バイオスティミュラントとは?世界で注目される背景と日本の課題を解説

有馬:IoTやロボットなど最新テクノロジーに期待が集まるアグリテックですが、近年「バイオスティミュラント」という分野に世界の注目が集まっているのはご存知でしょうか。植物に栄養を与える肥料とは異なり、植物が栄養を取り組む力を高める農業資材の一種です。

日本でも古くから「ぼかし肥料」「酢」などを農業に利用してきましたが、これらもバイオスティミュラントの一種。ヨーロッパや北米では、このバイオスティミュラントにいち早く着目し、多くの大手メーカーが参入しています。その世界市場は2021年に32億米ドルに達し、2027年に75億4,000万米ドルにまで成長すると見込まれています。

日本では世界に遅れて2018年に主要メーカーが業界団体を設立。2021年には農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」において革新的農業技術として言及され、急速に関心が高まっています。

本記事ではバイオスティミュラントの効用や、世界で注目される理由について紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

バイオスティミュラントとは

有馬:バイオスティミュラント(Bio stimulants:以下、BS)とは、直訳すると「生物刺激資材」。植物は気候や土壌のコンディションによってもダメージを受けてしまうのですが、そのダメージを軽減して、健全に植物を育てるための技術です。

作物は、もともと種の時点で最大収穫量が遺伝的に決まっています。しかし、病気や害虫といった「生物的ストレス」や、物理的な被害や高温・低温などの「非生物的ストレス」によって、収穫量が減ってしまうのです。統計的には、元来の収穫量ポテンシャルの8割程度まで収穫量が少なくなってしまうというデータもあります。

そのギャップを埋めるための策が、生物的ストレスを低減させる農薬と、非生物的ストレスを抑えるBSです。

BSの原料となる動物食が分解されて生まれる腐植酸や、海藻から抽出される多糖類、アミノ酸や各種ミネラルのほか、植物と共生する微生物といった自然由来のもの。日本にも古くから、有機物を発酵させた「ぼかし肥料」がありますが、これも広義のBSの一つ。

直接的に植物の栄養とはなりませんが、ぼかし肥料を使うことで根が強くなったり、不良環境への抵抗力が高くなるとして使われてきました。他にも光合成を促進したり、肥料の効果を早めるなど様々な効果が期待できます。決して万能ではありませんが、農薬や肥料、土壌改良などと組み合わせることで、よりよい生育が可能になるのです。

バイオスティミュラントが求められる背景

有馬:バイオスティミュラントが世界中から注目される背景には、世界的な食糧問題が挙げられます。日本では人口減少が問題になっていますが、地球規模では人口は増加傾向で2050年に今より20億人以上多い95億人になるという予測も。

一方で地球の耕作面積は15億ヘクタールと言われており、人口が増えたからと言って無限に広げることはできません。加えて地球温暖化によって気候変動が起きれば、作物が適切に育つ土地は移動し、作物の収量は低下。ますます食糧の確保が難しくなる危険性があるのです。

耕作地に限界があり、今よりも植物にとって厳しい環境が予測されている今、求められているのはより効率的に収穫を約束してくれる技術。様々な環境によるストレスに対する抵抗力を高め、植物が本来もっているポテンシャルを引き出してくれるバイオスティミュラントに注目が集まったのは自然な流れとも言えます。

人口が減っている日本でも、農家の高齢化や担い手の不足により、少ない労力で大きな収益を期待できるバイオスティミュラントは無視できない技術になってきました。

世界と日本におけるバイオスティミュラント

有馬:世界におけるバイオスティミュラントの活用は年々増えており、右肩上がりで市場規模も拡大しています。特にヨーロッパではバイオスティミュラント産業が盛んで、ヨーロッパバイオスティミュラント協議会(EBIC)が中心となって、専門企業の設立や新製品の開発が進められるほど。

さらに、2022年から施行されている新肥料法(欧州肥料法)では、適切な評価を受けたバイオスティミュラント商品は、EU加盟国の基準を満たした証「CEマーク」をつけて販売・輸出ができるようになりました。

一方、海外に比べて浸透が遅れている日本も、2018年に肥料や農薬を扱う8社による「日本バイオスティミュラント協議会」が発足し、続々と会員数を伸ばしています。バイオスティミュラントを広げるための各種研究やセミナー開催のほか、製品の企画や法整備にも取り組み始めています。今後もバイオスティミュラントの浸透に向けた活動に期待が集まっています。

バイオスティミュラントが抱える課題

有馬:日本でバイオスティミュラントを普及させるにはどうすればいいのでしょうか。超えなければならない壁を紹介していきます。

法の整備

日本では、農薬や肥料、土壌改良にはそれぞれ法律が整備されていますが、バイオスティミュラントに適用される法律はまだありません。そのため、現在は肥料取締役法に則って販売されているのが現状です。

そのため、消費者の中にはバイオスティミュラントと肥料、もしくは農薬や土壌改良との区別が明確にされておらず、混同されているケースも少なくないのです。今後、バイオスティミュラントを適切に活用してもらい、市場を拡大していくには法の整備が大きな課題となっています。

商品の安全性と規格化

人の口に入るものに使うため、バイオスティミュラントの安全性を証明するのは必要不可欠です。そのため、現在は様々な品質テストによるデータを解析し、安全性をPRしています。インターネットメディアを活用しながら、どのような成分が作用し、なぜ効果が現れるのか説明していく必要があるでしょう。

また、品質の高いバイオスティミュラント商品を安定的に供給するには、規格化も欠かせません。評価システムや保証、安定した技術の標準化が急がれています。日本バイオスティミュラント協議会はもちろんのこと、国や自治体、生産者も巻き込んでいく必要があるでしょう。

効果の実感

海外では既にバイオスティミュラントを使った果物や野菜が栽培されているため、その効果を多くの人が実感しています。一方で日本では多くの人に効果を実感してもらおうにも、他の資材と組み合わせて生育を確認するバイオスティミュラントは、商品の開発に時間がかかるのです。

また、バイオスティミュラントは植物に合った製品を適切に使用しなければ効果が見込めない上、他の資材との組み合わせも考慮しなければなりません。商品の開発はもちろんのこと、適した使用法を広げ、効果を実感してもらうことも強く求められます。

スタートアップに大きなビジネスチャンス

有馬:これから急激な市場拡大が期待されるバイオスティミュラントですが、農薬や肥料は長い間大企業による寡占状態が続く業界です。数十年にわたり新規参入がなかった時代もあり、スタートアップにとってビジネスチャンスがないと思われるかもしれません。

しかし、寡占状態が続いたからこそ業界が停滞しており、今が新規参入のチャンスです。スタートアップにどのようなビジネスチャンスがあるのか解説していきます。

メカニズムの分からない農薬開発

1つ目の理由は、これまでの農薬の開発方法にあります。従来の農薬の開発方法の多くは「ぶっかけ探索法」といって、実際に開発中の商品を使って、効果があるかどうか検証するやり方。その結果、効果があることはわかっても「なぜ効果があるのか」そのメカニズムは分かっていませんでした。

毎回試作品を試しては、その結果を待たなければならないため、新しい商品を開発するには時間がかかり、小回りもききません。その点、農薬のメカニズムを研究している研究者であれば、より効率的に新しい商品を開発できるのは明白でしょう。

特にバイオスティミュラントのような新しい分野で商品を開発するには、トライ&エラーが欠かせないため、スタートアップの特徴がより活きると言えます。

世界的な訴訟問題

2つ目の理由は世界的に起きている農薬の訴訟問題です。大きな契機となったのは、2018年におきた「グリサポート発がん裁判」。世界で最も人気のある除草剤「グリサポート」に発がん性があるとして、発売元の会社が訴えられたのです。

その結果、発売元の会社を買収したドイツの大企業バイエルは、1兆円を超える金額を支払うことに。この事件を機に、世界中で農薬や肥料に関わる訴訟が起きており、中には発売中止になったケースも少なくありません。

日本でも同じように訴訟により、発売されている農薬は徐々に減りつつあります。しかし、ぶっかけ探索法で商品開発をしている日本の大企業は新商品をすぐには作り出せません。そこにスタートアップのビジネスチャンスがあるのです。

農家の自立

3つ目の理由は、農家のJA(農業共同組合)離れです。従来はJAが勧めた農薬や肥料を使い、JAを通して市場に商品を卸していた農家たちが、徐々に自分たちの力で商売をし始めました。自分たちで販路を作り、JAを通さず商品を市場に提供する農家が増えているのです。

販路に限らず、農薬や肥料もJAに頼らず自分たちで探す農家も増えています。そのため、JAと深いパイプのあった大企業でなくても、農家に選ばれる可能性が増えてきました。特に市場が確立していないバイオスティミュラントは、スタートアップにとっては絶好のチャンス。

ただし、スタートアップが商品開発から販路の構築までをすべて行うのは効率的ではありません。より早く成長するのであれば、大企業と組んで効率的に販路を構築するのが賢い戦略かもしれません。

最後に

有馬:バイオスティミュラントは、今後の持続可能な農業の未来を決める重要な鍵として、ビジネス的にも大きな注目を集めています。今後、多くのスタートアップが生まれてくると予想されますが、中には「バイオスティミュラントでチャレンジしてみたい。でも、研究者の知り合いなんかいない」と諦めてしまう方もいるかもしれません。

そんな方は、ぜひBNVまたは私までお問い合わせください。当社で展開中の起業プログラム「APOLLO」では、バイオスティミュラントを含むDeeptechの事業化に本気で挑む起業家候補の方を募集しています。採択された方には、私たちのネットワークを使って信頼できる研究者を紹介できるので、未経験であっても、この領域でのスタートアップ起業に挑戦していただけます。ぜひご検討ください。

Akito Arima

Akito Arima

Partner