インドでオープンイノベーション活用に取り組むマルチスズキの事業戦略

Shah:かつてないスピードで経済発展を遂げるインド。日本経済研究センターによれば、2029年にはインドが世界の経済ランキング3位に君臨すると予想されています。

また、スタートアップ界隈も大変活況です。パンデミック下においても2021年にはユニコーンが33社も誕生。アメリカ、中国に次ぎ、スタートアップ大国第3位となりました。

そんなエネルギッシュなインドで、インド自動車シェアNo.1を誇るマルチ・スズキのスタートアップ活用の取り組みについて、同社のアドバイザーとしてDX化推進の中核を担う和久田さんにお話を伺いました。

登壇者

Advisor at Maruti Suzuki India Limited

和久田 典隆 / Noritaka Wakuda

マルチ・スズキのアドバイザー。
約8年間インドに駐在しており、新販売チャンネルNEXA、 デジタルマーケティング組織、コーポレートアクセラレータMAIL、CVCといった新規事業の立ち上げを担う。直近ではDX組織、Digital Enterpriseを立ち上げ、マルチ・スズキのデジタル化を促進している

「アイデアを継続的に形にする」マルチスズキの企業基盤

和久田:私はインドに8年おりまして、ほぼインド人化しています(笑)。元々営業職をしていてインド全土に車の販売を行っていました。

マルチ・スズキ・インディアは、日本のスズキ株式会社の子会社で、主に自動車の生産と販売を行っています。「マルチ」という言葉は、インドでは非常に神聖な言葉で、「ハヌマーン」という猿の神様がいまして、その別名がマルチになります。

インドの自動車市場(四輪)は、世界で4番目に大きく、年間約300万台が売れている巨大マーケットにおいてマルチ・スズキが約半分のシェアを保持しております。

振り返ると、マルチ・スズキはいろいろなイノベーションを起こしてきた歴史があります。

マルチスズキ自体も大きなアイデアから始まった会社で、1971年にサンジャイ・ガンディーというインディラ・ガンディー元首相の息子さんが「インドで作られた安心安全な車を誰でも購入できる社会を作りたい」というビジョンを掲げました。

サンジャイ・ガンディーさんはこの構想を実現する前に亡くなってしまったのですが、母のインディラ・ガンディーさんが息子の思いを形にするためにスズキに声をかけて誕生したのが、国民車「マルチ800」です。

また、2010年代に入ってから、マーケットシェアが40%台前半に停滞してしまった時期がありました。当時の社長は、「マーケットシェアを50%に戻す」という目標を掲げたのですが、当時世界5位の市場で10%成長するというのはものすごく大変です。

ただ、そのミッションが出て、しかも日経新聞に「50%の野望」というタイトルで記事が出てしまい(笑)、やるしかないと。

その状況下で出てきたアイデアが、新しい高級販売チャネル「NEXA」でした。この効果もあり、マーケットシェアを40%から50%に回復させることができました。

このように、アイデアが形になると事業にインパクトが出たり、社会に対してより良い商品やサービスが提供できます。しかし、「時々アイデアが出てきて時々あたる」だと事業として継続的に新しい価値を提供できるのかと疑問がありました。

そこで、我々はアイデアを継続的に出すためにはどうするべきか?と考え、スタートアップとの協業の仕組み「課題解決型」のコーポレートアクセラレーターを思いつきました。

「課題解決型」で実現可能なアイデアを事業化

和久田:実はそれ以前も社内に「新規プロジェクトチーム」が設置され、イノベーションに取り組んでおりました。しかし、なかなか事業として成立するところまではいきませんでした。

そこで、ベンチャーキャピタルなどと議論した結果、現場の課題を知っているのはお客様と接している「事業部」なので、各事業部と連携した「課題解決型」のアクセラレーターを企画することにしました。

まず行ったことは社内営業です。各事業部から課題をまとめ、その課題解決のためにアクセラレーターを回し、スタートアップとの協業を始めました。PoC(概念実証)まではイノベーションチームが責任を持って実施するスタイルにしました。

概念実証まで終わっているとそのまま市場に出しやすいので、事業部に「これは価値がある」と感じてもらえます。さらに、一つの事業部が採用すると他の事業部もやりたいと言ってきます。このように、最初は小さく始め、成果を出しながら拡大してきました。

こういった仕組みを成功させるために一番鍵となるのは、イノベーションチームです。イノベーションチームが各事業部との連携を強固に構築し、推進する必要があります。

イノベーションチームに必要なのは「社内営業力」だと思っています。社内営業して、社内の課題をヒアリングして、それを議論できる体制が必要です。

一方で、「課題解決型」だけだと新しい領域が登場しにくいため、アイデアベースのインキュベーションプログラムも、インドのMBAトップ校である「IIM Bangalore」と連携して昨年立ち上げました。モビリティ、スマートシティなど様々な新領域のアイデアの事業化に取り組んでいます。

また、昨年にCVCも立ち上げまして、このインキュベーションプログラムやアクセラレータから出てくるスタートアップへの投資も実行しています。

Shah:和久田さん、ありがとうございました。印象的だったのは、現状の改善だけではなくオープンイノベーションが重要であること、そして、社内営業力が大事であること。イノベーションチームと事業部が一体となって進めることが、新たな事業創出に繋がるということですね。

最後に

Shah:Beyond Next Venturesは、2020年にインドのシリコンバレーと言われるベンガル―ル市に100%子会社を設立し、日本企業とインドスタートアップのオープンイノベーションの推進に力を入れています。インドへ進出を検討している、また事業拡大を模索されている企業ご担当者の方はぜひ弊社までご相談いただけると幸いです。
https://beyondnextventures.com/jp/contact/

Shah Mayur

Shah Mayur

Head, Business Development Group India