日本のアグリ・フードテックスタートアップの勝ち筋とは

有馬:こんにちは、Beyond Next Venturesでアグリフード領域のベンチャーキャピタリストとして活動する有馬です。いま、世界的に右肩上がりで投資額が増えているアグリ・フードテック市場。世界中にユニコーンが誕生しており、今後さらなる市場拡大が期待されています。一方で残念なのは、日本ではまだこの領域でユニコーンが誕生していないこと。

しかし、いまは世界に後れをとっている日本も、もちろんチャンスは大いにあります。大事なのは、海外のビジネスを後追いするのではなく、日本独自の価値を発揮すること。今回は日本の勝機がどこにあるのか、アグリ・フードテック市場が成熟していく過程を3つのステージに分けて解説していきます。

アグリ・フードテック市場が成長する3ステージ

早速、アグリ・フードテック市場が成熟していく過程を3ステップで見ていきましょう。

ステージ1は「食品EC等のインフラサービス」。UberEatsを代表するような、食事や食材を届けてくれるオンラインマーケットサービスです。どの国にも類似のサービスが誕生しており、アグリ・フードテック領域のユニコーンの半数以上が、このサービス群となります。

ステージ2にあたるのが「代替食品や栽培の効率化」。「昆虫食」や「代替肉」といった新しいカテゴリーの食品の開発や、野菜などを効率的に育てる技術やシステムなどが該当します。このステージのスタートアップも増えており、アグリ・フードテックユニコーンの3~4割を占めています。

そして、ステージ3が「大学研究などの高度な技術を要するスタートアップ」。研究内容が多岐に渡るため一言でまとめられませんが、これまでにない新しい価値を提供しているスタートアップが該当します。高度な研究が必要なため、限られた地域にしか存在せず、ユニコーンもアメリカに集中しています。

世界が注目するユニークなスタートアップたち

このステージ1~3の期待度の推移が分かる面白いデータがあります。世界中のアグリテックの情報を発信しているAgFunderの調査によると、食品のオンラインマーケットなどへの投資額が減っている一方で、バイオテックやイノベーティブフードへの投資額は増加傾向にあるといいます。つまり、世界の注目は既にステージ3、つまりはディープテックスタートアップへと移り始めているのです。

たとえば農産物にスプレーすると保存可能期間が約2倍に伸びる液体を開発した「アピール・サイエンシズ(Apeel Sciences)」。遺伝子編集技術によって、より少ない水で育つ穀物の種子を作り出す「Inari」。空気から飲料水を生成する水テック企業の「SOURCE Water」など、ユニークなスタートアップが注目を集めています。

そして日本のスタートアップに勝機があるとすれば、このディープテック領域以外には考えられないでしょう。

資本力だけに頼らないディープテック領域こそ日本の勝機

なぜ日本の勝機がディープテックにあるのか。その説明をする前に、ステージ1・2の領域で勝負する難しさについて見ていきます。

ステージ1・2のビジネスは「資本力」が鍵を握るため、先行者利益が大きく、市場に勝者が誕生すると後からジャイアント・キリングを興すのは容易ではありません。既に世界でユニコーンが生まれているステージ1・2の領域は、日本のスタートアップが戦うには非常に難しい市場となっているのです。

加えて、ステージ1・2のビジネスはローカル性が強く、海外の市場に参入しづらいのも大きな要因です。既に各国で食品ECや代替食品のユニコーンが存在するため、付け入る隙はほとんどありません。日本では勝者となったUberEatsですら、ヨーロッパなどでは地元の企業に苦戦を強いられているのが現状です。

一方で、ディープテックビジネスは資本力のみに頼らずビジネスを展開できます。唯一無二の技術で勝負できるため、これまでにない価値を生み出せば、グローバル市場に革命を起こすのも不可能ではありません。また、ローカライズは必要なものの、ステージ1・2に比べれば海外に進出しやすいのも大きな利点と言えるでしょう。

加えて、日本の基礎研究力の高さも世界での勝機に繋がります。そもそもステージ3のビジネスは、長年の研究の末に生まれた技術がベースとなるため、一部の国でしか生まれていないのが現状です。

昨今では研究力が低下していると言われる日本ですが、研究者の数も基礎研究力もいまだ世界でトップクラスの位置にいます。複数の国への特許出願数であるパテントファミリー数では、世界ランキング1位を維持(参照元)しています。やはり課題となるのは、それらの研究をいかに社会実装していくかでしょう。

ディープテック領域における2つの起業パターン

研究者自ら起業する

大学研究を用いた高度な技術を必要とするステージ3、つまりディープテック領域での起業パターンは2つあります。その一つが研究者自ら創業メンバーを誘い入れ起業するパターン。研究者が起業家となり、各領域のスペシャリストを集めて、自分の研究成果を事業化していきます。

徳島大学発ベンチャーのグリラスを立ち上げた渡邉崇人さんは、約16年にわたってコオロギの研究を続けてきた研究者で、研究によって生み出された最先端の技術を社会の役に立てるべく、2019年にグリラスを創業されました。今ではあらゆるビジネスメンバーを束ねて起業家として事業を推進していらっしゃいます。

私たちBNVでも、そのような研究者の起業を後押しするアクセラレータープログラム「BRAVE」を運営しており、質の高いメンターからのメンタリングを受けながら、起業予定の研究者たちと未来の創業仲間になりうるビジネスパーソンのマッチングや、初回の資金調達に向けた事業計画のブラッシュアップ等を行っています。

※現在、未来の起業仲間を探したい研究者とビジネスパーソン向け交流イベントの登録を受付中です!参加費無料、2/18(土)に日本橋で開催しますので、よければいらしてください。

ビジネスパーソンが研究者と共に起業する

もう一つの起業パターンは、技術を持たないビジネスパーソンが研究室の門を叩いて、研究者と共同創業するパターンです。「解決したい問題はあるが、それを実現するための手段(事業の種となる技術)がない」というビジネスパーソンが、解決を可能にする研究者を探して共に起業に乗り出します。

たとえば、魚のゲノム編集技術によって、短期間かつ少ない餌で肉付きよく育つ「22世紀鯛」を開発したリージョナルフィッシュはこのパターンに該当します。コンサルティングファームやPEファンド等でビジネス経験を積んできた梅川さんが、京都大学のゲノム編集研究の第一人者である木下先生と組んで会社を立ち上げました。

BNVでは、このようなケースの起業も増やしたいと思い、BRAVEに加えて2022年から「APOLLO」というプログラムもスタート。厳しい審査を突破したビジネスパーソンに、私たちと縁のある研究者を紹介してディープテック起業をサポートしています。

まとめ

この記事で伝えたいのは、世界で戦える会社を作りたいならディープテック領域で起業してほしいということです。それも「まずは日本で成功してから世界へ」ではなく、「最初から世界を見据えて」です。

私たちBNVは、研究者、ビジネスパーソンどちらに対しても起業前から伴走してスタートアップを共に創る仕組みを持っているので、もし「自分の技術(研究成果)を社会に還元したい」という研究者や、「どんな技術を見つけ、どうやって研究者とチームアップすればいいか分からない」というビジネスパーソンの方は、ぜひ私たちに相談してください。一緒に世界を取りに行きましょう!

Akito Arima

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