事業の立ち上げにおいて莫大な初期コストを要するバイオスタートアップ。とりわけ、データを取得するための研究・開発を行うラボ設備の構築には多額の費用を要するため、限られた資金で運営する初期のスタートアップにとってゼロからラボを用意するのは非常に高いハードルになります。
そこでいま初期の研究開発拠点として注目されているのが「シェア型のレンタルラボ」です。豊富な実験機器や研究設備を利用者同士でシェアできるため、コストを抑えて事業をスタートできます。
今回はBeyond Next Venturesにてラボ事業を統括する私・津田から、実際に複数のレンタルラボを活用して創薬事業を成長させているリベロセラ株式会社 代表取締役 菅家(かんけ)様と、主席研究員 川岸様に、レンタルラボの活用の仕方や選ぶ際の注意点などについて伺いました。レンタルラボの利用を検討しているバイオスタートアップの方はぜひ参考にしてください。
自社ラボよりレンタルラボを選んだ理由
ー(津田)まずはレンタルラボの利用を検討した背景から聞かせてください。
菅家:リベロセラは2018年に設立された会社ですが、2019年の資金調達を機に、本格的に研究員を増やし、研究設備も揃えるため新たにラボを新設しようと考えたのがきっかけです。最初は自分たちでゼロからラボを作ることも考えたのですが、それでは初期投資だけで数千万円はかかってしまいます。
将来、事業が様々な方向に展開する可能性があることを考えると、自分たちでラボを作るのは大きな事業リスクになると思い、もっとフレキシブルな選択肢がないか考えたんです。そこで機器付きのレンタルラボの利用を検討し始めました。
ーどのように候補を絞っていったのでしょうか。
菅家:最初に検討したレンタルラボは、広さ的には十分だったんですが、実験機器などは置いておらず、最初のセットアップにそれなりの投資が必要だったため見送りました。その次によりフレキシブルに利用でき、共有の実験機器なども揃っているラボを検討したのですが、アクセスに難があって。
私たちリベロセラは理化学研究所のメンバーが中心に立ち上げ、レンタルラボの利用を検討し始めた時期には、既にコアメンバーが揃っている状態でした。そのため、メンバーたちの通いやすさも考慮しなければいけないポイントでした。そこで、最終的には都心にあって充実した研究機器も揃っている「Beyond BioLAB TOKYO」に決めました。
実際に利用して感じたメリット・デメリットと、その対策
ー実際にレンタルラボを利用して感じたメリットを教えてください。
川岸:すぐに実験を始められたのは嬉しかったです。実際にいち企業が運営しているラボと、大学が運営しているラボではスピード感に差が出るように思いました。Beyond BioLAB TOKYOのスタッフの方たちは、私たちができるだけ早く実験を始められるよう柔軟に動いてくれて、そのスピード感はとても魅力的でした。
菅家:Beyond BioLAB TOKYOには創業2年目に利用を開始しましたが、そのくらい初期フェーズの私たちでも、忖度なく「体一つで」入れる実験ラボでした。当時我々がやりたかった抗体の作製・精製や細胞・遺伝子組換えのP1レベルの実験は問題なく行える環境で、さらに大きいラボに移転するまでの間、必要な実証データを取得できました。
ー逆に不便を感じたことはありますか?
菅家:時間的な制約があるのは不便でした。例えば、クリーンベンチを使用する際は予め予約しておかなければならず、もし次の予約があれば自分たちの作業を中断させる必要があります。そのため、どうしても実験が長引いてしまう時は、思うように進められなかったこともあります。
川岸:消耗品を保管するスペースが限られていることですかね。試薬を保存する容器をはじめ使い捨てのアイテムが多いですが、購入する量を抑えるなど少し工夫が必要でした。
ー他社と実験施設を共有するにあたって、心がけていたことがあれば教えてください
川岸:他の利用者の方と頻繁にコミュニケ―ションを取り、何かあればすぐに話せる関係を作っておくことです。そうしておくことで、実務上の問題点を共有できますし、実際に困っていた時に相談して問題を解消できたこともありました。
また、全員と知り合いになることで、トラブルの予防にもなると思っています。レンタルラボでは様々な方が出入りしており、悪意があれば他社に危害を加えることも原理的には可能なのですが、コミュニケーションを取ることで良くない感情が生まれるのを抑制できると考えています。
なにより、他社と仲間意識を持つことが大事だと思っています。仲間意識があれば、お互いに助け合う気持ちが生まれます。その点、Beyond BioLAB TOKYOでは、ラボマネさんたちが利用者同士で信頼関係を築くよう働きかけてくれていたので助かりました。
菅家:利用者間でお互いがどんなバイオ実験を行っているのかを理解する機会や、ラボからの教育研修等を通じてそういった目線合わせができてさえいれば、色んなリスクをかなり下げられますし、全員にとってプラスに働くことも増えるでしょう。
「実際に稼働した時のことを想定してほしい」レンタルラボを選ぶ時の注意点
ーBeyond BioLAB TOKYOから現在ご利用中のラボに拠点を移した理由はなんでしょうか?
菅家:利用開始から3年以上にわたり色んな実証実験をさせていただき、そこからさらに会社としても研究員を増やすフェーズになりました。そうなると必然的により多様な設備や装置が必要になりますし、機器の使用時間も増えてくるため、より規模が大きく、自分たちでいつでも好きなだけ機器を使用できるラボへの移転を決意しました。
津田:Beyond BioLAB TOKYOは、バイオスタートアップさんの最初のラボとしてご利用いただく想定で作られているので、御社のように事業が成長してより大きなラボへ移転されていくケースは、弊社としても非常に嬉しいです。
菅家:最終的に今のラボに決めるまでに3~4箇所は具体的に検討しました。候補の中には、箱(場所)は用意されているものの内装や配管から全て自分たちでやる所もありました。
私たちとしては、広さやアクセスが優れていても、初期のセットアップの負担が大きいと結局数千万円ほどかかってきてしまうため、それは事業リスクだと判断して、都心にあり、よりリーズナブルで、自分たちの事業フェーズに見合うだけの共有機器が揃っているラボを最終的には選びました。
ー立地はどれほど重要ですか?
菅家:やはり最初のコアメンバー集めは非常に重要なので、立地にはかなり気を付ける必要はあるかなと思います。弊社は東京の日本橋にオフィスを持ち、理研のメンバーが創業者や研究者としてスタートした会社です。そうなると、研究開発拠点をそこから離れすぎた場所にしてしまうと、余計な負担をメンバーにかけるかもしれませんよね。また、新たに人員を採用したいとなった場合、より都心のほうが人材採用に有利であるとも思うので、今後さらに別のラボに移転するとなっても、立地は重視していきたいポイントの一つです。
重要なのはラボの拡張計画。その時々に見合った最適な選択を
ー最初にラボを借りる際、計画の見通しなどはありましたか?
菅家:当時はそれなりに考えていたつもりですが、私たちも走りながらレンタルラボについての知見を増やしてきたので、今振り返ると最適な選択を取れてきたか、確証はないです。特にバイオスタートアップは、成長フェーズで必要な実験機器や人材も変わってきます。立ち上げの時に、初期の事業計画の中にラボの具体的な拡張計画や必要資金の目安を盛り込み、どれほど具体的に絵を描けているか、は非常に大事です。その通りにならないことも多いですが、予め具体化できているほうが、事業を進めてからの無駄を減らせると思います。
ーレンタルラボにはどんなタイプがあるのですか?
菅家:レンタルラボのタイプとしても本当に様々で、自分たちが経験したなかで大まかに分類すると、以下のタイプがありました。
- ベンチも機器もシェア:共有機器として機器を設置している。ベンチも特定の場所を持たず、空いているベンチを利用。実験終了後に自社保有のツール(ピペットマンや消耗品等)は、所定の場所(棚等)に保管。
- ベンチは固定、機器はシェア型:共通機器として機器をシェア。ベンチは利用者ごとに指定し、ツールなどの実験機器をベンチ上に設置することも可(例:Beyond BioLAB TOKYO)
- 個室メイン、一部共通機器(高額、汎用性が高いもの)を設置:共通機器の種類は限られているため、多くを自前で用意する必要がある。
- 完全レンタル型:スペースのみ借りる。個室内で全てをまかなう。
これからレンタルラボの利用を検討されている方は、上記のようなタイプがあることを認識したうえで、いずれは移転する前提で事業フェーズに合わせたベストな選択を取ってほしいです。
ちなみに、現在利用しているラボではオープンラボを借りており、以前のように設備や実験機器を他の利用者とシェアする機会は多くありません。一応、共有できる機器は用意されているのですが、よっぽど高額な機器でなければ、自前の機器を使っています。
また、個室利用メインなので以前に比べて利用者同士の交流は減りました。もし利用者間の交流がほしい方は、そういった状況も事前に確認されるとよいでしょう。
ーラボを移すのも大変だったと思いますが、どんな苦労がありましたか?
菅家:機器なども一緒に移さなければならないため、1週間ほど実験をストップせざるを得なかったですが、それでも、ラボの移転にしてはスムーズに引っ越せたと思います。弊社のラボ管理メンバーがかなり頑張ってくれたのと、委託していた代理店さんが引っ越しのスケジュールからコーディネートまで全て迅速に対応してくださいました。
川岸:移転自体はかなりスムーズにいったものの、移転先のラボで遺伝子組換え実験の承認を得るのに1か月以上時間がかかることが判明し、急きょBeyond Bio LAB TOKYOに舞い戻れたのはとても助かりました(笑)。施設によってスピード感は全く異なるんだなと痛感した瞬間でした。
私たちは移転先のラボ入居者第一号だったため、お互いに手探り状態だったのは事実です。いきなり承認手続きが必要になることもあり困惑する場面もありましたが、利用事例が増えていくにつれて今後さらに改善されていくと思います。
ー最後に、これからレンタルラボを活用する方へのメッセージやアドバイスをお願いします。
川岸:施設のスペックだけを見て判断するのではなく、実際に稼働するときのことを想定してください。特に私たちが困ったのが「エレベーター」です。レンタルラボの中には、大きな設備を載せられるだけのエレベーターが存在せず、クレーンを使わなければいけないこともあります。
クレーンを使うとなれば、大きなコストや手間もかかるため、予算に入れておかなければなりません。実際に施設を訪問してみて、移転の時や稼働してからのことを想像しながらチェックするのがおすすめです。
菅家:廃棄物や危険物の処理も、施設側が責任をもってやってくれるのか、自社でやらなければならないかで、コストや手間が大きく変わってきます。スペックシートだけで判断せず、具体的に働くイメージを持って選ぶことで、入居してから後悔する可能性を減らせるのではないでしょうか。
最後に:Beyond BioLAB TOKYOより
Beyond BioLAB TOKYOは、1~8名規模のアカデミア研究者・バイオスタートアップ・大企業の新規事業チームに最適なシェア型ウェットラボです。製薬企業が集結する東京の日本橋に位置しており、敷金ゼロ、豊富な共通機器、P2/BSL2までの実験に24時間対応、常駐ラボマネによる管理運営業務の代行など、利用者の皆様が研究に集中できる環境を提供しています。カジュアルな利用相談や見学相談を随時受け付けておりますので、ご興味のある方はぜひこちらよりお問い合わせください。