ディープテックスタートアップが知っておきたい採用力を高める5つのヒント

三國:こんにちは、Beyond Next Venturesにて出資先スタートアップの採用支援を行う三國です。これまで採用に関わった出資先は40社以上、当社ジョイン前は大手人材会社にてスタートアップから大企業まで幅広く採用を支援してきました。

常に人材が不足しているスタートアップにとって、採用活動は「事業成長の鍵」です。特に研究開発型スタートアップにおいては、ビジネス人材の存在は非常に重要です。これまで数多くの出資先企業の採用支援をしてきた私も、ビジネス人材を採用できずに苦戦しているスタートアップを何社も見てきました。

今回は、研究開発型スタートアップが陥りがちな採用課題と採用を成功させるためのポイントをいくつか紹介していきます。

1.スーパーマンを求めがちなスタートアップに適した要件定義

採用に苦戦している研究開発型スタートアップを見てきて最も多いのが「求める人材のハードルが高すぎる」ということ。「研究もビジネスも分かる人材が欲しい」というスタートアップは多いですが、そんな人材は日本にどれくらいいるでしょうか。

そんな企業に対して私が行っているのが、人材の要件定義です。「なぜそのポジションの人材が欲しいのか」という採用の目的を明確にし、現実的な要件を一緒に考えること。高すぎる要件に対して、妥協できるポイントと妥協できないポイントを整理して、本当に欲しい人材のモデルを明確にしていきます。場合によっては1人に求めていたスキルを分解して、2人を採用することでカバーすることもあります。

なかなか採用が決まらないというスタートアップは、要件定義に当てはまる人材がどれくらいいるのかをぜひ見直してみてください。

2.ディープテックだからこそ、働き方に柔軟性を

人材の要件定義と同じくらい重要なのが「要員計画」です。事業計画をベースに、「どのフェーズでどんな人材をどれくらい採用するのか」をまとめた計画のこと。特にディープテック系ではことさら重要です。

なぜなら、ディープテックは他の業界と比べて事業の成長予測が立てづらいからです。事業の要となる技術がいつ確立するのか予想が立てづらい上に、ブレイクスルー後の急成長も予想がつきません。そのため事業計画をベースに要員計画を立てるのが非常に難しいのです。

成長する前から人を増やせば利益を圧迫しますし、人員が足りなくなれば成長チャンスを見逃してしまう。そのような事態に陥らないためにも、ディープテックスタートアップには柔軟な組織作りが求められます。正社員にこだわらず、副業人材や業務委託、大企業からの出向プロジェクトなど、幅広い雇用形態を受け入れて予想外の出来事に耐えられる組織にしましょう。

また、柔軟性のある組織を作る上で重要なのが、マネジメントです。業務委託の人材をマネジメントするのは、フルコミットの正社員をマネジメントするのとは勝手が違います。採用を進めるのと同時に、どんな雇用形態でも活躍してもらえるマネジメント体制を整えていきましょう。

3.打ち出すのは技術ではなく「社会的インパクト」。採用PRの極意

要件定義が決まったら、今度は求職者に対して募集を打ち出していきます。ここでハードルとなるのが、ディープテックスタートアップの事業の難解さです。どんなに社会意義の高い事業をしていても、その事業内容が伝わらなければ求職者に興味を持ってもらえません。技術に明るくないビジネス人材に、いかに事業の魅力や意義を伝えるかが大きな壁となってきます。

特に技術に誇りを持つ企業ほど、技術を全面に打ち出しすぎる傾向があります。「特許もとったすごい技術」と打ち出しても、多くの人はそれがどれほどすごいのか理解できません。

大事なのは、その技術が実用化されることで、「社会にどんなインパクトが生まれるのか」を明文化すること。「革新的な創薬技術」ではなく「○万人の患者が救われる」のようなインパクトを打ち出していくことが必要です。

自らの研究成果・技術を愛する研究者だからこそ、技術を全面に打ち出したい気持ちは分かりますが、ビジネス人材が興味を持っているのは、いかに社会を変えられるか、マーケットニーズはあるのか、ということ。採用活動をする際は、その点を忘れずに情報発信をしてください。

4.強力な助っ人「エージェント」を有効活用する方法

採用メディアを使って求職者を集めるのもいいですが、より効果的なのが採用エージェントを活用すること。採用した際に手数料が発生しますが、条件にマッチする人材をスカウトしてくれるので、広告を出して待つだけよりも採用確率が高まります。

しかし、ここでもディープテックスタートアップには難点があります。それはディープテックに強いエージェントが少ないこと。ネット系のサービスに比べて難解な事業を展開するディープテックは、エージェントから敬遠されがちです。

そこでスタートアップ側にぜひアピールしてほしいのが、技術の進捗度です。いつまでも「開発中」のままでは、いつ事業化するか分からないため、エージェントから興味を失われてしまいます。以前と比べてどれくらい研究開発が進んでいるのかを伝えることで、エージェントにも求職者にも興味を持ってもらいやすくなるでしょう。

また、今後ディープテックに精通したエージェントを増やすために、Beyond Next Venturesでは定期的にエージェント向けのセミナーや定例会を開催し、事業内容、社会的インパクト(事業ポテンシャル)、求める人材などについて解説しています。まだまだ時間はかかるかもしれませんが、今後はディープテックに精通したエージェントも増えていくことと思います。

中には、既にディープテックに可能性を見出しているエージェントもいます。特に若手のエージェントにとっては、ベテランたちも敬遠するディープテックはブルーオーシャン。技術へのキャッチアップも早く、意欲的に動いてくれるので私たちも非常に助けられています。

5.ディープテックスタートアップこそ実践したい優秀なビジネス人材の見分け方

求職者から応募がきたら、次は「本当に優秀かどうか判断できない」という壁にぶつかります。ビジネス経験の少ない研究者の方から、面接だけではその人のスキルやノウハウを見極められないという相談をよく受けます。ネット系のスタートアップでも人材の見極めが難しいのですから、ディープテックではなおさらでしょう。

私が支援している出資先スタートアップでは、NDA(秘密保持契約)を結んだ上で事業の情報を求職者に開示して、実際に面接時に事業戦略をプレゼンしていただく、「ワークサンプル」を導入していたりします。短い期間での技術や事業に対するキャッチアップ力が分かりますし、何よりスキルフィットを明確にすることができます。

採用の1ステップとしては少々重く感じるかもしれませんが、それが求職者の絞り込みにも繋がります。スタートアップでは、スキルはもちろん、熱意を持った人材を採用しなければなりません。事業計画を作ってでもジョインしたいと思っているか、その熱意を見るためにも重要なステップとなるでしょう。

また、優秀な人材から応募があったからといって油断してはいけません。優秀なビジネス人材こそ何社からもオファーをもらいやすいため、その中から自分たちを選んでもらう必要がありますが、他の企業に比べて高い年収を提示するのが難しいケースもあります。

そんな時に私が求職者の方と話すのが「生き方」についてです。確かに、高年収を求めていたり、短期間でIPOに携わりたいと思う方にはディープテックスタートアップはお勧めできません。しかし、時間がかかっても社会に大きなインパクトを出したいより大きなIPOを実現したいという想いが根底にある方は、ディープテックに興味を持ってくれる可能性が高いです。

科学技術の実用化には時間も費用もかかりますが、ブレークスルーを果たした時の社会的インパクトの大きさや事業の成長度合いは、ネットサービスの比ではありません。二次関数的な成長をとげ、世界で活躍する可能性を秘めているのがディープテックスタートアップです。

そのため、求職者が本当に求めている生き方は何か、そこを深堀ることで自社の事業に関心を持ってもらえる可能性が高まるはずです。

【最後に】Beyond Next Venturesより

出資先スタートアップの約8割が医療・環境・食農分野などの大学発ベンチャー・ディープテック領域を占める当社では、CxO人材等を中心に多くの採用支援実績があります。候補人材の発掘・紹介にとどまらず、採用戦略を一緒に練ることもあれば、採用動画やLPの制作、エージェント連携、時には面接に同席することもあります。また、採用力を高めてもらうための出資先限定のワークショップなども実施しています。また、研究者とビジネスパーソンのマッチングにも力を入れています。世界に通ずるスタートアップ創出に挑みたい起業家・研究者の方は、ぜひ当社にご相談いただけると幸いです!

Hiroki Mikuni

Hiroki Mikuni

Manager