ディープテックなど高度な科学技術シーズの事業化を支援するアクセラレーションプログラム「BRAVE FRONTIER」。今回は、2021年度のプログラムにご参加いただいたFiberCraze株式会社(以下、FiberCraze)の代表取締役である長曽我部 竣也氏にインタビューを実施しました。
「素材の力で社会課題を解決し、人々の豊かな生活に貢献する」をミッションとするFiberCraze(ファイバークレーズ)は、岐阜大学大学院 高分子化学を専攻する長曽我部氏が、岐阜大学の特許技術を事業化するべく2021年9月に立ち上げ、2022年3月には岐阜大学発ベンチャー7号に正式認定されました。
同社がBRAVEに参加したきっかけやプログラムから得られた経験等について伺いました。
“世界で唯一の繊維加工技術”を事業化し、社会に還元したい。大学院在学中に起業を決意
―FiberCrazeの事業内容を教えてください
長曽我部:弊社は、岐阜大学の基礎研究から生まれた「繊維やフィルム素材の多孔化技術」をコアとした高機能性素材を開発する、岐阜大学発の研究開発型スタートアップです。
後加工で素材に数十ナノメートルの孔(あな)を空けることで、成分の保持や粒子の透過・制御、水・油の分離などの特徴を持ちます。
現在は主にヘルスケア分野や農業分野を中心とした開発を行っており、その他にも医療・バイオ分野や産業分野など幅広い用途に展開できます。 当社の技術の応用製品として、保湿や防虫の成分を閉じ込めた高機能性繊維や、液体の吸着剤・分離膜など様々な機能を持つ素材を開発しています。
―起業の背景を教えてください
長曽我部:学部4年次(2019年度)に高分子を扱う研究室に入り、その直後に先生から紹介された一つの技術に魅力と可能性を強く感じました。
一方で、その技術は20年以上も岐阜大学で研究されてきましたが、これまで一度も日の目を浴びていません。本来研究は社会に出して還元することが目的なはずなのに、なぜだろうと疑問に思い、先生に聞いてみたんです。
すると、「(事業を推進する)プレーヤーがいない」という背景があることが分かりました。協業パートナーは数社いましたが、地元のメーカー企業のため、自分たちで企画から販売までを手掛けられる人がおらず、さらに大学内でもビジネスの知見や事業化ノウハウは持っていません。そのため、なかなか製品化まで結び付けることができていませんでした。
それであれば自らプレーヤーになろうと思ったのが最初のきっかけです。
さらに、事業化して世に大きなインパクトを与えたいと考えたときに、自分でゼロから事業を創るということは、自分個人が持つ影響力よりはるかに大きい範囲で社会に価値を届けられるとも思いました。あとは、覚悟を決めて、起業を決意しました。
―研究を続けながら起業されたのですか?
長曽我部:BRAVEに参加した2021年度は大学院を1年間休学し、起業にフルコミットしました。休学してまもない2021年6~8月に、創業前のフェーズでBRAVEに参加できたので、起業に向けてとても強力なアクセルとなりました。そして、BRAVEを終えた直後の2021年9月に、会社を創業しました。
ビジネス視点でのブレストを重ね、事業領域を見極める
―BRAVEに参加しようと思ったきっかけをお教えください。
長曽我部:知り合いの先輩起業家に「BRAVEいいよ、長曽我部くんに合ってるんじゃない?」と教えてもらったことがきっかけです。
エントリーの決め手となったのは、「ビジネスパーソンと共に事業化に向けて走れる」という点でした。元々研究畑の人ばかりのチームでしたので、ビジネスの視点が圧倒的に不足していました。アクセラレーションプログラムという枠組みの中で、ビジネスパーソンの方々に併走してもらえるのは衝撃的でしたね。
BRAVEではILPメンバー(Innovation Leaders Programに選抜された経営スキルの高いビジネスパーソン)とのマッチングを行い、経営チームを強化しながら事業化に取り組める
―BRAVEではどんなビジネス人材に入っていただきましたか?
長曽我部:大手化学メーカーにお勤めの方2名と、ロボット系のベンチャー企業でファイナンスを担当されている方1名にご参画いただきました。個人のつながりの範囲では出会わないような方々と出会えました。
―一気に3人増えたわけですね。参加前と何が一番変わりましたか?
長曽我部:ビジネスの解像度が上がったことが最も大きいです。コア技術をベースに、どの事業領域で勝負していけるのか、ひたすらチームメンバーでブレストしました。競合調査や推定の市場規模も出しながら、より勝てる確率の高そうな領域を見極めていきました。
当時、大学で防虫ネットの開発を進めており、農家さんに足を運びながらある程度のターゲットや製品のイメージは持っていました。しかし、どのようにスケールさせていくのか分からない状態でした。
BRAVEでは、アーリーアダプターの獲得と、そこからどのように裾野を広げていくのか、その実現に向けて誰と組むべきか、自社で営業部隊を持つ/持たないでどういったケースが考えられるのか、なども洗い出してチームでディスカッションを重ねました。御三方それぞれの本業のご経験を余すところ無く共有していただき、自分でも考えたことのないアイデアを出していただきました。
また、Beyond Next Venturesさん経由で農業に精通したメンターの方にご相談させていただき、さらにパートナー候補となる企業をご紹介いただきました。企業との面談には、お忙しい中、御三方にもご同席いただきました。本当に心強かったです。
それらの活動を通して徐々に事業戦略が固まっていき、BRAVE終了後に実際にアクションに移して、徐々に成果が出つつあります。
―BRAVEで繋がったメンバーとは今でも関係性は続いていますか?
長曽我部:はい、BRAVEが終わった後も、ビジネスメンバーとして入ってくれた3名にはよく相談しています。ちなみに、連絡手段としてBRAVEのSlackを未だに活用しています(笑)
プレスリリースを出したときは皆さんに反応をいただき、こういった関係性を持てることは大変嬉しいです。
研究とビジネスの往来がしやすくなり、意思決定の精度も高まった
―経営者として成長した部分はありますか?
長曽我部:ビジネスと研究の往来スピードが上がりました。もちろん研究や技術のことは前から分かっていましたが、実際にお金を稼げるのかという事業性、中長期・短期で考えるべきことの見分け、どのタイミングで検証を中断すべきかなどの基準が自分の中で明確になってきています。これは、BRAVEを経験したからこその変化だと思います。
また、自分は現実的に考えてしまうタイプで、慎重派な性格なのですが、BRAVEメンバーに「そこはいけるよ」と背中を押してもらうことも多く、新たな自信に繋がっています。
―そのほか、BRAVEへの参加がプラスに働いたことはありますか?
長曽我部:ILPの御三方とは、平日の22時頃から打ち合わせを始めて0時を超えてしまうということもよくありました。それを週に何度も、多いときには毎日時間を割いていただきました。その貴重な時間で頭をフル回転させて新しいアイデアが出た瞬間や、共感し合った瞬間がすごく楽しく、学びが多かったです。また、開発の進捗など小さな成功をチームに共有できた瞬間も嬉しかったです。
―最後に、これからBRAVEに参加したいと考えている方や、研究者で起業したいと考えている方へメッセージをお願いします。
長曽我部:私を含め研究者はビジネス経験が浅いことが多いと思いますが、BRAVEではビジネス経験のある方々が客観的にビジネスを見ていただけます。アドバイスだけでなく、同じ目線で並走しながら事業を創っていける仲間を集められるのは、滅多にない機会だと思います。自分自身、ここで得た学びは1年経った今でも生きているので、ぜひ事業のアクセラレーションに繋げていただければと思います!