こんにちは、Beyond Next Venturesの橋爪克弥です。私は10年以上にわたり、ディープテック領域に出資するキャピタリストとして歩んできました。弊社代表の伊藤とは前職であるジャフコ時代からの付き合いです。尊敬する先輩のもと、この度パートナーへ昇格させていただくことになりました。
私のミッションは「研究者や起業家の頼れるCo-Founderになる」です。今回は、これからご一緒するかもしれない研究者や起業家の皆様に向けて、私の自己紹介と、かつてない追い風が吹いている日本のディープテックの魅力についてお伝えできればと思います。
プロフィール
橋爪 克弥|執行役員 兼 パートナー
2010年ジャフコ入社。産学連携投資グループリーダー、JST START代表事業プロモーターを歴任し、約10年間一貫して大学発ベンチャーへの出資に従事。2020年に当社に参画し、医療機器・デジタルヘルス領域のスタートアップへの出資を手掛ける。また、出資先企業を中心としたディープテック経営者のコミュニティ運営を統括。サーフィンが趣味、湘南在住。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了
【主な担当先スタートアップ】
マイクロ波化学(IPO)、リバーフィールド、Biomedical Solutions(大塚HD傘下へ売却)、OPExPARK、Olive Union、BiPSEE、Neautech、ALYなど
10年以上かけて気づいたCo-Founderという道
私は大学および大学院でコンピュータサイエンスの研究に5年間携わっていましたが、大学での研究は「事業化が難しい」という課題感をずっと味わってきました。
卒業後の進路に迷った私は、いろいろな業界に広く知識を持つ兄に相談することにしました。その時に教えてもらったのがベンチャーキャピタリスト(VC)という仕事でした。VCなら、研究とビジネスをつなぐ仕事に関われると思い、新卒採用しているベンチャーキャピタルを探して、ジャフコに入社しました。
大学発ベンチャーの課題
ジャフコ時代から通算して10年以上、大学発ベンチャーの成長支援に携わってきた私は、起業の成否を分けるものは一体何か、ずっと悩んできました。そこでジャフコで過去に出資をしていた大学発ベンチャー130社を対象に、その要因を分析してみたのです。すると大きく分けて、3つのポイントがあることに気づきました。うまくいっていないベンチャーに共通していたのは、「経営チーム」、「圧倒的な技術優位性」、そして「狙うマーケットの規模および成長性」です。
例えば、経営チームが研究バックグラウンドのメンバーに寄りすぎていて、事業化の経験や意識不足・ビジネス的にスケールする発想に限界があったとか、技術力があっても他と比べて明確な差別化ができていなかったとか、狙った市場規模がそもそも小さかったことに起因するケースが多いということです。
うまくいかなければ事業をすぐピボットする手法もありますが、ディープテック領域ではなかなかそれも難しく、とくにハードウェアを作る企業は、作るだけで何千万円という出資が必要になるため、そう簡単にはピボットできません。
だから、事業を始める時は先の3つのポイントに特に注意し、しっかりとした経営チームを作り、どのマーケットを、どんな技術で攻めるかを戦略的に進めることが重要です。
とはいえ、大学の研究者や起業して間もない方がこれらの要件を全て満たすのは大変です。だから、自分は「起業家のCo-Founder(共同創業者)として創業前後から事業化をともに実現することがミッション」だという結論に至りました。
Co-Founderになる覚悟で向き合う
「Co-Founderになる」とは、起業家と目指すビジョンの実現まで伴走するために、会社立ち上げに関与するケースもあれば、それくらいの覚悟をもって関わるという「意志」を表したものです。
例えば、私が初めて一緒に創業準備をしたのは、手術支援ロボットの大学発ベンチャー「リバーフィールド」でした。彼らが狙うマーケットはアメリカの会社がすでに世界を独占しているような市場でした。
それでも、「事業化を諦めるのはもったいない」と、研究チームと一緒に「突破できる課題」を探し、事業プランを練りました。そして時にはアメリカやヨーロッパの医療現場まで出かけて、海外でも売れる製品となる可能性があるかを検証してきました。
さらには、会社設立後の販売パートナー探しにも奔走し、創業初期のエンジニアの採用も行いました。そうやってビジネスとして軌道に乗るための道筋をすべて整える活動をしたのです。結果、同社は昨年総額約30億円の資金を調達し、着々と事業も進捗してきています。
ゼロイチに関わり成功事例を生み出す
「どうして外部のキャピタリストがそこまでやるのか?」とよく聞かれます。ひとつは大学発ベンチャーやディープテックスタートアップの成功事例を作りたいという強い想いがあります。
2001年に経済産業省の「大学発ベンチャー1000社計画」がありました。これは3年間で大学から1000社以上を起こそうという計画です。
実際に3年後に1000社以上の大学発ベンチャーが生まれたのですが、ほとんどがスケールせずに終わってしまいました。私がジャフコに入社した2010年はこの影響を受け、「大学発ベンチャーをやるなんて馬鹿だ」みたいな風潮を感じました。
でもその後、2013年に東大発ベンチャーの「ペプチドリーム」が1000億円以上の初値をつけてIPOを果たす出来事がありました。他にも、「Spiber」や「Preferred Networks」のように、大学発・ディープテックの成功事例が続々と増え、日本のユニコーンTOP10にも大学発ベンチャーが常連になっていきました。
今では社会全体が「大学発ベンチャーやディープテックでも、スタートアップは成功できるんだ」という流れに風向きが変わってきました。今こそ、起業家はディープテックで成功する絶好のチャンスなのです。私は研究者や起業家の頼れるCo-Founderとして、成功事例を一つでも増やして業界全体を盛り上げることが目標です。
そして何より、「やってて楽しい」と感じます。VCの中には、すでにある程度出来上がったスタートアップに出資して、成長を見守るという考え方もあるでしょう。でも自分は、出来上がったバスに乗るより、「バスを一緒に作って乗る」方が楽しい。ゼロから1(イチ)にすることが本当に好きなんだと思います。
バランスは悪くても、何かに突出している人と出会いたい
今までいろいろな起業家と会ってきましたが、時々、彼らの語る事業構想がショートムービーのように感じられ、話を聞いただけで「起業家の描く未来に一緒に行ったような気になる」ことがあります。うまく言えないですが、私はそんな人ともっと出会いたいです。
彼らに共通していることは、レーダーチャートの「亀の甲」のようにバランスが取れた完璧な人物というよりは、むしろ逆に、変態と思うくらい「どこか頭のネジが外れたような人」だったりします。
一方、私は典型的な「亀の甲」タイプの人間で、起業家が迷ったり、困ったりした時はいつでも駆けつけるし、とことん話に付き合うので、安心して頼ってください(笑)。
大切な命を救った、思い出深い出資先
ある時、出資した会社の医療機器が、ある男性の命を救ったというニュースを出資先の社長から聞きました。その男性は脳の病気で、これまでの治療法では助からなかったと言います。けれど研究成果が実を結び、働き盛りの彼の命を救ったのです。それを聞いて、自らが見つけた研究成果が製品となり、会ったこともない誰かの命を救ったことを誇りに感じました。
良い事業プランは、人を感動させるものです。起業家の生き方や人生に裏付けられており、なおかつ10年後、20年先の未来まで社会の役に立つと確信させられるものです。
特にディープテック領域は大きな社会課題を解決する可能性を秘めています。たしかにVCは大変な仕事ではあるけれど、「自分の出資先がきっと社会の役に立つ」と信じられることが喜び・生きがいなのです。
大学の研究には、そんな大切な命を救える技術がたくさん眠っています。私は、「ディープテックの力を使って、世のため、人のためになることに思いっきりチャレンジしたい」と高い志を持った起業家と出会いたいですし、そういう人の真の役に立てるベンチャーキャピタリストとして、これからも精進していきます。
私の趣味はサーフィンです。最近湘南に引っ越して、毎週末サーフィンをしてます(笑)。サーフィン好きな方も、そうでない方も、もし今スタートアップ起業を検討していたり、事業や資金調達の相談先を探されていたら、ぜひ一度気軽にお話しましょう!!