Inside the Mind of US VCs ― 日本のスタートアップに、今、米国の投資家が求めているものとは|TECHNIUM Global Conference 2025 開催レポートNo.5

Session Title: Inside the Mind of US VCs: What They Look For In Japan

モデレーター

野崎 康太(CoA Nexus CEO/創業者)

登壇者

  • Spencer Tall(Allegis Capital マネージングディレクター)
  • Yao Ho(LYFE Capital マネージングディレクター)
  • Joseph Jeong(ARCH Venture Partners ベンチャーパートナー)

Beyond Next Venturesが共催として参画した、日本初のディープテックに特化した国際カンファレンス「TECHNIUM Global Conference」。2025年5月7日・8日に東京で開催された本カンファレンスでは、日本のディープテックスタートアップを牽引するトッププレイヤーたちが多数登壇し、各分野で示唆に富むセッションが繰り広げられました。

その中から本レポートでは、米国を拠点とするベンチャーキャピタル3社のキーパーソンが登壇した注目セッション「Inside the Mind of US VCs: 日本のスタートアップに何を求めているか」をお届けします。

米国VCが語る「ネットワーク」の重要性

「我々が見ているのは、現在のビジネスではなく、“信頼される起業家かどうか”です」
冒頭からSpencer Tall氏がそう語るように、米国VCの投資判断は、チームの将来性とネットワークの広がり方が大きく影響しています。

Tall氏は「我々はイスラエルのスタートアップに多く投資していますが、最終的に米国に本社を構えるケースが多い。米国では資金調達がしやすく、資本市場やM&Aへのアクセス、さらには実際の市場アクセスも得られるからです。」と指摘。日本の起業家にも柔軟な市場選択と戦略的な本社移転を促しました。

これに対し、モデレーターの野崎氏は「日本のスタートアップが、米国VCにアクセスするのは極めて困難」と指摘。

Tall氏は「スタートアップには信頼性が必要です。無名の起業家であれば、アドバイザーの顔ぶれが非常に重要になります。我々のファームは30年間、飛び込みメールで投資したことは一度もありません。いつも紹介経由です。」と答えました。

Yao Ho氏も、スタートアップが持つべき最も強力な資産は「人との繋がり」であると強調します。

「重要なのはサポートネットワークを持つことです。『スーパーハブ』のような人々は、必要な人脈を全て紹介してくれます。Tall氏やJeong氏のような投資家を持つことは、データ共有や投資先紹介の面でも非常に有益です。」

ネットワークの重要性は、単なる情報共有のためではありません。信頼できる人々と繋がることで、資金調達のスピードも、意思決定の質も飛躍的に向上します。

左から、野崎 康太、Yao Ho、Spencer Tall、Joseph Jeong(敬称略)

グローバル思考が成長を加速させる

Joseph Jeong氏は、日本の起業家の意識改革の必要性を語ります。

「我々が企業に問うのは、『あなたの会社は何を目指しているのか?』ということです。多くの人が技術の所有権に執着してしまい、成長の妨げになります。」と回答。続けて、「“日本企業”や“米国企業”といった国籍的アイデンティティではなく、グローバルで勝てる形を選ぶべき。企業が成長を続けるには、最適な拠点、最適な資本市場を選ぶ判断力が重要です。」と答えました。

この視点を補足するように、Spencer Tall氏も「イスラエルのスタートアップは、最初から“外に売る”ことを戦略として組み込んでいる。国を越えて考える意識が浸透している」と述べました。

つまりグローバル思考とは、「自社の強みを、世界のどこでどう活かすか」を中長期的な視点で考える力です。それがVCの心を動かす第一歩となることが分かりました。

米国VCから見た「日本スタートアップの課題と可能性」

日本のスタートアップによるピッチの姿勢について、Spencer Tall氏は「なぜ自分がこの課題に挑むのか、という熱い思いやストーリー性が足りない」と語りました。

「市場分析は素晴らしい。でも我々が見ているのは、“この創業者は自分のネットワークから資金を集められる人材か?”という点。最終的に人を信じて投資しているのです」

一方で、Yao Ho氏は「資料が整いすぎていることもある意味で問題」と指摘。「不完全でもいい。本当にやり遂げたいという気持ちが、最も強い説得材料になる。その想いを起点に投資判断するVCは少なくない」と続けました。

制度面でも障壁はあります。Joseph Jeong氏は、日本の法人構造や税制が柔軟性に欠けることに触れ、「米国に本社を移すことにより資本効率の良い構造に移行している企業もある」と紹介。現地法人化やQSBS制度などを活用することも、グローバル展開には必要だと語りました。

左上からSpencer Tall、Yao Ho、野崎 康太、Joseph Jeong(敬称略)

起業家への強いメッセージ

セッション終盤、野崎氏が「日本のスタートアップが米国VCから投資を受けるには、何が必要か?」と問いかけると、3人の登壇者は一様に「人の力」を挙げました。

Spencer Tall氏:「VCは賢くない。“この人と一緒に走れるか?”を見ているだけ。英語が流暢でなくてもいい。情熱と信頼があれば、支援者は自然と集まる」

Yao Ho氏:「“投資をお願いする”スタンスではなく、“共にビジョンを実現する仲間を探す”感覚で臨んでほしい。VCと起業家は対等なパートナーです」

Joseph Jeong氏:「どんな技術にも成功の保証はない。だからこそ、『なぜ自分がこれをやるのか』がその人の意思が明確な人にしか、我々は投資できない」

このセッションを通じて、日本のスタートアップが世界に挑むために必要な要素が浮かび上がりました。

「資金を得る」のではなく、「信頼を築く」
「英語を話す」のではなく、「自分の意志を伝える」
「完成された計画」ではなく、「不完全でも動き出す力」

米国VCのリアルな声は、日本の起業家にとって、単なるアドバイスではなく、次の一歩を踏み出すきっかけとなるでしょう。

2025年5月7・8日に開催したTECHNIUM Global Conferenceには、2日間で約2000名が参加しました。500件以上の最先端技術・研究シーズのShowcaseがあったほか、医療・創薬・バイオ・クライメートテック、宇宙、AIなど分野別のセッションも数多く開催。そのほかにも、研究者、スタートアップ、投資家、事業会社が集う実践的なネットワーキングの機会も提供しました。商談・マッチングブースでの面談件数は1000件にものぼり、賑わいを見せていました。

TECHNIUM Global Conference
公式Webサイト:https://tcnm-gc.com/

Akito Arima

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Partner

Keigo Yato

Keigo Yato

Venture Capitalist