CVCを創る。商船三井、ポーラ・オルビスHD、若手社内起業家2名の挑戦|社内起業家のまなび場 Vol.4

昨今耳にすることが増えたCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)。

「社内起業家のまなび場」第4回では、20代の社内起業家2名をお呼びし、CVC立ち上げから現在までのストーリー、CVCを立ち上げる上でのコツ、苦労したことなどをお伺いしました。

「社内起業家のまなび場」とは

1歩先を行く先輩社内起業家の取り組みや、社内起業家育成の先端的取り組みをシェアいただき、参加企業様の中から多くの優れた社内起業家を輩出することを目的とした協創型イベントです。
まなび場専用サイト:https://talent.beyondnextventures.com/manabiba

登壇者

株式会社MOL PLUS
代表

阪本 拓也 氏

2012年京都大学農学部卒
2012年株式会社商船三井入社、鉄鋼原料船部にて海外顧客担当。
2015年同社現地シンガポール法人MOL Cape社へ出向。
2017年自動車船部統括チームにて自動車船100隻の配船計画/船腹手当するチャータリング業務を担当。
2020年社内起業制度で「海運版CVCの設立」を自ら提案、採用。
2021年4月MOL PLUS設立。

株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス
総合企画室 コーポレートベンチャーキャピタル担当

岸 裕一郎 氏

1991年7月13日生まれ。京都府出身。同志社大学卒業後、ポーラに入社。17年にベンチャープロジェクトチームに参画し、18年よりポーラ・オルビス ホールディングス 総合企画室に勤務。コーポレートベンチャーキャピタル事業を担当。

CVCとは

CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は、事業会社がスタートアップ投資等を行うための投資組織・活動を指します。

近年のオープンイノベーション、スタートアップ連携のブームから設立数や投資額も拡大しており、「スタートアップ領域を支える大きな柱の一つ」に育ちつつあります。

同時に、今回のイベント参加者様のアンケートでは、課題として、「事業会社本体との事業シナジーをどう実現するか?」「CVC設立の価値や期待値をどう設定するか」を挙げる方が多くおられました。パネルディスカッションでは、それらについて登壇者様がどう向き合ったのかについてもお話いただきました。

CVCの立ち上げまでのストーリー

鷺山:早速ご登壇いただく阪本さんと岸さんに自己紹介をお願いしたいと思います。

阪本:新卒で商船三井に入社し、2020年1月に「自社でCVCを設立すべきだ」と社内起業制度の枠組みを通じて経営陣に伝え、2021年4月にCVCとして株式会社MOL PLUSを設立しました。商船三井100%子会社のCVCで、子会社のBS(バランスシート)投資という形にしております。

投資領域は、海運物流のDX化、自動化、環境負荷低減など、海運物流業に直接関わるソリューションもありますが、どちらかというと新規事業の創出を目的とすることが多く、海運物流業の周辺領域と連携することが多いです。

投資意思決定の座組みは、商船三井本体とは切り分け、子会社型とし、意思決定も子会社の投資委員会で進めていく形にしています。

CVC事業の開始から1年足らずの運営期間ですが、スタートアップ投資は4件、3月にプレスリリースしたものが2件あります。また予算枠のうち約3割はVCファンドへのLP出資という形をとっており、現在(2022年2月9日時点)は2社のファンドへの出資を実行しています。

海運業界の商船三井がCVCということで、スタートアップにとって、他のCVC事業とは別の業界から参画ができるというのが弊社の特徴だと思います。

鷺山:続いて、岸様お願いいたします。

:新卒でポーラに入社し、3年ほど化粧品関連のマーケティングや現場の採用支援に取り組み、社内の新規事業制度を使い、CVCを立ち上げました。大学の頃から新しいことをやるのが大好きで、入社後も新しいことがやりたくなり、新規事業にチャレンジしました。

CVC事業を開始してから現在まで累計投資が23社になりました。昨年は投資先の会社をM&Aし、今は資金投資だけでなく連携業務にも邁進している状況です。

本体の事業は、創業したブランドのポーラと子会社のオルビスというブランドが基幹ブランドで、こちらで収益の大部分を得ています。一方、最近は消費者のニーズが多様化しており、消費財のブランドで何百億もの売上を作っていくことが難しくなっています。そのため、マルチブランド戦略を掲げ、自社ブランドの立ち上げやM&Aによるポートフォリオ拡充を積極的に進めています。尚、我々のCVCの目的としても「ブランドポートフォリオを増やしていく」を一つテーマにしています。

CVCのステージは主にシードからアーリーステージ、チケットサイズは平均5,000万程、1,000万~1億ぐらいまでの規模感で投資をしています。

CVCを始めた頃は、D2Cの波もあり、この領域に4割ほど投資予算を割いていましたが、今ではアパレル、コスメ、食品、健康食品など、C(個人ユーザー)向けのサービスからB(法人ユーザー)向けの事業まで幅広い領域に投資をしています。

CVCの体制と目的

鷺山:今の体制に落ち着かれた背景をお伺いできますでしょうか。

:現在は、本体の経営企画部門としてCVC投資からM&Aまでの全般を実行できる体制で運営をしています。

阪本:私たちが一番優先的に考えたことは、本体での意思決定や運営スタイルと完全にセパレートするということです。

商船三井本体で意思決定をするときには、経営企画部の審査や様々な事業部門の合議が必要なので、意思決定をスムーズにするためにそこから距離を置く体制にしました。デメリットよりもそこのメリットが一番大きかったですね。

鷺山:なるほど。CVC立ち上げの際にVCと連携して運営する会社(二人組合方式)もありますが、そちらを選択しなかった理由はありますか。

阪本:私の場合は社内起業ということで「自分で創りたい」いう意思からスタートしています。そのためVCさんの知見を得たいという思いはあるものの、最初の段階で「委託して効率的に運営しよう」という発想がありませんでした。

鷺山:お二方ともファイナンシャルリターンではなく、新事業創出が目的とのことですが、一方で今の事業をレバレッジするような要素をスタートアップに求めるケースもあると思います。今の事業領域と一致していなくても、投資される目的は何ですか。

:弊社は前提として、投資した全社とシナジーを作ろうとは考えていません。CVC立ち上げ時からシナジーという言葉に悩まされまして、難しい理由として大きく2つあると思います。

1つは時間軸。創業したてのスタートアップは投資時点で、インパクトを出すのは難しい。なのでシナジーを作り出す時期を見定めることが重要だと思います。2点目が、社内で「自分たちのシナジーとは何なのか」を定義化していくことですね。

それらを決めた上で、自社に対してインパクトのある土台作りをすることを大前提でやっています。ただ、それまではどうするんだということがあるので、そこをファイナンシャルリターンで設計しています。

阪本:弊社もそこまで投資目的が明確でないものにも投資をします。岸さんの時間軸の考え方はキーワードだと思いまして、事業シナジーを生むことも、短期的なのか・中長期的になのかを分けて考える必要があると思います。

一方で、全く関係のない、事業連携のストーリーさえもない描けない領域はやる必要はないと感じています。

M&Aに踏み込むタイミング

鷺山:M&Aの話になりますが、どういう状態であればM&Aに踏み込むのかお伺いしたいと思います。

:スタートアップ企業のM&Aをすることは不確実性が高いので、難易度は高いと考えています。CVCとして出資していることには不確実性という点に対してメリットがあると思います。具体例だと前回M&Aをした会社には、投資からM&Aまでに1年半ほどの期間があります。月商数百万のタイミングで投資をして、月商1億円を超える規模になるまで一緒に伴走した上でM&Aを実行しています。なので投資開始から、徐々にファウンダーと関係を築き、定例で社内状況を把握した上で意思決定ができるのがメリットだと感じています。

また、当社の場合はブランドごとに事業会社を設けており、M&A後も起業家に経営を基本的には委任しております。

鷺山:阪本さんはM&Aに関してはどうお考えですか?

阪本:事業連携あるいは戦略的シナジーのストーリーを描いた上で出資検討をしているので、投資の入口から商船三井の事業部門ないし商船三井グループ会社の意思決定権者レベルの人に伴走してもらい、内部と関係構築を進めています。

CVCを立ち上げたい方へメッセージ

CVC立ち上げのアドバイス

鷺山:ぜひCVCの立ち上げを経験した二人から、これから立ち上げる方々にアドバイスを一言頂けると嬉しいです。

:初期から大切にしていたのは「中長期的なビジョンを語ること」と「堅実に立ち上がるところで勝負する」ということです。スタートアップ企業に例えると、リソースも経験もないので、今はまだないが将来の理想であるビジョンを語り資金調達や採用を行うことが多いと思います。同様にCVC立ち上げ期は具体的な戦略を描きながらも同様のことをやる必要性を感じています。そして自分がずっとビジョンを掲げていると、社内の中でもモメンタムが作られてくるのではないかと考えています。

一方で、ビジョンのみを語り実現性の低い投資ばかりを行っていると、進捗が悪くなり周りからネガティブに見られてしまうので、ホームランだけを初っ端から狙うのではなく、内野安打でいいから必死に走ってヒットを打てるところを狙いにいくことも重要だと考えています。

鷺山:CVC立ち上げ当初は、確実性の高い/低いの判断が難しいと思いますが、伴走してくれた存在や支えてくれた存在はいますか?

:起業家の方と接する仕事だったので、同世代の起業家やVCと仲良くなって、例えば土日も一緒に飲みに行ったりお会いすることで情報交換をし、モチベーションを保っていました。やらないといけないというよりは楽しんでやっていましたね。社内だけにいるとなかなか視野が狭くなるので、外の方と話し合うのは重要だと思います。

阪本:うまくいったと思うことは「具体的に提案する」ということです。その提案がすでにそこにあるかのように具体的に言うことで、説得力が増すと思っています。

私はCVCを起案するときに、CVCのことは何も知らない中、CVCの教科書的なものを読んでそのレポーティングするのではなくて、CVCで活躍されている方にたくさん具体的にインタビューをすることで、より具体的な提案に近づけたと思います。

鷺山:CVCの社内提案に刺さる重要な要素を挙げるとしたら何ですか?

阪本:自社でCVCをやっていく際、「誰がやるのか、なぜやるのか」を具体的に言うことです。自社でやることでどんな良いことがあり、それをどういう座組でやるのか、という具体性が必要だと思います。

CVCのチーム作りのコツ

鷺山:最後に、良い投資ができるCVCのチーム作りについて教えてください。

:CVCの経験者かつ優秀な方を引き抜くことは難易度が相対的に高いと感じており、それ以外の選択肢も併せて検討すべきと考えています。そのため社内異動も含めて再現性を持って実行できるチームをまずは作っていくべきだと思います。自社で投資ができる体制とソーシングのできる人はいるべきという前提で、規模は大きくなくて良いので筋肉質な体制にしていきたいと考えています。

鷺山:特殊な業界ゆえに中途の人を採用するのも難しいところがありますよね。

:25歳でCVCを始めて、正直うまくいかないことだらけで、最初の頃はやめようと思ったこともありました。ですがスタートアップと向き合う中で、目の前の起業家たちがとにかく頑張っているような人たちばかりだったので、自分ももうちょっと頑張ってみようと思えました。

近くにいる人の影響はすごく大きいと思っているので、事業会社の人たちとももっとつながれたらいいなと思っています。

阪本:CVCは、新産業をスタートアップと見ながら、学び合いながらやっていく事業スタイルだと感じています。カンファレンスでも今日のイベントでも一から作り上げていく感じが楽しいですね。

鷺山:本日はありがとうございました!

最後に

「社内起業家の学び場 Vol.4」をお読みいただきありがとうございます。次回もお楽しみに!
過去の社内起業家の学び場レポートはこちら:

Beyond Next Venturesでは、大企業からのカーブアウト創出支援を手掛けております。
これまで、東芝発のサイトロニクス、デンソー発のOPExPARKを始めとして、複数のカーブアウトベンチャーを社内起業家と共に創出してきました。カーブアウト支援、社内起業家の学び場についてご興味をお持ちになられましたら、こちらのメールアドレスまでお問い合わせください。

Shota Sagiyama

Shota Sagiyama

Executive Officer / Talent Partner