【研究者の起業】GAPファンドの申請と事業化推進機関の見つけ方

近年、GAPファンドの増加により、研究者が自身の研究を事業化するためのチャンスが広がっています。本記事では、「GAPファンドについての基本的な情報」と申請に必要となる「事業化推進機関の見つけ方」等についてお伝えします。

GAPファンドとは何か?

GAPファンドとは、大学の基礎研究と事業化の間に潜む「資金の空白(ギャップ)」を埋めるために、政府が大学や研究者に提供する資金のことを指します。大学内で進行中の基礎研究が市場に出るまでの事業化の実証を支援する研究費の位置づけであり、特に創業前の段階で技術の実用化を目指す研究者に対して支給されます。

GAPファンドの活用によって技術移転が成功すれば、大学はライセンス収入を増加させることができ、その収益をさらに新しい研究や試作開発に再投資することが可能になります。これにより、大学内での「知的創造サイクル」が形成され、次世代の研究成果の事業化がさらに促進されることが期待されます。

今の日本のGAPファンドはJSTからの支援が充実

日本におけるGAPファンドの代表的な管轄機関の一つが、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)です。令和5年から始まる「大学発新産業創出基金」(旧 研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム)では、助成金額が大幅に増えました。

JSTの事業について

【大学発新産業創出基金について】
スタートアップ育成5か年計画を踏まえ、我が国における大学等発スタートアップ創出力の強化に向けて、研究開発成果の事業化や海外での事業展開の可能性検証を視野に入れた研究開発を推進するとともに、地域の中核となる大学等を中心とした産学官共創による大学等発スタートアップ創出支援等の実施を可能とする環境の形成を推進する(JST「大学発新産業創出基金運用の基本的枠組み」より抜粋)

大学発新産業創出基金は、主に以下2つの資金の流れがあります。

1. JST→拠点地域プラットフォーム→研究者
スタートアップ・エコシステム共創事業」と呼ばれるもので、採択された全国7つの拠点都市プラットフォームと2つの地域プラットフォームにおいて、単年500万円程度の【STEP1】と、複数年で6,000万円~1億円程度の【STEP2】のプログラムに分けられます。STEP2については、どのプラットフォームでもベンチャーキャピタル(VC)等の「事業化推進機関」との共同申請が必要になります。

2. JST→研究者
JSTから直接研究者を採択するこちらについては、「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム(D-Global)」と呼ばれるもので、3年で3億円*もの大型資金が提供されます。こちらについても、VC等の事業化推進機関との共同申請が必要になります。(*正当な理由がある場合、5億円まで申請可能)

事業化推進機関とは

上述した1のSTEP2や、2のD-Globalの申請を検討する研究者は、事業化推進機関を見つけ、マッチングしなければ申請することができません。事業化推進機関は、研究代表者とともにプロジェクトにおける共同代表者となり、技術シーズの事業開発に対するコミットメントを要求されます。技術シーズに関する深い理解の下事業計画へのアドバイスを実施するに留まらず、経営陣が不在の場合には、VCの担当者自身が市場環境の分析等を通じて、創出を目指す大学等発ディープテック・スタートアップの適切な事業化計画(事業化マイルストンの設定含む)を策定し、民間からの投資の獲得に向けた事業開発を行う役割を担います。

Beyond Next Venturesは、2023年度から始まったJST D-Global事業の初回採択案件6件のうち2件の代表事業化推進機関を務めており、スタートアップ・エコシステム共創事業の関東地域のプラットフォームであるGTIEでの採択および事業化推進機関候補としても選出されています。また、過去のJST START事業(起業実証支援)の事業プロモーターを歴任し、支援した8件のうち全チームが起業した実績があり、創業前の研究者との伴走経験を豊富に有しています。

事業化推進機関の見つけ方

では、事業化推進機関をどのように見つけたらよいのでしょうか。

実際に3億円もの資金が提供されるD-Globalでは、提出資料に事業構想などのビジネス要素を多く含まなければいけません。また、書類が通った後の面接では、代表事業化推進機関がプレゼンテーションを行う必要があります。そのため、その研究分野や事業化リスクを理解しながら伴走してくれる経験豊富なVCを見つけることをお勧めします。

主な見つけ方として、以下に考えられる3つの方法を記載します。

1.大学の産学連携部署に相談する

産連は研究成果を社会に還元するために様々な支援を行っており、GAPファンドの運営や民間の支援機関と密接に連携しています。起業意欲のある研究者を積極的に探しているため、事業化を目指す研究者にとっては最初にアクセスすべきパートナーと言えるでしょう。

2.直接VCにアクセスする

中核的な大学では産学連携部署が充実していますが、地方大学では十分な支援を大学側から受けられない/VCとの繋がりが薄い大学があります。そのような場合、研究者自身が直接VCに連絡する手段があります。VCには専門性があり、その中でも大学発のディープテックスタートアップに投資をするVCは国内ではあまり多くありません。VCの会社HPには「ポートフォリオ」(投資先一覧)ページがあるので、それらを見ることで特定の研究領域に知見があるかどうかをおよそ判断できます。

Beyond Next Venturesは、医療ヘルスケア・バイオ・創薬・アグリフード・宇宙などで実績が豊富です。弊社の出資先一覧はこちらから

また、VCのキャピタリストはしばしば業界イベントやカンファレンスで講演やパネルディスカッションに参加しています。これらのイベントに出席して、直接VCと接点を持つことが有効です。Beyond Next VenturesではPeatixで頻回にイベントを開催していますので、ぜひこちらのイベントページをフォローしてみてください。それ以外にも、LinkedInやXなどのSNSのDMをオープンにしているベンチャーキャピタリストも多いため、SNS経由でアプローチすることもできます。

3.過去のJST D-Global事業やSTART事業等の採択実績を確認する

投資経験と、GAPファンド申請等の創業前支援の経験は、全く異なります。ゆえに、すでに一度は経験済みで採択実績のあるVCとタッグを組むほうが通過率は高くなるでしょう。

・2023年度 D-Global採択課題一覧:https://www.jst.go.jp/pr/info/info1677/pdf/info1677.pdf
・STARTプロジェクト推進型 事業プロモーターユニット一覧:https://www.jst.go.jp/start/promoter/unit/index.html

上記以外にも、業界関係者や知り合いからのリファラル(紹介)を活用することも重要です。VCとの関係は、リファラルによって強化されることが多く、信頼性が高まります。とある地方大学の教授は、大手企業のアドバイザーにも就任し、その企業の担当者からVCに繋げてもらい、GAPファンドの申請に至った、というケースもあります。

そもそもベンチャーキャピタル(VC)とは

事業化推進機関としてVCが占める比率は高く、「そもそもVCとは何か」も同時に理解しておくと、マッチング~申請までスムーズに進めやすいでしょう。

VCは、成長が期待されるスタートアップ企業に資金を提供し、経営や事業戦略のアドバイス等を通じて企業の成長を支援する投資会社です。VCが提供する投資資金は、企業の株式と引き換えに提供される資金です。エクイティ投資は、資金提供者であるVCが企業の一部の所有権を持つことを意味し、企業が成長し価値が上がると、VCもその利益を得ます。

JSTの事業について

VCをパートナーとして選ぶ前に必要な前提理解

1. 大きなビジネスプランの策定

VCをパートナーとして選ぶ際、最も重要な要素は、VCの投資原則を理解したうえで事業プランを構築することです。VCファンドは、投資先企業の成長と最終的なリターンを追求するファンドです。そのため、単に技術的に革新性があるだけではなく、規模の大きい市場において持続的な成長が見込まれるビジネスモデルを描くことが求められます。

特にディープテック領域の技術の商業化には長い時間と多額の資金が必要となります。VCは、これらの特性を踏まえて、国内市場のみならず、世界市場での展開も視野に入れたスケーラブルなビジネスモデル(将来的にユニコーン企業になる可能性)を重視します。こうした規模を目指すには、単に技術の革新性だけでなく、狙う市場規模や成長可能性、ビジネスモデルの収益性、経営チームの強さ、知財戦略など多くの要素が必要です。

2. VCへの適切な相談時期

VCに相談する最適なタイミングは目指すゴールによって異なりますが、「実験結果が出揃い、製品や技術の開発方向が明確になった段階」が多くのVCに対しては適切と考えています。この時点であれば、投資の可能性やGAPファンドの申請可否、創業に向けた伴走支援の意思決定もしやすいですし、商業化に向けた具体的な戦略の策定や、初期段階の市場検証にも進みやすいからです。

しかしながら、大学の教員が製品開発についての方針を考えるのは時間的にも専門性的にも難しいでしょう。実際に、創業前から研究者と創業準備に伴走するBeyond Next Venturesでは、「実験結果が出ているが、開発の方向性は不明」の段階や、コンセプト段階であっても議論を進められる土台があり、事業プランを研究者と共に練り上げてGAPファンドの申請を実行した事例もあります。

また、相談タイミングは技術領域にも大きく依存します。例えば、創薬であれば初期からの特許戦略が非常に大事であり、「事業化初手で詰む」という事例も多くあるため、早めに相談がほしいVCも多くいます。一方で、その他多くの事業においては、ある程度製品の仕様が決まった段階のほうがVCの理解も進みやすいです。

GAPファンド申請においては、VCとの相互理解と事業化方針の共通認識を持つための目安として、少なくとも申請〆切の2ヵ月程前までにはVCとファーストコンタクトすると良いと思います。

3. VC担当者との相性

VCは、単なる資金提供者ではなく、スタートアップの成長を共に進める重要なパートナーです。そのため、VC担当者との相性は成功への鍵となります。特にBeyond Next Venturesのように創業前から関わるVCは、すぐに投資が決まらない場合でも、助成金申請準備や事業計画のブラッシュアップなど、初期の段階から伴走型で支援を提供していきます。そのためには、担当者とのコミュニケーションが円滑で、ビジョンや価値観も共有できるかどうかが極めて重要です。

研究者の起業相談はBeyond Next Venturesへ

Beyond Next Venturesはディープテック特化のベンチャーキャピタルとして、これまでに多くの研究者の起業や事業化を支援してきました。

2023年度の3億円規模のJST D-Global事業では、6件中2件のプロジェクトが採択され、今まさに研究者の方と一緒に事業化を進めています。さらに、過去のJST START事業(起業実証支援)においても事業プロモーターとして8件中8件のプロジェクトを起業に導きました。そのほか、NEDOにおいては、ディープテックスタートアップ支援事業(旧STS等含む)の累計採択件数は25件で、VCの中で最多の投資先の採択実績があります。また、2024年にはAMED創薬ベンチャーエコシステム強化事業における認定VCとして選出されています。

さらに、経営人材マッチングにも強みがあり、弊社専属のHRメンバーを中心に、500名以上の優れたビジネスパーソンを研究者に紹介し、創業期における経営チームの組成に貢献してきました。

このように弊社には事業化を志す研究者の方々を全力でサポートする体制が整っており、常に相談窓口をオープンにしています。今後GAPファンドの申請を検討している研究者の方は、お気軽に下記よりお問合せください。
https://beyondnextventures.com/jp/contact/startups/

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