ディープテック・スタートアップへの出資・事業化支援を行う独立系ベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesです。
いま、従業員の健康を管理し、企業の生産性や企業価値を上げる「健康経営」に取り組む企業が増えています。一見、大企業のみが取り組んでいるようにも見えますが、実はスタートアップも例外ではありません。従業員が50人以上になると生じる法的義務や上場準備に向けて必要な従業員の健康管理は、会社の経営にも大きく影響を及ぼします。
今回は、「働くひとの健康を世界中に創る」をパーパスに掲げている株式会社iCARE(産業保健・健康経営ソリューションサービスの開発・提供)取締役CPO(Chief People Officer)の中野さんをゲストにお迎えし、スタートアップの健康経営の実例も含めながら、まずスタートアップが取り組むべき従業員の健康管理について話を伺いました。Beyond Next Ventures マネージャーの三國との対談形式でお届けします。
目次
従業員の健康を守る健康管理システムを提供するiCARE
中野:私が務める株式会社iCAREは、企業の健康管理、例えば健康診断やストレスチェック、長時間労働管理など全般的に解決していくサービスを提供しています。みなさん毎年健康診断を受けていると思いますが、結果は会社に用紙で返信されてきます。その辺りをデジタル化して業務効率をあげるSaaS事業も行っています。他にも企業に産業医や保健師を紹介するなどもしています。
従業員に不調が生じた場合、その人が悪いのではなくその環境や仕組みを解決していく必要があります。もっと従業員のパフォーマンスを上げたり、病気から早く回復するなどを目指して支援をしているのがiCAREです。
中野:また、当社では今年の10月に新サービス「Carelyエンゲージメント」の提供も開始しました。このサービスは、管理職に対して、部下一人ひとりにあったマネジメント・コミュニケーションを支援し、社員のエンゲージメント戦略に繋げることで企業の人的資本経営を後押しするものです。
スタートアップが競争優位性をつくるための健康経営とは?
スタートアップの組織規模において、30、50、100人の壁というのはよく言われますが、どのくらいの規模から健康経営を始めるといいでしょうか。
中野:30人規模のスタートアップでは、まず事業を伸ばさなければならないというフェーズなので、事業に集中する方が求められると思います。その後、30人を超えて、50人くらいの規模になると組織の問題が発生してきます。その問題によってうまく事業戦略が遂行できないというケースが生じ、その時に健康経営が必要になってきます。
スタートアップならではの課題はありますか。
中野:スタートアップは平均年齢が若いので、身体的よりも精神的に不調が生じるケースが多く見受けられます。最近では「ウェルビーイング」という言葉も注目されていますが、ウェルビーイングな状態というのは、身体的、精神的、社会的に健康である状態です。この社会的な健康とは何かというと、人間関係です。メンタル不調もこの社会的な健康が大きく影響しています。
例えば、50名規模のスタートアップで5名が休職している場合、5名分の生産性が止まってしまっています。スタートアップが競争優位性を作っていくためには、50人が50人分の働きをするだけでなく、100人分ほどの生産性を目指す必要があり、社会的な健康が重要になってくるわけです。社会的な健康、つまり人間関係を良くするためには、企業で部活動やシャッフルランチを企画するなど、従業員の関係性を良くしてしていくことが重要です。
まず着手すべきは法令順守から
中野:まずは健康診断を受診するなどの法令遵守から取り組んでみるのがいいと思います。加えて、共通項があるとコミュニケーションを取りやすいので、同じ出身地同士を繋げたり、共通の趣味で繋げて部活動を実施するのもいいと思います。関係性を築いた人たちがいればいるほど「安心する場」に繋がります。
コロナ禍以降、リモートならではの取り組み方はありますか?
中野:リモート下ではなかなかコミュニケーションが取りにくくなりましたが、Slack上でも同じように共通項を作って、Slack上で従業員同士を繋げたり、ZOOMで飲み会などを開催することによって、従業員同士が一層繋がりを感じ、社会的な健康の増進につながると思います。
三國:リモートだからこそ気をつけなければならないことはありますか?
中野:リモートは、孤独を感じやすいという特徴があります。特に独り身の方は、孤独を感じてメンタル不調になりやすい傾向があるのでケアが必要です。
健康推進の施策に社員の参加を促すには?
健康増進の施策に社員の参加を促すために必要なことはなんでしょうか?
中野:どうしても健康増進施策って嫌われてしまいますね。つらいしコストがかかるし大変だと。よって、従業員に押し付けないというのが大切だと思います。健康だけを目的にせず、副次的に健康があるというものでも、結果的に従業員の満足度には繋がります。
例えば歩数アプリで、従業員で歩数を競う取り組みを実施している企業があります。各々がいつ歩いているのか、歩いている歩数などが可視化されることによって、他の人たちも頑張っていることがわかると、「あの人も頑張っているから僕もやってみよう」という状態になったりします。この事例のように、押し付けずに、興味・関心をいかに煽るか仕掛けを作っていくということが一番大切だと思います。
三國:前職では、健康増進のためにジムの会費の補助が出ました。ジムに行く日は、仕事も切り上げやすかったです。
中野:健康施策に補助を出す企業はよくありますね。さらにその次の打手としては、ジム部を作って何人かでジムに行っている様子をSlack上に投稿したりすると、行ってみたいと思う人が新たに参加したり、ジムの会話で盛り上がったりと広がりがあります。
三國:人事が主導するよりも、旗振り役が大切ですね。
中野:旗振り役はとても大切です。何かやろうとしている従業員に人事が伴走して、推奨しながら進めていくと自走に繋げることができます。
産業医の使い倒し方
経営的視点で産業医を積極的に活用するというのはどのような方法がありますか。
中野:企業によっては「産業医の先生に数年会っていない」という場合もありますが、とても勿体ないと感じます。産業医はうまく活用すれば力を発揮してくれるし、活用できないと費用ばかりが嵩んでしまうという課題が生じてしまいます。
産業医とマネージャーを引き合わせて、部下の職種ならではの気をつけるべきポイントを共有し、少しでも従業員から小さなサインがあったら共有してもらうという方法はとても効果的だと思います。メンタル不調は「火事」に例えられ、小さな火種のうちに消化活動を行えば、大火事にならなくて済むわけです。例えば、月曜日に寝坊してしまうとか遅刻が多いなどという小さなサインからメンタル不調を発見することができます。その小さなサインを産業医がマネージャー層に伝えることによって、早めに対処することができるのです。
加えて、スタートアップがいよいよIPOができるというタイミングになって、退職者からハラスメントのタレコミが来るといった労務関係のトラブルが発生することも最近よくあります。退職者と良い関係を構築するために、産業医が第三者という立場を生かして、退職する従業員とコミュニケーションをとり、軟着陸させてくれるケースもあります。退職者の考え方が変わったり、良い関係性で終わることができた事例があるので、ぜひそのような視点でも産業医を活用してみるといいと思います。
いい産業医の見分け方はありますか。
中野:産業医は臨床医と異なり、診療をするのではなく、従業員が就業するための健康状態がどうなのかを見極めることが役割です。産業医と臨床医では仕事の目的が異なるわけですが、企業の人事も産業医もその辺りを勘違いしている方が多々見受けられます。産業医の先生そのものが、業務の目的を十分に理解していることが重要です。
最後に
iCAREでは、企業の健康経営や健康管理業務のDX化に特化したサービスを提供しています。サービスの詳細については、同社のウェブサイトをご覧ください。