米国事例から紐解く、クライメートテックの勝ち筋|BRAVE 2023 DEMO DAY パネルセッション

(司会)有馬:本セッションでは、「米国事例から紐解く日本発クライメートテックの勝ち筋」をテーマに、ジェネシア・ベンチャーズの河合さん、Spiral Capitalの直井さん、そしてBeyond Next Venturesの私(有馬)の3名でディスカッションしていきます。

※本記事は2023年12月2日開催「BRAVE 2023 DEMO DAY」でのパネルセッションを記事化したものです。

登壇者

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ パートナー / CSO

河合 将文

農林中央金庫および日本政策投資銀行で、ストラクチャード金融商品、企業買収ファイナンス、PEファンド等へのオルタナティブ投資に従事。KPMG FASではM&Aアドバイザリー業務を経験。2017年よりDBJキャピタルの取締役投資部⾧としてスタートアップ投資を統括。2021年9月よりジェネシア・ベンチャーズに参画。

Spiral Capital株式会社 シニア・アソシエイト

直井 聡友

2022年3月に Spiral Capitalに参画。Climate Tech・ディープテック・スマートインフラ・ESG領域の投資を担当。参画以前は新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社し、その後EYストラテジーアンドコンサルティングに入社。マネージャーとして民間企業および官公庁向けの脱炭素やESG関連の戦略立案プロジェクト等に従事。慶応義塾大学理工学部物理情報工学科卒、カーネギーメロン大学工学部材料科学科修士課程卒。著書に日本経済新聞社「カーボンZERO気候変動経営」(共同執筆)がある。

モデレーター

Beyond Next Ventures株式会社 パートナー

有馬 暁澄

2017年4月丸紅入社。穀物本部にてトレーディング事業を通じて生産から販売までのアグリ全般に携わる。また、有志でアグリテック領域のスタートアップに投資を行うチームを立ち上げる。2019年に当社に参画し、アグリ・フードテック領域のスタートアップへの出資・伴走支援に従事。2022年にパートナーに就任。農林水産省や大企業と積極的に連携し、産学官連携プロジェクト(農林水産省「知」の集積プログラム、「フードテック研究会/ゲノム編集WT」代表、スタートアップ総合支援事業(農林水産省版 SBIRプログラム)PMなど)にも取り組む。目標は、アグリ・フード領域のGAFAを生み出すこと。慶應義塾大学理工学部生命情報学科卒業

大きなインパクトを生み出すための理想的なチームとは


河合:クライメートテック領域の特長としては主に3つあると思っています。

1.多くはディープテック/研究開発型スタートアップであること
2.環境問題を中心に全人類を対象にした世界共通の課題解決を目指していること
3.世界共通の課題解決を目指す一方で、各地域や国の規制や政策の影響を受けやすいこと

1については、やはりディープテックなので、世界基準で唯一無二の研究シーズを持つ優秀な研究者の方と、そのシーズを社会実装に向けてビジネスとして力強く推進する経営人材の組み合わせが必要不可欠だと思います。

2については、世界共通の課題解決に向けて、最初からグローバル展開を視野に入れてほしいです。そのためにも、グローバル展開を推進する海外経験や外資系企業での勤務経験をお持ちの経営メンバーがいると、さらに強いと思います。

3については、事業対象としている業界に精通している人がチームにいると強いと思います。事業解像度の高さや顧客ニーズの深い理解を既に持っていますし、その人の業界に対する深い知見や業界内外の幅広い人脈を活用することで、規制緩和や制度変更を戦略的に仕掛けられるようなロビイング活動もできる可能性がありますよね。

有馬:特に3つ目の政治的な部分はとても重要ですよね。直井さんはいかがですか?


直井:「ネクストテスラ」レベルを目指すスタートアップに必要なのは、優れた研究者・経営人材に加えて、大規模な資金を調達して、それを大きなスケールでスピード展開できるチームだと思っています。クライメートテックはペインがグローバル共通なので、特に資金面でのグローバル競争力が重要となります。

ジョン・ドーア氏の書籍「Speed & Scale」にもある通り、米国では今「テスラマフィア」が次々にクライメートテックスタートアップを立ち上げて、調達した莫大な資金をもとに人材も大量採用して、スピードがどんどん加速しています。

有馬:クライメートテックのユニコーン企業や大型の資金を調達したスタートアップは、少なくとも3名以上のファウンダーがいますよね。CEO、研究者、資金調達の専任、政治的な活動をする人などが創業初期メンバーとして組み合わさっていますよね。

今後10年でゲームチェンジャーとなり得る技術

直井:やはり人類の歴史はエネルギーと切っても切り離せないので、今後10年はエネルギーの脱炭素化はテーマになり続けると思っています。特に、長期エネルギー貯蔵技術(LDES)には個人的に注目しています。

有馬:ありがとうございます。河合さんはどうですか?


河合:マクロ動向から中長期的な変化の流れを掴めると面白いと思っています。足元では、資源高・エネルギー高といったインフレ傾向がありますよね。また、ウクライナやイスラエルでの戦争、来年はアメリカの大統領選挙もあります。それらの動向を踏まえると、より多極化した世界がやってくると考えています。

その未来を見据えた時に、資源やエネルギーのみならず、半導体や食料含めた戦略物資の確保がますます安全保障上重要になってくると思います。

個人的に注目する技術としては、例えばリサイクルテクノロジーです。既にバッテリーからレアメタルを回収する技術や、廃棄プラスチックのケミカルリサイクル技術などは投資対象になっていますが、今後さらに効率的な手法が開発されていくと思います。また、鉱物の精製や次世代半導体にも関心があります。

クライメートテック分野に投資する際に重視するポイント

河合:クライメートテックは本当に幅広いですし、さまざまなイノベーションが起こっている領域です。その中で特に有望な事業領域を探すために見るところは、社会実装までの時間軸です。我々のファンドも10年という時間制約があるため、どうしても敏感にならざるを得ないです。


有馬:ディープテックにおける10年ってなかなか短いので、どううまくバランスを取るかは僕も難しいポイントだと思います。我々のようなシードVCが最初に投資をさせていただいた後に、次の投資家さんにうまくバトンタッチできる仕組みを作れるといいなとは思っています。直井さんはいかがでしょう?

直井:とくに「チーム」と「事業規模」に焦点を当てています。クライメートテック領域は将来的にユニコーン企業になれるかという目線で投資をすることになるので、シンプルに数値計画のスケールの大きさは大事だと思っています。ただ、数値が大きければいいという話ではありません。TAMやSAMについてはリサーチしたものを引っ張ってきてもいいと思いますが、「SOMの解像度がどれほど高いか」は投資判断のポイントになります。

河合:私は、事業計画に記載されている数字自体の確からしさももちろん気になる一方で、それを導くためにどれだけ手を動かしてロジカルに組み立てていくか、というチームの力やプロセスも見ています。

有馬:単純にマーケット規模が大きいから良いわけではなく、そのマーケットにどう入っていくか、そこまでどう組み立てていくか、という考え方のほうがむしろ重要かもしれないですね。

いま注目しているクライメートテック領域


直井:モビリティ、エネルギー、食分野は常にチェックしています。その中で個人的に「DAC(Direct Air Capture)」技術には期待しています。普通に考えたらコスト的にペイしにくい領域ですが、2050年頃を見据えて欧米はDAC領域をチャンスと見ていると思いますし、マイクロソフトがはやくも顧客になっているのも面白くて、予測不能な部分も含めて注目しています。

有馬:既存産業のリプレイスはやっぱりハードルが高く、相当コストが安いか、相当質がいいか、あとはトップダウンで決まるかしかないと思うのですが、特にリプレイスが急務のマーケットはありますか?

直井:やはりエネルギー系ですかね。より安心安全で効率的にエネルギーを供給・確保していくための蓄電池のような技術の確立は急務だと思います。

有馬:ありがとうございます。河合さんはいかがですか?

河合:先ほどあれほど時間軸が大事だと言いながら矛盾しているようで大変恐縮なのですが、核融合のような産業全体へのインパクトが大きかったり、人々の生活を一変するようなテクノロジーにはものすごく惹かれます。また、半導体のような日本ならではの強みを構築できるような事業や参入障壁の高い事業にも注目しています。

有馬:私たちもVCとして日本からクライメートテック領域のユニコーンを生み出せるように、がんばっていきましょう。最後にクライメートテック分野で挑戦したい方にぜひコメントをお願いします。

直井:まずBRAVEに参加された研究者、ビジネスパーソンの皆さんの志の高さに敬意を表したいと思います。数年前は、クライメートテック領域の起業は圧倒的に少ないと言われていました。それが今や多くの方がチャレンジする領域になりました。欧米のほうが少し進んでいるとはいえ、日本にも多くのチャンスがあります。ぜひVCとも連携しながら、事業化に挑戦してほしいです。

河合:BRAVEに参加した皆さんの研究成果や事業アイデアを聞かせていただき、多くの気づきや刺激を受けました。日本の強みが活かせる分野は沢山あります。ディープテックの分野に注力するVCも増え、国の助成金もどんどん充実しているので、今はチャンスだと思います。

有馬:ありがとうございました。クライメートテックはもちろん、日本発のディープテックから世界で活躍するスタートアップを皆さんで応援できればと思います!

最後に

Beyond Next Venturesは、主にリード投資家として、アグリ・フードやクライメートテック領域をはじめとするディープテック・スタートアップにシード期から投資を実行しています。研究者や起業家に創業前から伴走し、世界に通ずるディープテック・スタートアップの創出に向けて、社内と社外のリソースを組み合わせて専門的かつグローバルな支援を提供しています。起業相談や事業アイデアの壁打ち、資金調達の相談は、こちらのページからお気軽にお問い合わせください。

Akito Arima

Akito Arima

Partner

Beyond Next Ventures

Beyond Next Ventures