皆さん、こんにちは。Beyond Next Venturesの橋爪です。今回は、2022年10月22日から24日に沖縄で開催された米著名VCによるパネルディスカッションをハイライトします。このイベントは、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、日本貿易振興機構(JETRO)と共に開催されました。
※英語でのトークセッションをベースに和訳しています。原文はこちら
登壇者プロフィール
Aiden Aceves, Ph.D.|Insight Partners
AIとバイオテクノロジーを活用したスタートアップの創業者からベンチャーキャピタリストに転身。1995年にニューヨークに設立された世界有数のプライベート・エクイティおよびベンチャー・キャピタル「Insight Partners」において、Vice Presidentを務める。同社では最近ヘルスケアやライフサイエンス分野への投資を積極的に行っている。https://www.insightpartners.com/
Alessandro Levi, Ph.D.|IP Group
米国でアーリーステージのテクノロジースタートアップ投資に注力するエバーグリーンファンドを運営するIP Groupのパートナー。以前は、ディープテックファンド「Prime Movers Lab」のパートナーとして、ロボット工学、輸送、電気通信、半導体、コンピュータ、気候変動技術などの業界にフォーカス。大学の研究室に眠るディープテックのアイデアを発掘し、教授やポスドク、あるいは初期メンバーと協力して会社を設立し、研究室から市場参入に向けたベンチャークリエーションの経験を豊富に持つ。https://www.ipgroup-inc.com/
Fady Yacoub|HOF Capital
スタートアップのあらゆるステージに投資するニューヨークベースのVCファンド「HOF Capital」の共同創業者。2016年に設立されたHOF Capitalは、60%が米国、残りが複数の国にまたがるグローバルな投資を行う。30カ国以上の企業やファミリーオフィスのLP(投資家)との多様なネットワークを持ち、投資後の投資先企業に多くの付加価値を提供し、新たな収益源の確保や新たな顧客獲得チャネルの確立を支援。https://hofcapital.com/
海外投資家から評価されるために必要なことはなんでしょうか?
パネリストからは、以下のような提案がありました。いずれの提案にも「大きく考えること」と「投資家の考え方を理解すること」が含まれていました。
●より野心的なビジョンを売り込む:日本のスタートアップが世界進出を目指すなら、レーターステージで資金を調達するほうがスムーズかもしれません。そのためには、投資家に対してもっと野心的なビジョンを売り込む必要があります。
●自分のピッチを投資家の視点から評価する:投資家は自分のファンドのパフォーマンスを「べき乗則(Power Law)」(※)で評価します。国内だけでなくグローバルな競合他社をベンチマークし、投資家に大きなリターンを与える異端児になることを目指してほしいです。
●事業リスクに関するマインドセットを転換する:日本の投資家にはリスクの最小化を重視する方も多いと感じますが、アメリカの投資家の多くは、アップサイドのリターンの最大化を求める傾向があります。
(※)べき乗則(Power Law):VCファンドの価値を測ったときに、そのファンドの半分以上の価値が投資先企業の中で最も企業価値の高い企業数社によってつくり出されているという原理。参照元:https://thebridge.jp/2016/08/givememymoney
ディープテック領域の課題の一つは、研究室からマーケットに出るまでの期間が長いことでしょう。投資の意思決定において理想的なロードマップはありますか?
あるパネリストは、自身が所属するファンドでは、PMFを確立したスタートアップを(独自の指標で)見つけてきて、そこに大きな資金を投入してスケーリングさせていく手法をとっている、と述べました。
別のパネリストは、彼らのファンドからPMF前の投資を実現するために、企業のVCファンドやビジネス開発の専門家などと共にアイデアの検証を助け、スタートアップがPMFを達成するためのKPIやマイルストーンの特定を起業家と共に行い、PMFに至るかどうかを判断する指標を見つける、と述べました。
最後のパネリストは、彼らのファンドはプレシードステージに投資を行うため、18~24ヶ月の間にエンジニアリングと製品開発のリスクを取り除き、顧客との最初の概念実証(PoC)を達成するために、スタートアップ内の研究開発を指揮している、と述べました。
投資先企業に対してどのようなサポートをしていますか?
パネリストは、起業家に提供するサポートは創業者の経験によって柔軟に変えていると言及しました。各スタートアップのステージに応じて、時に会社を作るためのメンバーとなったり、新しい事業アイデアの相談相手となったり、ビジネスをより成長させるためのメンターになるなど、複数の役割を担っていると言います。
●スタートアップの初期を整える:パネリストの一人は、創業間もないスタートアップに対しては、銀行口座の開設から会計、給与計算、雇用、そしてパートナーシップに至るまで、支援をフルスタックで提供している、と述べました。
●専任配置による採用支援:あるパネリストのファンドでは、投資先の人材採用支援に対して200人以上のスタッフが従事し、様々な業界セクターのシニアビジネスリーダーとの関係を維持しながら、重要な役割の採用をサポートしている、と述べました。
●LPのネットワークを活用して扉を開く:最後のパネリストは、Fortune 500企業や有力企業が中心となって構成される事業会社をはじめとしたLPとの幅広いネットワークを活用して、スタートアップの事業成長のために新たに構築したパートナーシップの事例を複数紹介しました。
最後に、ここ数年日本でも増加傾向にある「CVC」(※)について、CVCファンドがアーリーステージで投資を行う付加価値について、どのようにお考えでしょうか?
パネリストは、以下のようにメリットと注意点をそれぞれ挙げました。
【メリット】
●資金調達の段階でシンジケーションを強化できる
●潜在的な買収候補先になる、または、自分たちの技術アイデアとその企業が有する技術とのシナジーを見込める
●そのCVCが経験豊富な場合、企業の知見も含めた良き相談相手となる
●共同販売のパートナーとして、市場における新しい機会を開拓できる
【注意点】
●事業や研究開発に大きな付加価値をもたらさない場合、上記のメリットは享受できない可能性がある
●一部のCVCは、スタートアップを自分たちに有利な方向へ誘導する傾向がある
(※)CVC:コーポレート・ベンチャーキャピタルの略。2012~13年頃から多くの国内大手企業がCVCを設立。一昔前は、独立系・金融系の大手VCが中心だったものの、放送、メーカー、不動産、鉄道など幅広い業種にその動きは広がり、多様性と厚みが増してきている。参照元:https://tomoruba.eiicon.net/articles/508
最後に
橋爪:最後までお読みいただきありがとうございました。本記事の内容が少しでも参考になれば幸いです。米国の著名VCやファウンダーと国内のディープテックスタートアップが一同に会する場の提供は今回が初の試みでしたが、結果14名のトップクラスの海外VCやユニコーン企業のファウンダーが参加してくれたという事実からも、日本のディープテックスタートアップへの注目の高さを感じます。
ディープテックは最初から海外を目指していける唯一無二の領域だと思っているので、今後も海外との接点を増やし、彼らのインサイトをより多くの日本のスタートアップに届けていきます。
私たちは、創業前から研究室の先生や起業家候補のビジネスパーソンの方と一緒に事業を創る「カンパニークリエーション」の活動に注力しているので、ディープテック領域での起業を考えている方は、創業前の段階でも気軽にSNSのDM(@Twitter)などでコンタクトいただけると嬉しいです。
BRAVE GLOBALに採択された研究開発型スタートアップ一覧
● aceRNA Technologies, Inc. https://acernatec.com/
● BiPSEE, Inc. https://bipsee.co.jp/
● Curreio, Inc. https://curreio.com/
● EF POLYMER Pvt. Ltd. https://www.efpolymer.com/
● Fermelanta, Inc. https://fermelanta.com/
● Olive Union, Inc. https://us.oliveunion.com/
● TOWING, Inc. https://towing.co.jp/
● Veneno Technologies Co. Ltd. https://veneno.jp/