ディープテックスタートアップの評価制度を考える

人事評価制度は、企業の成長や従業員のモチベーション向上に不可欠と考えていますが、その重要性や具体的な運用方法について担当者の理解が及ばなかったり、評価する仕組みや習慣がないことで、社員が定着しなかったり育たないという課題も生じます。

そこで、評価制度を導入して3年目を迎えるコネクテッドロボティクスの取締役COOである佐藤さんと、人事コンサルティング企業のハイマネージャーの代表取締役CEOの森さんをゲストに迎えて、ディープテックスタートアップの評価制度について考えてみました!

登壇者

佐藤泰樹

コネクテッドロボティクス株式会社 取締役COO

佐藤泰樹

組織コンサルティングのリンクアンドモチベーション、IT企業、外国人就職支援企業を経て、2017年に独立を目指しHIS澤田氏が理事長を務める澤田経営道場に入塾。ロボットたこ焼き店のオクトシェフ店長、ロボットコーヒー店の変なカフェ店長を経験後、2019年より現職。
https://connected-robotics.com/about/

森 謙吾

ハイマネージャー株式会社 代表取締役CEO

森 謙吾

PwCコンサルティング合同会社に入社。人事コンサルティング領域に従事し、製造・小売・通信・金融等の大手企業に対して、人材マネジメント戦略策定および人事制度構築、役員報酬設計、残業削減・退職率低下などのプロジェクト実績を有する。2017年にハイマネージャー株式会社を創業。
https://himanager.me/about

モデレーター

三國弘樹

Beyond Next Ventures株式会社 投資部企画推進チーム マネージャー

三國弘樹

2012年4月 JAC Recruitmentに入社。 エグゼクティブ部門にてベンチャーキャピタルの投資先の経営幹部の採用に関わる。
2020年にBeyond Next Venturesに参画し、出資先スタートアップの採用支援をはじめとする組織成長支援を担当。

※所属・肩書はイベント実施日時点

スタートアップにおける評価制度導入のきっかけや傾向は?

:現在、当社では約150社のスタートアップ企業を支援しています。その中で感じることとして、15~20人規模のスタートアップが、規模が大きくなる前に評価制度を導入したいと考えるケースが増えていることが挙げられます。早い段階で人事制度を整えることで、採用活動に活かしたいと考える企業が増加しています。スタートアップの中でも、ディープテック領域においては、人事制度に対する関心が高い企業とそうでない企業に大きく分かれる傾向が見られます。

佐藤: 先日、とあるスタートアップの創業者を集めたイベントで各社の社長と話す機会がありましたが、驚いたことに多くの企業が人事制度を導入していませんでした。中には、具体的に制度があるわけではなく「気合でやっています」と答える方もいました。スタートアップ企業の中では、社長が一存で給与を決めたり、評価や面談をきちんと行っていない企業が多いのではないでしょうか。

当社では、設立当初からビジョンやミッションを明確にし、それを人事制度に反映させる取り組みを行ってきました。経営合宿でミッションを設定し、それをどのように具体化するか議論してきました。

当社は東大の同級生4人で創業しましたが、資金が尽きたタイミングでメンバーが離散するという経験をしました。この経験から、適切な報酬や評価制度を導入し、従業員を評価することの重要性を痛感しました。そこで、早い段階から人事制度の設計に取り組み、組織の安定と成長を図ってきました。

評価制度の具体的な運用方法は?

:まず一般的に人事制度は、等級制度、評価制度、報酬制度の3つの項目で構成されています。等級制度では、メンバー、リーダー、マネージャー、部長などの職位や役割を明確にします。評価制度は、成果評価と行動評価を採用しており、MBO(Management by Objectives、目標管理制度)やOKR(Objectives and Key Results)を用いて目標を設定し、行動面をバリュー評価で確認します。報酬制度は評価結果に基づいて報酬を決定し、報酬のレンジが設定され、評価によって変動する仕組みです。

佐藤:当社は、Notionに人事制度のページがあり、「人事制度とは何か」などを解説するマニュアルや評価制度の全体像を説明しています。当社ではOKRを採用し、目標設定と報酬を明確に分けています。評価は、アウトプット、T&E(Try & Error)、および当社のコアバリューに基づいて5段階で行います。最近では、「評価がしにくい」という声もあったため、3.5や4.5といった細かい評価尺度も導入しています。

評価フローは、面談、本人評価、上司評価、評価標準化会議を経て、本人にフィードバックされます。年間スケジュールとしては、6ヶ月ごとに中間面談と中間評価を実施し、その結果を基にボーナスや昇給を決定します。

特にOKRを導入する場合、評価と報酬を明確に切り分けることが重要です。ただし、「この評価が給与に影響するのではないか」という懸念がマネージャーから出ることもあります。

ディープテック領域では、成果が出るのに時間を要することもあり、目標の立て方が難しいと感じますがどのような設定にしていますか。


佐藤:評価制度を浸透させるためには、明確な目的とインパクトを持つことが重要です。MBOでは「何のために行うのか」という目的が曖昧になりがちで、単なるTo Doリストのような目標設定になりやすいという課題があります。営業部門でも、売り上げやアクション数といった具体的な数値に目標を置きがちです。

当社はスタートアップであり、夢や目標に向かって走っていく中で、具体的かつ意義のある目標設定が求められます。目標が単なるアクション項目にとどまると、評価が減点方式になり、100点が85点になれば85%達成といった形になってしまいます。これでは報酬との結びつきが不明瞭になります。

当社では、このような数値調整に終始することなく、真に意味のある目標設定を重視しています。異なる部署やマネージャー間での評価のばらつきを避けるために、評価の基準を統一し、皆が納得できる形で運用することが大切です。数値計算だけでなく、本質的な目標達成を目指しています。

:評価と目標をどう両立させるかは、長年の大きな課題です。MBOやOKRにおいても、他社でよく見られる問題として、「自分の評価を上げるために高い目標は立てないほうがいいのでは」と思ってしまうケースがあり、従来からこのような課題は存在しています。

しかし、コネクティッドさんのアプローチは、その点で非常に優れています。彼らはインパクトやトライアンドエラーの評価を重視し、評価と目標がただ連動するのではなく、本質的な成長や成果に基づいています。目標は評価のためだけに設定するのではなく、実際の成果と連動する形で運用されているのが素晴らしいと感じました。

グローバル組織で、評価の受け止め方は文化や国籍によって異なるように思いますが、どのように評価されていますか。

佐藤:現在の社員数は全体で50人中、8人が外国人です。外国人に対しても統一されたアプローチを取ることを重視しています。評価の基準や方法を統一し、全員に明確に伝えることで、評価プロセスが一貫性を持つように努めています。また、ダイレクトなコミュニケーションを通じて、評価に誤解を生まないように心がけています。

評価制度を社内に浸透させるポイントは何でしょうか。

佐藤:評価制度を浸透させるためには、とにかく「真摯に取り組む姿勢」が重要です。制度の作成やマニュアルの整備だけでなく、制度をしっかりと運用することも重要です。運用が緩くならないように定期的に見直し、徹底して取り組むことが求められます。

全員分の評価に多くの時間を割くことが大変に感じられることもありますが、これを怠らず、マネージャーに任せる際も、都度確認を怠らず、マネージャーとの認識のズレがないようにすることが重要です。

評価の標準化は、継続的な努力と向き合う姿勢を通じてのみ達成されるものだと考えています。

ハイマネージャーのサービスをどのように社内で活用されていますか。

佐藤:ハイマネージャーのサービスは、社員の目標がツリー構造で表示され、非常に分かりやすいのが特徴です。カラーリングや動きも直感的で使いやすいです。また、「称賛」というシステムがあり、社員が他の社員に対して「助かった」などの感謝の意を自発的に記載できます。これらの記録は評価にはカウントされませんが、感謝の気持ちを表現する場として機能しています。

私は、one-on-oneを頻繁に行っているので、カジュアルな面談を通じて、前回の話を元にしたフィードバックもハイマネージャー上にメモにしています。ダイレクトなコミュニケーションを通じて、改善点やフィードバックを提供しています。

さらに、ハイマネージャーはSlackとの連携がスムーズで、毎週木曜日にボットがリマインダーを送り、評価を入力するよう促します。評価の時期になると、管理画面から評価タブを利用し、5段階評価で評価を行います。

OKRツリー

:我々のサービスは「コンティニュアスパフォーマンスマネジメント」という、継続的にフィードバックをしていくということをコンセプトにしているので、one-on-oneや「称賛」を活用していただくというのが目指しているところです。

また、最近ではAIの活用も検討しています。具体的には、称賛の文言をレコメンドしたり、one-on-oneのトピックを提案したりする機能を提供する予定です。

終わりに

今回のディスカッションを通じて、人事評価制度の導入や運用には多くの課題があることを再認識しましたが、同時にその重要性と効果も改めて感じました。特に佐藤さんの具体的な事例や森さんの専門的なアドバイスは非常に参考になりました。評価制度の導入と運用は簡単ではありませんが、継続的な改善と透明性の確保が成功の鍵になると思います 。

Hiroki Mikuni

Hiroki Mikuni

Manager