ディープテック系VCが紐解く、スタートアップ採用動向2023

こんにちは!ビヨンドで出資先スタートアップの人材採用支援を行う三國です。弊社では、毎年お付き合いのある人材紹介会社のエージェントさん向けに「ディープテックHR支援会」を開催し、その年の採用の振り返り・変化・傾向などをお伝えしています。

ディープテック領域はその事業の難解さから、「よく分からない」と感じられる採用エージェントの方も多いかと思いますので、今回はディープテック領域に出資を行うベンチャーキャピタルのUMI羽鳥さん、リアルテックファンド藤井さんをお招きして、ディープテックスタートアップの採用について理解が深まるインサイトをお届けします!

登壇者プロフィール

リアルテックホールディングス株式会社
取締役社長

藤井 昭剛 ヴィルヘルム

2019年3月、チームデベロッパーとしてリアルテックファンドに参画。出資先ベンチャーの成長を加速するための採用・チームビルディング・人事制度設計等、幅広い人事業務のハンズオン支援を行う傍ら、リアルテックファンドのエコシステム形成に貢献する。2020年5月よりリアルテックホールディングスの取締役社長に就任し、組織全体の運営強化を推進。

ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社(UMI)
アソシエイト

羽鳥 綾

複数の事業会社で人事経験(採用・教育・人事制度)を積んだ後、2020年3月からUMIに参画する。自社の人事業務と投資先のマネジメント採用を中心としたハンズオン支援における人的課題を網羅的に支援する。

モデレーター

Beyond Next Ventures株式会社
マネージャー

三國 弘樹

2020年に当社に参画し、出資先スタートアップの採用支援をはじめとする組織成長支援を担当。BNV入社以前は、JAC Recruitmentのエグゼクティブ部門にてベンチャーキャピタルの出資先の経営幹部の採用に関わる。

2022年の採用を振り返り

ディープテックの市況感

三國:2022年のディープテックにおける市況感はどのように感じられていますか?

藤井:私が楽観主義者なだけかもしれませんが、マーケットが厳しいと言われる中であまり悲観していません。特にディープテック領域は中長期的に物事を考えていますし、全体としては市況感が悪くなっていても引き続き淡々とやるべきことをやるだけかなと。

また、大型のプレイヤーも投資ラウンドに入ってきたり、今年はすごく政府のスタートアップに対する施策が動いた年なので、ポジティブな側面もあります。来年以降もディープテック領域はもっとお金も支援も強化されていくだろうと思っています。

三國:ありがとうございます。確かに大学10兆円ファンドが設立されたり、特にファイナンス面での政府の後押しは楽しみですね。あと、最近は個人や企業の方から「ディープテックの事業をやりたいけど何をやればいいんだろう?」といった相談を受ける機会も増えて、これまで以上にディープテック領域のプレイヤーは増えそうだなという肌感覚があります。

採用支援実績のうち、約半数がエージェント経由

三國:Beyond Next Venturesでの2022年の採用支援は約50件ほどありますが、うち約半数が採用エージェント経由で、特にビジネス部門と管理部門が多かったです。皆さんはどうでしょうか?

藤井:僕らもエージェントさんにかなりお世話になっています。ビジネス部門の中でもCOOやCSOのニーズが一番多くて、次にCFO、あるいは管理部門/管理部長が多いですね。

羽鳥:エンジニア系が5割、管理系や営業系が残り5割、という感じでした。

三國:採用をご支援した方の雇用形態はどうでしたか?

羽鳥:業務委託の方が多かったですね、特に管理部門は。

藤井:弊社は逆に9割が正社員(従業員)でした。

三國:なるほど。両社逆ですね。Beyond Next Venturesでも全体としては業務委託として入社された方が多かった印象ですが、採用エージェント経由では9割が社員として入られたと思います。

どんな採用体制で動いているの?

三國:大きく以下の3つの体制で採用活動をするケースが多いと思いますが、お二人はどうでしょう?

  1. 1. 出資先だけで動く
    出資先が採用力もあり、採用すべき人材要件も明確。職種としては、営業増員、研究、専門職などがある。
  2. 2. 出資先+VCで動く
    重要なポジションで複眼での視点が必要なケース。要件定義から求人票の作成、書類選考、面接フロー設計面接同席、クロージングフォローなど、採用に関わるあらゆる業務を柔軟に対応。VCの関わり方は各社それぞれ。職種としてはCxO候補、部門長以上が多い。
  3. 3. VCだけで動く
    出資前の会社の組織設計に関わり、必要な人材を補強するために出資を行う際に人材の提案をするケース。あるいは、中長期的に既存の出資先に必要であると考える人材に前もって面談しておく。職種としては創業候補や事業立ち上げのCxO候補が多い。

藤井:リアルテックでは日々経営者の皆様と事業戦略や資金調達に並走することが多いので、出資先と一緒に動く2のケースが多いです。人材要件を定義したうえで、人材紹介のエージェントさんに相談を持ち掛けています。

出資先と採用エージェントが直接やったほうがいいのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、ディープテック領域の場合はうまく事業内容や魅力が伝わらないケースがあるため、逆に我々のような立場の人間が双方の間に入り言語化を加速させたり、複数のエージェントさんの中からよりマッチしている方を出資先につなげたりしています。

ちなみに、3も少なからずありまして、ものすごい可能性のあふれる研究者に出会ってしまうと、「どうしても一緒に会社を作りたい!」となるケースもあるんです。その時はその研究者の方と経営者候補の方をマッチングして、うまくいけばそのまま会社を作る、みたいなこともやっています。

羽鳥:UMIでは123すべてやっていますが、最近は3が増えてきています。アカデミアの技術を事業化する案件では、会社を設立するにあたって経営者を見つける必要があります。経営マネジメント経験のある人材はなかなか簡単には見つからないので、エージェントさんとの相談をはじめ、自分たちで色々なやり方を工夫しながら探しています。

三國:経営者候補人材は確かに難易度高いですよね。Beyond Next VenturesではHRサポートについても二人体制で対応しています。私を採用してくれた鷺山が会社設立前(出資前)の創業メンバー探しをお手伝いして、出資後の採用は私が基本的にCxO人材からスタッフ層の採用までをご支援する、という体制を引いています。

なので、経営者を見つけてくるところは私よりも鷺山のほうがプロで、最近では直接的なDM以外にもプログラム形式で経営者候補を育てる活動「INNOVATION LEADERS PROGRAM」もやっており、中長期的に人材を育成する活動にかなり注力しています。

また、Beyond Next Venturesの出資先では多くの組織で人事が不在で、結果的に私が仮人事となり主に採用を代行をすることが多いので、人材紹介エージェントさんとは協業する機会もかなり沢山あります。

人材の見極め方

三國:人材紹介エージェントさんがVCと連携するうえでぜひ知っておいていただきたいのが、選考フローの設計から人材の見極めまで伴走しているということ。お二人はどんな形で、そしてどうやって、見極められていますか?

羽鳥:今後取り入れたいことになってしまいますが、経営層の候補者の方にはワークサンプル(※)を導入したいと考えています。NDAを結んだうえで、入社後のご自身の役職を想定のうえ事業計画を書いてもらったり、経営会議などに参加していただいたり。そうすると、その方のポテンシャルが見えてくると思うので、ミスマッチが防ぎやすいかなと。

ワークサンプルとは・・・企業が独自に用いる能力の適性検査。NDAを取り交わして事前に企業情報を共有し、候補者が思う応募企業の課題感などをプレゼンしてもらう。面接する企業によって課題はそれぞれ。

また、業務委託での入社でまずは相性を見て、双方の相性がよければ正社員雇用に進む、などもいいアイデアだと思います。

藤井:僕らは既にワークサンプルは経営層候補者の方には導入しています。あとは、入社したいスタートアップの社内役員のみならず、僕ら(株主)ともディスカッションする機会をつくり、株主とどうコミュニケーションをとるか、という観点で見させていただくこともあります。

また、必要に応じて面接の場には同席して、発言はしないですが、質問の受け答えや表情、ロジカルさなどを見させてもらい、面接後に候補者の方に関する客観的なフィードバックをスタートアップ側に行っています。面接の当事者だと、どうしても気づかないポイントがあると思うので、第三者観点で、という意味合いですね。

三國:ありがとうございます。ワークサンプルの導入などによってどうしてもスピード感が下がると思いますが、私自身はスピード感を重視しすぎたために入社後にうまくいかないケースを多く見てきました。

特にここ1~2年で人材の見極めに関する相談がスタートアップ側からもすごく増えていて、適切な見極めフローを設計したうえで、ある程度手間暇かけて採用に時間をかけることは重要な採用戦略の一つだと感じています。

羽鳥:それこそ出資先は常に人員不足なので、とにかく早く人が欲しい!という気持ちが先行しがちですが、重要なのは入社後なので、360度視点までは難しいですが、VCが面接に同席する意味は少なからずあると思います。

2023年、採用トレンド職種予測

三國:今年の採用傾向から来年さらに増えそうな職種を5つラインナップしてみました。

  • ・事業立て直し役のCOO
    ・プロセスエンジニア
    ・グローバルオファリングが可能なCFO
    ・人事部長
    ・経営者になり得る方
  • ぜひお二人の所感も聞かせてください。

    藤井:三國さんのラインナップで一番共感するのは、グローバルオファリングが可能なCFOですね。さらにグロースするために海外から資金調達ができるCFOは今でもニーズが高いですし、今後より一層高くなると思います。

    また、人事を入れるべきフェーズの出資先も増えてきたという観点で、人事部長もニーズ高そうです。あとは、今年と同様にCxO人材はコンスタントに出てくるニーズだと思います。

    三國:海外での上場を目指すスタートアップと、海外から出資を受けたいスタートアップが増えてきました。特にディープテックは技術に国境はないという観点で海外で勝負できるポテンシャルが非常に高いと思うので、海外から出資を受けたり海外で上場をするケースは増えていくはずです。

    「英語ができるファイナンスの人」となると、結果的に投資銀行出身者みたいになりがちですが、将来的な海外上場を目指すスタートアップが増えてくる中で、ポテンシャル含めて色々な人材の可能性を見ていく必要があると感じています。

    藤井:そうですね。あとは、どんな状況下でも求められる人材は、やはり経営陣として関われる方ですかね。スキル以上に経営思考のマインドセットがあるか、が大事なポイントだと思っています。

    大学発ベンチャーや研究開発型スタートアップに対する政府の助成金は、人材の流動性を高めたり経営人材を育成するための資金に投下されていくと思います。そうすると自ずとディープテックスタートアップの数も増えてくるはずなので、より一層経営層のニーズは高まると思っています。

    羽鳥:私も藤井さんと同じで、やはりマネジメント経営層は不足しているので、未経験でもマネジメントにチャレンジしたいという方がこの業界に流動してきてくれると嬉しいです。最近は副業、兼業、フリーランスなど多様な働き方が増えているので、転職の一歩手前で、まずハードルを下げて関わりながらスタートアップの面白さを体感いただけるといいですよね。

    三國:自社PRみたいで恐縮ですが、まさに弊社で「INNOVATION LEADERS PROGRAM」という現職を続けながらディープテック経営に関われるキャリアプログラムを無償提供しているので、「いきなりディープテックスタートアップへの転職はハードルが高い」というビジネス層の方は、ぜひこのプログラムに参加してほしいです。

    三國:ちなみにディープテックでもどんな分野が伸びてくると思われますか?

    藤井:個人的には特定領域を言うのはあまり好きではありませんが、強いて言うなら気候変動対策分野ですかね。お金の付き方も増えて、ディープテックに関わってこなかった人もチャンスを感じて参入・起業する人が増えていると思います。あとは宇宙領域。近い将来、わかりやすい形での成功事例が出ると信じていて、注目度が相当上がりそうだなと。

    こういう採用エージェントと連携したい

    三國:採用エージェントさんとのお付き合いは常に増やしたいと思う中で、有難いことに営業いただくケースも増えてきましたよね。お二人は現在何社ぐらいとお付き合いがありますか?

    藤井:週1回程度の頻度で付き合っているコア層が10社程度で、全体のお付き合い数としては30社くらいです。あとはポジションによって相談先を変えています。

    羽鳥:うちもリアルテックさんと同じで、全体で30社、コアな取引先は10社程度です。

    三國:うちも全体で40社、よくお話するのは10社程度ですね。採用エージェントさんも、より差別化を図るため得意領域を細分化されている印象で、VCも「こういう時はこの人」というような使い分け方式になってきている気がします。

    そのうえで、より近しい連携が取れてくるエージェントさんは、こまめな定例が実施できたり、ディープテック業界に対するご理解があったり、なにより担当者さんの熱量が高い、などの傾向があるかなと。ぱっと見て技術や事業が分かりづらいなかで、それに対して興味関心を持って、理解しようとしてくれるのはVC的には本当にありがたいです。

    藤井:はい、まさに熱量は大事です。僕は会社よりも担当者の方個人を見させていただいて、会社の規模に関わらず熱量の高い方と一緒に連携したいです。

    羽鳥:私も同意見です。最初のきっかけとしては我々の投資領域に造詣が深いことがありますが、結局は個人に紐づいてきますよね。年齢なども全く関係なく、そのご担当者の方のやる気やコミットメントが、頻繁にお付き合いしたいと思う一番の理由になります。

    三國:ありがとうございます。確かに会社というよりは個人とのお付き合いがベースですよね。仮にその方が別の会社へ行かれたら、むしろその方を追いかけて相談しに行ったりしています(笑)。あとは、人材を紹介して終わりではなく、「一緒にスタートアップの組織を創る」というスタンスで向き合っていただき、しかもそこにやりがいを感じていただける方が、VCとの連携においては最も相性がいいと思います。

    ――ディープテックスタートアップの採用インサイト、いかがでしたでしょうか?ディープテック領域の労働市場をさらに活発化させていくために、VCとの協業に興味をお持ちの採用エージェントさんがいらっしゃいましたら、三國までご連絡いただけたら幸いです!次回の「ディープテックHR支援会」もお楽しみに!

    Hiroki Mikuni

    Hiroki Mikuni

    Manager