佐野:カオスでディープなアフリカ。日本から地理的にも離れているが故に、イメージだけで語られることも多いですが、実際には携帯電話の普及率は80%以上、うち約40%の方が既にスマホを持っているなど意外な側面も。
今回はアフリカという地で起業された2名にご登壇いただき、アフリカで起業した背景や苦労をお話しいただきました。
日本にはアフリカ起業の情報がまだまだ届いていないので、アフリカをはじめとした新興国での起業にご興味がある方、グローバルな企業で働いてみたい方にとって少しでも参考になれば幸いです。
登壇者プロフィール
株式会社SOIK 代表取締役CEO
古田 国之 氏
2008年東京大学農学部卒業後、国際協力機構(JICA)入構。ブルキナファソ事務所、JICA筑波、本部アフリカ部勤務の後、コンゴ民主共和国に3年間駐在し、事業総括を務める。JICA退職後にスイスIMDにてMBAを取得。2018年に開発途上国向け医療機器開発のレキオ・パワー・テクノロジーにCOOとして参画するために那覇に移住。2019年にSOIKの沖縄日本法人およびコンゴ民主共和国に現地法人を設立。現地の医療サービスの質向上のため、デジタル産科ソリューションSPAQを開発・普及する事業を展開している。
LINDA PESA株式会社 CEO & Co-Founder
山口 亜祐 氏
大学中退後、フリーターを経て税理士法人名南経営に入社し、海外進出支援、国際税務業務に従事。2018年より未電化地域へLEDランタンを届けるスタートアップ企業WASSHAにて財務経理部長として、2021年よりダイキン工業とWASSHAのJVであるBaridi Baridi incにて企画部長として、合計約4年間タンザニアにて勤務。2022年3月LINDA PESA(JP)創業。タンザニアのスモールビジネス経営のデジタル移行と、ビジネスオーナーのファイナンシャル市場へのアクセス実現を目指し、LINDA PESAアプリケーションを現地で展開している。
モデレーター
Beyond Next Ventures株式会社
Manager, Venture Capitalist, Investment Group
佐野 悠一郎
早稲田大学政治経済学部卒業。ハーバード大学公共政策学修士。
2006年国際協力銀行、2008年国際協力機構、一貫して開発途上国支援に取り組む。民間事業向けに様々な金融商品を提供。スタートアップ向け投資プログラムも立ち上げ。出資先は五常・アンド・カンパニー、WASSHAなど。2021年4月に当社参画。環境・エネルギーを中心にサステナビリティ領域を担当。インド向け投資も行う。
目次
コンゴ民主共和国で妊婦さんを支えるプラットフォーム事業を展開する古田さん
古田:株式会社SOIK(ソワック)は沖縄で創業した後にコンゴ民主共和国で法人を設立しました。現在はコンゴ民主共和国の医療サービスの質向上のため、デジタル産科ソリューション「SPAQ」を開発・普及する事業を展開しています。
ところで、コンゴ民主共和国が500、日本が5という数字。これは何の数字を表しているかわかりますか。実はこれは妊産婦死亡率なのです。コンゴ民主共和国では日本の100倍も妊婦さんが命を落としています。
具体的な理由としては、医療施設でのお産が少なく、妊娠中もしくは分娩中に起きる事態に対し適切な医療が行き届いていないこと、データの管理が不十分で分娩に関するナレッジが蓄積されていないことが考えられます。
私はJICAを退職後、MBAを取得しました。そのナレッジを使って取り組んだ課題が妊婦健診エコーの普及です。妊娠高血圧症や胎児異常の早期発見のため、エコーが非常に役に立つと考え、現地での運用を実現するためにスマホで使えるエコーとデータ管理プラットフォームを開発しました。
このプラットフォームでは、妊婦健診はもちろん、分娩の記録や新生児の記録も入力・管理することができ、そのデータを行政官の統計データや産婦人科専門医のデータと連携できる仕組みになっています。このプラットフォームにより産前から分娩まで一貫した医療従事者向けの支援、データの蓄積ができるようになりました。
また、保健省とは官民連携パートナーシップ協定を締結し、2021年12月から4ヶ月ほどKwango州という都市で1000件程の産前健診を行いました。この過程では、妊婦さんや胎児の異常が79件見つかり、その結果患者移送がされ、多くの命が救われました。この実績を活かし、今後はコンゴ民主共和国に1万件ほどある他の保健センターにも展開していく予定です。
タンザニアでスモールビジネスオーナーの支援をおこなう山口さん
山口:私は、タンザニアでスモールビジネスオーナーさんの支援事業を展開しています。タンザニアは東アフリカの赤道直下に位置する国です。国土は日本の2.5倍、人口は日本の半分以下の6000万人ほどです。
皆さんのイメージとは違うかもしれませんが、携帯電話の普及率80%以上、うち約40%の方が既にスマホを持っています。モバイルマネーは日本よりも一般的で、銀行口座のない人でも電話番号で送金ができるため、昨今急激に利用率が高まりました。ただ、電気や水道などのインフラ整備にいまだ大きな課題があるのが現状です。
私がその中でスモールビジネスにフォーカスした理由は、今までタンザニアで財務経理の仕事に携わる中で、外資企業社員の目線でみたときに、現地のローカル企業との取引が難航することが多かったからです。
というのも、まずレシートが出せないことや帳簿をつけていないことで、不正が横行して対等な形で取引ができない。そのため現地の企業さんとは取引をしないという決断もしてきました。
このままでは、これから外資の企業がタンザニアに入ってくる中で、現地企業にベネフィットが還元できないですし、お互いwin-winな関係を築けません。そこで、現地の企業の経営基盤を整えることがまずは必要だと考え、スモールビジネスを対象にした経営管理ビジネスを始めました。
スモールビジネスオーナーの課題は、信用情報の不足と非効率な経営です。これらの課題に対して、スモールビジネスに特化したアプリケーションを現在開発しています。具体的には帳簿記入、現金管理、経営管理を一元管理することで、正確な売上額や利益額が把握できます。2022年5月末にリリースし、現在100件ほど導入されています。
アフリカで起業に至ったきっかけ
佐野:お話ありがとうございました。モデレーターを務めるBeyond Next Venturesの佐野です。もう少し、お二人がなぜアフリカという地で起業されたのか、パーソナルな想いの部分をお聞かせいただけますか?
山口:タンザニアで財務経理に携わる中で、「勿体ない」という気持ちがすごく大きかったです。それに対して傲慢な考えかもしれませんが、回答がある気がしているにもかかわらず、うまく伝わらないというもどかしさが、起業の大きな理由です。
古田:私はJICAでコンゴ民主共和国に行った経験からこの国が大好きになり、他のアフリカとも違うカオスでエキサイティングな日々が楽しくて、コンゴでビジネスをしたい!と強く思いました。
佐野:お二人とも起業を決意されたときに、何から手をつけられたのですか。
山口:まずはメンバー探しです。現地にどんな需要(ニーズ)があり、どんな解決方法をとれるのか、が分かる、現地の状況をよく把握しているメンバー探しをしました。集め方としては、全てリファラルです。前職で繋がりのあった方やその友達を紹介してもらいました。
古田:私は、まだ沖縄にいるときにBeyond Next Venturesのイベントに参加したり、東大の「Found X」というアクセラレーターに参加してシード期のプロジェクトを経験する中で、ビジネスモデルをたくさん考えました。ちなみに仲間集めは私も全部リファラルです。
起業後に苦労したこと
佐野:起業されてから今までで最も大変だったことは何ですか。
山口:うまくいったことがまずないという感じですね。ローンチしてから実際に起こることが、事前に現地調査をしたときのデータとはズレている感覚があり、何度も練り直しをしながら進めています。
古田:一番大変だったのが、総務省の新規通信規格の実証実験をコンゴ民主共和国で実施した案件です。周波数の使用許可を取得したり、アンテナを輸入したり、ローカルの業者を選定したり、現地のどこにアンテナを設置する調査をしたり、さらに別のプロジェクトも動いていたりというのが重なり、かなりてんやわんやになりました。何とか全部やり終えましたが、複数の事態が同時に発生すると大変ですね。
起業に至るまでの期間
佐野:現地の課題やニーズをどのようにヒアリングされましたか?また現地で起業するまでどのくらい時間がかかりましたか?
山口:前職を退職して、3ヶ月ぐらいは町を歩き回って、オーナーさんにインタビューをしていました。その期間に並行して開発を進め、先々月リリースしたので、起業〜サービスローンチまでは実質3ヶ月くらいですね。
実は元々ビジネスオーナー向けではなく個人向けの家計簿アプリを開発しようとしていました。みんなが日銭に困っている姿を目の前で見ていたので。
しかし、ビジネスオーナーにインタビューしていくにつれて、個人とビジネスの垣根が曖昧で、個人でもビジネスをやっているケースが多かったため、ビジネスオーナー向けに舵を切るほうが事業として成立すると思いました。
古田:私も当初は都市向けに健康診断関連の事業を行うつもりでしたが、ペイできる形にはならないと思い、事業の方向性を変えました。次に救急車を派遣するモデルも考えたり、色々と複数のプランを練りながら、今のビジネスモデルに落ち着きました。
現地マーケットに入り込む工夫
佐野:現地の方に面白いと感じてもらう、あるいは、受け入れてもらうために工夫されていることはありますか?
山口:タンザニアでは、プリペイド方式でインターネットを利用します。なのでチャージした分を使い切るとインターネットが使えなくなります。
常にインターネットを使える状況ではない人も多いので、インターネット環境がなくても入力ができる仕組みにし、インターネットが使えるようになったタイミングでサーバーにアップロードできる形にしています。
古田:私は、想定以外でも楽しいと思っていただける要素が毎回どこにあるのかを気をつけて探っています。例えば、オペレーターである医療従事者が妊婦さんにエコーを行う際、胎児の向きや性別について説明することで、再度来院してくれることが増えたことがありました。
佐野:山口さんへの質問ですが、どんなスモールビジネスオーナーの方が導入を決めてくれていますか?またアプリの利用を継続してもらうために、どのような点を意識されていますでしょうか。
山口:導入を決めてくれるのは従業員を雇われているオーナーさんです。そして今の一番の課題がまさに「継続利用」です。現在100件ほど導入をして、毎日継続的に使用してくれているのは、10〜15件程です。何が問題点なのかを探っている状況ですが、現段階で継続率が高いのは一定規模以上の会社というのが見えてきたところです。
佐野:古田さんへのご質問ですが、政府向けのtoGビジネスでは、どのように政府とのパートナーシップを築かれたのでしょうか。
古田:最初から保健省の担当部局にアプローチをして「実証実験をやるので一緒にやりましょう!」という話をしました。先方にデメリットがなければ、共同の実証事業は難しくはないです。ただ企業によっては事業を継続的に実施しないケースも多いので、我々は現地で何度も何度も実証事業を行っているという信頼を重ね、省庁レベルでのパートナーシップに繋がりました。
パートナーとして日本企業に期待すること
佐野:今後事業を推進していく上で、パートナーとして日本の大手企業に期待することはありますか。
古田:医療機器メーカーさんなど、弊社のプラットフォームに一緒に乗っかってきてくれる方は常に募集しています。もちろん、資金的に一緒にやりましょうという方もいつでも歓迎です。
山口:普通の企業さんの手に届かない現地の小売店との関係があるので、そういったプラットフォームをうまく使い、ビジネスを一緒に作れる形がとれたらと思っています。
会計ソフトは使えば使うほどなかなかスイッチできないので、最初にどれだけシェアを取るかが大事になると思います。その中で開発を加速していきたいので、日本を含め広報回りでお手伝いしてくれる方がいたらすごく嬉しいです。
古田:うちも広報さんを探しています。また、プロダクト開発も込み入ってきて様々なタスクがあるので、一緒に管理しながらしっかり進めていける方ともご一緒したいです。財務、法務、税務など専門性のある方もお手伝いいただけるとありがたいです。
アフリカの面白さ
佐野:最後に、やっぱりアフリカのここが面白い!というお話を聞かせていただけますか。
山口:「タンザニアに来ると健康になる」という説があり、肌も綺麗になるみたいです。気候の問題なのか、心が解放されるからなのか分からないですが、鬱々とした気持ちになったらぜひタンザニアに来てください。
古田:コンゴ民主共和国に来てから、正直東京にはもう帰れないと思っています。東京は電車通勤が辛いし、夏も猛暑ですから。。
私が住んでいるところは、一年中適度な湿度で、気温もちょうどいいです。さらに、子供の教育に関しても、外国人向けの学校が割とあるため、QOL高く過ごせています。ぜひ東京に疲れた皆さんは、アフリカを選択肢に入れていただければと思います。
佐野:ディープでカオスなアフリカというお話がありましたけど、QOLがすごく高いというのがすごくいい話だなと思いました。そしてとにかく明るいパワーをもらいました。
本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
最後に
佐野:Beyond Next Venturesでは、海外展開を積極的に考えているスタートアップ向けにプログラムを提供しています。シード期からご相談可能ですので、ご興味のある方はぜひコンタクトいただけたら幸いです。
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