2025年3月にアメリカで開催された世界最大級の食品展示会「Natural Products Expo West」および「The World Agri-Tech Innovation Summit」と「Future Food Tech」へ参加したBeyond Next Venturesの有馬と梁が、現地の空気感や最新トレンドを語ります。
目次
「Natural Products Expo West 2025」レポート
Natural Products Expo West 2025 概要
- 開催時期:2025年3月4日 ~ 3月7日
- 開催地:アナハイム / アメリカ
- 会場:Anaheim Convention Center
- 出展対象品目:ナチュラル・オーガニック食品、健康食品、機能性食品、サプリメント、ビューティー&ホーム用品等
- 公式ウェブサイト:https://www.expowest.com/en/home.html
中国企業ブースとキノコ系スタートアップが大幅減少
梁:ではまず、Natural Products Expoについて教えてください。今年は有馬さんお一人での参加でしたね。昨年からの違いや有馬さんが気になったトレンドについて教えてください。
有馬:梁がいなかったので少し寂しかったですが(笑)、とても濃い時間でした。今年も2〜3万人の規模の来場者数で非常盛況だった印象ですが、昨年と比較すると中国企業のブースが大幅に減っていたように感じます。その一方で、アジア系やその他諸外国のスタートアップがやや増えている印象を受けました。
なぜ中国企業が減っていることに気付いたかというと、昨年は餃子や小籠包といった中国ならではの食品のブースが非常に多かったのですが、明らかにその数が減っていたからです。その背景にはアメリカの政権や、中国国内のスタートアップに関する事情が恐らく影響しているのではないかと想像しています。
ネガティブな表現をしましたが、日本企業の海外進出に対する追い風にもなりうるトレンドとも感じているので今後の動向も見守り態と思います。
あと昨年との比較で言うと、前回のレポートで取り上げたキノコ系のスタートアップは明らかに数が減少していました。真相は分からないですが実際に私たちも昨年、試食した際に美味しいと感じられなかったので、消費者の支持を得られなかったのではないかと思います。
一方でプラントベースフードのクオリティは飛躍的に向上しており、明らかにおいしくなっていました。
プラントベースフードは転換期を迎えている
有馬:米Impossible Foodsを中心に他のプラントベース関係のプロダクトを試食させていただきましたが明らかに味が改善していました。
これは業界的にいい傾向ではありつつ、日本にとっては脅威になると感じています。その理由はこれまで日本は、諸外国と比較した際に食文化が優れている影響から味へのこだわりが強く、それに伴いプロダクトの完成度が高くなるため優位性を保てていました。
しかし今回、試食したようなプラントベースフードが今後も進化していくことを想像すると、日本の競争優位性が担保されにくくなる未来が容易に想像できるレベルでの改善でした。よってこの領域で海外への進出を考えている日本企業があれば早めに挑戦すべきだと思います。
梁:「食」において一番重要な味が、技術によってクオリティを高めている点がおもしろいですね。
有馬:あと個人的には今回、様々なプラントベースフードを試食したことによって、今後の進化と広がりに期待できると感じています。
これまでプラントベースフードはあまり美味しく、ベジタリアンやビーガン以外の一般消費者は敬遠しがちでした。しかし健康を考えると肉よりも植物性の原料で作られている食べ物の方が当然いいので、健康食品の選択肢に美味しいプラントベースフードを選ぶ消費者が自然と増えていって欲しいと思いました。
梁:プラントベースフードが単なる採食主義者のための商品ではなく、健康的な食品という価値が生まれつつあるということですね。


「機能性食品」がポイント?

梁:昨年はドリンク系のブースが目立っていたように感じましたが、その点はいかがでしょうか。
有馬:ドリンク類のブースは数が減ったわけではないと思うのですが昨年よりは目立っておらず、フード系のブースの方が目立っていたように感じます。中でも「機能性」に関するプロダクトは数も明らかに増えていました。
グルテンフリーやGABA、DHAが豊富なプロダクトや脳がすっきりする効果を謳うものなど、様々な種類がありました。プロダクトの種類についてもグミなど手軽に食べることができるものもあり、今後もトレンドが続きそうです。
他には、海藻系のスタートアップも増えていましたね。海藻やこんにゃくを使ったお寿司やドリンクなどの商品が並んでいたのも印象的でした。当社が投資しているAqua Theonもその一社で、4回目のブース出展をされていたのですが、これまで見かけなかった企業のブースも多数あり、全体的に海藻トレンドの波が高まっている様子を伺うことができました。

「Natural Products Expo West 2025」のハイライト
梁:有馬さんが感じている、Natural Products Expo に参加するメリットについて教えてください。
有馬:毎年感じますが、世界各国のバイヤーがここに集まってトレンドを感知しているのは明らかです。よって、最新のフードテックの潮流を知りたければ参加すべきですし、アメリカへの進出を考えている企業は展示も含めて検討し、バイヤーと接点を持った方がいいと思います。
また参加者の顔ぶれは固まってきていて、コミュニティが形成され同窓会のような雰囲気もあります。このコミュニティに入ることも非常に重要だと思うのでぜひ参考にしてください。
梁:その他、Natural Products Expo全体を通じて伝えたいことがあればぜひ。
有馬:先ほどプラントベースフードがおいしくなった話はしましたが、最近出てきたプロダクトはまだまだ改善の余地が多いものも多く、日本の勝ち筋は残っていると思います。よって日本企業は早めにマーケティング戦略を立てトレンドをキャッチし、海外進出を目指して欲しいです。
日本の発酵技術力は非常に高く、例えば麹は海外でも「koji」と呼ばれていたり、抹茶のブースは昨年と変わらずたくさんありました。日本ならではのよさを組み合わせることによって、世界とも渡り合うことができる余地はまだまだたくさんあると感じています。


「The World Agri-Tech Innovation Summit」と「Future Food-Tech」にも参戦!
The World Agri-Tech Innovation Summit 概要
- 開催時期:2025年3月11日 ~ 3月12日
- 開催地:カリフォルニア / アメリカ
- 会場:San Francisco Marriott Marquis
- 出展対象品目:
– 農業技術(AgriTech)関連のスタートアップ、投資家、農業関連企業、食品ブランド、政策立案者など
– 持続可能な農業、気候変動対策、AI・ロボティクス、バイオ農業、再生型農業、炭素市場、サプライチェーンの透明性など - 参加者数:2,000名以上(公式Webサイトより)
- 公式ウェブサイト:https://worldagritechusa.com/?utm_source=chatgpt.com
Future Food-Tech 概要
- 開催時期:2025年3月13日 ~ 3月14日
- 開催地:サンフランシスコ / アメリカ
- 会場:San Francisco Marriott Marquis
- 出展対象品目・参加者:
– 食品業界のリーダー、技術提供者、投資家、スタートアップなど
– AIを活用した食品開発、バイオテクノロジー、持続可能なサプライチェーン、代替タンパク質、健康志向の食品など - 参加者数:1,700名以上(公式Webサイトより)
- 公式ウェブサイト:https://futurefoodtechsf.com/
世界で変わる投資の視点:トラクション重視の時代へ
梁:後半では、私と有馬さんが参加したWorld Agri Tech Innovation Summitと、私のみ参加したFuture Food-Techの内容をお伝えします。
投資家やスタートアップを含め、約30社程度と対話し、海外のスタートアップの調達環境や最新トレンド、そして今後予測されるシナリオを聞いてきました。

有馬:まずワールドアグリテックサミットの特徴の1つはアグリ・フードテックに投資する投資家が世界中から集まる点ですが、昨年と比較して投資家の数が少し減った印象でした。
恐らくファンドレイズを含めて、投資環境があまり良くないことが影響していると想像しています。具体的にはアメリカのVCやグロース領域のVCも減っていた印象でした。一方でシード・アーリーに投資する比較的小規模なヨーロッパやシンガポール、イスラエルからのVCは多かったと感じます。
梁:そうですね。様々な国の投資家との対話を通じて、投資基準が明確にシフトしていると感じました。例えば売り上げや商業化の実績を重視するようになった点が挙げられますが、有馬さん自身はどう考えていますか。
有馬:植物工場やEコマース系など、先行投資型スタートアップが大量の資金調達を行い、ハイバーンで突っ走る時代がありました。しかし今は投資環境が冷え込んでおり、各キャピタリストが利益を重視した結果、ファンドレイズがしにくい環境としなり最終的にはスタートアップが倒産してしまうケースも出てきています。
これらの流れを踏まえると、アグリ・フードテックにおけるスタートアップの潮目が変わったと言えるでしょう。これからは創業初期の段階から利益を確保できるコストと価格設定を考えた上でプロダクトを開発すること、そしてマーケットフィットするまでは最小限の金額設定でPDCAを回し続けることが重要なのではと考えています。
梁:そうですね。確かにトラクションや利益については、シリーズAの段階から見えないと投資検討ができないと話すキャピタリストもいましたね。
有馬:しかしシード投資においては、同様ではないと思っています。トラクションを重視して意思決定をするのは難しく現実的ではないため、スタートアップの色々なコンプスを見ながら、プロダクトやサービスの実現性をどこまで確信を持って投資をできるか、ベンチャーキャピタリストの手腕が試されます。
Exitに対するグローバル投資家の考え方
梁:もう一つ印象的だったのは、Exit戦略の前提が日本と大きく違うことです。アメリカではIPOよりもM&Aが当たり前で、創業初期から「どの企業と組むか」「いつ売却するか」を明確に描いているスタートアップが多かったです。
有馬:特にアメリカはほとんどがIPOではなく、M&Aのシナリオを描くのが主流になっています。M&Aに向けたエコシステム作りに力を入れており、事業会社との連携などはVC側も一緒に初期段階からやっていく動きがあるようです。
梁:様々なスタートアップのファンダーの方々にExitに関する質問をしたところ、創業の初期段階からExit戦略について考えており、さらにM&AでのExit戦略がベースになっているため、一回目のコンタクトで資本業務提携やトラクションについて話しをすることも多いようです。
有馬:M&Aを初期段階から考えている点は日本と大きく異なる点ですね。
誤解なくお伝えしたいのは、Exitの方法についてM&Aをお勧めしているわけではないという点です。M&AでのExitを考える場合、事業会社に売却するケースが多いので、プロダクト開発において売却先のプロダクトやサービスにフィットするような製品を開発するケースがあります。初めからそのシナリオに納得していれば問題ないですが、IPOを目指す傾向が強い日本の風潮には合わないと感じるやり方ですし、もちろんM&Aにも良い面・悪い面があるので、各社の状況に応じてExit戦略を描くべきだと思っています。
梁:では日本のスタートアップにおけるExit戦略にはどのような方法があるのでしょうか。
有馬:例えばシードシリーズで資金調達のラウンド重ねることで自社を成長させることで、事業会社との連携が増えることが想像できます。このような過程を経てM&AでのExit戦略の具体的なイメージを持てる方が、日本のスタートアップにフィットしそうな気がします。
あと個人的にユニコーンやギガコーンを目指す、もしくは社会的に大きな意義をもたらすようなビジョンを持っているスタートアップの方が私は好きなので、これからも応援し続けたいですね。
海外からの資金集めはアメリカよりもグローバルファンドに注目
梁:直近、アメリカでの政権交代など様々な影響から、クロスボーダーでの投資が難しくなっていると投資家との対話で感じましたが、有馬さんはどうですか。
有馬:従前からですが、アグリフードにかかわらず同じようなテクノロジーや事業レベルの企業がアメリカとアメリカ以外の国でいた場合は、現地のVCはアメリカの企業への出資を優先します。この考え方は仕方ないと思いつつ、一層その風潮が強くなってきていると感じます。
なぜなら日本のプロダクトや技術がちゃんとアメリカに進出しないと、トラクションの判断を付けづらいのは当然で、そのためには日本でまずトラクションを積み、かつ、アメリカのマーケットでも一定のトラクションを得ることが投資判断の際に必要になるからです。
梁:では日本のスタートアップが海外展開を目指す際にどのようなことに気を付ければいいでしょうか。
有馬:逆に言うとアメリカ以外のVCの方が日本のスタートアップへの出資の可能性が高いかもしれません。 イスラエルやヨーロッパ、シンガポールのVCは各国のエリアを中心としつつ、世界各国の良いスタートアップに投資をする考えがベースにあるので、日本のスタートアップは比較的、出資を受けやすいと思います。
ただしその場合、シナジーをどのように捉えるのかはしっかり考える必要があります。例えばアメリカのVCに出資してもらう場合のシナジーは、アメリカのマーケットへのアクセスなどが挙げられるでしょう。よって資金だけなのか、他にもシナジーとして期待するものがあるのかなどは予め考えておくことが必要だと思いました。
梁:今回はアメリカで開催された大型カンファレンスのレポートでしたが、アグリ・フードテックにおける最新のトレンドだけでなく、資金調達や事業成長の考え方の変化についてもご紹介いたしました。
これからも世界で勝てるディープテックスタートアップを後押ししていきたいです。ご相談はいつでもお待ちしています!
有馬・梁:最後までお読みいただきありがとうございました!