2023年10月11日に、Beyond Next Venturesはディープテックに特化した3号ファンドの設立と共同代表制への移行を発表しました。このような組織的な大きなイベントが2つも公となるこの特別なタイミングで、共同代表である代表取締役社長の伊藤と、新代表取締役となった植波(うえは)の対談記事をお届けします。本対談では、3号ファンドが目指すもの、なぜ今経営体制を強化するのか、Beyond Next Venturesがディープテックにかける情熱、未来の展望などについて詳しくお話ししています。私たちの想いやビジョンをぜひ本記事を通じてご理解いただけたら幸いです。
3号ファンドで目指すもの
科学者・研究者を社会の中心に
植波:3号ファンドでも、1号・2号ファンドと同様に、当社の原点である「シード期からのディープテック領域への投資」にフォーカスしていく、という基本的な方針に変わりはありません。ただし、投資先のグロースフェーズでの追加資金需要にも対応できるように、1社に対する最大累積投資額をこれまでの約3倍の「20億円」に引き上げていく、という点が、これまでの運営方針と異なります。政府や民間のリスクマネーの供給が増え、レイター期で百億円規模の大型調達を実現するディープテックスタートアップも増えてきている中で、起業家を、シードからグロースフェーズまでファイナンス面を支え抜くことこそが、結果的に、投資先の大きな成功、ひいてはファンドパフォーマンスの最大化に繋がると考えています。
伊藤:ファンドのパフォーマンスを安定的に示していくのは大前提として、私は、日本の国力をさらに高めるためには科学技術しかないと考えています。資源のない国の唯一の資源は「人」であり、科学技術を生み出す「研究者」を「社会の中心に」することが当社が実現していきたい世界です。
そのためには、社会の中で影響力をもつ研究者をもっと増やし、研究者に対する社会的認知を高めていくべきだと思っていて、だからこそ、日本の研究者が関与するディープテック領域から大成功するスタートアップの事例を増やしたい。3号ファンドはこれまで以上に研究者の成功事例の創出に貢献できると思っています。
成功する研究者が増えることで彼らの社会的地位が高まり、研究者を目指したい人も増える。その結果、更に素晴らしい研究成果が生まれる。そんな循環を目指しています。
また、3号ファンドでは、将来的な海外展開を前提としたスタートアップを中心に投資していく予定で、世界に目を向けた大きな挑戦をする研究者や起業家を増やすことにも繋がると考えています。
植波:私たちの強みは、従来のベンチャーキャピタルの枠にとどまらない、エコシステムそのものを底上げするアプローチであると考えています。研究者の創業を後押しする「BRAVE」では52社が起業を実現し、ディープテック領域の経営人材を育成する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」からは40名以上の経営者が誕生しています。さらには、キャピタリストが自ら投資対象を生み出す「カンパニークリエーション」にも力を入れ、世界に伍するディープテック・ユニコーン企業の創出に本気で取り組んでいます。
それを実現するために、日本全国の大学、支援機関、投資家との連携を一層強化し、社会に大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すためのエコシステムをさらに発展させていきたいと考えています。それぞれのステークホルダーが連携し、相互に価値を発揮し合うことで、ディープテック・スタートアップの可能性を最大化させ、持続可能な成長を遂げる土壌を整備していきたいと考えています。
パートナー増員・共同代表制に込めた想い
2022年にパートナー4名体制を確立
伊藤:2022年10月の橋爪と有馬のパートナー就任により、4名のパートナー体制を確立しました。これは、3号ファンドの設立を見据えて増員したものです。
橋爪は医療・ヘルスケア、有馬はアグリ・フード領域において、それぞれエキスパートとして、スタートアップ投資や事業成長支援をリードしています。私たちはビジネスが確立する前のシード期から投資を行うVCとして、事業の良し悪しを判断する材料が乏しい状況で、主に経営陣・技術・事業将来性を中心に投資判断を行っています。そのためには、特定の業界における深い専門知識や広範なネットワークを有する専門チームを持つことは、シード段階において精度の高い投資判断を実現することに大いに貢献すると考えています。
当社では、投資の意思決定の段階や、投資先企業の成長支援のために、様々な領域の専門家数十名からアドバイスを受けていますが、投資担当者が専門特化していくことで、こうした専門家の皆様との連携も更にスムースになり、より適切な支援を素早く実行することが可能となります。
創業10年目にして、共同代表制をとる理由
植波:この度、共同代表に就任しました。創業当初から約9年、伊藤と二人三脚でやってきて、これまでも重要な経営に関する意思決定に関してはイコールパートナーとして相談しながら進めてきました。その中で、「なぜ今か?」で言うと、累計のファンドサイズが300億円を超え、従業員も30名近くになり、私が会社の代表的立場として対外的に話をするシーンも増えてきました。それならば、より実態に即した形の経営体制にしようと伊藤と話し合い、この度の共同代表という形をとる運びとなりました。
伊藤:この共同代表という新体制は、今後さらに組織が大きくなることを見据えて、経営体制の強化を実現するために決意しました。植波は私が会社を設立した半年後にジョインし、共同創業者・取締役として常に企業経営の中心に居ます。これまでの9年間、植波とは互いに良いバランスを保ちながら強固なパートナーシップを築いてきました。これから更なるメンバーの増員や活動も増えることが予想され、企業経営における課題もより複雑で多様化するでしょう。その中で、重要な意思決定を迅速かつ的確に進めるためにも、植波と共同代表という形で経営にコミットする運びとなりました。
植波:共同代表制になることで会社の方針が大きく変わる、ということは全くなく、むしろこれまで以上に面白い挑戦をどんどん行っていきますので、温かく見守っていただけたら幸いです。
ディープテックにかける情熱
ディープテックにこだわる理由
伊藤:「もったいない。」これに尽きます。私が東京工業大学の大学院生だった頃、自分より圧倒的に優れた研究者が身近に沢山いました。しかし、彼らの能力や研究成果が社会にそれほど認知されておらず、「何かが違う」とずっと問題意識がありました。
その経験が心にありながら、新卒入社したジャフコでは産学連携投資グループの責任者を務め、年間100件近くの大学研究室や産学連携部を何年も訪問し続けましたが、現場の資金不足、経営者不足といった課題や、大学の構造的な課題故に、社会にとって価値のある研究成果や優秀な研究者が日の目をみていない現実を目の当たりにしました。
そうした背景から、研究者や大学が抱える多様な課題を解決し、研究成果の社会実装を後押しすることで成功する研究者を増やしたいという強い想いで立ち上げたのが、Beyond Next Venturesです。
植波:ジャフコ時代から伊藤の活動は(入社同期として)ずっと見てきましたが、伊藤は本当に一貫してこの課題に取り組んでおり、その姿勢や想いには共感していました。だからこそ一緒にやりたいと思ったし、私以外の当社メンバーも、素晴らしい研究や研究者がもっと日の目を浴びる社会にしたい、という想いを強く持っているメンバーが集まってきているのだと思います。
伊藤:これまでの巡り合わせのおかげでたまたま他の人よりも早く、日本の研究成果の商業化における課題に触れるチャンスを得ることができました。だからこそ自分がその課題を社会の誰よりも率先して解決していくべきだという使命感も強く持っています。
「新しい挑戦」に対するこだわり
起業家に信頼される組織として、新境地を切り拓く
伊藤:私たちは従来の常識や枠組みにとらわれることなく、常に新しいことに挑戦しています。以下はその活動例です。スタートアップに投資をするベンチャーキャピタルとしての枠組みを超えて、研究成果の商業化を実現しやすいエコシステムを創ることに注力しています。
- VC業界では日本で最も早く有料職業紹介事業の許認可を取得
- 日本初のバイオ研究者向けの都心シェアラボを開設
- 日本で初めて研究者と経営者候補のマッチングを前提としたアクセラレーションプログラムを開始
- 日本で唯一ディープテック領域の経営人材育成のプログラムを開始
- 国内ディープテックVCでは唯一インドに子会社を設立
コーポレートスローガンにも「Go Beyond, Be Brave.」を掲げている通り、少し先の未来を見据えて様々なことに果敢に挑戦する姿勢は、会社として最も大切にしている価値観です。
この所以は、私がもともと人と同じ道を歩むことに抵抗を感じる性格というのもあるかも知れませんが(笑)、それ以上に、起業家に選んでもらいたいという想いが根底にあります。起業家は様々なリスクを背負いながら会社を立ち上げるわけです。それなら、自分たちも自分たちのフィールドでリスクを取って果敢に挑戦すべきだろう。それこそが、真のパートナーシップを築き、起業家から信頼される組織になるための道だと考えています。
植波:ディープテックスタートアップがどうすればより良く立ち上がり、成長を遂げられるのか、各過程における課題にその都度向き合い、自分たちができる最大限のことを提供してきた結果として、今の活動があるのかなと感じています。
組織のさらなる強化に向けて
メンバーの能力とシナジーを最大限発揮できる組織へ
伊藤:足元の展望としては、自分たちの得意領域である医療・ヘルスケア、アグリ・フード、クライメートテックに加えて、宇宙やエネルギーといった新しい領域での投資経験も拡充し、より幅広い研究者や起業家に選ばれ、信頼される実績を安定的に築き上げていくことです。特に3号ファンドで充実を図る機能の一つに「海外進出支援」を掲げており、それに伴うリソースをさらに強化していく予定です。
これらの大きな目標に到達するためには、何より働くメンバーが能力を発揮できる環境づくりにあると認識しています。組織づくりにはさまざまなファクターがありますが、私がいま最も重要視しているのは「多様性(ダイバーシティ)」です。
もともと創業時からの採用方針として、一人ひとりが異なる強み(専門性)を持ち、それ故お互いに尊敬し合いながら良い仕事をするチームの確立を目指しています。また、私自身もインド人のメンバーと働く機会を通じて、異なる意見や考え方を取り入れた意思決定など、ダイバーシティの良さや強さを実感しています。いまは会社全体で男女比率は6:4、日本人以外にインド人3名が在籍、育児との調整がしやすい環境づくり、など組織として徐々に進化していますが、まだまだ課題はあります。ダイバーシティについての議論が不要になるほどにもっと多様な人たちが活躍する組織を目指しています。
植波:多様性に加えて、やはり自分たちは「ディープテックに対する興味」や「研究者に対する想い」、そして、「素晴らしい研究を社会に実用化させることへの情熱」を持っているメンバーが集まっている組織なので、そこはこれからも大事にしながら、より良い組織への成長を遂げたいと思います。