400年以上続く日本の海藻テックをグローバル14兆円市場へーAqua Theonに投資した理由

こんにちは、Beyond Next Venturesでアグリ・フード領域をリードするパートナーの有馬です。この度、海藻テックスタートアップのAqua Theon(旧Cashi Cake)に新規投資を実行しました。そこで今回は、私たちがなぜにAqua Theonに投資を実行したのか、「市場」「技術」「経営チーム」の3つに分けてまとめてみたのでぜひご覧ください!

世界が注目する「海藻」、人気高まる理由

世界の消費動向に合致したスーパーフード・海藻

低環境負荷や健康志向が高まる中で、世界では新しい食材へのニーズが急速に増加しています。その中でも特に注目を集めているのが、のり、昆布、ワカメなどに代表される「海藻」です。海藻は昔からアジアの伝統的な食文化に根ざした食材ですが、現在では世界でスーパーフードとしての地位を確立しつつあります。

米アマゾン・ドット・コム傘下の大手食品スーパー「ホールフーズ・マーケット」が発表した2023年の食のトレンドトップ10に「昆布」がランクインしたことにより、世界では一気に海藻に火が付きました。

実際に米国では、紅藻の一種である「ダルス」を使用したベーコン風味の製品『ダルスベーコン』が開発され、カロリー制限や宗教上の理由によりベーコンを食べられない人たちから、代替食品として注目を集めています。

海藻が注目される大きな理由の一つは、その「環境負荷の低さ」にあります。海藻は栽培に土地や淡水をほとんど必要とせず、肥料や農薬も不要です。また、成長過程で二酸化炭素を吸収するため、自然環境に優しい食材として評価されています。

もう一つの大きな理由は、「栄養価の高さ」です。海藻にはミネラル、ビタミン、食物繊維が豊富であり、特にヨウ素やカルシウム、マグネシウムなどの必須栄養素を多く含みます。これらの特性から、健康志向の消費者にとって理想的な食品として位置付けられています。

海藻市場は驚異的なスピードで成長

2020年に約400億ドルだった海藻市場は、2027年には約960億米ドル(約14兆円)規模へ成長すると予測されています。特に北米で急速に拡大しており、「環境負荷低減」「持続可能性」「健康志向」などのニーズに応える形で、海藻製品の需要が高まっています。

このような市場動向は、海藻を活用した新たなビジネスチャンスを多数生み出しています。
例えば、「世界最高のレストラン」と言われるデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma」では、昆布などの海藻が多用されています。また、英国ロンドンのレストラン「コア」では、ワカメや昆布を出汁として使用し、肉料理や野菜のソースに旨味を加えているなど、世界の一流シェフからも支持を得ています。

さらに、加工食品への応用も活発化しています。米国では、Aqua Theon(当時社名Cashi Cake)の海藻を使った日本の伝統和菓子「MISAKY.TOKYO」をはじめ、「サロン・デュ・ショコラ2023」では、青のりを使ったチョコレートケーキなどのスイーツや、海藻を発酵させて作ったノンアルコール飲料「海のワイン」が登場しました。

また、海藻を使ったヘルシースナック「SeaSnax(シースナックス)」が人気を博しているほか、海藻を練り込んだパスタや海藻由来のサプリメントも続々と登場しています。

Aqua Theonのプロダクトについて

Aqua Theon社は、米国を拠点に海藻を原料とする革新的な製品の開発・販売を行うスタートアップであり、健康と地球環境に配慮した次世代の食品を提供しています。

ジュエリーのような海藻由来の和菓子「MISAKY.TOKYO」



「MISAKY.TOKYO」は、日本の伝統的な琥珀糖にインスパイアされた、海藻由来の食材を使用したビーガン和菓子です。これまでに、アカデミー賞・エミー賞前夜祭でベンダーとして出店(全米30社しか選ばれないうちの1社、アジア人唯一)、1億9千万人超のフォロワーを持つキム・カーダシアンのフレグランスブランド「KKW」とのコラボ、アメリカ最大のフードマガジン「Bon appetite」への掲載、ブランドアカウントのTikTokフォロワー100万人(累計動画再生回数4億3500万回)などを実現してきました。

日本の寒天を使った世界初のジュース状機能性飲料「OoMee」



「OoMee」は、日本で発祥した寒天を使いアメリカで初めてジュース状として作られた機能性飲料です。腸内環境を良くしながら毎日飲めるようにフルーツとハーブが加えられています。ビーガン、グルテンフリー、無添加、無着色にこだわり、身体にいいだけでなく、自然環境と調和の取れた持続可能な未来をコンセプトに掲げています。

この2つ以外にも、医療用途のプロダクトも開発しており、食品のみならず幅広い領域に同社の海藻加工技術が応用されていくことが期待されます。

Aqua Theonの海藻加工技術について

同社の技術力は、これまで米国が直面してきた海藻原料の加工における課題を次々に克服することで、競争優位性を築いています。

1. 無添加での加工を実現

海藻は、無添加で製品化することは極めて難しい素材です。

海藻の食物繊維は、酸の刺激に対して非常に不安定であり、繊維構造が分離するため、酸性のビタミンCを多量に含む天然の果物やハーブの存在下では、ざらついたり、塊になったりとテクスチャーが劣化してしまいます。このため、従来法では、人工合成した酸味料や香料(添加物)を用いて、製品のフレーバーを調整してきました。

しかしAqua Theonは、添加物を一切使用せずに、天然原料のみで海藻製品のフレーバーとテクスチャーを調整できるコア技術を開発し、製品化のハードルをクリアしています。既に50種近くの果物やハーブに対応できるため、多様な製品展開が可能となります。

特に添加物を使用しない製品への関心が高まる米国市場で大きな評価を受け、他社が模倣しにくい強力な競争力の源となっています。

2. 独自の熱処理技術で量産化を実現

海藻は水分を多く含むため、微生物が繁殖しやすく腐敗しやすい性質を持ち、製造工程においては熱処理による殺菌プロセスが重要です。しかし、海藻は熱に対して非常に敏感であるため、米国の食品製造業界では海藻の効果的な熱処理方法が確立されていません。

また、米国の食品企業の多くは製造設備を持たずにOEMを活用しています。しかし、OEM先の製造設備は通常自社用にカスタマイズすることが困難であり、特に海藻製品の熱処理は大きな課題となり、量産化へのハードルを上げています。

そこでAqua Theon社は、OEM先との約4年にわたる共同開発を通じ、菓子や飲料など様々な海藻製品に対応可能な独自の熱処理技術を確立しました。この技術により、海藻の特性を損なわずに殺菌が可能となり、量産化が実現しています。

卓越した経営チーム



Aqua Theon社の強力な事業推進力と高い技術力の背景には、CEOの三木さんを筆頭に、CIO(Chief Innovation Officer)のAri(アリ)、COOのLauren(ローレン)から成る卓越した経営チームの存在があります。それぞれが異なる分野でリーダーシップを発揮し、同社の成長を強力に支えています。

まず、CEOの三木さんは、実績豊富なマーケティングとブランディング経験を活かし、同社製品を米国市場で広める上で大きな役割を果たしています。米国の食品業界で広範なネットワークを築き、日本の海藻技術も活用しながら、同社の海藻製品をアメリカ市場に適応させる戦略を構築しました。彼女の巻き込み力は抜きん出ており、多くの業界のキーマンや有力企業と強力なパートナーシップを築き上げています。

CIOのアリ氏は技術・製品開発の中心的な存在です。米国の大手食品会社Wonderful Companyで主力ブランドの技術開発をリードした経験を活かし、同社のコア技術の確立と製品開発を牽引しています。特に、無添加でフレーバーやテクスチャーを調整できる技術や、海藻製品の量産化における独自の熱処理技術を開発し、他社との差別化を図っています。

また、アリ氏の長年の業界経験を活かした強力なネットワークを活かして、技術的課題が生じた際に、ピンポイントでライトパーソンへアクセスできることも強みであり、彼のリーダーシップが、同社の技術上の技術的競争優位性を支えています。

COOのローレン氏は、事業開発を牽引する、オペレーションとコスト管理のエキスパートです。前職の植物性卵スタートアップでは導入店舗数を300から1200に拡大させた実績があり、同社でも販路拡大とコスト削減を同時に実現しています。

このバランスの取れた経営チームにより、Aqua Theon社はブランディング、製品開発、事業開発の全方位で競争力を有しており、米国の海藻スタートアップのリーダーになる潜在力を秘めています。この強力なチームが支えるAqua Theonの今後の成長に大いに期待しています。

Aqua Theon 企業HP:https://aquatheon.com/
Aqua Theon プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000095881.html

Akito Arima

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