シード期のディープテック・スタートアップに投資をするベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesがお届けする「DEEP TECH PIONEERS」シリーズ。BNVメンバーがそのディープテックの魅力や起業/経営参画ストーリーを、研究者・起業家・経営者にインタビューする企画です。
今回は、前回に引き続き石川県立大学発の合成生物スタートアップ、ファーメランタ株式会社代表取締役CEOの柊崎庄吾氏に話を聞きました。前回の記事では、「金融業界からディープテックスタートアップのCEOになった理由」について伺いましたが、今回は「人生をかけたいと思う起業テーマの見つけ方」について深掘りしました。
起業を考えている方、起業テーマが見つからずに悩んでいる方は参考にしてください。
プロフィール
柊崎 庄吾ファーメランタ株式会社 代表取締役CEO
ファーメランタ株式会社代表取締役CEO。バークレイズ証券株式会社に新卒入社し、その後ドイツ証券株式会社へ。一貫して、投資銀行部門にて消費財セクターにおけるクロスボーダーM&Aや資金調達のアドバイザリー業務に従事。合成生物学の技術的可能性に強い関心を持ち、共同創業者である南・中川と出会い、ファーメランタ株式会社を設立。東京大学経済学部金融学科卒業。NEDO SSA(研究開発型スタートアップ支援)フェロー。
起業テーマを見つけるには「とにかく情報に触れること」
(三國)起業のテーマを探しているビジネスパーソンがすべきことがあれば教えてください。
柊崎:とにかく情報に触れることです。人の発想というのは、それまで触れてきた情報の域を超えることはありません。そのため、いかに情報の引き出しを広げていくかが、発想を広げるために大事になっていきます。
私自身も、起業テーマを探すために、サイエンスはもちろん異分野の情報も積極的に取り入れるようにしていました。情報の引き出しを増やすことで、それらが繋がっていき、人生をかけたいと思うような起業テーマが見つかりやすくなるはずです。
情報収集の際に意識していたことはありますか?
柊崎:情報の幅に制限を設けないことです。人はどうしても自分の興味関心のある情報ばかりを取り入れてしまうものです。本屋に行けばいつも似たような本を手に取ってしまうように。これは無意識が働いているために起きることで、そうすることで情報に偏りが出てしまいます。できるだけ幅広い情報に触れるために、無意識についても勉強し、情報の幅を制限しないように意識していました。
未来からの逆算で、本質的なテーマが見つかる
実際に行っていた情報収集の方法を教えてください。
柊崎:私が学生の時から行っているのは、様々な分野の情報がまとまっている書籍を読むことです。たとえば最近は「未来年表」といった本がよく売られていますよね。「2050年はこんな世界になっている」という未来の世界が描かれている本です。
そのような本には産業別に最新技術などが紹介されているため、広く浅く技術について触れることができます。そのような本を読んで、興味関心を持った技術や産業について深掘りしていく、という手順で情報収集をしていました。
まずは未来を知ることが大事なのですね。
柊崎:そうですね。そのような未来年表は頭のいい人達が予測しているため実現する可能性も高いですし、いい未来と悪い未来の両方を知ることができます。それを知った上で、どのような未来に「コミットしたい」もしくは「防ぎたい」かを考えれば、自然とテーマも見えてくると思いますし、そのようにして見つけたテーマは、3年で収益化できるような短期的なものではないかもしれませんが、長きに渡って社会に貢献できるものになると思います。
短期の収益化や売上以上に長期目線で考えられるようになった背景を聞かせてください。
柊崎:語弊を恐れずにいえば、私自身が小さなころから恵まれた環境で育ち、かつそれを自覚できたからだと思います。小さなころから世界を回ってみたことで、いかに自分が恵まれているかを痛感させられる風景をいくつも見てきました。
自分が恵まれているからこそ、自分を満たすためではなく、周りに貢献することを考える。そのような環境で育ててくれた両親には本当に感謝しています。そこに好奇心旺盛な性格も相まって、様々な書籍を読みながら、社会に貢献するためにどんな技術があるのか関心を深めるようになったのだと思います。
情報に触れる→考え抜く、を繰り返す
起業テーマ探しに向けて情報収集以外にやるべきことは何かありますか?
柊崎:過去の自分を振り返って思うのは、起業テーマを探しても見つからないという人は、実は真剣に考えていません。たとえば私は学生時代に100個以上のビジネスアイデアを考えましたが、それらはどれも真剣に考えたものではなく、「アイデアを出す」という作業をしただけだったように思います。そのため、本当に世の中を変えるような良いアイデアは一つもなかったですし、すぐに起業しようと社会に出ても、結局何年も企業で働くことになりました。本気で起業テーマを見つけたいと思うのであれば、「考える」ということにもっと真剣に取り組んでみてください。
考えを深めるために意識していることはありますか?
柊崎:繰り返しになりますが、情報に触れることです。起業テーマを見つけるというのは、無意識を意識化しなければなりません。多くの情報に触れた後にやることは、自己分析です。自分がどんなことに興味関心があるのかを分析し、自分の内面を深く知ることが重要です。
さらに、自分の人生を振り返ることもおすすめです。たとえば過去の経験は自分にどんな意味をもたらしたのか、今ならどう考えどんな行動を起こすのか、考えてみるのです。そうすることで、自分の行動パターンが見えてきて、本当に興味関心のあることがらが見えてくると思います。
トップ研究者との出会い方
ファーメランタのコア技術を有する研究者とは、どのように出会いましたか?
柊崎:私はBNVさんの「INNOVATION LEADERS PROGRAM」の第11期に参加しました。ILPでは、私のようなディープテック領域で起業したいビジネスパーソンを募集しており、採択されると国内トップ研究者とのマッチングと2か月の創業体験を提供してくれます。私はILPでファーメランタの研究成果を有する石川県立大学の南先生と中川先生に出会いました。
出会ってすぐに共同創業する決意ができたのでしょうか?
柊崎:共に創業を果たした中川先生や南先生と最初から相性が良いと感じていて、プログラム期間中に事業計画を練り上げる中で、ビジネスとしての可能性も確信できました。
ディープテックの領域では、多くが大学等の研究者が長年にわたり研究した技術をベースに事業化する形になります。その中で、その研究から生まれる価値が、自分の創業ストーリーとどれだけ一致しているか、そしてそのストーリーを深く感じられるのか、が創業の決意に繋がると思います。
私は理想の起業テーマを探求している中で、上述したような情報収集や思考を繰り返し行っていたため、今回のチャンスを掴めたと思っています。