アグリテック・フードテックShowcase2021:第1回 スタートアップが “農業”を変える

本記事は、2021年8月~12月に開催された「Agri/Food Tech Startup Showcase2021」の「第1回:スタートアップが、“農業”を変える」のイベントレポートです。次世代の食・農をテクノロジーでリードするスタートアップ「グランドグリーン」「AGRIST」「テラスマイル」「TOWING」の経営陣×VCの対談をぜひご覧ください。

第一部:農業スタートアップへの投資トレンド

有馬:近年SDGsの流れが追い風となり、環境や食料危機への意識が高まる中、世界中でアグリ・フードテックスタートアップへの投資額が増えています。世界全体では2018年以降毎年2兆円規模の投資が行われています。また、ESG投資・インパクト投資の文脈でも注目を集めています。

国別の投資額としては、米国・中国・インドがランキング上位に入ってきていますが、日本は20位前後に留まります。これは、就農人口の減少と高齢化の影響、アメリカに比べると小規模世帯が多いこと、低所得などがネックで新規参入が増えづらい、などといった業界の構造が起因しています。一方、国内のスマート農業市場は年々成長を続けていたりします。この領域では生産プラットフォームから植物工場まで様々な技術が成長していくと予想されています。

個別事例として、アメリカではインディゴ・アグリカルチャー社がユニコーン入りを果たしました。インドでは、DeHaat社が同国最大規模となる1億1500万ドル(約131億円)の資金を調達しました。日本でも、続々とアグリテックスタートアップが登場しています。今日は、本領域をけん引する先端スタートアップ4社の方々にお越しいただきました!

第二部:パネルディスカッション「スタートアップが農業を変える」

<インタビュー対象者>

グランドグリーン株式会社 代表取締役 丹羽 優喜氏
AGRIST株式会社 取締役COO 高橋 慶彦氏
テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒 祐一氏
株式会社TOWING 代表取締役 西田 宏平氏

パネルディスカッション前に行った各社の10分ピッチ動画はこちら

グランドグリーン
AGRIST
テラスマイル
TOWING

海外市場進出の考え方について

有馬:現在国内での事業展開が中心だと思いますが、海外市場への進出についてはどのように考えていますか?

丹羽:農業はその土地に根付いたものなので、日本で作った品種をそのまま海外で作ってもパフォーマンスを発揮しないケースもあります。なので、その国にあった品種をベースに我々の技術を乗せて、新しい品種を展開していこうと考えています。

高橋:JICAさんと連携しながら海外の社会課題(食糧危機・飢餓)の解決に向けて動き始めたところです。我々の課題は「僕たちの生産システムをどう海外で作っていくか?」「食料・作物自体の栄養価や生産性をどうあげていくか?」です。これまで種苗の進化に長い時間がかかっていたところを、テクノロジーで進化させることができばすごくインパクトがあるのではないかと思っています。

プロダクトローンチや導入までの苦労話

丹羽:大学の研究開発の発想と、実用化を目指すうえでの発想は、見据えているゴールや方向性が違います。私も元々大学の研究者ですが、その的を外さないように意識してきました。大学視点ではなく、「利用者にとって実際に使える技術かどうか」を意識してきたのが、ここまで歩んでこれた理由だと思っています。

高橋: 私たちはまだ苦労のど真ん中にいますが(笑)、いま宮崎県新富町で農家さんのハウス横で開発・改良をしています。スタートアップはステークホルダーのことを気にしなければいけないのですが、一番大事なのは顧客と向き合うこと。アグリテック、特にハードテックの領域は、現場にいることが必要です。現場でどれだけ試して、顧客の声をどれだけ聞いて、どれだけ早く反映していくかをやり続けることがすごく重要だと思っています。

有馬:現場の声はすごく大事ですよね。農業の現場にいない方々が、外部から見て評価をするプロダクトと、現場が評価するプロダクトは全然違うなという印象を僕も持っています。現場のニーズに合致していないと導入まで至らないと思います。

生駒:アグリ領域の経営者は、ヒト・モノ・カネを用意して事業を立ち上げないといけないですが、(事業を展開する)地域には人やお金がなく、あるのは農業の現場のみという状況です。

そのような状況下で農家に寄り添うわけですが、もし間違った方にニーズを聞いてしまうと事業が終わってしまうことも…。なので、自分たちが必要とされるターゲットをしっかり具体的に定めていかないといけません。自分たちは今創業8年目で、今でこそ言えますけど、相当苦労しました。

そして最後にお金。投資家はどうしても事業の時間軸とスケールに着眼してしまうと思いますが、農業は1年1作で時間がかかりますし、彼らの求めるものとはギャップが大きいです。スタートアップが取り組む社会性や価値にいち早く気づき、投資をしてもらえるようになると嬉しいと思っています。

西田:ニーズを誰に聞くかというところでは、私も間違いまくりまして、事業初期のヒアリング調査は苦労しました。うちの技術は有機肥料を活用した作物栽培に関連する技術なので、有機農家さんはのどから手が出るくらいほしいだろうと想像し、日本全国の有機農家さんにヒアリングしまくりました。が、想定は外れ、どの農家さんも「うちはこの土でやってるんだ」「新しい技術はいらん」という反応ばかりでした。

そこから方向転換をして、新規就農者の方や、二代目経営者で新しい技術を導入した方にヒアリングすると、違うニーズが見えてきました。土づくりのどこに課題とニーズがあるのか、うちの技術ではどんな場面で強みが発揮できるのか、徐々に分かってきました。適切な対象を定めたうえでそれに合致した現場の方に話を聞くことは本当に大事です。

あともう一つは、農家さんにとって技術自体の理解が難しいという点。丁寧にどう価値を伝え理解していただくかも重要だと思います。

アグリテックの楽しいこと、うれしい場面

有馬:アグリ・フードテック領域に、農業のバックグランドを持たない方々が増えてますよね。皆さんが実際に「飛び込んでどう楽しかったのか」「どうして飛び込んだのか」をお聞かせください。

高橋:自分は農業とは畑違いのところにいて、かつテクノロジーを持っている人間でもありません。ではなぜやっているかというと、農業を通じて地域の課題を真っ向から解決することで、その地域を持続可能にできるからです。

あとは、このままいくと“本当にまずいぞ”という危機感もあります。自社の活動によって世界が変わるんじゃないかというワクワク感を農家さんと共有できたことが自分の中では大きかったです。

楽しい・うれしい瞬間は、日々農家さんの課題を一つ一つ解決するために楽しそうに仕事しているエンジニアたちを見るのが、すごく自分の中では心が満たされる時間です。恐らく最高の時間は、一緒にロボット開発をしていただいる農家さんが「高橋くん、儲かってしょうがねえわ」と言ってくれる瞬間だと思っています。そのために頑張ります!

生駒:自分が日々願っていること、感謝をしていることが5つあります。
1つ目は、社会を良くしましょうという気持ち
2つ目は、顧客の成長
3つ目は、投資家さんへの感謝
4つ目は、社員が安心して働けること
そして5つ目は、家族に対する感謝

自分は、多くの方々に支えられていることが日々のうれしいことですかね。毎日事件しか起こらない日々ですが(笑)、そういう支えがあるからこそ楽しめております。

西田:私は自社技術を活用した新しい栽培システムで様々な作物を育てていますが、できた作物を一番最初に食べられるんです!(笑)直近では、月の土を模擬した作物栽培処方を開発していて、そこで初めて成功した小松菜を一番最初に私が食べました。日々育っている作物を見るのも楽しいです。

アグリテックの業界に入った理由は、宇宙農業のシステムを開発したいという強い気持ちからです。私は周囲と協力して色々な人と手を結んでやるのが好きなので、そういう方たちと一緒に難しい課題を解決していけるのはとても楽しいです。

丹羽:私は元々研究者なので、エンジニア視点で技術的なブレークスルーがあるとうれしくて。もう一つは、この領域で事業をしていて思うのは「農業は文化」なんですよね。人類が連綿として続けてきた生業をこの先どうしていくのかということに頭を使っています。

その中で、我々は新しい作物の多様性を生み出すことに寄与していて、品種を作り我が子のようにデビューさせていきたい。まだ全面的にではないですが徐々にでき始めています。多様な特徴や彩りをもった作物を、新しい人類の文化として生み出せる日がきたら、その時の感動はひとしおだろうなと思います。

有馬:ご登壇の皆様、ありがとうございました。本日は、事業会社、政府・自治体、農家、個人の方々など多くの方がおられるのですが、皆さまとの連携が重要な領域だと思っています。今後、アグリ・フードテック領域の未来に向けてご一緒できるとうれしいです。本日はありがとうございました!

最後に

Beyond Next Venturesでは、アグリ・フード領域をはじめ、医療、AI、エレクトロニクス、IT領域などにおける研究開発型スタートアップ・大学発ベンチャーへの出資・ハンズオン支援、創業前の研究シーズの事業化支援、起業や経営に興味のあるビジネスパーソンのキャリア支援活動などを行っています。

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Akito Arima

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