脳科学とAIを融合したブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は、医療の在り方を大きく変える可能性を秘めた領域として注目されています。一方で、その研究成果をいかに社会実装へとつなげるかは、依然として大きな課題の一つです。
今回は、BMI技術を用いて重度麻痺患者のリハビリテーションに挑む、株式会社LIFESCAPESより、代表取締役の牛場潤一氏、取締役副社長の林正彬氏をお招きし、創業の背景や技術の特徴、そして社会実装に向けた取り組みについて伺いました。
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プロフィール

株式会社LIFESCAPES
代表取締役 / President 兼 慶應義塾⼤学理⼯学部⽣命情報学科教授
⽜場 潤⼀
史上最年少で博士号を取得し、最年少でテニュア・ポジションを取得。神経科学研究室を35歳で主宰し、理工学部で初めて代表取締役の兼務許可を取得。専門は神経科学、リハビリテーション医学、データサイエンス。査読付き英文原著論文100編以上。文部科学大臣表彰による若手科学者賞、中谷医工学計測振興財団中谷賞特別賞など受賞歴多数。

株式会社LIFESCAPES
取締役副社長 / Vice President
林 正彬
慶應義塾大学大学院 前期博士課程修了後、(株)ディー・エヌ・エーに新卒入社。ヘルスケア領域での事業立ち上げや製薬企業向けのサービス企画、法人営業、アライアンス業務を推進。在職中、慶應義塾大学大学院にてBMIの基礎研究・臨床研究に従事し、博士(理学)を取得。2021年7月、研究分野の社会実装を実現させるべく参画。慶應義塾大学 理工学部 研究員

Beyond Next Ventures株式会社
執行役員 / パートナー / 投資部 部長
橋爪 克弥
2010年ジャフコ(現ジャフコグループ)入社。産学連携投資グループリーダー、JST START代表事業プロモーターを歴任し、約10年間一貫して大学発ベンチャーへの出資に従事。2020年に当社に参画し、医療機器・デジタルヘルス領域のスタートアップへの出資を手掛ける。2021年8月に執行役員に就任。投資部門のリーダーを務めるとともに、出資先企業のコミュニティ運営を統括。主な投資実績はマイクロ波化学(IPO)、Biomedical Solutions(M&A)、Bolt Medical(M&A)等。サーフィンが趣味、湘南在住。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
目次
AI、脳科学、医療──個々の関心が、ひとつの研究テーマに繋がった瞬間
橋爪:まずは、牛場さんご自身のこれまでの歩みや、今の研究テーマにつながる原点から伺えればと思います。どのような関心から、今の領域に入っていかれたのでしょうか。
牛場氏:話し始めると長いのですが、自分の中ではかなりはっきりとした原点があります。
小学校の頃、今と少し似たようなAIブームがありました。ただ、当時はまだ家庭にパソコンがあるのも珍しい時代で、学校にもほとんどなかったんです。そんな中で、通っていた小学校にパソコンが導入されて、「放課後に使っていいですよ」と開放してもらったことがありました。そこで、今で言うChatGPTのようなAIに触れる機会があって、「プログラミングによって人間の知能のようなものをつくれるんだ」と知り、とても強く惹かれました。そこから、いわゆるパソコンオタクのようになっていきましたね。
その後、中学校に入ってからは脳科学に興味を持つようになりました。学校に神経科学の先生が来てくださって、「脳科学は面白い」という授業をしてくれたんです。脳の半分近くを手術で摘出した方でも、リハビリを続けることで残った脳が機能を肩代わりして、周囲からは分からないほど回復していく、という話を聞きました。
それがすごく衝撃的で、「人間の脳も、AIのように経験の積み重ねで回路が組み換わっていくんだ」と感じたんです。脳の不思議さと、そこにある希望に触れた原体験だったと思います。
橋爪:AIと脳科学、それぞれ別の関心のようでいて、後から振り返ると今の取り組みにつながっているわけですね。
牛場氏:そうなんです。ただ、当時は自分でもそれがつながるとは全く思っていませんでした。
その時々で「AIって面白いな」「脳科学って不思議だな」と感じていたので、周囲からもいろいろつまみ食いしている人に見えていたと思いますし、自分でも、何に本当に興味があるのか、ひとことで説明はできなかったですね。
橋爪:そしてその後、さらに医療という軸が入ってくるのですね。
牛場氏:高校時代に、祖父が脳卒中で倒れ、片麻痺になり、言葉も話せなくなって、車椅子での生活になりました。本人が大変だったのはもちろんですが、私自身が介護生活の大変さを経験したことは、非常に大きな出来事でした。
そして大学で研究室に入る頃には、「祖父と同じような病気で苦しんでいる方を助けたい」という気持ちが明確に出てきたのですが、その時点では、何をするのかまではまだはっきりしていなかったんです。
小学生の頃に魅了されたAIと、中学校で感じた脳の不思議さ、そして高校で直面した介護の現実が、自分の中でぐるぐると回り続けていました。最初から一本の線で結ばれていたわけではなくて、自分の中で長い時間をかけて少しずつ溶け合っていった感覚です。
ある時、「脳の情報をAIで分析して、ロボティクスを使って脳にフィードバックすることで、脳そのものを治していくようなことができるのではないか」と着想した瞬間がありました。今振り返ると、少し出来すぎた話に聞こえるかもしれませんが、その時々で面白いと思ったものを追いかけてきた結果として、今のテーマにたどり着いたという感覚です。
橋爪:解決したい課題はずっとあったけれども、そこにどうアプローチするかは、ご自身の中にあった一見つながらない関心が結びついたことで見えてきたということですね。
牛場氏:まさにそうだと思います。課題からバックキャストしすぎると、どうしても既存の延長線上にある答えになりやすいと思うんです。
一方で、一見すると関係のないものでも、自分の中でずっと気になっているものを持ち続けていると、ある瞬間、自分にしか見えない結節点のようなものが見えてくる瞬間があります。それが私にとっては、ブレイン・マシン・インターフェース(以下、BMI)でした。

研究者が事業化を決意した理由
橋爪:そうしたテーマにたどり着かれてから、会社をつくるまでの道のりについても伺いたいです。研究成果の社会実装を実現する方法は、ライセンスアウトや共同研究などさまざまな選択肢があったと思います。その中で、なぜ起業に至ったのでしょうか。
牛場氏:実は、私自身がビジネスをやるイメージは全くありませんでした。就職活動もせず、学問を追求すること自体に強い憧れがあったため、そのまま博士課程に進み、学問の道をまっすぐ進んできました。
AIを使って脳情報をリアルタイムに解析し、ロボットが麻痺した身体の動きを支援することで、脳の状態そのものを変えていく。そうしたニューロフィードバックの仕組みをつくって、脳の機能が変わることを学問的に示していくこと自体に大きな喜びを感じていました。
そんな中、社会実装を目指すきっかけとなったのは、脳卒中の患者さんに私の研究する技術を使っていただいたことでした。ある方が帰り際に「私は直接、恩恵を受けられないかもしれないけれど、私と同じような人のために頑張ってください」と声をかけてくださったんです。その言葉に、はっとしました。
橋爪:大きな転機だったのですね。
牛場氏:論文を書いてエビデンスを積み上げることはできても、それだけでは目の前の患者さんや医療の課題を本当に解決できていないのではないか、と感じたのと同時に、自分には、この技術を社会に届けるところまでやる責任があると思ったんです。
しかし、その時点ではまだ自分で起業するつもりはありませんでした。大学にいながら社会実装できるのが一番いいと考えていて、実際、ある企業と一緒に製品試作まで進めていました。かなり良いところまで行っていたのですが、リーマンショックなどの影響もあり、その企業が医療機器事業から撤退することになってしまったんです。
ここまで積み上げてきたものが消えるのはどうしても受け入れられず、「これはもう自分がリスクを取って続けるしかない」と腹を括りました。そのため前向きに起業したいと思って始めたというより、やるべきことを最後までやろうとした結果として、起業を選んだのです。
橋爪:研究者として社会実装を目指すことと、実際に起業をすることの間には、大きな差もあったのではないでしょうか。
牛場氏:かなりありました。大学では腰を据えて研究できますが、スタートアップは限られた時間の中で成果を出し、その価値を認めてもらいながら前に進まなければなりません。頭では分かっていても、実際にそのスピード感に適応するのはとても大変でした。
そんな時にBeyond Next Venturesと出会い、「3日後にBRAVEというアクセラレーションプログラムがあるから応募した方がいい」と勧められて急いで準備をして参加をしたんです。そこで薬事や財務、医療機器事業に詳しい方々とチームを組み、初めて事業計画や財務計画を形にしていく経験を得ました。
その後、改めてBeyond Next Venturesへ事業計画書を説明する機会を得たのですが、「まだ覚悟が決まっていない」と厳しく言われたことがとても印象に残っています。事業のつくり方だけでなく、スタートアップとして進む上で必要な覚悟や姿勢も学べた経験でした。
研究を社会に届けるための経営体制へ
橋爪:ぜひ林さんにもお話を伺いたいです。林さんも非常にユニークな経験を積まれていますよね。学生時代は牛場さんの研究室で研究をし、その後、一度就職をされてからLIFESCAPESに参画されています。どのような思いでこの研究テーマと出会い、今に至ったのか教えていただけますか。
林氏:最初のきっかけは、高校生の時に牛場先生の研究の話を聞いたことでした。「これはすごく面白い」と直感的に感じたんです。
当時、私自身は理系科目が特別得意だったわけではないのですが、「この研究をやりたい」という思いから理工学部への進学を決めました。その後、学部4年生から研究室に入り、学部・修士を通じてBMIの研究を続けました。その中で、学生の立場でも臨床研究に関わる機会があり、自分でプログラミングしたBMIシステムを患者さんに使っていただく場面がありました。
その時に患者さんから、「今の自分だけでなく、将来の患者さんにつながることを期待しています」といった言葉をいただいて、この技術を研究の中だけで終わらせてはいけない、きちんと世の中に届けなければいけないと強く感じました。
橋爪:研究だけでなく、事業という視点も早くから持たれていたのでしょうか。
林氏:もともとビジネスの領域でも力をつけたいと思っていましたし、一方で研究が持つ力や社会への影響も強く感じていました。そのため研究と事業の両方を理解し、それを推進できる存在になりたいと考えながら、学生時代を過ごしました。
橋爪:だから卒業後は就職することに決められたのですね。
林氏:ちょうど私が就職するくらいのタイミングで、LIFESCAPESが創業したのですが、「牛場先生すみません、まだLIFESCAPESには行きません」と話したことを覚えています。
期間を決めて、事業作りの基礎を学んでからLIFESCAPESに参画しようと決めていて、しばらくしてから、牛場先生に声をかけていただき参画しました。私としても、いつかBMI技術を社会に届ける側に立ちたいと思っていたので、自然な流れだったと感じています。
橋爪:直近では林さんが副社長に就任され、経営体制もより強化された印象があります。牛場さんは、この流れをどのように捉えていらっしゃいますか。
牛場氏:もともとBMIを使ったリハビリテーション医療は、会社を立ち上げた当初、国内外を見てもまだ十分なリアリティを持たれていない領域でした。そのため最初のフェーズでは、「BMIは本当に医療として価値があるのか」「市場として成立するのか」を社会に理解してもらうこと自体が大きなテーマだったんです。
その意味では、私自身がこの分野で20年にわたり研究を続け、論文を書き、学会でもさまざまな形で関わってきた中で築いてきた信頼や関係性が、会社を支える大きな力になったと思います。ある意味で、「牛場がやっているなら一度見てみよう」「試してみよう」と思っていただける状況をつくるところまでは、自分が先導するべきだし、自分にしかできないという覚悟でやってきました。
一方で、製品が実際に病院で使われ、患者さんの治療効果も見え始めてくると、会社は次の段階に入ります。今では全国60を超える病院に導入いただいていて、ある種、私たちが思い描いていた夢の実現はかなり形になってきました。
ただ、そこから先は、その価値を本格的なビジネスとして伸ばしていくフェーズです。私は大学で新しい技術の開発や科学的探求を続ける立場でもありますので、どうしても使える時間には限りがありますし、ここから先は研究者の私が引っ張るというより、会社の事業を成長させていくプロフェッショナルのリードが必要な段階に入ったと考えています。そういう意味でも会社のステージが変わった今、林さんのような人材が中心を担っていくことは、必然だったと感じています。
橋爪:タイミング的にも、林さんが適任だったということですね。
牛場氏:林さんは、最初からいきなり会社に入るのではなく、外で事業づくりを学び、それをLIFESCAPESに持ち込むという意識でやってきました。実際、難しい局面でもリスクを取ってリードしてくれる場面や、必要な時には私にも厳しいことを言ってくれる。そういう意味で、とても信頼しています。
研究面でも、一度決めたことをやり抜く力がある人ですので、今のフェーズで会社を引っ張っていく中核人材だと思っています。
橋爪:林さんご自身は、今回の体制強化や新たなポジションをどのように受け止めていらっしゃいますか。
林氏:ここ数年で会社の状況は大きく変わり、ステージもはっきり変わってきたと感じています。これまでは、牛場先生が最先端の研究をリードし、学術界や規制当局との関係も築きながらLIFESCAPESを前に進めてきました。
一方で、これからは技術をきちんと患者さんに届け、それを持続可能なビジネスとして成立させていくことが求められます。
そのためには、会社の規模もスピード感も、これまで以上にアップデートしていく必要があります。そこは自分がしっかりコミットして担うべきフェーズだと思っていますし、自分としてもその役割を担える人材になろうと思ってこれまでやってきました。責任の重い役割ですが、これまで積み重ねてきたものを形にしていくための重要な機会だとも感じています。自分自身の使命を実現していくフェーズに入ったという感覚があり、とてもやりがいを持って取り組んでいます。
橋爪:たしかに、研究開発を進めて製品化し、薬事を通して実際に販売し、臨床の現場で使われて患者さんの声が返ってくるところまで来たのは、会社としてかなり大きな転換点ですよね。そのタイミングで経営体制を見直していくのは、とても重要な判断だと感じます。

医療現場で磨かれたBMI技術と先駆的医療機器指定
橋爪:ありがとうございます。改めて御社のBMI技術そのものについても伺いたいです。
言葉としては聞いたことがあっても、何がすごいのか、従来と何が違うのかまではまだ伝わりきっていない部分もあると思いますので、その点についてご説明をお願いします。
牛場氏:まず一般的な意味でのBMIは、人間の脳と機械を機能的に連携させる技術です。ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)と呼ばれることもあります。
大きく分けると、脳の中に電極を埋め込むタイプと、私たちが取り組んでいるようなウェアラブルのセンサーを頭に装着して使うタイプがあります。埋め込み型は非常に高精度ですが、私たちはもう少し人に寄り添う技術として、ウェアラブル型を選んでいます。
橋爪:ウェアラブル型であっても、高い精度を出せるところがポイントになるのでしょうか。
牛場氏:最近はAIの力が非常に進化していて、ウェアラブル型であっても、脳の中の見たい領域の信号だけをきれいに取り出すことができるようになってきました。
私たちはその技術を使って、麻痺した手を動かそうとしている時に、脳の運動に関わる信号がきちんと出ているかどうかを読み取り、患者さんがもう一度正しい形で脳を使えるようにしていく、いわば脳をリハビリする技術としてBMIを開発しています。
橋爪:単に脳波を読むというより、治療に結びつけるところに特徴があるのですね。
牛場氏:特に私たちが強みを持っているのは、医療のドメイン知識を持ったうえで、この技術をどこに適切にポジショニングするかを考えてきた点だと思っています。
実際、軽症や中等症の患者さんには既存の訓練法がありますが、全く手が動かないような重症の方には、まだ十分な医療がありません。そこに対してはBMIでしか提供できない価値があると考えてきました。
さらに、私たちはAI開発の力も強みとして持っていますので、ウェアラブルでありながら医療品質で脳の内部のシグナルを鋭く読み出せるところが、技術的な大きなポイントだと思っています。
橋爪:ありがとうございます。林さんからも、今の競争環境の中でLIFESCAPESの製品がどう違うのかお話していただけますか。
林氏:BMIの領域は近年かなり注目されていて、ニューロテックやブレインテックという文脈で、国内外ともに会社が増えてきています。特に米国や中国では、この分野への投資額もかなり伸びています。
そうした中で、LIFESCAPESの製品が何で差別化できているのかというと、私は一言で言えば、治療効果と使いやすさのバランスだと考えています。
治療効果というのは、患者さんがどの程度改善するのか、それが日常生活にまでつながるレベルなのか、そして改善に必要な期間が妥当か、といった点です。一方で、使いやすさというのは、忙しい臨床現場で本当に無理なく使えるかどうかです。準備に10分、20分とかかってしまうと、現場ではなかなか広がりません。
一般的には、治療効果を追求すると研究用途に近い複雑な製品になりやすく、逆に使いやすさを優先すると、信号の質や治療有効性が犠牲になりがちです。私たちは、これまでの研究開発の蓄積によって、その両方を高いレベルで両立できているところが大きいと思っています。実際に現場の先生方からも、そこを評価していただくことが多いです。
橋爪:その意味では、技術の面でも事業の面でも、これから王道をつくっていくフェーズに入っているのかもしれませんね。
御社の直近のニュースで言うと、先駆的医療機器として指定を受けられたことも非常に大きかったと思います。この点についても教えていただけますか。
林氏:中枢神経系向けの医療機器としては、試行期間も含めると過去10年で国内2例目という、非常に事例の少ない制度で指定をいただきました。
この制度は、単なる認定ではなく、革新的な医療機器の開発を加速させるための制度です。私たちとしても、自分たちの技術が革新的であることを社会に示しながら、開発スピードを上げていきたいという思いがあり、1年以上かけて規制当局との対話を重ねて準備してきました。
2025年12月に指定を受けたことで、今後はその枠組みも活用しながら、さらに開発を前進させていきたいと考えています。実際に、数か月後にはクリニカルトライアルも開始する予定ですので、今はその準備を進めているところです。
会社としても、研究開発の段階から、より本格的に社会実装へ向かっていくフェーズに入ってきたと感じています。

研究と事業、LIFESCAPESが目指す未来
橋爪:では最後に、お二人からメッセージをいただければと思います。まず牛場先生から、お願いします。
牛場氏:大学における基礎研究が、その有効性をしっかり示せるのであれば、応用研究や実用化を経て、大学発スタートアップという形で社会に届けていく、いわゆるトランスレーショナルリサーチは、これからますます重要になると考えています。
大学の役割として「教育・研究・社会貢献」が掲げられる中で、この社会実装はまさにその一つの具体的な形です。
一方で、アカデミアの中にはビジネスに対して距離を感じる方もいらっしゃると思います。ただ、事業化というのは単に収益を上げるためのものではなく、その技術が本当に社会に必要とされているのかを問う行為でもあります。
お金をいただくということは、「それでも欲しい」と思っていただける価値を提供できているかどうかの証明でもあると捉えています。
さらに、事業として社会に広がることで、新たな研究の可能性も見えてきます。たとえば私たちの技術も、臨床現場で使われる中で多くのデータが蓄積され、「なぜ効果が出る人と出ない人がいるのか」といった新たな問いが生まれてきました。これは大学の中だけでは得られないスケールの知見であり、そこからまた新しい科学的発見につながっていきます。
研究と事業は対立するものではなく、むしろ循環しながら相互に価値を高めていく関係にあるものだと思います。だからこそ、アカデミアにいる方こそ、ぜひこうした挑戦にも目を向けていただけると嬉しいです。
橋爪:ありがとうございます。研究と事業が調和することで、新しい価値が生まれていくという視点は非常に示唆的でした。ぜひ林さんからもお願いします。
林氏:私たちはすでに製品を上市しており、今この瞬間もどこかの医療現場で使われています。そして実際に、これまで動かなかった手が動くようになる患者さんも少しずつ増えてきています。まずはこの価値を、より多くの患者さんに届けていくこと。それが私自身のミッションだと考えています。
治療の恩恵を受けられる患者さんを増やしていくことができれば、それ自体がLIFESCAPESという会社の価値であり、事業としての成功にもつながるはずです。さらに、大学発の医療スタートアップとして、LIFESCAPESが一つの象徴的な存在になれれば、日本の優れた研究からより多くの事業が生まれ、社会に価値が届いていく流れも加速するのではないかと考えています。
これから挑戦する研究者や起業家にとって、「こういう道もある」と思っていただけるような存在になることも、私たちの目指す姿の一つです。その実現に向けて、これからも取り組んでいきたいと思います。
橋爪:本日は貴重なお話をありがとうございました。




