日本と世界のフードテックの違い。その差は埋まるのか

有馬:日本でも最近注目を集め始めている「フードテック」。ゲノム編集や培養肉など、様々な最先端テクノロジーが取り上げられ、私たちの食が大きく変革すると期待が高まっています。しかし、既にユニコーンが多く誕生している海外と比べると、日本では大きな成功事例は未だ出ていないのが現状です。

インターネット産業で他の先進国に大きな後れをとった日本は、なぜフードテックでも後れをとってしまっているのか。また、日本がグローバルでの競争力を得るチャンスはないのか?今回は日本と世界のフードテックの現状について紹介していきます。

日本と世界で異なる「食文化の差」

有馬:フードテックを語る上で欠かせないのが「食文化」です。いくら優れた商品・サービスを作っても、その国の文化にマッチしなければ受け入れられることはありません。

現在、欧州をはじめとする先進国で大きな注目を集めているのは「サステナブル」の考え方。それは食も例外ではありません。食品を選ぶ際も、リサイクル可能なパッケージであるか、食品を作る工程で環境に大きな負荷を加えていないか、チェックしてから選ぶのが常識です。

そして、サステナブルな食品として欧州の主流になっているのが「昆虫食」。これまで動物の肉から摂っていたタンパク質を昆虫で代替する流れがあり、国によっては小学校の給食で食べられるほどメジャーな食材になっています。

実は食用の動物を育てる過程では、大量の温室効果ガスが排出されたり飼料を用意するために森林開発が進んだりと様々な社会問題が引き起こされています。加えて、増え続ける人口に対して供給が追いつかず、タンパク質が不足する「プロテインクライシス」など、様々な課題を解決してくれる昆虫食に大きな期待がかかっているのです。

一方で日本の食文化はいかがでしょう。最近はサステナブルを謳う食品も多く並んでいますが「環境にいいから買おう」という風潮はまだ強くありません。どんなに環境に良くても、口に合わなければ買わないという人が大半ではないでしょうか。

それもそのはず、日本は世界で最も多くのミシュラン掲載店を有する美食大国。美味しい食事が安く手に入る日本人は、私たちが思っている以上に舌が肥えているのです。そのため、いくら環境にいい新食材があっても、美味しくなければ手に取りません。

それが、日本がフードテックに乗り遅れた要因の一つでもあり、これから超えなければいけない壁でもあります。

日本が武器にすべきは「こだわり」

有馬:フードテックに乗り遅れた日本ですが、グローバル市場で勝ち目がないわけではありません。他国と同じ道を辿って追いつくのは難しいですが、日本は日本の武器で戦っていけばいいのです。

その日本の武器となるのが「こだわり」です。世界の富裕層がわざわざ日本の食材を買い付けにくるほど、美味しさを追求した日本の食品は世界でも人気が高いです。その美味しさの背景にあるのは、日本人の「美味しいものを作りたい」というこだわりです。

日本で生まれ育った私たちにとっては当たり前のように感じるかもしれませんが、そのようなこだわりを持って野菜や果物を育てている国は、実は多くありません。海外の農家が主に考えているのは売上を増やすために、いかに量産化してコストを抑えるかどうか。美味しさや消費者目線は二の次という農家は意外に多いのです。

この日本農家の特色を活かさない手はありません。日本のフードテックがグローバルで競争力を得ていくには、効率性や量産化だけでなく、味へのこだわりが一つの活路になっていくと信じています。

日本の優れた流通技術がイノベーションを遅らせる要因に

有馬:食文化に加えて、日本のフードテックを遅らせた要因の一つが日本の流通技術です。日本のコールドチェーン(生鮮食品や医薬品などを生産・輸送・消費の過程で途切れることなく低温に保つ物流方式)における技術は世界でも圧倒的な高さを誇ります。

そのおかげで私たちはコンビニでもスーパーでも、新鮮で美味しい野菜や果物を容易に手に入れられるのです。日本では当たり前のように感じるかもしれませんが、世界を見てもこんな国はありません。アメリカではカリフォルニアで育てた野菜や果物をニューヨークに運ぶ過程で鮮度が落ちるため、ニューヨークで新鮮で美味しい野菜や果物を口にするのは簡単ではありません。

アメリカでもそのような状況なのですから、途上国や他の先進国でも同様の問題を抱えているのは当然のこと。そのため野菜や果物を新鮮で美味しく保存するための技術や、屋内で作物を育てる技術に投資が集まり、フードテックが盛り上がっているのです。

スタートアップ成長の鍵は大企業による投資

有馬:日本のフードテックが遅れている要因について紹介しましたが、最大の要因はスタートアップへの出資が足りていないことでしょう。フードテックに限りませんが、今でも日本のスタートアップへの投資額はアメリカの10分の1。それはそのままスタートアップの成長にも大きく影響します。

しかし、最近の傾向を見ると徐々にフードテックに投資する事業会社は増えています。これまで海のものとも山のものともわからなかったフードテックに、我々VCが積極的に投資しているのを見て、投資する大企業が増えたのです。実際に「BNVが投資しているから投資した」と言われることも少なくありません

現在は食品業界からの投資が多いですが、今後は異業界からの投資も増えていくでしょう。フードテックは様々な切り口があるため、投資を足がかりに参入を狙っている異業界の大企業も少なくありません。より多くの業界から参入が増えれば、それだけスタートアップへの出資額も増えていくでしょう。

また、大企業が参入してくるということは、投資額が増えるだけなくオープンイノベーションのチャンスも増えるということ。大企業との共創を実現することで、これまでにない成長を期待できるでしょう。

直近の目標は日本のアグリ・フード領域でGAFAを作ること

有馬:日本のフードテックを盛り上げていくために、投資家である私ができるのは一刻も早く成功事例を作ること。シリコンバレーがスタートアップの聖地になったのも、GAFAが成功し、それに続くスタートアップが次々に誕生したからです。

同じように、フードテックでもGAFA級の企業を生み出し、そのメガベンチャーがまた次のフードテックスタートアップに投資をする。そんな循環を生み出すことが私の目標です。そのためにするべきことは、たくさんの企業に分散して投資するのではなく、業界のトップランナーになる見込みのある企業を集中して支援することだと思っています。

アグリ・フード領域のビジネスには異業種から参入される方も多いですし、コマース向けである以上、マーケティングや経営の感度が高い方が絶対的に必要な事業領域です。

弊社では、研究者の方向けにスタートアップ起業を通じた実用化を支援する「BRAVE」をはじめ、異業種の方や研究畑ではないビジネスパーソンの方が本領域で起業するためのプログラム「APOLLO」等も提供していますので、食農分野から社会をより良くしたい研究者の方や起業家の方は、ぜひ一度BNVに相談にきてください!

Akito Arima

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