ディープテックなど高度な科学技術シーズの事業化を支援するアクセラレーションプログラム「BRAVE FRONTIER」。今回は、2021年に行われたプログラムの集大成である最終ピッチイベント「BRAVE2021 DEMO DAY」にて見事優勝された株式会社fcuro(以下、fcuro)にインタビューを実施しました。
「徹底的な現場起点技術で救急医の救命を助ける」をミッションとするfcuro(フクロウ)は、現役の救急医である岡田直己氏が、中高の同級生で当時SONYでAIエンジニアとして勤務していた井上周祐氏を誘い、2020年6月に立ち上げたスタートアップです。
同社がBRAVEに参加したきっかけやプログラムから得られた経験等について、共同創業者 兼 CTOの井上氏にお話いただきました。
患者全員を救いたい。最前線で働く救急医自らが創業を決意し、CT画像診断AIを開発
―fcuroの事業内容を教えてください
井上:救急現場では重症患者の容態を把握するためにCTスキャンを行うケースが多いです。しかし、このCTには2つの問題が存在します。それは、読み解きに長い時間を要する点と、疾患を見逃す可能性がある、という点です。
私たちは、これらの課題を解決すべく、交通事故をはじめとする「外傷」におけるCTの読み解きをAIで補助する「救急全身CT診断AI」と、ここ数年最も救急医を悩ませているCOVID-19の識別をAIで補助する「救急COVID-19診断AI」を開発しています。
開発したAIは「全身検索型画像診断AIシステム『ERATS』」上でアプリケーションとして統合されます。全身の異常発生箇所が即座に判明するため、見落としのない早期診断を可能にします。
現在は、この画像診断AIを最速で医療現場に届けるための組織を構築し、全国の救急施設と共同研究を実施しています。直近ではAMEDの令和4年度医工連携イノベーション推進事業に採択され、医療機器としての開発を進めています。
また、今後は画像診断AIだけでなく、救急医の業務改善に繋がるあらゆる技術を徹底的な現場起点で開発していく予定です。
fcuro は、全ての診療科の入り口となる救急を基盤に、各専門科へfcuroの技術と信念を広げることで、現場を内包したエコシステムを形成し、専門科が不在でも患者が助かる「preventable death(防ぎ得た死)のない世界」の実現を目指しています。
―大阪で救急医として勤務している岡田さんと、SONYでAIを開発していた井上さんの共同創業秘話を教えてください
井上:岡田と私は中学からの同級生で、社会人になってからもよく会っていました。岡田が静岡で研修医をしていた2017年頃に数人の友人で集まった際に、当時私が研究していたAIについての話題になりました。その中で岡田から「CT診断がとても大変だ」という話を聞き、AIでどうにかできないかと考えはじめるようになりました。
岡田から何度も現場のもどかしさを聞いている中でその考えが強くなり、連休になれば2人で合宿してAIの開発をする日々が始まりました。
岡田が大阪で救急医としての勤務をスタートした2019年頃に、岡田が個人で応募した一般社団法人 未踏が運営するAIフロンティアプログラムに採択されたのが、起業が現実化した一歩目です。そこで、技術の根幹や事業のアイデアを固めていきました。
その翌年の2020年に、IPA未踏アドバンスト事業に岡田と私の2人で応募したところ採択いただき、会社として活動できると思えたタイミングでSONYを退社し、fcuroの立ち上げに参画しました。
会社の立ち上げ後も病院との共同研究許可などが必要で、院内での調整も頑張ってきました。病院での信頼を勝ち取るために、アカデミックな論文成果を積極的に追い求め、実診療を見せていただきながら現場医師と共同で研究開発を進めてきました。
「医療機器として事業を成長させる」新たな決意と具体化されたビジネスプラン
―BRAVEに参加しようと思ったきっかけをお教えください。
井上:未踏アドバンスト事業経由でBeyond Next Ventures代表の伊藤さんと知り合ったことが最初のきっかけです。当時は積極的に出資を受ける段階ではないと考えていましたが、岡田と私の2人体制での限界を感じていました。特に、ビジネス戦略に関して検討する時間や人員が圧倒的に不足していました。
その相談を伊藤さんにした時に、「BRAVEではILPメンバー(Innovation Leaders Programに選抜された経営スキルの高いビジネスパーソン)とのマッチングを行い、経営チームを強化できますよ」と教えていただき、すぐに応募しました。
―BRAVEではどんなビジネス人材に入っていただきましたか?
参加前は、技術の開発にはすごく力を入れていた一方で、事業として将来上場を狙うためのビジネスモデルの構築や組織編制というのはあまり洗練されていない状態でした。
BRAVEでは、国内有数の研究機関で医療機器の事業化をやられている方、事業化された医療機器の商社で働かれている方、製薬会社の方、コンサル勤めの方の計4名にチームメンバーとして入っていただき、事業プランを共に練っていきました。
さらに、メンターとして国立がん研究センター東病院の主任研究員である冨岡 穣さんや、AnyTech株式会社のFounderでエンジェル投資家でもある島本 佳紀さんに入っていただきました。
―一気に6人増えたわけですね。参加前と何が一番変わりましたか?
ILPメンバーやメンターとの密な議論を通じて、「徹底的な現場起点技術で救急医の救命を助ける」という弊社の理念を維持したまま、開発したAIを医療機器として普及させていくための計画がしっかりできたところが一番大きいです。
BRAVEに参加する前は、医療機器にするためのノウハウ等も全然分からない状態で、知り合いに聞く程度にしか動けていませんでした。
それが、自分たちの持つ技術を医療機器として世の中に普及させていくために、いつ、誰と、どのように進めていくのか、という道筋がとても明確になりました。
実際に医療機器を作られている方もいらしたので、予算、必要なメンバー、やるべきこと、スケジュール、進め方などが細かく具体化されていき、それをビジネスプランに落とし込むことができました。
ちなみに、ILPメンバーの1人は私の大学時代の友人で、BRAVEのマッチングで偶然再会しました。コロナ期間でWebミーティングしか出来ない時勢でしたが、彼がいたお陰もあって、いい雰囲気で議論を重ねることが出来ました。
また、デモデイで優勝した時、皆さんにとても喜んでいただき、それも嬉しかったです。
ILPメンバーやメンターの中には、BRAVEの期間が終了した後もNDAを結び直して弊社の活動を支援して頂いている方もいます。このようなご縁が繋がっていることも嬉しいですね。
自分たちの強みを再認識し、知識やノウハウを得ることで、具体的な一歩を踏み出せる
―経営チームとして成長した部分(伸びしろがあった部分)はありますか?
井上:私たちの強みは、やはり代表である岡田が現役の医師であり、医療現場の最前線にいることです。その強みを生かしながらどのように事業を進めていくか、という部分で成長があったと感じています。
BRAVE参加前は「研究費をもとに画期的な技術を開発する」ということに集中していたところから、医療機器として普及させていくための事業の計画を考えられるようになったのは大きな成長だったと思います。
加えて、知らないが故に自分たちの規模では到底できないだろうと半分諦めていたことが、案外自分たちでもできるかもしれない、という気付きがあり、次のアクションに向けてさらに勢いがついた感覚があります。
―そのほか、BRAVEへの参加がプラスに働いたことはありますか?
井上:シンプルに、めっちゃ楽しかったです。アグリ系など全く分野の異なるディープテック系のチームのビジネス構想やコンセプトなどを見ることができて、とても勉強になりました。
最後のデモデイは会場の壇上でピッチしましたが、コロナ渦での起業でしたので、リアルでプレゼンを行うのは初めてで、それもいい経験でした。
また、デモデイ以外は全てオンラインでの実施で、私たちは皆拠点がばらけているので、とても助かりました。
―最後に、これからBRAVEに参加したいと考えている方や、医師や研究者で起業したいと考えている方へメッセージをお願いします。
現場の先生方は最前線で診療に従事しているからこそ、見えている現状や課題があると思います。そして、前線にいるからこそ、世の中を変える技術を実装することができると考えております。是非とも前線から世の中を変えていくことを一緒に目指していけたら幸いです。
https://fcuro.com/