起業のリアルを体験したら、起業へのハードルはなくなった|ILP Alumni Interview Vol.11

研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。

ILP第10期生 金田さん、伊藤さん、秦さんは、スタートアップでのゼロイチ(事業づくり)に挑戦したい、自身のビジネススキルを外部環境で試したい、という思いでILPに参加されました。

プロフィール

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所

金田 賢 氏

システムインテグレータを経て、NTTデータ経営研究所にコンサルタントとして参画。主に医療・ヘルスケア業界を対象に、企業の新規事業立ち上げ支援や官公庁の政策調査に従事。

大手電機メーカー

伊藤 松太郎 氏

2010年より大手航空会社のエンジニアとしてスタート。その後、大手広告代理店でブランディング/デジタル企画、アパレルのグローバルPRを経て、現在大手電機メーカーにてブランディング/デジタル企画のリーダーとして従事。

国内製薬会社 研究職

秦 大 氏

博士(工学)、入社3年目。現職ではメドケムとしてmRNAに直接作用する核酸医薬の研究に従事。プログラム中は、アカデミア発の英会話AIの創業前チームに参加。

ーILPに参加したきっかけを教えてください。

金田:国立がんセンターとBNVが共同で開催しているアイデアソンに参加したのがきっかけです。私は医療分野でのコンサルティングをしているため、その経験を活かせると思って。アイデアソンでの経験はとても有意義で、今度はアイデアを形にするフェーズを体験したいと思い、ILPに参加しました。

また、ILPでは普段のコンサルティング業務とは違った経験ができるのではないか、という期待もありました。コンサルティングでは大企業のプロジェクトの途中から参加するため、どうしても制約のある中で考えて動く必要があります。しかし、スタートアップではゼロから考えるため、ほとんど制約がありません。

伊藤:私はBNVからお誘いをうけて参加しました。以前自分の経験や志向についてお話していたことがあり、それが縁で「事業づくりで活かしてませんか?」と誘われたのです。

私はこれまで大企業のサラリーマンとしてのキャリアを歩んできたため、事業をゼロから大きくした経験がありません。そのため、スタートアップの世界に惹かれていましたし、これまでできなかった経験ができるいい機会だと思ったのです。

これまでの経験がスタートアップでも本当に通用するのか、腕試しするつもりで参加を決めました。

:私の場合は、社内のメーリングリストでILPの情報が流れてきたのが参加のきっかけです。会社が運営しているラボ施設がBNVと連携がありまして。その関係で、よくBNVさん主催のイベント告知が送られてきていました。将来的には、事業を創ってみたいと考えていた私にとっては、良い機会だと思って参加を決めました。

以前も他社の事業開発研修に参加したこともあったのですが、そこでは不完全燃焼に終わってしまって。参加者たちも起業に対してコミットしているわけではなく、本気度を感じずに違和感があったのです。ILPでは、本気で起業を考えている人が参加しているように感じ、モヤモヤも解決してくれると期待もありましたね。

ーどんな研究の事業化に取り組まれましたか?

金田:私は自分の経験を活かすために医療系のチームを選びました。いくつかチームがあるなかで、私が選んだのはソフトウェア自体が医療機器とみなされる「プログラム医療機器」を開発しているチーム。一般的な医療機器や医薬品の領域は既にルールができあがっている一方で、プログラム医療機器はまだ市場が成熟しておらず、ルールも確立されていません。そのため工夫の余地が大きいと思って選びました。

伊藤:私は研究者や学生をサポートするメディアを作っているチームに参加しました。チームを選んだ基準は自分のスキルを活かせること、そして世の中であまり知られていないサービスであることです。

メディアなら私がこれまで経験やスキルを活かせる部分も大きいと思いましたし、自分自身も得られるものが大きいと思い参画しました。

:最初は自分の専門である化学の知識を活かせるチームを探していました。しかし、化学のチームはある程度経営フェーズが進んでいて、ビジネスの経験が短い私では役に立てない気がして。そこで、まだサービスの出来上がっていないアーリーなチームを探し始めました。

そこで選んだのが英語学習支援のサービスを作っているチーム。英語なら私自身も勉強した経験があるので、ユーザーの視点を活かせると思い参画しました。

ーILP期間中、事業化に向けてどんな壁にぶつかり、どう乗り越えましたか?

金田:課題は「シーズしかなかったこと」。私のチームは元々がんセンターの臨床医の先生が行っていた基礎研究をベースにしたもの。研究シーズはあったものの、それをどのようにビジネスにしていくかは全然決まっていませんでした。

そのため、プログラムが用意してくれた事業化のためのガイドラインに沿って、一つずつ着実に進めていくしかありませんでした。そんな状態から、たった2ヶ月でピッチに出せる内容まで詰められたのは、先生のビジョンが明確だったからだと思います。

どんなビジネスにするかは決まっていなくても、最終的なビジョンが見えていたので、後は逆算して考えていくだけ。それを実践できたのは、同じくILP参加者のメンバーのおかげでした。

彼は学生ということもあり、いい意味で無遠慮に先生に質問してくれました。最初の打ち合わせで彼が先生を質問攻めにしてくれたおかげで、ビジョンが明確になり事業の方向性も決まったと思います。エンジニアも含め、多様なメンバーと一緒になれたのも、課題を乗り切れた一つの要因でしたね。

伊藤:私たちのチームは「長期で目指すゴールや事業計画が完成してないこと」が課題でした。私が参加したチームは代表取締役1人の会社で、既にサービスもローンチして法人化もしている状態。ただし、ビジネスとしての形はあったものの、その後の事業計画がほとんど白紙でした。

チームは私を含め3名のILPメンバーがいて、4人全員が初対面の状態からスタート。すぐにみんなで集まって事業のビジョンづくりに奔走しました。メンバー全員で意見を出し合い「このサービスが解決する課題は何なのか、何がすごいのか」を明確にしていきました。

メンバー全員が、自分の経験に関係なく自分ができることを探して全力でチームに貢献していたと思います。とにかく手を動かして、間違っていてもいいから形にしてみる。それはとてもいい経験だったと思います。

進める中で、他のチームの動きやプレゼンを聞いて勉強になったこともあります。私たちはサービスの見せ方を考えるばかりでしたが、周りでは実際にサービスについて想定顧客まわりをして評価を得ているチームもありました。

実際に投資する側になったら、ユーザーの声があるかどうかは大きな違いです。プレゼンするまでは至りませんでしたが、この2ヶ月で資金調達までに何が必要なのかを考えるいい機会になったと思います。

:私たちのチームの課題も「中長期の事業計画が曖昧なこと」。アカデミアからも多額の研究予算を調達し、既に研究チームも開発組織も整っていましたが、経営チームは発足したばかりで、計画も固まりきっていない印象でした。

どんな市場に対して、どのようにアプローチしていくかが具体化できておらず、ピッチに向けて事業計画やマーケティングを緻密に練っていく必要がありました。

そのような課題に対し、私はユーザーの声を集めることで貢献できたと思います。私自身も1ユーザー候補ですし、自分の人脈を使ってユーザー候補となりうる人を紹介したり、アンケートを作ってユーザーの声を集めたり。マーケットや事業計画の解像度は大きく上げられたと思っています。

ーILPで何が得られましたか?

金田:私が得られたものは「自信」です。実際にサービスづくりに携わり、納得したものを作って評価される。その経験を通じて、将来の起業に向けて大きな自信を得られました。いつかは起業したいと思って参加したのでとても貴重な経験でした。

もしILPへの参加を検討している人がいたら、ぜひ参加してほしいです。リスク無しで、自分が起業に向いているかどうか判断するいい機会になるはずです。

伊藤起業のリアルを見られたのは貴重な経験でした。もしプログラムに参加していなかったら、課題意識を持って本気で取り組んでいる人の存在すら知らないままだったと思います。

また「どうすればプレゼンが投資家に響くのか」と本気で考えた経験は、今の自分の仕事にも活きています。プログラムが終わってから、たまたま会社のトップにプレゼンする機会があったのですが、自分でも気づかないうちに資料やプレゼンの質が高まっていたんです。日々の仕事でも経験が活きているのを感じて、本当に有意義な時間だったと思っています。

:私も将来的な起業への心理的ハードルがなくなりました。よく起業にはスキルセットやマインドセットが必要と言われますが、それらを身に着けてから起業しようと思っていたら、いつまで経っても起業できません。希望すれば目指せること、そしてそういった想いを声に出すだけでも何かが起きることを学びました。

日本は海外に比べて起業へのサポートが弱いと言われていますが、それでも起業環境はとても整ってきていますし、社会全体が起業家の存在を待っています。そのことも肌で感じられました。

ースタートアップを創る活動の面白さを教えてください。

金田:私は文化祭のような面白さを感じました。チームで出し物を考えて実現し、評価を得る。それを本気でやるからこそ、大変なのと同時に楽しかったです。

伊藤:私は自分でゴールを決める面白さを感じました。普段の仕事では自分たちでゴールを決めることは少ないと思うのですが、ILPでは自分でゴールを決められます。一度決めたら終わりではなく、決めたゴールが本当に正しいか考え、必要があれば作り直さなければなりません。

そして、ゴールが決まった後に本気で実現に向けてコミットするのは楽しい経験でした。

:研究者や起業家の、ゼロから新しいものを創り出すエネルギーを間近で感じられたのが面白かったです。それはこれまで体感したことのない大きなエネルギーで、それをどう広げていくのか、どう形にしていくのかを考えるのが楽しくて。

普段の仕事では経験できない貴重な機会だったと思います。

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