【大学発ベンチャーの起業】研究者はどんな人を創業メンバーに選ぶべきか

こんにちは、Beyond Next Ventures投資部門のリーダーを務める橋爪です。私は10年以上大学発ベンチャー支援に関わっていますが、研究者の方から最もよく頂く相談の一つが「創業チームはどう作ればよいですか?」というもの。

スタートアップの成功は、画期的なアイデアや技術だけではなく、それを実現するための強固な経営チームに大いに依存します。本記事では、研究者がスタートアップの経営チームを構築する際のポイントや注意点について解説します。

経営チームとは

スタートアップの経営チームは、その企業の方針や戦略を決定し、実行に移す役割を持つキーメンバーの集まりです。経営チームはスタートアップの核となる部分であり、その質や能力は企業の成功を大きく左右します。強固でバランスの取れた経営チームは、多くの課題や変動に対しても柔軟に対応し、スタートアップを成長へと導く鍵となります。

通常、CEO(最高経営責任者)を中心に、COO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)、CTO(最高技術責任者)などの役職を持つメンバーから構成されます。彼らは企業のビジョンやミッションを共有し、それを実現するための日々の業務を担当します。

各役職の役割とその重要性

CEO(最高経営責任者):

スタートアップのビジョンや方向性を明確にする役割。外部との交渉や資金調達も担当します。研究者自身がこの役割を果たすこともありますが、ビジネスの経験やスキルが必要とされ、社内外の巻き込み力や業界や技術への理解も求められます。

CTO(最高技術責任者):

研究成果を商品やサービスに変えるために、技術戦略を策定し、技術部門や研究開発部門を統括する役割を担います。大学発ベンチャーでは研究者自身がこの役割を果たすケースもあります。

CFO(最高財務責任者):

資金調達、予算管理、財務戦略の策定など、経済的側面を担当します。数値管理だけでなく、事業成長を戦略的にサポートします。特にスタートアップの初期段階では、生死の分かれ目となる資金調達において、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタル、その他の投資家へのアプローチを行い、適切な条件で資金調達を実現させていくことが求められます。

COO(最高運営責任者):

事業部門や各部署の日常的な業務の管理や、組織の効率化や業務プロセスの最適化、業績向上のための戦略を策定・実行する役割を担います。また、CEOの補佐役として、組織のビジョンや戦略を実際の業務に落とし込む役割を果たします。

上記以外にも、研究、ビジネス開発、セールス、マーケティング、法務/特許など各企業の業態に応じて必要な人材を集めるようにしましょう。Beyond Next Venturesは大学発/研究開発型スタートアップの支援に特化しているため、創業初期の経営チーム組成の支援実績も豊富です。ぜひ気軽に相談してください。

大学発ベンチャーの経営チームの考え方

大学発ベンチャーにおいては、研究者自らが起業し、CEOとして経営を担うケースもありますが、資金調達・営業・採用・管理など、研究開発に加えてビジネス面での重要な役割もすべて率先してやるのは容易ではありません。

当然今までと比べて研究に注ぐ時間は減ってしまいますし、将来的に株式上場等を目指す場合は、大学等の研究者としてのポジション、あるいは、会社のCEOとしてのポジション、どちらかを選ぶ必要があります。このような背景から、私たちBeyond Next Venturesとしても、創業初期からバランスの取れた複数人による経営チームを組成することを勧めています。

例えば、大阪大学発ベンチャーで東証グロース市場に上場したマイクロ波化学のCEO吉野さんは、商社に勤めた後、友人の紹介で大阪大学大学院の工学研究科でマイクロ波化学の研究をしていた塚原さんと出会い、会社を創業したとのエピソードが同社HPで語られています。

また、マザーズ市場に上場した東京大学発のペプチドリームは、同社に出資を検討していたベンチャーキャピタル(VC)のUTECが研究者に経営者を紹介し、戦略を練って創業を果たしたとのエピソードが対談記事にて語られています。

専門家としての知識や技術を持つ研究者と、ビジネス経験豊富な経営者がタッグを組んで互いを補完し合いながら事業を成長させていくという考え方は、ぜひ頭に入れておきましょう。

研究者はどんな人を仲間に選ぶべきか?

創業期におけるチームメンバーを選ぶ際は、ビジネススキルや技術理解だけでなく、ビジョンや価値観を共有できることが最も重要であると私は考えています。そのためには、自身が成し遂げたいことやビジョンを、その「相手を口説き落とす」かのように、熱心に魅力的に伝える必要があります。

とりわけ、自分との接点が遠い人になればなるほど、研究が実用化された時の社会的なインパクト、市場規模、ニーズなどを明確に伝えることが重要です。その時、研究のテクニカルな側面よりも、「その研究によって世界はどう良くなるのか」「その利用者はどの程度想定されるのか」「市場規模はどれほど大きいのか」などといった課題解決やビジネスの側面を強調し、相手がコミットする意義や価値を見いだせるようなストーリーを構築すると、説得力は格段に高まります。

しかし、そもそも起業やビジネスに対する解像度があまり高くない場合は、一人で事業のストーリーを構築するのは難しいとも思います。そんな時は、大学のGAPファンドやアクセラレータープログラムの活用を推奨します。

実際に、弊社の「BRAVE」では、専門的なメンターのもと、2か月間ビジネスプランを磨き上げていくのですが、そこでは技術の可能性のみならず、ビジネスとしての魅力を論理的に盛り込み、より多くの投資家や事業会社、採用候補者を惹きつけるプレゼンができるように精緻化していきます。

多くの場合、このようなプログラムは審査を経ての参加となりますが、参加費は無料で、優秀なチームには賞金や助成金の獲得チャンスもあります。ただし、各プログラムによって条件等は異なるため、自身にとって本当に価値があるものなのか、参加することによる縛りは発生しないか等、しっかりチェックするようにしましょう。

なお、人材を口説く際の注意点としては、人材を紹介してくれた人がいる場合は、その紹介者の信頼性を確認すること、かつ、紹介された人材の背景や経歴をしっかりとリサーチすることが大切です。また、面談時にはお互いの期待値を最初からすり合わせていくことを心がけるとよいでしょう。あなたが期待することと、候補者が出来ること・やりたいことにギャップが発生すると、チームとして上手く機能しないかもしれません。

経営メンバーの見つけ方

では、各役割を遂行する重要メンバーをどのように見つければいいのでしょうか。数多くの大学発ベンチャー創業支援に関わってきた私の経験に基づいて、代表的なパターンを以下に挙げます。

1.既存のネットワークを活用する
研究室の卒業生や自分の同級生、仕事やプライベートで繋がった人など、既に接点があり、双方に一定の信頼関係がある人を最初に考慮することが有効です。

2.リファラルを利用する
「リファラル」とは、知り合いや大学等のネットワークを通じて、適切なメンバーを紹介してもらう方法です。既存の信頼関係をベースにした紹介は、相性や信頼性を確認する上で有効です。

3.投資家からの紹介を活用する
投資家は多くのスタートアップや人材とのネットワークを持っています。まず投資家を見つけ、その人からの紹介を受けることで、質の高いメンバーと出会う可能性があります。

4.外部イベントに参加する
ピッチイベントやミートアップなど、スタートアップ業界関連の集まりに積極的に参加することで、新しい人材や意見交換の機会を得ることができます。

5.多くのアクションを取る
少し抽象的ですが、同じビジョンを共有し合える優秀な仲間を見つける過程は、多くのトライ&エラーを伴うでしょう。諦めずに多くのアクションをとることが、適切なメンバーとの出会いに繋がります。

上記に加えて、弊社で運営している研究成果の事業化推進プログラム「BRAVE」では、これから起業をする研究者に対して経営人材候補を複数名マッチングする機会を提供しています。これまで400名以上の人材マッチングを行い、CXOクラス、エンジニア、スペシャリストなど各チームの事業成長に必要な人材との出会いを支援しています。プログラム終了後に正式にジョインした方も多くいらっしゃるので、経営メンバーを探している研究者の方は、ぜひ参加を検討してみてください。

まとめ

以上、今回は「大学発ベンチャー創業の手引きVol.1」として、研究者が経営チームを効果的に組成する方法についてまとめました。次回は、経営メンバーを集めた先にやるべき詳細な実務についてまとめてみたいと思います。メンバー集めはあくまでスタート地点ではありますが、強いチームづくりは事業成長において最も重要な要素の一つです。本記事が少しでも研究者の方の参考になれば幸いです。

なお、「研究者が起業する前にやっておきたい3つの準備」という記事も公開しておりますので、起業予定の研究者の方はぜひ参考にしてみてください。

Katsuya Hashizume

Katsuya Hashizume

Executive Officer / Partner