資源に眠る価値を開放する。ライノフラックスに投資した理由

今回、現在新規投資中のディープテック特化の3号ファンドより、クライメートテック領域のスタートアップ「ライノフラックス」に新規投資を実行しました。

ライノフラックスは、「地球に存在する膨大な資源の価値を科学の力によって解放する」というミッション実現に向けて、バイオエネルギー・炭素回収プラントを開発しています。

当社の保有する技術は、従来のバイオマス発電の常識を覆し、再生可能エネルギーの中でのバイオマス発電の位置づけを根本的に変える可能性があります。当社はその変革の中心に立ち、新たな市場をリードできると確信し、投資を行いました。

本記事では、Beyond Next Venturesがライノフラックスに出資した背景について詳しく説明します。

バイオマス発電への期待

「再エネ」が叫ばれて久しい今でも、再生可能エネルギーの普及は引き続き重要な課題の一つです。

2020年時点で世界の電源構成に占める再生エネ比率は約28%。一方で、パリ協定で示された1.5℃目標の達成のためには、2030年までに再エネ比率を約68%、2050年までには91%まで向上させることが必要だと言われています。

バイオマス発電は普遍的に存在するバイオ資源を活用した発電方法として、今後も太陽光・風力・水力に次ぐ重要な再エネ源となると期待されています。世界の電源構成の中でバイオマス発電は約10%弱を安定して占めており[1]、また日本においては2019年から2030年にかけて、バイオマス発電の比率を2.6%から5%程度まで向上させる計画です[2]

また、再エネへの転換と並んで大きなトピックとなっているのが、「ネガティブエミッション技術(NETs)」の社会実装です。NETsとは、大気中から二酸化炭素(CO2)を取り除く技術のことです。どれだけ努力してCO2排出量削減を極限まで進めても、削減コストの極めて高い(削減が現実的でない)CO2排出分が一定程度残ると想定されます。そこで、その残ったCO2排出を相殺するために、大気からCO2を除去するNETsが注目されています。

NEDOが整理した資料によると、1.5℃目標達成(地球の気温上昇を1.5℃以内に抑えること)のためには、世界全体でNETsが2030年までに最低でも年間1〜1.6ギガトン(約10億トン)のCO2を吸収し、2050年までには年間5〜7ギガトンのCO2を吸収する必要があると予想されています[3]。これは非常に大きな影響を持つ数字です。

そこで、NETsの有力候補として、バイオマス発電と炭素回収を組み合わせた「BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)」への期待が高まっています。

バイオマス発電の燃料であるバイオマス中の炭素は、もともと空気中から植物に吸収されたものであるため、発電時に発生するCO2を回収すれば、ネットでネガティブエミッションになるという考えに基づきます。BECCSによるCO2削減ポテンシャルは世界で5.6ギガトン/年とも推定され、NETsの中でも最大規模です。

このように、バイオマス発電は今後も社会の中で重要な役割を果たすと期待されています。しかし、一つ大きな問題があります。それは、【コストの高さ】です。

  1. [1]IRENA “WORLD ENERGY TRASITIONS OUTLOOK 2023 – 1.5℃ PATHWAY” (2023)
  2. [2]経済産業省 「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」(2021)
  3. [3]NEDO「ネガティブエミッション技術(NETs)について」(2021)

バイオマスは扱いにくい燃料である

バイオマス発電にはいくつかの種別がありますが、多くはバイオマス(植物などの有機物)を何らかのプロセスで燃焼させ、高温になった気体でタービンを回し発電します。本質は火力発電と同じです。ただし、気の遠くなる時間を経て炭素分が濃縮された石油や石炭などの化石燃料とは異なり、バイオマスは様々な有機物や水分を多く含んでいます。そのため、質量当たりのエネルギー量は少なく、水分を蒸発させるために余計なエネルギー(蒸発熱)が必要となります。要するに、バイオマスは燃料としては効率が悪いのです。

この事実を反映して、バイオマス発電のコストは全電源の中でもワースト水準となっています。グローバルの中央値で約120米ドル/MWh、日本国内だと30円/kWh=3万円/MWhと言われ、火力発電や太陽光発電の約1.5~3倍の水準です[4][5]。日本では、政府が再生可能エネルギーを固定価格で買い取るFIT制度によりバイオマス発電が一定普及していますが、、買い取り期間が終わり市場価格に晒された瞬間に採算性が取れなくなってしまうような数値です。

さらに、炭素回収を組み合わせた上述のBECCSを行おうとすれば、CO2を濃縮・回収するために余計にコストがかかります。ただでさえコストがかかるバイオマス発電に、さらにコストが上積みされるため、CO2回収に相当な経済価値が付与されなければ採算性が成立しません。これがBECCS普及を妨げている大きなボトルネックの一つです。

  1. [4]OECD/NEA & IEA, “Projected costs of generating electricity 2020 Edition” (2020)
  2. [5]経済産業省「発電コストに関する取りまとめ(案)」 (2021)

エネルギーの有効活用に究極までこだわったライノフラックスの技術

ライノフラックスの技術は、この扱いにくいバイオマス資源から、いかに効率的にエネルギーを取り出すか?を追求した結果として、京都大学大学院工学研究科の蘆田講師により開発されました。2つの反応系で構成され、その間を媒介物質の水溶液が循環(ループ)するため、「湿式ケミカルルーピング」と呼ばれます。

湿式ケミカルルーピングの模式図[6]

詳しい説明はここでは省略しますが、この反応系の要点は以下の3つです。
【1】熱エネルギーを経由せず、化学エネルギーを経由して電気エネルギーを得ていること
【2】バイオマスの反応が水溶液中で起こること
【3】バイオマスの液相反応の結果、99.9%以上の純粋なCO2が自然に得られること

一般的に、熱エネルギーは「エネルギーの墓場」「最も使い尽くされたエネルギー」とも言われ、非常に使い勝手が悪いものです。燃焼・熱への変換を行わない、ポイント【1】の工夫により、発電効率は50%以上(理論限界81%)と、従来のバイオマス発電の10-30%とは桁違いの性能が発揮されます。通常、発電効率が1%向上するだけでも大きな成果とされる中、どれだけ革新的な数値かが分かります。

通常のバイオマス発電とケミカルルーピングの比較[7]

また、ポイント【2】により、水分蒸発による発電効率の損失が起こらず、湿った低質バイオマスでも利用可能となります。多くの場合、そうした低質バイオマスは極めて安価に手に入ります。

さらに、ポイント【3】により、CO2回収に追加的なコストがかからないため、自然と炭素回収が実現されます。生まれながらにしてBECCS技術でもあると言えます。

  1. [6][7]蘆田隆一, et. at. “熱機関を利用しない新規高効率低品位炭バイオマス発電” (2020)

これらが意味するのは、バイオマス発電及びBECCSの飛躍的なコストの削減と、採算性の大幅な向上です。従来、BECCSは多大なコストを払ってCO2を回収するものでしたが、当社の技術が実装されれば、発電で利益を上げれば上げるほど、CO2もいつの間にか自動的に回収される世界が到来します。その影響は途方もないと言えるでしょう。

ライノフラックスは、この技術を実装したバイオエネルギー・炭素回収プラントおよびそのコアモジュールの開発・販売を目指しています。今後、徐々にプラントのスケールアップを図る中で、まずは小規模なプラントが、生ごみ等の低質バイオマスを持て余す飲食品工場等などの施設に広く普及していくと期待しています。

ビジネス・エンジニアリング・サイエンスの三位一体による理想的な経営チーム

CEOの間澤さんは、三菱商事時代に米国の起業文化に触れ、起業を志したといいます。日本で成功して終わりではなく「本気で世界に勝てる事業を創りたい」という視座の高い情熱に溢れ、圧倒的な行動力とロジカルな洞察力で当社の事業を力強くけん引しています。

CSOの蘆田先生は、前述の通り本事業のコア技術の開発者であり、当社の基礎技術開発をリードしています。また、CTOの萩本さんは、蘆田先生の元教え子であり、マイクロ波化学で新技術のスケールアップ経験を豊富に積まれています。多くのスタートアップが苦戦するスケールアップ開発ですが、萩本さんが加わることで極めて心強い体制が実現しています。

経営チームにはものすごくこだわった」と話す間澤さんの言葉通り、まさにこの事業を成功させるにあたって、「このチームしかいない」と思わせる理想的な経営チームが揃っています。彼らであれば、この事業を必ずやり遂げられると考えています。

本気で世界に勝てる事業を創る。

言葉だけでなく、本当にその覚悟を持ってチャレンジする当社とこれからご一緒できることを大変嬉しく思っています。日本の代表的なエネルギー企業に飛躍するその日に向けて、全力で支援していきます。

ライノフラックスでは、科学者・エンジニア・ビジネスデベロップメントなどの領域で採用強化中です。「世界のために一肌脱ぎたい方」はぜひ採用ページをご確認ください。

Akito Arima

Akito Arima

Partner

Hiroyuki Kageyama

Hiroyuki Kageyama

Venture Capitalist