本記事は、2021年8月~12月に開催された「Agri/Food Tech Startup Showcase2021」の「第3回:スタートアップが、“水産”を変える」のイベントレポートです。次世代の食・農をテクノロジーでリードするスタートアップ「リージョナルフィッシュ」「ARK」「Re:Blue」の経営陣×VCの対談をぜひご覧ください。
第一部:日本の水産業の現状、課題
有馬:日本の漁業の生産額は1兆5579億円です。また世界第6位の広さの排他的経済水域を持っていることや、1日1人あたりの魚介類消費量が諸外国と比べ非常に多いことから、日本は水産大国と言われています。(※農林水産省の資料より)
一方で課題もいくつかあります。
- 排他的経済水域の設定により、遠洋・沖合漁業が衰退傾向にあること
- 魚介類の消費量が多いものの、半分を輸入に依存していること
- 魚→肉へ消費者の嗜好が移っていること
- 所得の減少による漁業就業者の減少、高齢化傾向にあること
- 高いランニングコストに起因する、個人経営の養殖経営体の減少
こういった沢山の課題がある中で、今後の水産業においては、養殖による高効率×高所得×高収量が今後のカギになると個人的には考えています。
世界で増加する魚の消費量
世界においては魚の消費量・生産量ともに増加していることから、漁業は成長産業です。例えば、ノルウェーではアトランティックサーモンの高効率な成育システムや政府主導の養殖業の大規模化が進んでいます。ニュージーランドでは、漁獲枠の証券化・投下資本の増加によって高単価路線の経営を行ない、輸出金額を増加させています。
日本でも、漁業を成長産業にすることを目指し、新漁業法が2020年12月より施行されました。令和5年度(2023年)までに資源評価種を200種程度に拡大、早い者勝ちな現状を変えるためのTACによる漁獲量の個別割当てなど、持続可能な漁業体制の構築が行われ始めています。
今後成長産業として色々期待できる養殖について、第二部では3名のゲストと共に深掘りしていきます!
第二部:パネルディスカッション「スタートアップが水産を変える」
<インタビュー対象者>
リージョナルフィッシュ株式会社 代表取締役 梅川 忠典氏
株式会社Re:Blue 代表取締役 早川 尚吾氏
株式会社ARK 共同創業者・取締役・Chief Sustainability Officer 栗原 洋介氏
水産ビジネスの機会、日本と海外の比較
梅川:私はビジネスがしやすいと思います。養殖技術者と積極的に連携するなかで、ボトルネックを意外にクリアに分かっていらっしゃるので、「では一緒に開発しましょうか」という流れにもっていきやすいです。逆に海外だと大手企業が技術を自社に抱き込んでしまおうという考えがあるのですが、日本は漁協単位で使っていこうという動きがあります。さらにこのコロナの情勢が、ある種彼らの危機感を煽っているというのもありますね。何かしなきゃ、みたいな。
早川:人間的にいい意味で古くて面白い方が多い業界だと思います。事業を営む徳島では皆さん温かく見守ってくださる印象があり、おかげ様で事業を進められています。また、産地として(牡蠣は)広島が圧倒的に一番なので、大きい産地と連携することは大事だと思います。
栗原:同じ水産でも、漁船漁業・内水面・陸上と課題は違うと思いますが、我々はハードウェアのメーカーなので、メイド・イン・ジャパンであることが信用度の面で重要性があると考えています。
一方で、閉鎖式の陸上養殖という面では、海外は中規模・大規模化が進んでいる中で、我々のような小型分散型は、少ないイメージがあります。我々の戦略として海外進出を掲げているのは、我々の事業モデル的にロットをより多く出荷し、売価を市場にフィットさせていく必要があります。そこで人口が減少している日本市場だけでなく、人口が増えている海外諸国をターゲットにして製品を磨き上げていくのは非常に重要な視点だと思っています。
養殖のキーポイントは?
梅川:種苗のポテンシャルがすごく高いと思っています。例えば陸上養殖の場合、特に固定費の割合が高いんです。2倍速で育つトラフグを作った場合、1/2の期間で出荷するので固定費も1/2になるんですよ。そしたらコスト構造がガラッと変わってペイできますよね。そういう意味から種苗が大事ですし、実際に他の農業や畜産はそうしてきました。ですが水産はまだ天然種苗が多い現状があるので、種苗がカギだと思っています。
また、養殖産業全体としては、昔ながらの簡易な技術を使っている傾向が強く、マーケットも小さかったため、新しい技術の参入も少ない領域でした。そこに高度な技術をもったプレイヤー、さらに大企業もどんどん参入することで、産業自体がかなり進歩するのでは、と期待しています。
早川:我々も種苗生産をする身としては、種苗生産ができるという立ち位置でかつ養殖ができるというのがキーポイントかなと思います。
養殖関連では場所に縛られずに養殖されている漁師さんは少ないなと。企業になると複数拠点を構えられますが、個人や漁協単位だと場所がどうしても限定的になるのが、一つボトルネックだと考えています。多拠点養殖の展開というところでしょうか。
栗原:梅川さん、早川さんのおっしゃる通りだと思います。別の視点で申しますと、「できあがった成魚の高付加価値化」だと思います。
出口の値段が上がらないと産業全体が高収益化されません。日本には基本的に天然信仰が根強くあります。確かに「ナチュラル」は一つの大きな付加価値ですが、「天然」「養殖」の二者択一ではなく、近代マグロのような第三軸=独自の価値路線を作っていくのが、我々の陸上養殖など新しい産業においては特に重要だと思います。
欧州では認証をつけることで「天然」「養殖」とは異なる「サステナブル」のブランド化が始まっています。日本ではサステナビリティが担保されているものにお金を支払うところまで至っていないと思いますが、今後「サステナブル」のような新しい価値軸が必要だと思っています。
ベンチマークにしている会社は?
梅川:米国にAquaBounty Technologiesという会社があります。遺伝子組換えサーモン、ゲノム編集のティラピアもやっていて、我々の唯一の競合にあたる会社です。面白いのが、2009年から2017年まで売上が0で、現時点においても売上高は1,400万円で赤字が17億。でも上場もしてて、時価総額が490億も付いてます。それはなぜかというと、将来にそれだけの期待がされているから。将来性を見たような上場を自分達も果たさなきゃいけないし、皆さんにそういう未来を見せていく必要があると思って、ベンチマークにしてます。
早川:牡蠣事業分野における種苗生産やシングルシード方式は海外のほうが先行しています。例えばアメリカのHog Island Oysterというところは、ほぼ我々と同じスキームの事業です。彼らの特徴はサステナビリティをすごく押し出しています。「良い牡蠣ができることは当たり前で、かつ、環境にとっても良いことができる産業」という打ち出し方をしているのは、我々も目指したい姿です。
栗原:尊敬する会社では、トヨタさん、日産さん、マツダさんといった日本を代表する車メーカーさんですね。あと日々トンカチ打ち付ける中で使っているマキタさんをはじめ、クボタさん、ヤンマーさん、ヤマハさんといった発動機メーカーさんもそうです。
競合については、欧州ではエビに限らずヒラメやスズキを大規模で養殖している会社があります。近めの規模感ではドイツに1社ありますが、まだ安定したビジネスができていない印象です。アカデミアの研究開発が発展途上という点で、我々含めまだまだこれからの領域かなと思います。
フードテック・アグリテックに限らず、日本のベンチャーや資本市場を見ると、国内の規模がやっぱり小さいなと。「資本市場」という括りでベンチマークしている会社は、ドイツのInfarmという垂直水耕栽培の会社ですかね。シリーズAで2桁億、シリーズBや上場になると3桁億、4桁億に上がっていくような企業が当たり前になりつつある中で、我々のような日本のベンチャーとVCが、「共にどうやって海外の資本を集め、海外の市場を取りに行くのか」というところが課題だと思います。
有馬:バリュエーションとか調達額は一桁違いますもんね。マーケットに準じた価格ではあるので、日本全体の底上げが必要ですよね。
事業会社と取り組みときのポイント
梅川:前職時代からオープンイノベーションが大事だと思っています。最近大企業も陸上養殖に参入され始めていますが、同じような分野の同じような研究に研究費を投じるのは、めちゃくちゃ無駄だと思っているので、「だったら一緒にやりましょうよ」と。特にゲノム編集の分野は、水産は非常に少ない中で、各自会社作って経営者連れてきて資金調達して…というのはとても非効率なので。
そこで我々ができることは、売上面では到底貢献できないんですよ。協業とかも彼らの期待する3桁億円みたいな話には中々ならない。だったらせめて資本業務提携という形で我々に資本出してもらって、結局キャピタルゲインとしてお返しできるような、業務提携から資本業務提携に移行できるような話にもっていくことが大事だと思っています。今20社くらい連携してますけど、資本業務提携に移行したのが3社くらいというところです。
早川:私がいわゆるトヨタ生産方式とか、改善とか、最前線にいたこともあってトヨタさんとはグイグイやってます。自助努力でできない部分はまさにオープンイノベーションが必要だと思っていて、特に一見関係なさそうな会社と具体的な連携ができるかを模索するのは非常に重要視しています。そのために我々は何ができるのか、現在のネックはどこなのか、を社内の共通言語として見える化することを重要視していますし、業務提携をしている会社、検討いただいている会社にもそれをきちんと伝えるように心掛けています。
栗原:徐々に大企業さんからお声がけいただくことが増えてきました。事業会社を見るときのポイント1つ目は、「大企業側の担当者が属人的かどうか」です。一歩ルーティンワークから外れて我々と事業や実証実験をやりたいと思っているかどうか、情熱があるのか、情熱をバックアップするお金と時間があるのか、という点は見ています。実際に担当者の方が社内での反対を押しのけて提案してきてくれるほど個人的な熱を持っていらっしゃるケースもあり、そういう方と一緒に仕事をしたいですね。
2つ目は、大企業はおよそ3年単位で大きな人事異動があると思います。しかし、僕らは始めたらやめられないので、3年すると積極的な担当者が交代になるかもしれない。だから、残された期間で我々がどういう成果を出すのかという点。
3点目は、取り組みの結果を時間軸と成果として何を据えるのかが大きいと思っています。つまり、大企業側が我々との資本業務提携を通して、人的投資や時間的投資をしていただいて、結果として大企業側の時価総額が上がっていくことが、ベンチャー側の指標になるかなと思います。
異業種からの参入についてメッセージ
有馬:今後皆さまのように異業種から水産という業界に参入したい方にメッセージをいただけますか?
梅川:私は水産業以外の方々が入ってくれるほうが、既存の枠組みに囚われないイノベーションが起こると思っています。我々は相当連携していますが、養殖以外の水産業者とは連携していなかったりするんですね。彼ら(養殖以外の水産業者)はこれまでの失敗した経験や知見がすごく貯まっているんですよ。なので、我々の事業に対してできない理由を述べてくるんですね。で、確かにできないかもしれないんですけど、できないことをできるようにするのがベンチャー企業じゃないですか。なので、異業種からの参入というところでは、今までその業界で10億の売上を100億にする事業をやってこられた方ではなく、別の事業で0を10億にする事業をやってこられた方のほうがチャンスがあるんじゃないかと思っています。
早川:僕も同じでして、私自身水産に携わるなんて夢にも思ってなかったですし、幼少の頃から海に入ることも好きじゃなかったですし、サーフィンも全くしません(笑)。そんな僕でも水産という業界に飛び込んで、のめり込むほどにやれています。たまたま養殖業だったということかもしれませんが、飛び込んでみた結果、人生を賭けるに値する産業だとも思いますので、色々な知見をもっている方々の参入をお待ちしています。
栗原:私も異業種からの人間なので、梅川さん早川さんと同意見なんですけど、先入観がないからこその新しい発見があると思います。あとは、志を共にした仲間がいることは非常に大事で、どこかタイミングがあった時に一緒にチャレンジできる方がいるといいかな、と思います。
有馬:本当に私自身も水産業と全く関係ない方が入ることで新しい発見があると思いますし、本日ご登壇いただいたようなスタートアップにジョインすることで、バリューアップしていけるんじゃないかと思います。本日は色々お話を伺えることができて、面白かったです。今後皆様のさらなるご発展をお祈りしています。ありがとうございました。
最後に
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