CEOを支える最強の右腕【CFO】の真の役割とは。急成長スタートアップCFO3名に聞く

ひとことでCFO(最高財務責任者)と言っても、スタートアップでの仕事はファイナンスだけにとどまりません。では、実際にどんな仕事をしているのか。そこで今回は、ベンチャーキャピタルで出資先の採用支援を行う5社(UntroD、WiL、UTEC、JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ、Beyond Next Ventures)が合同でイベントを開催し、現在スタートアップでCFOとして活躍する、東レ出身のKOALA Tech 伊藤CFO、SMBC日興証券出身のSPACECOOL 井口CFO、EY出身のクラダシ 高杉CFOの3名に、CFOになるまでの経緯や現在の業務内容、求められる役割についてお話いただきました

登壇者

井口 晃一 氏

SPACECOOL CFO 兼 コーポレート本部長

井口 晃一 氏

2015年SMBC日興証券(株)入社。主にM&Aアドバイザリー業務に従事し、企業間の買収・売却、経営統合、非上場化、資本業務提携等、様々なM&A案件の執行に関与。2024年1月にSPACECOOL(株)へ参画。CFOとして財務面の業務に従事する他、コーポレート本部長としてバックオフィス業務全般を統括。

伊藤 忍 氏

KOALA Tech 取締役CFO

伊藤 忍 氏

東レ株式会社で25年以上の経験を持ち、経理、US支社における経営企画室担当次長、複合材料事業企画推進部長などを歴任。その後、ソーシャル医療プラットフォーム事業を手掛けるエンブレース株式会社の代表取締役兼CFOを経て、2022年に株式会社KOALA Techの取締役CFO(現職)。

高杉 慧 氏

クラダシ 取締役CFO 兼 カンパニー統括

高杉 慧 氏

EY新日本有限責任監査法人にて大手商社の監査を担当。GCA株式会社にてフィナンシャルアドバイザーなどを務めたのち、2020年1月にクラダシに入社。以来、CFOとしてコーポレート機能の立ち上げからIPOなどを牽引。

※所属・肩書はイベント実施日時点

CEOに寄り添い、業務に線引きはしない。

井口:もともと私は証券会社で企業の成長を外からアドバイスする業務に携わっていましたが、「もっと直接的に企業の成長に貢献したい」と考え、創業フェーズに近いスタートアップを探していて、SPACECOOLにジョインしました。

SPACECOOLは創業4年目で、資金調達もこれから本格化し、組織もまだ小さいため、CFOという肩書はあるものの、実際には「何でも」やります。まさに、「CEOと共に経営に伴走する役割」が求められています。

前職の証券会社では、主に上場企業の事業計画を第三者の視点で評価していました。しかし、現在は創業間もないスタートアップの中にいます。いま最も重要なのは、「事業計画のロジックをどのように構築し、将来のポテンシャルをどう魅力的に見せるか」という点です。特にIPOを目指す際には、企業がどの規模を目指し、市場からどのような評価を受けるかが問われます。この点については、これまでの経験を踏まえつつ、新たに学び直している最中です。

現在は主に資金調達活動に注力し、投資家候補に向けたオペレーション、プレゼン、Q&A対応などを行っています。また、会社に人事制度がなかったため、スタートアップ向けの人事制度に関する勉強会に参加し、人事制度の作成やストックオプションのインセンティブ設計も担当しています。

伊藤:CxO業務の中で、マーケティングやテクノロジーは比較的業務範囲が明確ですが、CFOはそれらを除いた業務全般が担当範囲になることが多いと思います。特にスタートアップのCFOは、CEOと密接に動くことが多く、CEOの性格やバックグラウンドによってCFOの役割が変わってくるのが特徴です。

私は東レ出身ですが、大企業との違いにあまり囚われないようにしています。東レ時代、アメリカで現地の人と働いた経験もありますが、異文化の中で毎日英語を使って働くよりも、日本のスタートアップで働く方がはるかにやりやすいと感じています。東レで25年間勤務する中で、部署異動があるごとにゼロから学びながら仕事をしてきたので、スタートアップで新しいことに取り組むのにも違和感なく入れたのではないかと思います。

高杉:CFOの「F」=「ファイナンス」ですが、実際は泥臭い仕事から言えないようなことまで、「何でもやる」というのが現状です。私の肩書は取締役CFO兼カンパニー統括で、CFOとしての役割には、資金調達、資本政策、M&A、IRなどが含まれます。もう一つの役割であるカンパニー統括では、事業部門のリソース配分やコーポレート部門の調整など、幅広い業務を担当しています。

クラダシは2023年に東京証券取引所に上場しましたが、IPO前後で業務の優先順位に大きな変化がありました。IPO前はバックオフィスの立ち上げや内部統制など、IPO準備に関する業務を一つずつクリアしていくことが中心でした。しかし、IPO後はIR業務が増え、不特定多数の投資家や関係者とのコミュニケーションが主な仕事となり、向き合う相手の属性も大きく変わりました。

スタートアップCFOに転職したワケ

井口:学生時代、就職に際して「社会にインパクトを与えられる仕事がしたい」と強く思っており、偶然出会った業界が投資銀行でした。その後約10年間働く中で、多くの事業会社を見てきた経験から、次第に「社会に影響を与える事業に直接関わりたい」という想いが芽生えるようになりました。

そんな中、WiLの佐藤さんとのキャリア相談を通じて、SPACECOOLを紹介してもらった際に、直感的に惹かれるものがありました。CEOと年齢が近いことや、同じ大学出身であること、さらに偶然にも同じ日に同じ本を読んでいたことなど、さまざまな共通点があったことも、私が強く惹かれた理由の一つです。

経営陣の一員として組織を成長させていくという責任を考えたとき、私のモチベーションや求められる役割、さらに一緒に働くメンバーたちと見合わせても、これは「縁」だと強く感じました。

スタートアップというと、報酬面で潤沢な企業は少ないかもしれませんが、報酬以上に「これをやりたい」と思える仕事に出会えたことが大きな決め手です。

伊藤:私はもともとスタートアップを狙って転職活動をしていたわけではありません。東レ時代にエグゼクティブエージェントと出会い、たまたま紹介されたのがスタートアップでした。その後もそのエージェントとの関係が続き、現在のコアラテックへの転職にもつながりました。

事業の内容ももちろん重要ですが、働きやすさやモチベーションにおいては、CEOとの相性が大きな要素だと感じています。私の場合はエージェントの方とのご縁がきっかけでしたが、自分をよく理解している人が、転職先候補のCEOのこともよく知っていて、適切にマッチングしてくれたことは、とても重要なことだと思います。

高杉:私は、CEOが高校の同級生で、彼からの誘いでリファラル採用を通じて入社しました。リファラル採用の良さは、相手の人柄を理解している点です。CFOはCEOと一緒に動くことが多いため、相性や信頼関係が非常に重要だと感じています。

また、自分に何が求められているのかを明確にすることも大切です。その点で言うと、VC経由で入社する場合、既に課題が明確になっていることが多いため、自分の役割もはっきりしやすく、入社直後から自分のプレゼンスを発揮しやすいと思います。

CFOとして何を目指すべきか

高杉:企業価値を高めるために全力で取り組むためには、自分自身も常に変化し続ける必要があります。自己成長が企業の成長につながると感じているので、これからも自己成長を追求し続けたいと思っています。

伊藤:日本政府も推進しているディープテックスタートアップで働いていることで、ここ数年でさまざまな進展や変化を目の当たりにし、貴重な経験を積んでいると感じています。同じようにこの業界を目指す人がもっと増えてくれると嬉しいなと思います。

井口:CFOとしての役割や求められることは、企業によって大きく異なります。そのため、自分の中で「どのステージでどのような業務を行いたいか」というビジョンを明確に持っておくことが重要です。そのビジョンがVCに伝われば、より適切なポジションを紹介してもらいやすくなり、結果として自分にとって最適なキャリアを見つけやすくなると思います。

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