと出会ってから起業を決意するパターンが多いので、その段階へ到達するまでは自分で発信し続け、周囲のサポートを受け、紹介などを通じて出会うのが重要です。

私もチームビルディングの際にもっとも困ったのは、エンジニア探しでした。自分ではプロダクトを何も作れないので、いろいろな出会いの場へ参加する日々。あるいは、外国人のクラスメートなどにも声をかけたのですが、日本の医療現場が抱える課題感を共有できないことが最大のネックでした。日本ではなぜそんなことが課題なのだ、と言うんですね。納得してもらえず、同じビジョンを共有することがそもそも困難でした。

しかし、日本人で日本の医療を経験したことのある人ならコミュニケーションコストは低い。特に医療課題で起業する場合は、健康に対してまったく考えたことのない人はいないはずですから、課題感への共感度も高いはずです。私といつも一緒にやってくれているスーパーエンジニアの今泉は、大きな病気をした経験があり、その疾患の課題を解決しようと話が盛り上がって関係がスタートしました。

これから起業を考えている医師の方や医療分野で起業したい方にとって、とても参考になるお話を伺えました。本日はありがとうございました。

Katsuya Hashizume

Katsuya Hashizume

Executive Officer / Partner