日本が競争力を取り戻すのに欠かせないディープテック。その課題と可能性とは

日本から世界で活躍する可能性をもつ、「ディープテック」領域。今後より多くのディープテック発ユニコーンやIPOを輩出するためには、どのようなアップデートが必要なのでしょうか。今回は、日本のディープテックが抱える課題と解決策についてまとめました。

ディープテックが世界で勝てる可能性の高い理由とは

いわゆるインターネットサービスを主軸としたスタートアップはローカルビジネスになりやすいため、日本で成功したサービスをそのまま海外に輸出することは難しく、仮に輸出できても現地の競合に勝たなければなりません。リソース勝負になれば、圧倒的資金力を有する外資企業に勝つことは難しいでしょう。

一方で、サイエンス・テクノロジーを基盤としたディープテックは解決するペインもグローバルであり世界で勝てる可能性が高いと言われています。事業によっては国ごとに許認可をとらなければならないビジネスの場合もあるものの、ディープテックは世界に浸透していく可能性を秘めています。なぜなら、技術に国境はなく“モート”が起業時点から確立しているからです。実際に、日本は科学産業立国として世界を凌駕していた時期がありました。

つまり、科学技術のグローバルなポテンシャルはネット系サービスの比ではないのです。それが改めて「日本が世界で勝つにはディープテック」と言われる最たる理由の一つです。

弊社出資先の約9割はディープテック・スタートアップですが、海外展開の可能性を秘めているスタートアップは多く存在します。例えば、禁煙治療や高血圧症向けDTx(治療アプリ)を展開するCureAppは、つい先日世界有数のグローバルPEファンドであるカーライルから70億円の出資を受けたことを発表しました。これは、同社の技術がソフトウエア治療の最先端テクノロジーとしてグローバルな事業展開の可能性があることを示唆しています。

また、独自のゲノム編集技術の水産養殖事業のリージョナルフィッシュ、細胞培養による代替肉のインテグリカルチャー、植物の迅速な品種開発を可能とするゲノム編集技術のグランドグリーンなども、グローバルな社会課題を解決する可能性を秘めたスタートアップです。

ディープテックの事業化を阻む「研究」と「ビジネス」の距離

このように大きなポテンシャルを持つディープテック領域ですが、国内の成功事例はまだまだ限られています。

米国では、人材の流動性が高いため、アカデミアの研究者が研究所から民間企業に転職したり、また再びアカデミアの研究室に戻るのも一般的です。CTOクラスともなれば、研究者であってもビジネスマンと遜色ないビジネスマインドを備えています。

一方で日本はどうでしょう。過去は科学産業立国として上手く機能していましたが、人口動態や社会構造の変化などを要因として、研究とその技術の社会実装に距離ができてしまったのが現状だと思います。イノベーションのジレンマかもしれません。

最近では日本でも研究者が起業するケースが増えてきましたが、初めてのビジネス用語に苦戦する姿も多く見てきました。むしろ研究者の中には「自分に事業なんて無理だ」と思っている方も多い印象で、それもディープテックの事業化を阻む一因になっているように感じます。

しかし、そのような流れにも変化が起き始めています。大企業とスタートアップが共創する「オープンイノベーション」をはじめとして、企業と大学が手を組み、共同研究や一緒に事業を作る機会が増え、改めて研究とビジネスの距離が徐々に縮まり始めました。また研究者向けの起業サポート体制やアントレプレナー教育もここ数年で一気に加速し、よりチャレンジしやすい環境になっています。

周りに起業家や共同研究者がいると「自分にもできるかもしれない」という研究者が増えていくのは時間の問題でしょう。この流れがもっと加速し、日本にビジネスマインドを持った研究者がさらに増えることを大いに期待しています。

ディープテックの社会実装に向けて必要な「ビジネスマインド」

研究成果を社会に広く普及させる方法として「スタートアップ起業」があります。自ら会社を立ち上げ、投資家などから資金を調達し、その研究を基盤とした事業を創るのです。ビジネスをする上では売上を作り続ける必要がありますが、特に研究シーズの事業化は形になるまでに時間がかかります。

では、事業として立ち上がるまでの間、経営の全てを資金調達で賄えばいいかというと、そうではありません。理想のビジネスができる前に、何かしら社会実装を達成できるプロダクトやサービスを作り、売上に繋がる契約や提携を生み出していくことも一つのアプローチです。

例えば、バイオ燃料を作るために「ミドリムシ」の研究をしているユーグレナは、上場した時はヘルスケア事業の健康食品の売上げが殆どを占めていました。比較的形にしやすい健康食品で売上を立て、当初から目指しているバイオ燃料の本格的な事業などに繋げて事業拡大を実現しています。もしも「自分たちは健康食品を作るために研究をしているのではない」と言い切っていたら、その後の事業にも繋がらずIPOも実現しなかったでしょう。

意図しない形で研究の成果が世に出ることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし、事業を始める以上は社会実装を実現していかなければいけませんし、着実な結果が売上、そして利益に繋がれば周りからも期待され、より大きなチャレンジが可能になります。このように段階的にニーズを捉え社会実装の成果を出すビジネスマインドを身につけることが、ディープテックの事業化が成功する大きな要因の一つであると考えています。

ディープテックの資金不足問題。解決の兆しは?

ディープテックの成長のために欠かせないのが資金です。ネット系のビジネスに比べて研究・開発期間も長く設備投資も必要になるなど、ディープテックはより多額の資金調達をしなければなりません。

現在は国もディープテックを支援すべく、NEDO、JST、AMED等をはじめ様々な助成金プロジェクトを実施し、有望なディープテック・スタートアップに投資する機会を増やしています。また、政府関連も含めディープテック領域に投資するベンチャーキャピタルも増えているため、以前に比べると資金調達環境は良くなってきていると思います。

一方で、ディープテック領域は事業の拡大に伴い資金調達の規模感が大きくなっていくため、トータル(特にミドル・レイターステージ)の資金供給量は未だ少ない状況が続いています。そのため、ディープテック領域のビジネス・技術への理解が深い国内投資家が増えていくことはもちろん、海外の投資家からスタートアップが資金を調達する、あるいは、既存の株主であるVCが海外の投資家からの資金調達をサポートするというようなグローバルな活動がもっと広がってほしいと思っています。

実際に、当社では研究開発系のスタートアップを対象に海外展開のサポートを始めています。2022年10月には、世界各国から一流の研究者が集う沖縄科学技術大学院大学(OIST)でプログラム「BRAVE GLOBAL」を実施し、海外の投資家や経営者を日本に招いて、スタートアップが直接彼らから助言等を受けられる、というものです。プログラムに参加することで、ゼロベースでは得づらい海外勢とのネットワークも生まれますし、英語でピッチし、彼らと直接コミュニケーションを取ること自体が、グローバルスタートアップへの第一歩に繋がると信じています。

今後、この取り組みのように国内VCが海外との接続を後押しする活動がどんどん広がっていくことを願っています。

最後に

今後ディープテックに資金や人材などのリソースが集まるかは、「成功事例」にかかっています。成功事例が増えればそれだけ期待も増え、出資するVCや大企業が増え、事業会社から転職する人も増えてくるでしょう。

私たちBeyond Next Venturesは引き続き多くの方と共に活動しながらこの業界を盛り上げていきます。研究シーズの社会実装に向けて壁打ち相手がほしい研究者の方はもちろん、ディープテック・スタートアップへの経営参画や研究者との共同創業にご興味のあるビジネスパーソンの方は、ぜひ弊社までご相談ください。

Beyond Next Ventures

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