二次予防に一直線。パラレル起業という働き方|ILP Alumni Interview Vol.2

研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。

ILP第2期生 ナラティブトラスト株式会社代表取締役の福井さんは、会社員から独立した直後の起業準備段階でILPを知り、2017年にご参加いただきました。今回は、ILP参加の背景やキャリアの変遷などについて伺いました。

プロフィール

ナラティブトラスト株式会社 代表取締役

福井 良清氏

1978年生、岡山生まれ。九州大学大学院人間環境学府空間システム 卒業。大学院在学中から、アキュメンバイオファーマ株式会社に参加。卒業後、同社入社。2008年、株式会社エス・エム・エスに入社し、薬剤師・薬局領域の新規事業に従事。2017年4月に独立。現在、テーマ別に2つの会社を通じて、二次予防事業に取り組む。趣味は写真撮影。

ーILPと出会うまでのキャリアについて教えてください。

大学院生1年時に、九州大学医学部発の創薬スタートアップだったアキュメンバイオファーマの創業メンバーと出会い、その熱気に魅せられて同社に就職しました。3年半を共に過ごしましたが、事業での苦労が続き、リーマンショックの起こるちょうど1カ月前、会社を清算することになりました。

変わらず次も医療分野で挑戦したいと考える中で、業績が伸びていて、かつ経営者層の近くでその理由を垣間見ることができる会社を探していました。そして、懇意にしていた大学時代の先生からの紹介で、エス・エム・エス創業者で当時の社長だった諸藤周平さんと出会い、同社に入社しました。

エス・エム・エスでの8年半、そして起業へ

当時のエス・エム・エスは、マザーズへの上場を果たし、100名を超えた程度の組織規模でした。また、看護師領域では強いサービス基盤を持っていましたが、次の柱となる新規事業を複数立ち上げていた時期でもありました。

入社後は、当時はまだ洗礼の少ない薬剤師業務で用いる電子薬歴の活用、および医療用医薬品データに関する事業を担当しました。医療従事者が使う医療情報、電子薬歴内のデータ活用について、製薬企業、情報を活用する側である薬局と折衝を続けながら、必要とされるサービスに育てる楽しみ・苦しみを味わいながら日々奮闘していました。

薬局周辺事業に従事し続けて7年を越えたころ、自分の問題意識や事業をとらえる着眼点が薬局領域に限定的になっていることに気づき、危機感を感じました。「もう自分で事業をやる時期ではないか?」「会社に長く居すぎたのではないか?」という想いが日々強くなり、8年半勤めた後に会社を離れました。

ーILPとの出会い、起業背景を教えていただけますか。

元々自分で事業をするなら「二次予防(病気の早期発見)」と決めていました。振り返ると、学生時代に父が食道がんの末期であることが分かった時に、「今はないサービスを誰かが提供してくれるのを待つのではなく、自分で創ろう」と強く思ったことが原体験だと思います。

ただ、独立時には具体的な事業プランはないまま会社を辞めました。良くも悪くも会社員生活が長かったため、貯金を切り崩しながら色々な人に会い、テーマに合致するシーズと事業パートナーを探し続けました。

その活動の中で、ILPと出会います。自分がジョインした研究シーズは、最終的に事業化には至りませんでしたが、研究者や事業化を目指す意欲ある人たちと繋がれたことは財産となっています。その中の有志たちとは定期的に情報交換会も開催しています。

薬局を起点に、予防医療を変える

10個以上の事業の種を蒔き、今は2つの予防関連事業を進めています。1つは、疾患のスクリーニングがどこでも気軽に行えるようなポータブル診断機器等の開発を医師と共に進めています。

2つ目は、ナラティブトラスト社で展開している二次予防の普及に向けたセルフチェック検査事業です。現在、Amazon等のECサイトでは様々な検査キットの取り扱いが進んでいますが、正しい扱い方が浸透せず、検査結果に不安を抱くだけで受診勧奨等を考慮していない事例も多く、商流も整理されていない。そのため、地域住民の健康を支援する社団法人と連携し、研修会の実施、検査キットの選定、施設への導入、地域住民への説明方法の支援まで一気通貫で行っています。

今回、第一弾として取り上げる子宮頸がんのHPVセルフチェック検査では、全国に点在する59,000軒の薬局を、「地域住民が安心して相談できる医療資源である」と再定義しています。フォローが可能な施設と連携しながら、病院に行く前にもっと手軽で便利に病気を早期に発見できる環境を整備することを目指しています。

“プロジェクト型”で小さく生む。会社は複数あっていい

独立からまもなく2年が経ちます。最初は定期収入が入らないことに悩む時期もありましたが、今は一つの会社に縛られず、生後間もない長男の子育てをしながら複数の仕事に取り組めることは、起業して良かった点の一つです。

今後は、医療機器の開発、検査事業という2つの事業(2つの会社)を運営しつつ、さらに自分が関わることで付加価値を付けられる予防医療関連のテーマを見つけて、事業領域を増やしていきます。

今は1テーマ1法人で経営していますが、そこには理由があります。取り組む事業に社会課題を解決する性質を含み、正しくテーマ設定されていれば、その会社で取り組む事業の方向性を明示することで、想いを持つ仲間を集めやすくなる、と考えているからです。これは可能性としてですが、シンプルな体制にしておくことで、会社(プロジェクト)の譲渡や経営者の交代も、選択肢の一つとして考慮しうるでしょう。

「いいね!」と思うテーマを語り合った仲間同士で、最少人数で一つの器(プロジェクト、法人)を組む。スタートアップの創業期のような一体感を常に得られる規模感であることが、私の好む環境です。

Beyond Next Ventures

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