本記事は、2021年8月~12月に開催された「Agri/Food Tech Startup Showcase2021」の「第5回:農業テックの社会実装に挑戦する研究者 × 経営者 特別対談」のイベントレポートです。第5回は、PLANT DATAとHappy Qualityから、「ビジネスを推進」する経営者と「技術を推進」する研究者の方々にご登場いただきました。
第一部:日本の研究開発型スタートアップの現状
有馬:日本は、シーズ(科学技術)とニーズ(顧客・社会課題)を結びつけるイノベーションの部分が他国と比べると弱いかもしれません。インプット指標(研究開発投資対GDP比、1人あたりの研究者数、国際特許出願件数)はG7の中でトップですが、アウトプット指標(TOP10%補正論文数、1人あたりのユニコーン数、労働生産性)は最下位レベルという結果が出ています。
このような現状のなか、既存の事業の技術移転や大学や企業における技術シーズを「いかに、ニーズに合わせ、スピード感を持って事業化するか」が非常に大事なポイントとなってきます。
大学発スタートアップの数は増えており、2020年時点では2,905社、前年比339社と過去最高の伸びを記録。領域別ではバイオ・ヘルスケア・医療機器が最も多く、次いでIT系となっています。アグリテックはまだ少ないので、今後もっと盛り上げていきたいという想いで本イベントも企画しています。
第二部:研究者×経営者 特別対談
<インタビュー対象者>
PLANT DATA株式会社
・代表取締役CEO 北川 寛人氏
・エグゼクティブテクニカルアドバイザー 高山 弘太郎氏
株式会社Happy Quality
・代表取締役CEO 宮地 誠氏
・CTO 戸田 陽介氏
経営者・研究者 出会いのきっかけ
PD 北川:高山さんとは大学の同級生でした。私は元々スマート農業への興味が強く、学生時代にその領域で研究しておりました。高山教授は当時から農業情報・データと向き合っておられました。私が独立し、スマート農業や自然を向き合う仕事ができるようになったタイミングで、ご縁あってたまたま高山さんとお仕事をする状況になりました。
PD 高山:同じクラスで、大学1年のときから同じでした。昔は学生実験とか厳しかったのですが、夜中まで残って一緒にやってたっていう(笑)
HQ 宮地:元々静岡大学で、峰野先生という方と知り合いになり、一緒に会社を立ち上げたんです。その時に、「すんごく面白くて、HQっぽくて宮地さんにマッチする人いるよ!」ということで戸田先生をご紹介いただきました。会って5分もしないうちに「一緒に組むか!やるか!」となりまして、(珍しい)二つ返事で「やりましょう!」と動き始めたのが最初ですね。
HQ戸田:今でも大学で研究を続けていますが、マネタイズや社会実装を現場でやりたいと思っていたちょうどその時に宮地さんとお話させていただく機会がありました。まさに自分の知見を活かせる場所なんじゃないかと思い、組ませていただこうと思いました。
商品の賞味期限はどのくらい?
渡邉:商品を販売し始めてからまもない今の段階では、数か月以内なら大丈夫というのは見えております。コオロギの中にも油分があり酸化していくので、それによって賞味期限を設定していかなければいけません。
羽生:培養肉全般の話と、うちの培養フォアグラのような個別商品についての話があります。培養肉全般については、無菌で作っているため消費・賞味期限は長くなり得ます。培養フォアグラという商品に限っては、これから検証が必要ですが、無菌なので同様に消費・賞味期限は長くなり得る一方で、構造を支える筋のようなものが一切入っていないので、細胞自体が物理的に弱いかもしれない。なので、構造が崩れることで味が変化しやすいかもしれません。肉の熟成のように良くなる可能性もあります。
金田:グリーンミートという商品については、冷凍の形で販売しているため、冷凍の状態であれば半年以上持ちます。食べるときは冷蔵で解凍いただきますが、冷蔵保管してから5-6日間が賞味期限なので、一般の肉と比較して賞味期限が少し長いという特徴があります。
それぞれの仕事の役割について
有馬:皆さんそれぞれビジネス推進の立場・技術開発の立場でいらっしゃると思いますが、会社内での役割分担について教えていただけますか?
HQ宮地:戸田さんは名古屋大学の研究者であり、起業もされています。そこは尊重しつつ、HQには週何時間コミット、という契約です。役割については、大学の方や研究者の方は、顧客のニーズやマネタイズよりも、「基礎研究の部分をやります」という方が多いです。それはそれで非常に大事ですが、スタートアップとしてビジネスをやるうえで研究者と組む場合は別です。うちは、「シーズの部分は大学の研究員という身分でやってください。ただし、ニーズを掴んでビジネスモデルに落としていくところはHQとしてやってください」という棲み分けをしています。
HQ戸田:私は、宮地さんが「これをやりたい」という大きなビジョンを描き、それを実現させるためにどういう技術があったら良いかを検証して、論文や既製品とか調べて、実現できそうなものを提案しています。そういったところでは分業がうまくいっていると思います。
有馬:逆に、宮地さんから研究サイド、戸田さんからビジネスサイドのディスカッションに入っていくことはありますか?
HQ戸田:もちろん自分の得意領域を飛び越えて話をすることもありますが、あくまで勉強のためであって、会社運営上は棲み分けをきちんとした上で話をしています。
HQ宮地:私は皆さんみたいに賢くないですから(笑)。私が大学・研究者さんや企業さんと組む絶対的な条件が一つだけあって、誰でも分かる説明ができる人です。研究領域については私は基本丸投げです。「こんなことできますか?」しか言わないです。それをメンバーがくみ取り、分かりやすい形で落とし込んでくれています。
有馬:技術は難しい部分が多い中で分かりやすく説明するというのは良い言葉ですね。
PD 北川:PDはCXOが3人います。事業開発の責任者である私、技術の実装を担うCTO、何をそもそも技術として開発するかという方針を定めるところを担うR&Dの高山先生。意見は自分の領域以外にも出すけど、決定の部分は責任を負える範囲で棲み分けしています。
PD 高山:学術とビジネスの接着剤になるのが僕の立場で、学術側としてビジネスサイドにはあまり口を出さないようにしています。
社会実装については不明確な部分が多く、大学でよくあるのが無料で公開して「はい社会実装」というやり方。でも、それって誰も使わないんですよ。誰も審査しないんですよね。なので、1円でもお金取れる仕組みがないとだめで、逆に1円でも稼げれば社会実装できる可能性がある。3か月間サブスクリプションを更新してもらうことができれば、社会実装の芽が見えてくる。たった3か月で社会実装できるかどうかを実証できるものすごく良いやり方がベンチャー起業だと思っています。
有馬:1円でも対価をいただくというのはめちゃくちゃ大事ですね。さらにリピートしてもらうとこまで繋げて初めて社会実装だというのは、心に刺さりますね。
会社の成長に最も必要なこと
有馬:会社が大きくなる中で、これは本当に必要だったな、とか、今後大きくなるのに必要なことについて体験談交えお話伺えたらと思います。
PD 北川:1にも2にも「チームビルディング」だと思います。技術シーズベースだと、押さえておく技術的なポイントを踏まえ、実際にニーズを意識しながらどう組んでいくかのバランスをとれる人間が必要です。あとは、技術ベースの事業の場合、現場に落とし込んだときのコスト、マーケットニーズ、浸透させていくまでの草の根活動が必要です。
有馬:ちなみにチームビルディングの中で、特に初期の頃に必要な人材はどんな方でしたか?
PD 北川:フルスタックエンジニアです。ちなみに今のCTOは元々ソフト専門の人間でした。創業前の段階からある程度ハード側も全て見れなきゃだめだということで、半年くらい悩んでいましたが、そこは背中を押すというか突き落とすような感じで(笑)そのおかげで今があります。
HQ 宮地:誰でも実現できる農業をやりたかった私は、まず農学者のような農業の教育と実践ができる人を仲間に入れました。次に、実際のターゲットとなる若手で農業未経験な人を入れて実績を作ろうと思いましたが、テックに舵を切ることにしました。
ある東大の論文発表会で「生きた教師データがないからAI化ができない」という意見を聞き、それを得るためのセンサーデバイスがないなら作ったらいいのではと。それをアウトソーシングしてたら時間とお金がかかるし情報も抜かれるので、内製化しようと。内製化するためには、自社の事業に関する共通認識をもち、フェアに意見を言えるメンバーを集めました。
さらに信頼と実績が付くと人が人を呼ぶようになります。次は会社をまとめて対外的なアウトプットができる人材を獲得していきたいですね。
HQ 戸田:フルスタックエンジニアは欲しいですが、データサイエンスとか電子工作のみならず、農業や植物の知識も求められて、ま~いないんですよ。なので、入社後にどちらかのドメインの知識を勉強してもらうことが必須になるんですが、そういう適性があるのかが肝になるかなと。研究者や学生で、ダブルメジャーとまではいかなくとも趣味等で別の研究してます、という方は活躍できるなと感じています。
PD 北川:戸田先生の言う通り、フルスタックにするしかなくて。もう一つあるのが、副業人材の活用ですね。一時的にジョブベースやタスクベースで入っていただく取り組みをかなり積極的に行なっています。
エンディング~未来の起業家へメッセージ~
有馬:最後に皆さまから、技術シーズの社会実装やスタートアップ経営、起業に挑戦したいと考えている方やまさに今挑戦している方々に向けて、応援メッセージをお願いします!
PD 北川:コロナ・AI・SDGsなど、日本は環境の変化に対応するのが苦手な国なので、新しいことをやるには逆にすごく良いと思うんですね。僕が起業をした十数年前よりもはるかに事業がやりやすい環境です。なので、ぜひ挑戦してみてください!
PD 高山:最初にネガティブなことを言って、最後に楽しいこと言いますね。良いシーズを持っていても社会実装への強い想いがないと前に進まないと思います。逆に言えば、自分のシーズを社会実装したい研究者をいち早く見つけられる仕組みを作りたいと思っています。
あとは、世の中で必要とされたいと願う大学の研究者の参画ハードルを下げる人事の仕組みも必要だと思います。名古屋大学や豊橋技術科学大学は社会実装にかなり前向きなので、そういう場所で始めていくのも良いですね。
HQ戸田:日本のアカデミアは結構厳しい状況ですが、企業にとっては美味しいチャンスだと思います。博士は3~4年のプロジェクトをきちんとまとめて完遂する能力、最初から最後まで総括してストーリーを組む能力を持っています。企業でも活躍する土壌は十分にあるので、博士人材に目を向けていただけると嬉しいです。
HQ宮地:起業は「やるかやらないか」だけなんですよ。初めの一歩なんてなくて、常に歩いているよね、と。常に前を向いていることだけを実践できるかどうか。「?」マークがあったらすぐに聞ける人脈があるかどうか、それらに尽きると思います。
起業相談を受けることが多くありますが、必要なのは覚悟のみです。覚悟とは、腹くくって会社を守るとか家族を守るとかです。きついかもしれませんが、これがないと経営者にはなれません。その覚悟があって初めて、趣味を実益にできるかどうか、好きなものなら絶対負けない、好きなものなら最後まで絶対やり切れるかどうか。これが創業者、経営者の本分だと思います。
有馬:皆様素敵なメッセージをありがとうございました!今後、経営者サイドと研究者サイドの人材が融合して新たなイノベーションを起こしていく、そして、スタートアップとして日本・世界の農業を変えていく企業がもっと生まれていくと信じています。改めて、本日はご登壇者の皆様、ご視聴いただいた皆様ありがとうございました。
最後に
Beyond Next Venturesでは、アグリ・フード領域をはじめ、医療、AI、エレクトロニクス、IT領域などにおける研究開発型スタートアップ・大学発ベンチャーへの出資・ハンズオン支援、創業前の研究シーズの事業化支援、起業や経営に興味のあるビジネスパーソンのキャリア支援活動などを行っています。
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