研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。
ILP第4期生 阿木さんは、GEヘルスケア・ジャパンで部長を務める傍らILPに参加し、特殊な光学技術を活用した事業を展開しているアーリー期の研究開発型スタートアップの事業成長に挑戦されました。
プロフィール
GEヘルスケア・ジャパン株式会社 超音波本部 Primary Care部 部長
阿木 宣親氏
ーILPに参加したきっかけを教えてください。
以前からスタートアップには漠然とした興味がありました。というのも、大学で仲の良かった5人のうち2人が大企業からスタートアップに転身しており、急激な成長を遂げている組織のなかで働くことの楽しさや上場の経験をした話を聞いていたからです。
そのため起業にまつわる本を読んだり、彼らから生の声を聞いたりして、スタートアップの雰囲気や環境をイメージしていました。しかし、そうやって意識すればするほど、外から見たり想像したりするのと自分が経験するのとでは、理解度に雲泥の差があるなと思いました。
もっとリアルなスタートアップを知りたいと思い、ILPへの応募を決めました。
ー本物のスタートアップ体験を得ることが目的の一つだったのですね。
そうですね。加えて、プロボノとしてスタートアップに参加できるILPは、現職を続けながら体験できるため、今の私にとても合っている感覚がありました。
というのも、勤務しているGEヘルスケアのような一定のアセットがある中で新しいチャレンジをした方が、社会的に与えられるインパクトも大きいという仮説も持っていたからです。
それに、GEヘルスケアは企業としてチャレンジが奨励されており、その過程で豊富なビジネス経験をもつリーダーからのフィードバックやGE独自の体系化されたトレーニングを受けることもでき、挑戦しやすい環境も揃っています。なので、会社を辞めてスタートアップにジョインするのが、最適解だとは思えない部分もありました。
そこで、大企業とスタートアップという異なる環境を同時に経験できるのはチャンスだと思い参加したわけです。
ーILPでは具体的にどのような活動をしましたか?
参画先として、特殊な光学技術を活用した事業を展開しているスタートアップを選びました。同社はILPでは珍しく、アーリーステージからシリーズAの事業規模で、既に一定の売上確保ができている企業でした。その中で私が任された役割は、同社を上場できる事業規模に成長させる方法とそのプロセスを考えることでした。
私以外にも、自動車会社の商品企画の方と電機メーカーの新規事業開発の方が参加されていました。それぞれの強みや思考の特徴を踏まえて、私は競合製品とのポジショニングや想定市場の算出、営業方法の変革方法などを担当しました。営業経験が長いため、営業組織の体制構築や評価システム、重要顧客の営業サポートなどは特に力を入れていました。
ただ実際にやってみると、営業ひとつとってもこれまでの経験とはまるで異なりました。大企業での営業は概ね業務領域が細切れです。そのため、取り組む一部の領域ではパフォーマンスを出せますが、組織の構築など営業組織全体のことまで含めるとこれまでの経験をベースに進めることが難しいと感じました。
ーILPでは何を得られましたか?
スタートアップと大企業の違いを自身の目で直接見て経験できたのは大きな収穫でした。参加して分かったのは、大企業とスタートアップは求められている成長角度が異なるだけで、事業を成長させる手段を考えるという本質的な部分は同じということ。
そんな両者で決定的に違っている部分、それは「事業に対する覚悟」です。例えば、大企業では私が提案した新規事業が通らなくとも給料は出ますし仕事もなくなりません。また、事業の伸びが鈍化してもすぐに潰れることは少ない。しかしスタートアップでは事業の失敗や成長角度の鈍化は、会社の存続危機に直結します。
だからこそ仕事に対する熱量が違いますし、覚悟を求められます。みんな圧倒的に自分事なのです。大企業がイノベーションを起こせない理由として、技術や組織的な制約もあると思いますが、事業にかける覚悟が足りていないことも大きいと私は思います。
この感覚を大企業の中にいながら体験するのは難しいと感じます。もちろんILPでもスタートアップに完全にジョインするわけではないので全く同じ感覚を得ることはできていないでしょう。
私の場合、日々の業務には自分事として取り組んできた自負を持っていました。しかし、それでも圧倒的に熱量が足りなかったと気づかされました。その経験は、現在のGEヘルスケアの業務においても良い変化をもたらしています。事業数値の報告、そして目標の設定といった一つ一つの業務に対しても、これまで以上に自分事として、覚悟と情熱を持って取り組めるようになり、それによって、仕事へ取り組む喜びは一段と高まりました。
失敗・成功に関わらず、1つの物事から学べる量は、そこに本気で取り組んでいるか否かで大きく異なります。大企業にはリソースはありますが、事業に対する本気度は圧倒的に負けている。であれば、大企業の中の者たちが覚悟をもって取り組めば、大きなイノベーションを起こせるのではないかと感じられたことは、私にとって価値のある気づきでした。
大企業の中にいながら業務の延長線上でスタートアップと関わる場合、どうしても利害関係が生じてしまいます。スタートアップにサービスを提案されても、あくまでこの提携によってどの程度利益が増えるか、コストが削れるかなど、自社で完結した目線だけで捉えてしまうことがほとんどです。
しかし、スタートアップはリソースや組織体制、事業展開の方法などが大企業とは異なるため、大企業目線のままでは条件や認識のズレが必ず生じます。それらの違いを、スタートアップの経験せずに想像することは限りなく難しい。
そしてこれがオープンイノベーションで大企業とスタートアップの提携や共同開発がうまく進まない理由の1つだと思います。だからこそ、体験したことのある人が1人でも大企業側に増えることが重要なのです。その役割を、自分が果たせることができればいいなと思っています。
ーILPへの参加を考えている方にメッセージをお願いします。
通常業務をしながら、夜間や土日にILPメンバー、社長、役員の方と共に、感情的になる場面もありながらも、本気でビジネスプランを議論した日々は大変ではありました。しかし、同時に学びが多い充実した日々でした。繰り返しになりますが、スタートアップの雰囲気を大企業にいながら味わえる機会は、多くありません。大企業にいながら社内で新規事業を推進している方、スタートアップと連携したいと考えている方は、ぜひILPに参加してスタートアップの熱量や覚悟を直接感じてみてはいかがでしょうか。