再生医療のセルージョン、レンタルラボ活用で事業を加速

事業の立ち上げにおいて莫大な初期コストを要するバイオスタートアップ。データを取得するための研究・開発を行うラボ設備の構築には多額の費用を要するため、限られた資金で運営する初期のスタートアップにとって、ゼロからラボを用意するのは非常に高いハードルになります。

そこでいま初期の研究開発拠点として注目されているのが「シェア型のレンタルラボ」です。豊富な実験機器や研究設備を利用者同士でシェアできるため、コストを抑えて事業をスタートできます。

今回はBeyond Next Venturesにてシェアラボ事業を統括する津田から、約3年半にわたってシェア型のレンタルラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を活用してきた再生医療系スタートアップの株式会社セルージョン CMC研究部 研究専任部長 吉崎氏に話を伺いました。2023年6月に総額28.3億円のシリーズCラウンド資金調達を実施した同社の成長の背景の一つには、レンタルラボの存在があったと言います。

レンタルラボがどう事業成長に寄与するのか、初期のバイオスタートアップの方はぜひご覧ください。

「ラボの管理工数ゼロ」レンタルラボ最大のメリット

(津田) まずはレンタルラボの活用を検討し始めた経緯を聞かせてください。


吉崎:セルージョンは慶應義塾大学発のスタートアップで、大学と共同研究をしているため、大学の近くでラボを構える必要がありました。当時は創業間もなく、研究員が私と派遣の方の2名しかおらず、自分たちでラボを持つのはコスト的に負担が大きかったので、初期費用を抑えられるレンタルラボの活用を検討し始めました。その中で、大学からも近く都心の好立地に位置する「Beyond BioLAB TOKYO」の利用を決めました。

レンタルラボを利用してみて感じたメリットはありますか。

共用機器が充実している点です。私たちは細胞の研究をしているため、安全キャビネットやCO2インキュベーターなどの設備が欠かせません。そのような設備が、自分たちで買わなくとも用意されているのは非常にありがたかったですね。あと、冷蔵庫や冷凍庫が完備されているのも大きかったです。

また、ラボマネージャーの皆さんが機器のメンテナンスや法令に沿った管理業務などを全て対応くださったので、そこへの工数をスキップできたことは、研究開発の加速に大いに繋がったポイントです。

自社ラボを構えた場合、一般的には研究員が研究の合間を使って管理をする形になりますが、会社の規模にもよりますが、恐らく実労働の10~20%は取られるはずです。さらに、機器の故障など何か問題が発生すれば、つきっきりで対応しなければならないので業務が止まってしまいます。

例えば、定期的に水を流して洗浄する必要のある機器があるとします。その対応を社内でやる場合、担当を決めて、手順書を作成し、記録をするなどの様々な業務が発生しますが、そういった対応が丸っと不要になるので、より効率的に研究を進められました。

「本社とラボの近さ」が組織成長のカギに

レンタルラボ利用開始から3年半、組織も大きく拡大しましたよね。マネジメントの面で難しくなったことがあれば聞かせてください。


吉崎:創業初期はアカデミア出身者が多かったのですが、途中から製薬企業の方も採用するようになりました。同じ研究者でも、アカデミアの方と民間企業の方では研究への考え方やこれまで経験してきた研究環境が異なるため、研究をしている中で意見の調整に難しさを感じたことも何度かありました。そのため、会社としての施設の使い方や実験ノートの記載や管理方法など、独自のルールを作り徹底しました。他にも劇物薬の処理方法など、自社で厳しいルールを作り、チームごとに管理しています。そうすることで研究組織もまとまってきたと感じています。

ルール作り以外で、マネジメントについて意識していることはありますか?

本社とラボを近くにすることです。最初にもお話しした通り、私たちは最初から大学の近くでラボを探していました。本社とラボが離れていると研究者の心が次第に離れていってしまい、研究者はラボにこもりっきりになってしまいます。物理的な距離がそのまま精神的な距離になってしまうのです。

そうならないためにも、本社とラボを近くに置き、できるだけ顔をあわせる機会を作るようにしています。事業をさらに加速させるため大きなオフィスに移転しますが、そこでも本社の隣に自社ラボを構える予定です。

アカデミアの方にとってはレンタルラボは勝手が違ったと思いますが、何か困ったことがあれば教えてください。

機器や備品などを置くスペースが大学に比べて狭いことに最初は戸惑いました。アカデミアの実験スペースは広いので、備品などを買う時もまとめて買ってしまうのですが、レンタルラボで同じことをすると置くスペースがなく、最初は保管場所以外にも沢山置いていましたね。

それ以外で困ったことは特にありません。むしろ、困っている時に相談に乗ってもらえましたし、使いたい機器がない時も、近くにある別のラボで借りることもできたので非常に助かりました。

スタートアップは「データの取り方」を早期に確立させるべき

これからレンタルラボの活用を検討している方にアドバイスがあればお願いします。


特に私たちがお世話になったBeyond BioLAB TOKYOでは管理業務の負担などもなく、研究環境は整えてくれるので、その浮いた時間を使って、早いうちにデータの取り方や実験ノートの記載方法や管理方法のルール化はしておいた方がいいです。将来的な特許の取得や資金調達時にチェックされることも珍しくありません。

組織が大きくなってからルール化しようとすると大変です。最初からルール化しておけば、新しく入ったメンバーに「これが自社のルールなので」と言えますよね。最初は実験してデータを取るだけでも大変だと思いますが、知財の専門家に外注をしてでも、ルール化を徹底してほしいと思います。

いつ頃から、そのようなことを意識するようになったのでしょうか?

製薬企業出身の研究メンバーを採用するようになってからです。アカデミア出身の研究者と製薬企業出身者では、管理方法などが違う部分もあるので、意見のすり合わせが大変でした。ただし、一般的に製薬企業出身の方を採用するのは事業がある程度成長してからになることが多いので、それを待っていてはルール作りが遅くなってしまいます。そのため、バイオ創薬をめざすスタートアップは、なるべく早めにルール作りに着手したほうがいいと思います。

貴重なお話をありがとうございました!

最後に:Beyond BioLAB TOKYOより

Beyond BioLAB TOKYOは、1~8名規模のアカデミア研究者・バイオスタートアップ・大企業の新規事業チームに最適なシェア型ウェットラボです。製薬企業が集結する東京の日本橋に位置しており、敷金ゼロ、豊富な共通機器、P2/BSL2までの実験に24時間対応、常駐ラボマネによる管理運営業務の代行など、利用者の皆様が研究に集中できる環境を提供しています。カジュアルな利用相談や見学相談を随時受け付けておりますので、ご興味のある方はぜひこちらの公式ページよりお問い合わせください。

Masashi Tsuda

Masashi Tsuda

Manager

Beyond Next Ventures

Beyond Next Ventures