研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。
ILP第2期生 株式会社フィリップス・ジャパンにて睡眠事業のPMを務める平尾さんは、内視鏡によるAI画像診断技術のチームの事業化に約2カ月間コミット。現在は、所属組織の中で事業やプロジェクトをリードする“社内起業家”(イントレプレナー)として活躍されています。
プロフィール
株式会社フィリップス・ジャパン S&RC マーケティング部 プロダクトマネージャー
平尾 彰浩氏
1982年生、大分生まれ。慶應義塾大学大学院 理工学研究科スマートデバイス専攻 卒業。大学院を卒業後は、Massachusetts General Hospital Wellman Labで 半年間訪問研究員として勤務。帰国後、富士フイルムメディカルへ就職。その後、GEヘルスケア・ジャパンでの就業を経て、2014年より現職。2017年開催のILP2期に参加。
ーILPに参加したきっかけを教えてください。
ILPに参加したのは2017年。過去を振り返ると3年に1度位のタイミングでキャリアの転機があり、まさにそんな時期でもありました。当時は、大型のMRI (磁気共鳴断層撮影装置)のプロモーションやマーケティングを担当していて、仕事は安定軌道に乗っている。一方で、「大企業の中でこのまま先の見え易いキャリアパスを歩むのがいいのか」「もっと社会に大きな価値をもたらす何かがしたい」という使命感が高まる中で、ILPを知りすぐに参加を決めました。
ーその使命感を持つ原体験はあったのですか?
大学院で研究に従事している時から「研究と社会がつながっていない」ことに課題感を持っていました。修士を修了後は、MGH(Massachusetts General Hospital)へ半年間留学し、薬剤抵抗性感染症に対するレーザー治療の研究に携わっていました。 医療価値が高く社会に貢献できる技術なのに、それがうまく社会に届いていないのはなぜだろう?と疑問でした。そう思った背景には、大学時代にスタートアップを手伝った経験があり、社会に足りないものを能動的に生み出そうとした仲間に触れていたからかもしれません。
ーILPではどんな活動をしましたか?
ILPでは、内視鏡によるAI画像診断技術の研究チームへ参加を決めました。専門領域にも近く、同時に大企業との連携が必要な分野でもあり、自身の経験が生きると感じました。
プログラムのゴールは、2カ月後の最終ピッチ大会です。2名の仲間と共に、優勝に向けてビジネスプラン作りが始まりました。資金調達ピッチで高い評価を得るには、正しい情報の積み上げや具体的なプランが必要です。そのため、リサーチと議論がパラレルかつ非連続的に進んでいきます。就業後の夜9時頃から深夜までSkypeで議論したことも何度もありました。この時のひりつくような熱気は今でもリアルに思い出します。
私が得意とするマーケティング領域以外に関わることも多く、医療機器を世に出すための薬事、競争力の高いビジネスモデルを生み出す源泉となる知財戦略、ファイナンスなどは未知の領域でした。また、意思決定のスピードが格段に速く、大企業にいる自分には想像できないスピードで進んでいきました。
そんな環境なので最初こそ戸惑いはありましたが、最終ピッチ大会が近づく頃には「最優秀賞が射程距離にある、取りにいける」という確信がメンバー全体に生まれていました。
そして迎えたピッチ大会の当日。結果は、私たちが待ち望んでいた「最優秀賞」でした。飛び上がるように嬉しかったのと共に、私の心の中に“起業”という2文字がリアルに浮かびあがってきました。
ーILP卒業後は実際に起業されたのですか?
いえ、ILPで参加した研究チームの「創業メンバーに加わる」という選択肢が生まれましたが、結果としてジョインせず、別の道を歩むことに決めました。
この結論にたどり着いたのは、ILP終了から2カ月後のことです。ヘルスケア領域においてインパクトがあり、意義ある研究をビジネスにすることは学生時代から非常に興味があったので、すごく悩みました。家族会議もしましたし、起業経験のあるメンターさんにも相談させてもらいました。
結果的にスタートアップの創業メンバーにはなりませんでしたが、「価値あることに自分自身が周りを巻き込みながら取り組みたい」という強い気持ちが私を次なるステップへ駆り立てました。
ーその次なるステップとは何だったのでしょうか?
「社内起業家」(イントレプレナー)としての道です。
ちょうど社内公募で、ビジネストランスフォーメーション(社内変革)メンバーの募集があり、すぐに応募しました。「Lean Methodologyによる国内事業全体の業務改革を短期間で推進するトレーナー」という意欲的なポジションでした。
また、さらなる次のステップとして、睡眠・呼吸関連のプロダクトを扱う事業部で睡眠ビジネスのPMをしています。ビジネスの計画策定・数値管理等のデスクワークだけでなく、大学・医療法人・大企業等の外部とのアライアンスまで担当させてもらえる柔軟なポジションです。現在2,200人を超える社員のうち1,000名あまりが所属する主要部署の一つで、スケールの大きさには興奮しています。
さらに、ビジネス上の肩書とは別に、CSRの観点からカルチャートランスフォーメーション、ダイバーシティ、SDGsの3つのタスクフォースを有志メンバーと共に連続的に立ち上げ、CEOやCHROの支援も得ながらフィリップス・ジャパンの全社員の自己実現や幸福度を向上させるために腐心しています。
「1つの部署・ラインの中で仕事をしがち」な大企業的思考から抜け出し、まったく違うスケール感で組織を眺められるようになったことは、ILPでの経験が大きく生きていると感じます。
ーすごいご活躍ですね!ILPを通じてマインドセットにも変化があったのでしょうか?
はい、狭い視野に捉われず、事業全般を俯瞰して必要な打ち手を考える目線を身につけられました。そして、スピード速くゲームチェンジを主体的に起こすことの必要性に気づけました。
社内起業家として、大組織で多くのステークホルダーを巻き込み新しいチャレンジを続けることは、聞こえはいいですが試練の連続です。変化を新しく起こす者には非難や抵抗は必ず出てくることを実体験しています(笑)が、こういった組織力学も俯瞰しながら利他的に動けるようになったことは、ILPを契機にマインドセットが変わったからかもしれません。
今後も、ILPで得た仲間とのネットワークも大切にしながら、“ビジョンの解像度”が近い方とより良いものを社会に実現していきたいと思います。