アグリテック・フードテックShowcase2021:第2回 スタートアップが “発酵”を変える

本記事は、2021年8月~12月に開催された「Agri/Food Tech Startup Showcase2021」の「第2回:スタートアップが、“発酵”を変える」のイベントレポートです。次世代の食・農をテクノロジーでリードするスタートアップ「エシカル・スピリッツ」「ミートエポック」「ファーメンステーション」の経営陣×VCの対談をぜひご覧ください。

第一部:日本で発酵産業が発展した背景

有馬:発酵とは、微生物が行なう有益な行為のことで、麹、酵母、乳酸菌を用いた発酵食は、私たちの身近に広く存在しています。現代の発酵は発酵科学として衣料品、和紙、漆器、土壁、さらに農業、エネルギーといった様々な分野にまで広がっています。

元々日本は海に囲まれ、昔から魚を保存するために塩を使い、発酵に適していました。また温暖が気候で有用なカビが繁殖しやすく、この環境が発酵大国としての成長を支えてきた、という背景があります。こういった古来から培われた発酵の技術が、日本の文化として世界に発信され始めています。

本日は、発酵に関わる魅力的な会社様にご登壇いただき、発酵の魅力について色々お話していきます!

第二部:パネルディスカッション「スタートアップが発酵を変える」

<インタビュー対象者>

エシカル・スピリッツ株式会社 代表取締役CEO 山本 祐也氏
株式会社ミートエポック 代表取締役 跡部 美樹雄氏
株式会社ファーメンステーション 取締役COO 北畠 勝太氏

 

パネルディスカッション前に行った各社の10分ピッチ動画はこちら

エシカル・スピリッツ
ミートエポック
ファーメンステーション

 

発酵技術の海外進出・グローバル化

有馬:現在国内での事業展開が中心だと思いますが、今後海外市場で戦っていくにあたり、自社の強み、優位性、戦略はどのようにお考えですか?

山本:やはりクオリティの高い製品をちゃんと作るというところですね。戦略としては、スピリッツのように既存の市場に挑む部分と、新しい市場を作っていく2つのケースがあります。

前者は国によって、「サステナブル」か、「味」か、消費者の嗜好が異なる中で我々は独自の素材を使うことで、色々表現ができる、引き出しが多いといった部分で優位性があると考えています。後者はマーケットにおける最初のプレイヤーなので、それ自体が差別化になるので、ベンチマークはあまりいないです。

北畠:サステナビリティへの理解は、ヨーロッパを中心に先行している部分があるので、日本と同時並行で展開する。場合によってはヨーロッパで先行し逆輸入という選択肢も必要なのかと考えています。

跡部:日本において、質の高い食材(の確保)に困っている人は少ないと考えています。一方、海外では物流のレベルが低い傾向にあるので、当社のシートを活用することで、美味しい食材を末端まで届けることができます。実際に海外の方と取引する中でもこういうニーズを感じています。

有馬さんのおっしゃる通り、海外で発酵はあまりないんです。そこで逆に日本の菌を持っていき、活用する方法もあり、今後海外での発酵市場でも挑戦できるのではと思っています。

発酵の魅力と事業化への道のり

山本:私は元々日本酒を作る立場で発酵に関わっていました。蒸留と違う点、そして私たちが扱っている発酵の良い点は、再現性が高すぎないことだと思います。気候や生産者ごとに味に違いが出て、良さがある。

一方、蒸留酒はコントロールしやすさがあり、目指すクオリティにピタっとはまる部分が楽しい。それぞれ楽しさがある中で、嗜好性商品としては完成度に幅があるところに消費者が面白いと感じてくれている部分もあり、面白いです。エシカル・スピリッツのローンチまでは、事前に構想を持っていたこともあり、杜氏(※)とのミーティングから3か月後に登記とプロダクトができましたね。

※ 杜氏:とうじ。日本酒の醸造工程を行う職人集団をさす。

北畠:これまで技術の積み重ねに時間をかけてきましたが、今後事業を進めていく上では、未利用資源をアップサイクルした商品にどう付加価値をつけてマーケットを作っていくかという点がチャレンジです。汎用的な商品は、製造コストの点から価格勝負で苦労しやすい。高い付加価値をつけようすると市場が限られスケールしづらい。どちらに進んでも茨の道という状況に陥りやすく、スタートアップとしてのチャレンジですね。

跡部:元々私は飲食業で生きてきましたが、熟成肉の店をオープンし、美味しい食材を提供しようとしたとき、菌が関係しているんじゃないかと思ったんですね。そこで、菌に詳しい方を探したときに村上教授(※)との引き合わせがあり、共同研究がスタートしました。
※ミートエポック現取締役、明治大学教授 村上周一郎氏

それまで自然浮遊している菌を使って塾生をしていたので、良い菌だけでなく悪い菌も付いている可能性がありました。そこでこの(良い菌のみを活用する)エイジングシートを開発しました。

開発後も、産地が異なる肉、種の違う肉でも同じように仕上げるための技術、シートを使いこなす方法についてひたすら知見を集めるのに苦労しました。シート開発から7年経つのですが、最近穀物等にも使えるのが分かったのが、ここ1年くらいでした。

有馬:7年ってすごいですね。発酵は時間かかりますね。

一番嬉しい瞬間と苦労話

山本:嬉しかったのは消費者からの評価ですね。コンペティションでの評価もそうですが、最終的には買って飲んでくれた方の評価、あと生産者の方の評価。「捨てるはずだったものがこんなに美味しいの?」って。

辛いことは今のところあまりなく、やらないといけないハードルの高さはありますが、社内でもあまり辛いと感じる人がいないというのはありますね。

北畠:私たちのユニークなところは、米の生産者さんから大企業の方々までバリューチェーンが長いところです。当然商品を買っていただけると嬉しいですが、同時に生産者さんにもスポットライトがあたるのも嬉しい。我々だけじゃなく関係者全体として、前に進んでいくのが楽しいところですかね。

苦労は、苦労というよりスタートアップとしてのチャレンジは数多くありますね。そういう課題がないとスタートアップやる意味ないですから(笑)

跡部:嬉しかったことは、使用していただいた方が「シートがあって良かった」と言ってくださる時や喜んでくれた時ですかね。苦労については、飲食の人ほど菌に対して疎いんです。発酵と腐敗が同じラインなんですよね。そこの違いをいかに理解してもらうかというところで頭を悩ませました。

有馬:ご登壇者の皆様、貴重なお話をありがとうございました!本日ご参加いただいている方には、事業会社、政府・自治体、農家、個人の方々など多くの方がおられますが、皆さまとの連携が重要な領域だと思っています。今後、アグリフードテック領域の未来に向けてご一緒できるとうれしいです。

最後に

Beyond Next Venturesでは、アグリ・フード領域をはじめ、医療、AI、エレクトロニクス、IT領域などにおける研究開発型スタートアップ・大学発ベンチャーへの出資・ハンズオン支援、創業前の研究シーズの事業化支援、起業や経営に興味のあるビジネスパーソンのキャリア支援活動などを行っています。

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Akito Arima

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