ゲノム編集技術であらゆる種苗を開発する。京都大学教授 兼 グランドグリーン創業者の野田口先生に迫る|DEEP TECH PIONEERS

シード期のディープテック・スタートアップに投資をするベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesがお届けする「DEEP TECH PIONEERS」シリーズ。BNVメンバーがそのディープテックの魅力や起業ストーリーを、研究者・起業家・経営者にインタビューする企画です。

第2回目のゲストは、京都大学 教授/名古屋大学 特任教授であり、接ぎ木の技術を使って環境負荷の少ない種苗をつくっているグランドグリーン株式会社を創業した野田口 理孝先生です。

起業を考えている研究者の方や、研究シーズとの連携を模索している企業の方は、ぜひご覧ください。

本記事は、2023年8月に公開されたYoutube動画を記事化したものです。

プロフィール

野田口 理孝名古屋大学 特任教授 / 京都大学 教授

2009年京都大学大学院理学研究科にて博士号を取得。同年よりカリフォルニア大学デービス校留学、日本学術振興会海外特別研究員。2012年名古屋大学大学院理学研究科研究員及びJST ERATO東山ライブホロニクスプロジェクト研究員。2015年名古屋大学大学院理学研究科特任助教、JSTさきがけ研究員。2016年名古屋大学大学院生命農学研究科助教、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所連携研究者、文科省卓越研究員。2019年より名古屋大学生物機能開発利用研究センター准教授、2023年より現職。植物の接木のメカニズム、全身性情報伝達などについて取り組んでいる。

接ぎ木研究の成果を社会に還元するため起業を選択

ーまずは自己紹介をお願いします。

野田口:私は名古屋大学を卒業後、カリフォルニア大学で約3年間研究員としての経験を積みました。その後、名古屋大学に戻り、現在は京都大学での研究活動と並行して、植物の基礎研究を続けております。特に、接ぎ木における情報伝達機構に関する研究に注力しています。

接ぎ木の驚異的な能力と出会う中で、これを社会に還元する必要性を強く感じました。その結果、グランドグリーン株式会社を設立することとなりました。起業は全くの未知の領域でしたが、多くの専門家や仲間たちからのアドバイスやサポートが、起業へと踏み出す決意を後押ししました。

ー創業に至るまでにどのようなアクションをしてきたのでしょうか。

まずは大学の産学連携を担当している方に相談して起業家に繋いでもらい、話を聞かせてもらいました。その中でも特に有益だったのが、JSTの「START」という大学発の新産業を創出するプログラムです。このプログラムを通じて、創業前の技術シーズの評価や事業戦略の策定の機会を得ることができ、さらにはチームの構築にも大きなサポートを受けることができました。

ーどのように創業チームを作ってきたのか、教えてください。

一番はじめに賛同してくれたのは、現在代表を務める丹羽さんでした。彼は私の京都大学時代の同じ研究室の後輩で、創業を考えていた頃に学会で偶然再会しました。お酒の席で私の研究成果をカジュアルに共有したところ、彼が「それは絶対にやるべきだ」と乗り気になってくれて、熱意をもって参画を決意してくれました。

丹羽と二人三脚でスタートしてから、チームが一気に出来上がっていったのは、JSTの「START」と並行して進めていた助成金の採択を受けた後でした。助成金に採択されたことで、技術開発メンバーを大学で雇用できたため採用活動がしやすくなりました。丹羽と私は研究者のバックグラウンドでしたので、3人目以降は、事業の実務経験を持つメンバーを意識して採用していきました。

「研究と事業の相乗効果はある」研究者と起業家のバランスの取り方

ー起業する上で大変だったことがあれば教えてください。

起業家として責任が生じるのは大変でした。それまでは一人の研究者として活動してきましたが、起業家となると様々な人を巻き込んで一緒に進んでいかなければなりません。慣れないことだったので、起業当初は大変でしたね。

起業家としての役割や発生する責任を背負うことは、私にとって新しいチャレンジでした。これまで私は純粋に研究者としての道を歩んできましたが、起業家として事業を立ち上げるということは、多くの人の連携や協力を必要とします。もちろん初めての経験ですし、慣れないうちは大変でしたね。

ー名古屋大学で研究もしながら起業されていますが、両立はできましたか?

研究者と起業家のバランスはとれていたと思います。私にとって、研究と事業は相互に補完するもので、アカデミアでの基礎研究の進展は事業の可能性が広がります。反対に、事業が成長することで、研究成果を社会に還元するチャンスが増えるのです。

確かに創業当初は、ビジネスの面での知識不足に苦労しましたが、私の周りにはサポートしてくれる方々がいました。彼らの助けを借りながら、自分の研究者としての強みをフルに活かす役割を担うことができ、その結果、研究者と起業家のバランスを素早く取ることができました。

ーディープテックスタートアップは技術サイドとビジネスサイドのバランスが大事だと思いますが、チーム作りで意識していたことがあれば教えてください。

企業の成長フェーズに応じて、求められる人材は変化します。創業初期には、サービスの構築に向けて技術開発を進める必要があるため、その領域に精通した技術者の獲得が極めて重要です。

しかし、技術が一定の成熟を迎え、事業の基盤が固まり始めると、今度は事業展開や市場拡大の戦略が求められるようになります。この段階では、ビジネス戦略やマーケティングの専門家を積極的に迎え入れる必要が出てきます。

このように、どの成長フェーズにおいてどのような人材が求められるのかを常に意識し、その都度、最適な人材採用を心がけています。

ーグランドグリーンは知財をしっかり管理している印象があるのですが、戦略的に行っているのでしょうか。

創業の初期段階から「技術はベンチャーの核心」という理念を持っていました。多くの大学関係者や投資家からも「事業のコアとなる技術に関しては、知的財産として幅広く確保しておくべき」との助言を受けてきました。このアドバイスを受け、採用活動においても知的財産に詳しい方を早い段階で迎え入れました。また、私たちは将来的な国際展開を視野に入れていたので、知的財産の確保と管理は初期からの優先課題として強く意識していました。

「社会に役立つ種苗を作る」代表を譲ってもビジョンは変わらない

ー現在は丹羽さんに代表を譲っていますが、今後やりたいことについても聞かせてください。

「農業の成熟を迅速に進展させ、新しいかつ有効な種苗を開発する」という明確なビジョンのもと、さまざまな技術アプローチを探求しています。接ぎ木技術だけではなく、最新のゲノム編集技術を取り入れることで、新たな挑戦を進行中です。

接ぎ木技術に関しても、多くの改善と最適化を経て技術が一層安定してきました。今後の目標としては、この技術の効率を高め、それに伴いサービスのコストを削減することで、さらに多くの方々にその恩恵をもたらしていきたいです。

ー最後に実用化を目指す研究者やディープテックスタートアップに関心のある方々へメッセージをお願いします。

研究者の皆様には、独自の視点や発見を大切にしつつ、それを周囲の人々と共有し、協力を得ながら前進してほしいです。他者の視点や力を取り入れることで、研究がさらに加速することでしょう。自身の研究に対する情熱を信じ、迷わず「ノーブレーキで」その道を突き進んでください。

一方、ビジネスサイドの皆様には、学問(アカデミック)の世界には数多くの魅力的な発見やインスピレーションがあることを伝えたいです。すべての研究が即座に実用化されるわけではありませんが、さまざまなきっかけで大きく花開く可能性があります。時折、アカデミアの世界を覗いて、その可能性を探してみてください。そして、「これは事業としての価値がある」と感じた研究があれば、ぜひ積極的に関わっていただければ幸いです。

ー野田口先生、ありがとうございました!

Akito Arima

Akito Arima

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