弁護士から、経営を担うCLO(Chief Legal Officer)・GC(General Counsel)へ|スタートアップで働く弁護士の学び場 vol.4

「スタートアップで働く弁護士のまなび場」は、スタートアップの世界に一歩踏み出した先輩弁護士のご活動や体験談をお届けし、皆さまのキャリアを後押しすることを目的に開催している、コミュニティイベントです。

第4回目は「企業経営に関わるCLO(Chief Legal Officer)やGC(General Counsel)」としてご活躍されている3名をお招きし、現職に就かれた背景や必要な素質などについてお話いただきます。

登壇者プロフィール

株式会社メドレー 執行役員 法務統括責任者

今仲 翔 氏

東京大学法学部、東京大学法科大学院、コロンビア大学ロースクール(L.L.M)を卒業し、日本及びニューヨーク州の弁護士資格を保有。2011年1月に森・濱田松本法律事務所に入所。M&Aを中心にコーポレート案件全般に従事し、2021年1月に同事務所のパートナー弁護士に就任。2021年11月より株式会社メドレーに参加。

株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長

岡本 杏莉 氏

慶応義塾大学卒業。西村あさひ法律事務所に入所し国内・クロスボーダーのM&A/Corporate 案件を担当。その後Stanford Law School(LL.M)に留学、NYの法律事務所にて研修。2015年3月に株式会社メルカリに入社。日本及び米国の法務を担当。加えて、2016年3月・2018年3月の大型資金調達、2018年6月の上場(Global IPO)におけるプロジェクトマネジメントを担当。加えて個人でスタートアップ等へのリーガルアドバイスも行う。2017年12月には法律事務所ZeLoに参画。2021年2月に株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長に就任(現任)

西村あさひ法律事務所 オブカウンセル

三村 まり子 氏

中央大学大学院博士課程満期退学後1992年弁護士登録。西村総合法律事務所(現 西村あさひ法律事務所)在籍中に米国LAのGibson, Dunn & Crutcher LLPとベンチャー企業であるQuallion LLCにてVice President & GCを経験した後、2005年以降は企業内弁護士として、GEヘルスケア・ジャパン株式会社 執行役員、日本メジフィジックス株式会社 非常勤監査役、ノバルティスホールディングスジャパン株式会社 取締役、グラクソ・スミスクライン株式会社 取締役を歴任。2018年に西村あさひ法律事務所に復帰し、ライフサイエンス関連のM&A、危機管理、レギュレーション、 コンプライアンス等多岐にわたる業務を行う。また、2018年株式会社タカラトミー 社外取締役(現任)、2020年TANAKAホールディングス株式会社 社外取締役(現任)、2022年株式会社MICIN社外監査役( 現任)も務める

モデレーター

MICIN株式会社 Public Affairs / Legal
「スタートアップで働く弁護士のまなび場」共同幹事

浅原 弘明 氏

弁護士。慶應義塾大学法学部法律学科、東京大学法科大学院、University of Virginia School of Law(LLM及びVisiting Scholar (Healthcare Law))。司法試験合格後、シティユーワ法律事務所、 Hughes Hubbard & Reed法律事務所、株式会社MICINに勤務。医療・ヘルスケア領域を専門に活動。経済産業省セルフケアを支える機器・ソフトウェア(プログラム)に関する検討委員会及び同WG(仮称)、医療機器開発ガイドラインニーズ検討分科会委員。趣味は料理(茶色)。いつも半袖。

企画・運営

Beyond Next Ventures株式会社 執行役員

鷺山 昌多

中央大学、会計学科卒。同 アクセラレーター・VCにて、キャリア開発領域を統括。
スタートアップ領域における新しいキャリアと、ロールモデルの創出を目指して活動しており、起業家との新しい出会いを契機に、新しい人生を切り開く「起業家に会いに行こう!」や、研究成果を活用した創業プログラム「APOLLO」「Innovation Leaders Program」等の企画を担当。後者は第3回 日本オープンイノベーション大賞 文部科学大臣賞を受賞。

これまでのキャリアの歩み、現職にたどり着くまで

株式会社メドレー 今仲様


今仲:私は東京大学法学部・法科大学院を卒業後、森・濱田松本法律事務所に入り、10年ほどM&Aに携わってきました。その後、コロンビア大学へ留学し、Sullivan&Cromwellでの研修を経た後、同事務所のパートナーに就任しました。

もっとも、弁護士人生がまだ30年近くある中でまだまだ幅を広げる必要があるなと悩みを抱えていました。

そこで、幅を広げるためにメドレーへの入社を決めました。今大手事務所などで活躍しているシニアパートナーたちは、入所当時は事務所自体がベンチャー規模で、そこから事務所が成長するに応じてダイナミックに様々なことを経験してきたのではないかと。自分もそういう環境に身を置くことで想像を超える成長があるのではないかと思いました。

また、もともとマレリというグローバルカンパニーに出向し、外国人経営陣と共に経営にとって重要な局面での意思決定やM&Aの交渉等に関与したことに、面白さを感じていました。

医療プラットフォーム事業と人材プラットフォーム事業を展開するメドレーは700名強の社員がいる上場企業です。私が在籍する法務コンプライアンス部は6名体制で、管掌範囲は広く、総務部や経営企画部が担当することも多いM&Aや株主総会の事務局まで管掌しています。

株式会社アンドパッド 岡本様


岡本:私は現在アンドパッドで法務とアライアンス推進を担当しています。ファーストキャリアは、西村あさひ法律事務所で約4年半M&Aやコーポレート業務を手広く担当していました。

その後、スタンフォード大学のロースクールに留学しました。この留学経験が、スタートアップに関わる契機となった転換点です。

スタンフォードはシリコンバレーのど真ん中にある学校で、学生のほぼ全員がなにかしらスタートアップに関わっていました。解決したい課題があるからビジネスをするというミッションドリブンなスタートアップの世界は、東京で大企業相手に仕事をしていた私にはとても刺激的でした。

そして、帰国後の2015年にメルカリに入社しました。当時の知名度はまだ低く、社員数も80名程度と小さい規模でした。メルカリでは、日米事業の法務担当をはじめ、資金調達や18年6月の上場にも携わり、かなりのスピード感での成長を経験できました。

その後、2021年2月にアンドパッドに入社しました。アンドパッドは、人手不足や長時間労働など課題の多い建設業界のDX推進事業を展開するベンチャー企業です。まだ若いベンチャー企業ですが急成長を遂げており、従業員数は600名を超えています。私はこの会社で法務に加えてアライアンス推進、ガバメントリレーション活動も担当しています。

西村あさひ法律事務所 三村様


三村:私は約10年間西村あさひ法律事務所で働いた後、2005年にGEヘルスケアに入社し、執行役員に。その後、ノバルティスファーマやグラクソ・スミスクラインなどの社内弁護士を経験し、現在は西村あさひに戻り、タカラトミーなど複数社の社外監査役・社外取締役を務めています。

私はスタートアップへの入社経験はないですが、外部弁護士から企業内弁護士になった走りの人間として、いくつかお伝えできればと思います。

社内弁護士と法律事務所の弁護士の一番の違いは、「仕事を作る」ことだと思っています。インハウスでは、待っていて相談されてからやるのでは遅く、まず自分で見つける必要があります。一方、法律事務所は依頼された仕事を受ける形が多いです。

また、「プロを使える」というのも社内弁護士の醍醐味です。超一流と言われる弁護士の所へ行き、クライアントの立場としてお願いできるのは楽しかったです。

あと、弁護士として必要な力は、まず事実を正確に把握する力です。そして、その事実に関連する規範を見つけ、その規範に事実を当てはめて分析して判断する力。最後に、きっちり説明をして説得するというコミュニケーション能力、この三つが大事な要素だと思います。

パネルディスカッション

CLO (Chief Legal Officer) ・GC (General Counsel) の役割とは

鷺山:CLO(Chief Legal Officer)やGC(General Counsel)は具体的に何をやるのか、組織内の位置づけ含め教えていただけますでしょうか?

今仲:経営に関わる法務の専門家として、ガバナンス、重大なコンプライアンスイシュー、M&Aなどの経営陣が最も興味を持ちやすい、かつ、法務の役割も非常に大きい領域を主導主導するのが、CLOやGCの大きな役割の一つであると思います。

現職のCEOからは、どんどん部下や外部弁護士に実務を移譲してほしい、とよく言われます。CLOやGCは経営陣の1人なので、組織づくり、会社全体をどうすれば良くできるか、ガバナンスをどう変えれば会社のバランスが良くなるか、など根幹の部分に注視してほしいと。

鷺山:組織づくりまでとは広範囲ですね。岡本さんはどうでしょうか?

岡本:私も、「経営者になる」ことをすごく求められていると思います。専門領域の知識がある前提で、会社経営全体のこと、会社の企業価値を上げるにはどうするかを考えることが求められていると感じます。

鷺山:岡本さんのレポートラインは社長ですか?

岡本:レポートラインは取締役・CFOです。私の所属している法務部・アライアンス部が経営戦略本部の中にあって、そこのトップを務めているのが取締役・CFOとなっています。ただ、CEOとも定期的に1on1等で話しており、ガバメントリレーション系の活動などは密に連携しながら進めています。

鷺山:アライアンス(外部との渉外)もやられているのはユニークですね。三村さんは外資の大企業に所属された経験をお持ちですが、役割など変わるのでしょうか?

三村:私も基本的には同じで、会社経営を行っていく中の一人という位置づけです。営業が四半期ごとの利益をみて事業計画を立てる中で、私は「中長期のサステイナブルな成長を実現するために何をするべきか」を提案していました。また、外資の場合は、本社のGC、国内の社長と2つのレポートラインがありました。

企業の経営メンバーになるために必要な経験、素養

浅原:共同幹事の浅原です。皆さんはどこかで経営陣側に入るステップを踏んだと思いますが、経営陣の一員になるために必要な経験や素養があれば教えていただきたいです。

三村:私は法律事務所から企業に移るときに部長職として入社したため既に経営陣でした。そのため自分が社内でキャリアアップして経営陣になった経験はありません。

ただ、部下を自分の後任にしたという経験はあります。自分が次のステップに進みたいときに、自分の今のポストを誰かに担ってもらう必要がありますよね。そのときに部下のことをめちゃくちゃ褒めるんです。「この人は素晴らしいから私の代わりになれる」などと褒めて周りの人に納得をしてもらって、部下にポストを譲ってきました。

この経験を踏まえて思うことは、社内でステップアップをするためには、人事決定者に対して自分をアピールし、そして人からもアピールしてもらうことが重要ですかね。

岡本:経営に関わりたい場合は、会社の中に入って自分自身が当事者になって、物事を進める経験は非常に役立つと思います。

私は最初に西村あさひ法律事務所で外部アドバイザーを経験しました。法律事務所での経験を通じて法務の基礎を身に付けることができ、また、新人がやるべき社会人としての筋トレみたいなもので、とてもいい経験でした。一方で、あくまでアドバイザーなので最終判断は行わない立場でもあります。しかし、会社の中に入ると、プロジェクトや会社のことを自分ごととして捉えて、本気で考えて判断することになります。この経験・意識は経営にすごく求められると思います。

今仲:経営側に加わるためには、入ろうとしている企業の経営者が法務をどの程度重要視しているか、で変わると思います。私の場合は出向含め2社経験していますが、どちらの経営者も法務を非常に重要視していました。特にスタートアップ等会社の規模が小さければ小さいほどより影響してくると思います。

あと、当初は外部弁護士としての経験があればインハウスも出来るだろうと思っていたのですが、経営に関与するとなると初めての業務や意識を変えなければならない面も結構あるため、これまでとは異なることをやるのだという意識をもっと持つべきだったかなと思います。

インハウスと外部を兼任する大変さとメリット

浅原:外部の法律事務所に籍を置きながら企業法務部にも務められていますが、兼任をする大変さとメリットを教えていただけますか?

岡本:マクロ視点でいうと、インハウスと外部を両方経験することで、顧客であるインハウスから外部弁護士への要望が細かく分かるようになりました。例えば、依頼側(企業側)がビジネス判断しやすいような材料の提供の仕方、など。なので、1回インハウスを経験してから、外部に戻るとアドバイスの質が高まるというのはあると思います。

三村:兼任の難しい点は、インハウス先の企業で何か緊急事態が起きた時などに、外部の仕事よりも社内対応のほうが優先順位が高くなることです。実体験としてあるのですが、その時は外部の監査役を務めている企業さんにご迷惑をおかけしまったことも。

インハウスから法律事務所に戻って役に立っていることは、岡本さんと同じで企業側の要求をより理解できるようになったことです。それに加えて、時代が変わったなと思うのですが、外部事務所への要求も高くなってきています。「法律判断はこうですからあとはどうぞご自由に」というよりは、ソリューションを求めるクライアント企業が増えてきています。

今仲:兼任については、どう兼任するかによっても大きく変わってきますが、単純に時間の両立が大変ですね。幸い、私の場合は森・濱田松本法律事務所の他の弁護士に業務を依頼することもできるので、そこは非常に助かっています。なので、自分が時間的に余裕がなくなった場合に備え、バックアッププランとして誰かに手を動かしてもらえる体制を築かないと、なかなか両立するのは難しいと思います。

一方で、兼任の良さとしては、どんな外部弁護士が感謝されるかが分かりやすい点ですね。また、インハウスでは企業の中に入らないとなかなか関与できないガバナンス、内部統制、PMIなどにも関わります。この辺りは外部弁護士で経験値の高い人があまりいないので、自分のアドバイスできる幅が新たに広がったと思います。

鷺山:最後に、社内弁護士としてどうしたら経営に近づけるのか、教えていただけますでしょうか。

三村:一番大事なことは営業を見ることです。企業の中で稼いでくるのは営業です。彼らがどんな想いで何をやっているかを知ることで、自分の会社が何を目指しているのかが分かると思います。

鷺山・浅原:本日は貴重なお話をありがとうございました!

まとめ

鷺山:今回は、なかなか外からは全貌が見えづらいCLO(Chief Legal Officer)・GC(General Counsel)について、お話いただきました。経営陣の一員として、法務のみならず会社全体を中長期的な視点で捉えながら活動されていることがよくわかりました。また、企業内弁護士と外部アドバイザーの違いについても理解が深まりました。

今後交流会も開きたいと思いますので、弁護士のまなび場コミュニティに参加されたい方は、ぜひ私までご連絡ください!次回の弁護士のまなび場もお楽しみに!

ー ご連絡をお待ちしております ー

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Shota Sagiyama

Shota Sagiyama

Executive Officer / Talent Partner