山本:こんにちは、Beyond Next Venturesのエコシステム部門で研究者の起業支援などを行っている山本です。今回は、「ずっと研究者を目指していたのに、どうして今はVCにいるの?」とよくご質問いただくので、その経緯についてお話したいと思います。
プロフィール
Beyond Next Ventures株式会社 エコシステム部
山本 実侑
高校生のころから微生物の環境応答等をテーマとした研究を始め、大学では、深海熱水噴出孔に生息する超好熱菌の生態と系統関係から、初期的な生命の生息域拡大過程を推測する研究を行う。 2020年4月に野村総合研究所 コンサルティング事業本部に入社。中央省庁の産学官連携推進・スタートアップ支援事業や、医療・エネルギー分野における新規事業開発の支援等に従事。2022年8月からは研究開発型スタートアップBIOTAにて副業を開始し、研究開発、助成金の獲得・運用、人材採用などに携わる。2023年11月に当社へ参画し、研究シーズの事業化支援を担当。アカデミアに適切な資金がもたらされ、日本の研究者が豊かな研究生活を送ることができる社会作りを目指している。東京大学理学部地球惑星環境学科卒業。
研究者になりたい自分と、目の当たりにした現実
研究者になる夢を持ったのは、小学5年生のときでした。母に連れていってもらった海洋研究開発機構(通称JAMSTEC。国内最大の海の研究所)の見学をきっかけに、未だ謎の多い深海の世界、なかでも原始的な生命に近いと言われる深海の微生物に強い興味を抱きました。
そして、「将来は研究者になって生命の起源を解き明かしたい」と思うようになりました。
その夢を胸に、中学では勉強をがんばり、国内トップクラスの研究環境が整った高校に進学しました。念願だった研究活動は楽しくてたまらなくて、勉強も部活も疎かになるくらい、とにかく没頭しました。幸いその成果が認められ、学会やコンテストで賞をいただけるようになりました。
さらにラッキーなことに、私が大学受験する年から東京大学で推薦入試が始まり、研究の成果をもとに東大の理学部へ推薦入学することができました。
研究室配属が決まり、ついに憧れだった深海の微生物の研究を開始しました。それだけでなく、JAMSTECが主催する大学生向けプログラムに参加し、なんとそこで、日本の大学生として初めてしんかい6500(有人潜水船)に乗って深海に潜る経験もさせていただきました。
数々の素晴らしい機会と応援してくださる周りの方たちに恵まれ、研究者への道まっしぐらとも言える人生でしたが、大学院進学を前にした頃、ふと立ち止まって考えました。
「私は本当にこのまま、研究者になってよいのだろうか。」
研究は最高に楽しかった一方で、「研究者」というキャリアが身近な存在になっていくにつれて、日本のアカデミアを取り巻く様々な課題も見えてきました。
- 十分な研究費を確保できず、思い通りの研究ができない研究者…
- 任期付き職でポストが安定しないまま不安と隣り合わせなポスドク…
- 雑務や研究費獲得などに追われ、本業であるはずの研究に充てられる時間がわずかな研究者…
- 求められるスキルに対して、決して高いとは言えない研究職の収入…
- 苦労して博士号を取得しても、その価値が認められづらい就活市場…
このような世界で、自分が幸せな研究生活を送り続けられる自信を持つことはできず、また、このままでは優秀な人材がアカデミアから離れていき、日本の科学技術は衰退の一途を辿っていくのではないか、という未来への恐怖すら覚えました。
「研究者が思う存分研究できて、研究から生まれた知がしっかりと社会に浸透し、子どもたちが研究者に憧れ、迷うことなく夢を実現できる。そんな社会を作りたい。」
そう思った私が最初に活路を見出したのが、前職であるコンサルタントの仕事でした。
研究の社会実装をもっと近くでサポートしたい
私は、アカデミアが抱える課題は、お金が潤沢にあれば解決できるものが多いと捉えています。でも現実には、国立大学の運営費交付金の減額が続くなど、大学・研究機関の運営はどんどん苦しくなっています。
そこで、「アカデミアの知を社会に還元し、今民間企業にあるお金をアカデミアに流入させるような仕組みができれば事態は改善するのではないか」と考えました。
その手段のひとつが、産学連携、つまり、アカデミアと民間企業の共同研究等を推進することです。
コンサルタントの立場であれば、中央省庁に対して政策を提言し、産学連携の推進に向けた取り組みを加速させることができます。また、民間企業に対してアカデミアとの連携を後押しするコンサルティングも可能です。同じような課題意識を持ったチームメンバーとともに私は充実感を持って仕事をしていました。
そんな中、研究成果を社会実装し、アカデミアに資金をもたらす手段として、産学連携だけではなく「研究者による起業」の選択肢もあることに気づきました。
当初無知だった私は、「起業って、お金儲けをしたい一部のビジネスマンがやるものなのでは」なんてイメージを持っていましたが、アカデミア発スタートアップの起業というのは、共同研究やライセンシングでは成しえないような、研究者ドリブンでインパクトのある研究の社会実装を実現しうる方法でもあることを知りました。
また、「自分の研究を世の中に広めたい」と情熱を注がれている研究者の方々と日々接しているうちに、もっと近くでこの方たちのサポートをしてみたい、と感じるようにもなりました。
そのときに出会ったのが、アカデミア発を中心とするディープテックスタートアップに特化して投資を行うVC、Beyond Next Venturesです。今ではその一員として、研究者の方々による研究成果の事業化を後押しする活動をしています。
研究の社会実装手段はいろいろある
とはいえ、研究の社会実装手段として起業が何よりも優れている、なんて結論には至っていません。どの手段も一長一短であり、先生が成し遂げたいことや技術の特徴などによって取るべき選択は変わってくると思います。
では、「どんなパターンならどの選択をすればいいの?」という疑問が湧くかと思いますが、正直まだ明確な答えは出せていません。
なので、研究成果を社会実装したいと考えている研究者・学生の方々や、私と近い想いを持ってそれを支援している方々と、この大きな問いについて議論してみたいです。
2024年10月1日(火)に開催するイベントで、その挑戦の第一歩を踏み出します。
もし共感してくださる方がいれば、この機会に研究の未来について一緒に考え、語り合いませんか?ハイブリッドで開催しますので、ご興味ある方はぜひこちらのPeatixページからお申込みいただけたらと思います。
以上、色々と現職に至るまでの経緯についてお話しさせていただきました。
今回開催するイベント以外でも、研究環境の改善に向けて様々な方々と意見を交わしたいと思っています。もし、私の想いやBeyond Next Venturesの活動に共感頂ける方がいらっしゃいましたら、いつでもお気軽にDMいただけたら幸いです!
写真提供:Chong CHEN/JAMSTEC