元商社マンが遠い存在だったスタートアップに転職した理由|ILP Alumni Interview Vol.7

研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。

ILP第5期生 益田さんは、2019年に知人の紹介でたまたま知ったILPにご参加いただき、約2カ月間アーリーステージのスタートアップ「サグリ株式会社」の事業成長にコミット。プログラム終了後、2020年4月に実際にサグリ社に転職され、現在はCOOとして活躍されています。

プロフィール

サグリ株式会社 COO

益田 周氏

2007年に伊藤忠商事に入社し、コーポレート部門にて経理や財務、経営企画等に約11年間携わる。その後、ジョンソン&ジョンソングループの製薬カンパニーであるヤンセンファーマに転職し、事業管理部門の経営管理職として勤務。2019年ILP5期に参加。2020年4月にILPで出会ったスタートアップサグリ社に転職し、COOとして参画。

ーILPに参加したきっかけを教えてください。

前職ヤンセンファーマにいるときに知人経由で紹介されたのがきっかけです。様々な企業規模を見たうえで自分の今後のキャリアを明確にしようと思い参加しました。

ILPは、仕事と並行して疑似的にスタートアップの創業初期を体験できます。つまり、自分自身の役割が明確に決められていない環境の中で自分はどういう形で役に立てるか、リスクなしで腕試しできるわけです。

スタートアップといっても、ステージによって企業の内情や動き方が如実に変わります。そういった意味では、このプログラムを通じてこれまで接点が無かったアーリーステージのスタートアップに関われるのは魅力の1つでした。

ーILPではどんなスタートアップの経営に加わりましたか?

サグリ株式会社という、衛星データと農業データを用いて独自の技術で農学的に農業を最適化するアプリケーションの提供を行うアーリーステージのスタートアップです。近年は割と簡単にAI技術を使えるようになってきていますが、ビックデータである衛星データと組み合わせて解析・活用する企業は少ないです。同社はこれらの技術を使い、企業や自治体に向けて、衛星データ解析とソリューションを提案しています。

ーILP卒業後、実際に転職された背景をお聞かせください。

ILP参加当初は、自分のバックグラウンド的にレイターステージのスタートアップの方が役に立てることが多そうだなと思っていましたが、実際にアーリーステージのサグリ社で働いてみると意外に役に立てる部分が多いことがわかってきました。

会社にとって足りていない部分を埋めていくのが自分の役割だと思っていたので、Slackなどに入って内情を理解していくうちに、どんどん改善点が出てくるわけですよ。そもそも1人では抱えきれない量であったり、何から手をつければいいのかもわからないようなカオスな状況の連続でした。しかしそれを経験するうちに、カオスな部分を改善していく作業が多いステージの方が、自分は役に立てるのではと感じ始めました。

そして、カオスな状況を改善するための方法を提案していくうちに、今まで感じたことのなかった「自分の力で会社がよくなってきている実感と手応え」を感じることが多くなり、自分もその状況を楽しんでいることに気づき始めたのです。

ー大企業でのどんな経験がシード期のスタートアップに役立ちましたか?

第一に「マネジメント経験」です。大企業では「どのように人のリソースを配分し、プロジェクトを回していくのか」を当たり前のようにできるようになります。しかし、アーリーなスタートアップでは、それができていないことが少なくありません。

第二に「守備範囲の広さ」です。大企業では(職種にもよりますが)専門性よりも守備範囲の広さを求められることが多いです。

言い換えれば、大企業で働く多くの人は「専門性がなく別の会社に移ったとき価値を出せるのか不安」と思うケースもあると思いますが(私は少なくとも伊藤忠商事にいる時にそう思っていました)、ジェネラリスト型の人材は大きな戦力になるのではないでしょうか。何も整っていないシードステージのスタートアップこそ、分野に縛られず動ける人材が活躍できる場所だと思います。

ー大企業からスタートアップへの転職に悩みませんでしたか?

実は、ILP卒業後から実際の入社まで半年間ほどブランクがあります。

ILPが終わってからも、サグリ社とは曖昧な立場で関わっていました。そんな中、ある日突然「チームに入ってもらいたい」と言われたんです。が、当時は確たる気持ちを持てずにいたのですぐに返事をすることができませんでした。

そんな状況の中、サグリ社のインドチーム側で連続起業家として活躍しているメンバーを私と同時に採用する話が出てきて。インドに出張をして、そのメンバーとひざを突き合わせて話をしたことが、意思決定をする大きなきっかけになりました。同時に、企業の成長速度が早かったことも短期間で心境が変化した理由でした。

私がILPで関わり始めた頃は資金的にも余裕がなくできないことの方が多い、企業として粗削りの状態でした。しかしその後、サグリが補助金の採択を受けることができ、大きく事業が前進した感覚がありました。日経新聞にも大きく取り上げてもらう機会があり、全く接点のなかった企業からアライアンスや投資を含めたお話が急激に増えました。

そこからは、支援事業や補助金で開発したプロダクトを活かして次の補助金やプログラムを取りにいく。そんなプラスのサイクルが回り始め、最初の支援事業を受けてから半年で事業を推進するスピードが大きく変わりました。

半年という短期間で自社の実力や関わる人が変わり、会社のステージも大きく変わる。これは大企業にいる状態では経験できない。そして自分がその変化の起点であり、中にいる面白さを経験できたからこそ、いつの間にか転職先の候補としてあがってきたのかなと思います。

ーどのような人にILPへの参加をおすすめしたいですか?

スタートアップに少しでも興味のある方は参加を検討してみても損はないと思います。ILPの特徴でもある、企業と応募者側のニーズがうまくマッチした上で一緒に働ける状況は理想的です。

ただILPは、いい意味でガチガチにプログラムが練り込まれているわけではないので自由です。そのため、何をやればいいのか指示がほしい方には合わないかもしれません。最初の入口は提供してもらえますが、その後の関わり方や価値の出し方は基本的に参加者自身に任されます。なので、ざっくりでいいので、スタートアップ内における自分のポジショニングや参加目的を明確にしておくと、とても有意義な時間になると思います。