TALENT

【インタビュー】大企業に求められる事業のつくりかた

2020.04.16

事業には「本物の情熱と覚悟」が必要。大企業に求められる事業のつくりかた―GEヘルケア・ジャパン 阿木宣親氏

当社の運営する、研究者と共に事業創出を行うプログラム「Innovation Leaders Program(以下、ILP)」の第4期を卒業された、GEヘルスケア・ジャパン株式会社 超音波本部 Primary Care部 部長 阿木宣親さんにインタビューを実施。

プログラムを通して初期フェーズにあるスタートアップを支援した同氏が語る、プログラムに参加する意味とは。

「経験すること」が何よりも重要

―どのようなきっかけでプログラムに参加したのですか。

以前からスタートアップには、漠然とした興味がありました。というのも、大学で仲の良かった5人の友人のうち2人が大企業からスタートアップに転身しており、急激な成長を遂げている組織のなかで働いたり、上場の経験をした話を聞いていたからです。

そのため起業にまつわる本を読んだり、彼らから生の声を聞いたりして、スタートアップの雰囲気や環境をイメージしていました。しかし、そうやって意識すればするほど外から見たり、想像したりするのと、自分が経験するのとでは理解度に雲泥の差があるとの思いが強くなったのです。

―スタートアップの体験を得ることが目的の一つだったのですね。

   実際にスタートアップの雰囲気を体験したいと思っていたのと同時に、現在勤務しているGEヘルスケアのような一定のアセットがある中で新しいチャレンジをした方が、社会的に与えられるインパクトも大きいという仮説ももっていました。またGEヘルスケアは企業としてチャレンジが奨励されており、その過程で豊富なビジネス経験をもったリーダーからのフィードバックやGE独自の体系化されたトレーニングを受けることもでき、挑戦しやすい環境も揃っています。なので、会社を辞めてスタートアップにジョインするのが、最適解だとは思えない部分もありました。

その点プロボノとしてスタートアップに参加ができるILPは、現職を続けながら体験、理解できる仕組みになっており、今の私にとても合っている感覚がありました。大企業とスタートアップという異なる環境を同時に経験できるのは、チャンスだと思い参加したわけです。

―具体的にどのような支援をプログラム中はおこなったのですか。

プログラムでは、なるべく今やっている業務とは異なる事業領域の企業に加わりたいと考え、特殊な光学技術をつかった事業をしているスタートアップを選びました。

同社はILPに参加しているスタートアップの中では珍しく、アーリーステージからシリーズA程の事業規模で、既に一定の売上確保ができている企業でした。その中で私が任された役割は、同社の事業を上場できる事業規模に成長させる方法とそのプロセスを考えることでした。

私以外にも、自動車会社の商品企画の方と電機メーカーの新規事業開発の方が同じチームだったので、それぞれの強みや思考の特徴を考えて、私は競合製品とのポジショニングや想定市場の算出、営業方法の変革方法などを担当しました。今まで営業を長くやってきたので、営業組織の体制構築や評価システム、重要顧客の営業サポートなどはとくに力を入れていました。

ただ実際にやってみると、営業1つをとっても今まで企業で働いていたときは、全体感が見えていなかったことを実感ました。大企業で営業をやっていると、多くの場合領域や担当企業で業務領域が細切れになっていることが多い。そうすると取り組んでいる一部の領域ではパフォーマンスを出せますが、組織の構築など営業組織全体のこととなると今までと同じように進めることが難しかったと感じました。

大企業とは異なり会社の置かれる全体感や組織全体、一定のシェアすらない状況をみながら打ち手をうっていく難しさは、営業領域に限らずプログラム中たびたび感じていました。

情熱と覚悟が事業をつくる

―プログラムを通して得られたことはなんですか。

スタートアップと大企業で異なっている点を、自身の目で直接見て経験できたのは大きな収穫でした。

参加して分かったのは、大企業とスタートアップは求められている成長角度が異なるだけで、事業をつくり成長させる手段を考えるという本質的な部分は同じということ。

 そんな両者で決定的に違っている部分、それは「事業に対する覚悟」です。

 例えば、私が新規事業をやろうとして企画が通らなくとも、給料は出ますし仕事がなくなることもありません。また、会社として事業の伸びが鈍化してもすぐに潰れることは少ない。

 しかしスタートアップでは事業の失敗や成長角度の鈍化は、会社の存続危機に直結します。

 だからこそ仕事に対する熱量が違いますし、自分のやることに覚悟を求められる。みんな圧倒的に自分事なのです。大企業がイノベーションを起こせない理由として、技術や組織的な制約もあると思いますが、事業にかける覚悟が足りていないことも大きいと私は思います。

 この感覚を大企業の中にいながら自ら体験するのは難しいと感じます。もちろんこのプログラムでも、スタートアップに完全にジョインするわけでは無かったので、完全に同じ感覚を得ることはできていないでしょう。

 私の場合、日々の業務には自分事として取り組んできた自負を持っていました。しかし、それでも圧倒的に熱量が足りなかったなと気づかされました。その経験は、現在のGEヘルスケアの業務に於いても変化をもたらしています。

事業数値の報告、そして目標の設定といった一つ一つの業務に対しても、これまで以上に自分事として、覚悟と情熱を持って取り組めるようになり、それによって、仕事へ取り組む喜びは一段と高まりました。

 失敗・成功に関わらず、1つの物事から学べる量は、そこに本気で取り組んでいるか、いないかで大きく異なります。大企業にはスタートアップには無いようなリソースはありますが、事業に対する本気度は圧倒的に負けている。であれば、大企業の中の者たちが覚悟をもって取り組めば、大きなイノベーションを起こせるのではないかと感じられたことは、私にとって価値のある気づきでした。

 大企業の中にいながら業務の延長線上でスタートアップと関わる場合、どうしても利害関係が生じてしまいます。スタートアップにサービスを提案されても、あくまでこの提携によってどの程度利益が増えるか、コストが削れるかなど、自社で完結した目線だけで捉えてしまうことがほとんどです。

 しかし、スタートアップはリソースや組織体制、事業展開の方法などが大企業とは異なるため、大企業目線のままでは条件や認識のズレが必ず生じます。それらの違いを、スタートアップの経験せずに想像することは限りなく難しい。

 そしてこれがオープンイノベーションで、大企業とスタートアップの提携や共同開発がうまく進まない理由の1つだと思います。だからこそ、体験したことのある人が1人でも大企業側に増えることが重要なのです。その役割を、自分が果たせることが出来れば良いなと思っています。

 通常業務をしながら、夜間や土日にILPメンバーと社長、役員の方と共に、感情的になる場面もありながらも、本気でビジネスプランを議論した日々は大変ではありました。しかし、同時に学びが多い充実した日々でした。

 繰り返しになりますが、スタートアップの雰囲気を大企業にいながら味わえる機会は、多くありません。大企業にいながら社内で新規事業をやっている方や考えている方、スタートアップとの連携をしてみたいと考えている方は、ぜひ参加してスタートアップの熱量や覚悟を直接感じてみて損はないと思います。

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