バイオ創薬領域におけるVCのカンパニークリエーション戦略|BRAVE 2023 DEMO DAY パネルセッション

(司会)澤邉:VCが研究者と一緒に研究開発計画や事業戦略、資本政策などを練り、二人三脚で会社を立ち上げる手法「カンパニークリエーション」に最近注目が集まっています。今回は、Angel Bridgeの河西さん、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)の八木さん、大阪大学スタートアップキャピタル(OUVC)の魚谷さん、そしてBeyond Next Venturesの私(澤邉)の4名で、特に「創薬・バイオテック領域から成功事例を生み出すための」カンパニークリエーションについて、ディスカッションしていきたいと思います。

※本記事は2023年12月2日開催「BRAVE 2023 DEMO DAY」でのパネルセッションを記事化したものです。

登壇者

Angel Bridge 代表パートナー

河西 佑太郎

ゴールドマン・サックス証券の投資銀行部門、ベインキャピタルの成長企業投資、ユニゾン・キャピタルの成長企業投資を経て、2015年に日本再興の鍵はスタートアップにあると信じ、Angel Bridgeを設立。投資先の再生医療スタートアップ「Heartseed」では、創業から3年間代表取締役を務めるなど、カンパニークリエーションを積極的に行う。東京大学大学院農学系研究科修士修了(遺伝子工学)。シカゴ大学MBA。

京都大学イノベーションキャピタル 投資第一部
部長・事業企画部 シニア・マネジャー

八木 信宏

アカデミア発のディープテック投資を行うキャピタリスト。事業領域を問わず、基礎研究の成果を基に新会社を組成する創業案件を得意とする。代表的なポートフォリオに日本発の核融合ベンチャーである京都フュージョニアリング、リーガルテック大手のLegalOn Technologiesがある。アカデミア発スタートアップを創出する京都大学の起業家クラブ“ECC-iCAP”のファウンダー。京都iCAP以前は、国内外にて産官学の研究所に所属した広範な研究経歴を持ち、前職の大手製薬会社では新事業領域の立ち上げを主導。現在も化学や医学領域での教育研究を継続している。博士(薬学)。

大阪大学スタートアップキャピタル 投資部長

魚谷 晃

2005年住友化学へ入社し、高機能素材に関する研究開発および新規事業企画等に従事。
その後、産業技術総合研究所でのベンチャー創業支援業務を経て2017年より大阪大学ベンチャーキャピタルに参画。キャピタリストとして主に大学発研究シーズの創業支援(Company Creation)・投資業務・投資先経営支援を行うとともに、投資部全体のマネジメントを担当。

モデレーター

Beyond Next Ventures株式会社 プリンシパル

澤邉 岳彦

2000年4月に明治製菓(現・Meiji Seikaファルマ)入社。創薬研究に従事した後、事業開発に転じて国内外バイオベンチャーとのライセンス契約を担当。ジョンソン・エンド・ジョンソン(医療機器事業開発)、アッヴィ(ポートフォリオマネジメント)を経て2014年5月に産業革新機構(現・INCJ)入社。ステラファーマ(IPO)、メガカリオン、スコヒアファーマなど創薬・ライフサイエンス領域のベンチャー企業投資活動を担当。2022年12月より当社に参画し、バイオ・創薬領域の投資業務に従事。東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了。グロービス経営大学院経営研究科修士課程修了(MBA)。

創薬を巡るプレーヤーの現状

澤邉:創薬を巡る主なプレーヤーとして、国、大学、産連本部(TLO)、スタートアップキャピタル、製薬企業がいて、それぞれの役割や課題があると思いますが、特に今注目している動きだったり、改善すべき点はありますか?

河西:現状は、各プレーヤーが日本の創薬を盛り上げるために頑張っていて一定の成果は出ているんだけど、必ずしも完璧にはかみ合っていない、という立ち位置にいると思っています。その中で、この現状をさらにより良くしていくために最も必要なことは、「成功モデルを徹底的に作る」ことだと考えています。成功モデルがあれば、各社もっとこうすべきなんだ、と前向きに改善していけますよね。

澤邉:成功モデルを作る秘訣はなんでしょうか?

河西:大学発スタートアップやディープテック領域の成功は、やはり高いレベルのサイエンスと優れたビジネスパーソンの組み合わせだと思います。どちらも欠けてはいけません。そのため、私たちベンチャーキャピタルをはじめプレーヤーの皆さんが意識すべきは、両者の良い組み合わせをいかに作れるか、であると思います。現状はサイエンスの理解も深いビジネスパーソンが少ないため、VCが過去のベストプラクティスを参考に一緒に立ち上げをやっている状態であると理解しています。

八木:私は製薬企業で(約20年前に)核酸医薬の事業を立ち上げた経験があるのですが、日本は「0→1」も「1→100」も得意だと思っています。足りないのは、リスクマネーと研究成果を事業化するうえでの伴走者。研究機関がより良い会社を創るために、ヒト・カネ・モノをどうやって煮詰めていくとよいのか、を日々試行錯誤しています。

成功モデルを生み出すためのカンパニークリエーション

1. 仮説を立てて、検証する

澤邉:創薬スタートアップは積極的に開発リスクを取らざるを得ないので、反対に言えばそれ以外のリスクは最小化しておきたいですよね。そのためには、やはりカンパニークリエーションが鍵になってくると思っています。とはいえ、会社設立に向けては、エクイティストーリー、ガバナンス、経営チーム、研究開発、CMC、知財戦略など考えるべきテーマが数多くある中で、皆さんにとっての「より良いカンパニークリエーション」とは、どんなものでしょうか?

魚谷:当たり前の話ではありますが、僕が一番気を付けていることは「仮説を立てて、検証する」というサイクルを回すことです。僕が思うカンパニークリエーションの最大のメリットは「創業からEXITまでの一貫したデータが取れる」ことだと思うんです。まだ僕らも1号ファンドの答え合わせをしている段階でこれからの部分が大きいんですけど、カンパニークリエーション案件は僕らの確固たる事業仮説の検証を繰り返してきているので、何が落とし穴なのか、何がキーサクセスファクターなのかが、かなり明確になってきています。

そもそもディープテック・スタートアップの価値の源泉は、やっぱりサイエンスなんですよね。そこにいち早くアクセスして、社会実装するためのデータを最初に獲得した人が勝つと思っているので、2号・3号とデータがたまっていくたびにパフォーマンスも上がると考えています。

澤邉:サイエンスをビジネスにしようとしているので、カンパニークリエーションにおいてもデータをきちんと取って再現性を高めていくことは確かに非常に重要なポイントですね。

2. 創業メンバー間の相性・信頼関係

河西:僕は「研究者(先生)とビジネスパーソンの信頼関係」が最も重要だと思っています。先生は、自分のシーズを託せる相手として最適なビジネスパーソンを選ぶべきだと思いますし、ビジネスパーソンは「この先生と一蓮托生で一緒にやっていけるか」ということをしっかり見極めた方がいいと思います。

やっぱり研究の世界とビジネスの世界は全く異なります。一方で、一緒に事業をやっていくというのはとても大きな話です。過去には、先生がビジネスパーソンのことを気に入らずに3人ほどCEOを入れ替えた事例もあります。ビジネスパーソン側としてはこういったタイプの先生とタッグを組むのは辛いと思いますし、一方で先生からしたら、長年手塩に育ててきた技術を別の誰かに預けるわけなので、「本当にこの人を信用できるのか?」という目線で腹を割って話し合ってほしいです。

あとは、ターゲット疾患の選定も重要ですね。これがあまりにも小さいとビジネスとして成り立ちません。研究者の方は「テクノロジーアウト」で考える傾向がありますが、ビジネスの世界では大きな市場にPMFして売上を立てる必要があります。そのため、「マーケットイン」思考でニーズが大きい市場を狙いに行くことが重要です。

魚谷:河西さんの話に乗っかりたいのですが、僕も大学の先生とビジネスパーソンの相性が大事というのは本当にその通りだと思います。

ただ、カンパニークリエーションって、基本は大学の先生とVCからスタートするパターンが多いんです。なので、「先生とVCの信頼関係」も重要なポイントです。それは、もともとの相性と、VCがどれだけ貢献するか、で決まります。

僕も一時期投資先の代表を務めていましたが、最初のフェーズでひたすら提案して貢献し続けることで、先生方が自分のことを信用して、データを取りやすくなったりします。要は、ビジネスとしてはこういくべきなのではないか?というこちらの仮説を検証しやすくなるのです。

3. グローバリゼーション(米国進出)に向けたマネジメント戦略

八木:私も経営陣は一番重要だと思っていて、そこに要素を追加するならば、米国進出に向けたマネジメント戦略があると良いと思います。

というのも、例えば日本のバイオスタートアップが東証に上場する場合、200億円を超えるようなIPOを狙うことは今の市況だとかなり難しくなります。VCから30億円とか50億円を調達して、出口が150億円、みたいになってしまうので、これでは勝算が立ちません。

その中で、企業価値をさらに高めるために残された選択肢は、アメリカに出ていくしかないんですよ。そして、アメリカでIPOやM&Aを仕掛けようとなったら、やはり英語ネイティブの経営人材が必要になってきます。そうすると、採用する場合は年間1~2億円程度はかかってくるわけで、その費用をいつどうやって捻出するのか、はたまた、ストックオプションにするのか等、グローバリゼーションを前提にした経営戦略が必要になると思います。

澤邉:グローバル化は、まさにバイオ・創薬系スタートアップが最も悩んでいるポイントかなと思います。

ーーーーこれにてBRAVE 2023 DEMO DAYのセッション「バイオ・創薬領域におけるVCによるカンパニークリエーション」は終了します。皆さん貴重なお話をありがとうございました!

Takehiko Sawabe

Takehiko Sawabe

Principal

Beyond Next Ventures

Beyond Next Ventures