異色のキャリアを持つ医師起業家が大企業シーズのカーブアウトで実現したい世界|DEEP TECH PIONEERS

こんにちは、三國です。私はディープテック領域に特化したベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesで出資先の採用や組織成長支援に携わっています。

今回は、医師→外資コンサル→大手自動車部品メーカーの技術シーズからカーブアウトベンチャーを起業された株式会社OPExPARK(オペパーク)のCEOを務める本田氏にお話を伺いました。

医師から外資コンサルファームに転職し、なぜビジネスの世界に飛び込んだのか、そして、何を目指してカーブアウト起業に至ったのか、その決断の背景に迫ります。

プロフィール

本田 泰教|代表取締役社長・CEO・医師株式会社OPExPARK

信州大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター等で臨床業務に従事。消化器内科医、内視鏡医として多くの患者の診療に関わる。その後欧州最大の戦略コンサルティングファームであるローランドベルガーに入社し、製薬企業・医療機器メーカーの中長期戦略立案などヘルスケア領域におけるコンサルティングを経験。2019年より現職。現在も週1回、内視鏡医勤務を継続し、医療現場に立つ。

医療業界の構造を変えるため、あえてビジネスの世界に

ーまずは本田さんが目指しているビジョンから聞かせてください。


私が目指しているのは、医療の暗黙知を可視化・集合知化することで、頑張る医師を幸せにし、結果として患者も幸せになる未来です。勤務医の世界というのは「分野のトップを目指せば目指すほど、労働環境も悪くなる」傾向がありまして、自分にしか出来ないことを追及しようとする人ほど報われない構造になっていることも問題視しています。家族、地位、収入のどれを捨てるか取捨選択しなければならないと言っても過言ではありません。

そのため、いい医療をするために自己研鑽に励んでいても、労働環境や家族事情が徐々に悪化し、奉仕の精神に我慢がきて出世コースをドロップアウトするもったいないケースも最近は増えてきています。一方で、ビジネスの世界は最先端のことをして、バリューを出せば出すほど待遇がよくなる至極リーズナブルな世界だと思います。

医療の世界でも、ビジネスの世界のように「頑張る人ほど報われる社会」を作り出し、医師も患者も幸せになる構造に作り替えたいと思っています。

ー医師として働きながら、なぜ医療業界とビジネスの世界との違いに気づけたのでしょうか。

上場企業の社長をしている患者さんを担当する機会がたびたびあり、いろいろ話を聞かせてもらい刺激をもらってきたというのは大きな要因だと思います。「患者と仲良くするな」という医師業界の暗黙のルールはあると思うのですが、自分は病棟で患者さんと話をすることが大好きで、よく夜に検査や治療が終わったらラウンドがてら様々な話をしていました。なかでも特に、起業しゼロイチを成しとげ、社会を変えてきた方々の姿はとても印象的で。自分が成し遂げてきたことがその方の生き様になることを本当の意味で実感しました。

ーもともとビジネスの世界にも興味関心があったのですか?


なかったです。後期研修医の頃までは「ある分野で自分にしか出来ない手技を確立し世界中に呼ばれる医師になりたい」と思って学生時代に何度か留学もしていたのですが、考えが変わる出来事がありました。

当時、自分を可愛がってくれた日本トップリーダーのボスが「テクノロジーの進化で、誰でも自分のような手技を行えるようになるだろう。そういうデバイス開発が近未来に実現できる」と話していたのです。その話を真近で聞いて、現場で需要のあるデバイス創りをしてみたいと感じたと同時に、「自分がトップクラスの技術を身につけるよりも、誰もがトップクラスの手技を行える世界を作った方が社会への貢献が強いのでは」と考えるようになりました。

また、自分が所属していた教室では「5年目までは目の前の患者を救い、6年目からは目の前にいない患者を救う」という努力をすべしという教訓がありました。5年間はガイドラインを遵守した医療を身体で覚え、6年目以降は、今答えのない世界を追求し、研究論文で世界に発信し新たな医療を創っていくことだと解釈しております。

しかし、私の場合は自分が研究室で試験管を振り、周囲の医師よりも優れた結果を出すことをイメージできず。むしろ自分の強みである、突破力、行動力、巻き込み力を活かして医療業界のシステムを作り替えることにワクワクし始めました。そのため、6年目に大学院に進むのを辞めて、外の世界での挑戦を決意しました。

ー外の世界に出るにあたり、なぜ外資コンサルを選んだのでしょうか。

挑戦先の場で重要視していたのは「いかに自分が成長できるか」でした。当時も今も、医療以外は興味がありません。そこで候補にあげていたのが戦略コンサルもしくは医療系の事業会社やMBAの取得です。その中でも、高校の同期から「戦略コンサルは毎日当直してるくらい大変だけど、その分1日1日の成長を感じている」と聞いたので、外資系の戦略コンサルに行こうと決めました。

カーブアウト起業のきっかけとなる、デンソーとの出会い

ー戦略コンサルでの経験の中で、起業に活きたポイントがあれば教えてください。

大企業の中長期戦略などを考える仕事が多かったので、ビジネスの全体像を俯瞰的に見れるようになりました。実際に起業してみると、事業開発含めより細かい枝葉の話の方が多いのですが、全体像を俯瞰しながら事業を推進できているのはコンサル時代の経験あってのことです。

また、右も左もわからない入社1~2ヶ月で,いきなり役員にプレゼンする機会をいただける会社だったので、プレゼンスキルや度胸もだいぶ身につきましたね。

ー転職してから1年弱で起業していますが、どのような経緯があったのでしょうか?

コンサルに転職してから、様々な方から声をかけていただきました。当時は雑音としか感じていなかったのですが、その一人がBNVの鷺山さんで。唯一、鷺山さんの「BRAVE(※)に参加してみないか」という話は何故か聞いてみようと思ったんです。

    BRAVEとは:大学・研究機関で培われた研究成果の事業化を推進する約2ヶ月間のプログラム。書類選考/審査および経営人材候補とのマッチング/チーム組成を経て、事業化を目指す。締めくくりとなるDEMO DAYでは、資金調達などの機会を勝ち取るために投資家や事業会社に対しプレゼンを行う。https://beyondnextventures.com/jp/incubation/brave/

私はいつか起業とは考えていましたが、BRAVEはあくまで人生経験くらいの気持ちで参加したら、デンソーさんとの出会いがありました。デンソーさんが持っている技術シーズで、自分が描いた「医療の暗黙知を可視化して医師も患者も幸せに」というビジョンを実現できる可能性があると感じて、事業化に向けて共に活動することにしたのです。本当はデンソーのお手伝いをしながらコンサルでもう数年は働くつもりでしたが、事業を継続するにはカーブアウトするしかなく、1年弱で「OPExPARK」を起業することになりました。

「医師のキャリアの可能性を広げたい」起業しても医師の仕事を続ける理由


ーデンソーからのカーブアウトという形で起業されましたが、感想を聞かせてください。

思っていたよりも大変でした。メンターからは「カーブアウトは大変だぞ」と聞かされていたので覚悟はしていましたが、想像以上にハードでしたね。あの頃の自分にアドバイスしたいことが今では多々あります(笑)。特に、「組織づくり」がもっとも重要で、今もまだ頭を悩ませることはあります。ただ本当に裁量権を与えていただいており、感謝しています。

ー難しいのを分かっていて、なぜチャレンジしようと思ったのでしょうか。

よい技術シーズでカーブアウトが進み成功すれば、世の中が良くなる可能性があると信じていて、私個人としても何にも変えたがい経験になると感じたからです。私はFIREしたいわけでも、有名になりたいわけでもなく、「(医者である)自分が大事にすることを実行する」にチャレンジしたいと思ったんです。

そう思えるのは、父の影響かもしれません。私の家は祖父も父も医者で、父はある分野では影響力のある医師でした。それでも大好きな故郷の人に貢献したいという思いから、継いで患者のために働き続けています。

父の医師としての姿はずっとみてきてますし、そんな父を尊敬しているので、本当に社会に貢献できることをしたいとずっと考えていました。ビジネスの世界に行くと話した時は父も驚いていましたが、今はやるからにはきちんと形にしろと応援してくれているので非常に心強いです。

ー今でも医師として働いていますが、その理由についても教えてください。

現場感がなくなれば自分の価値はないと思ってますし、医師のキャリアの可能性を広げたいからです。海外ではアイデアを持った医師が起業するケースは珍しくありません。日本でも教授クラスが起業するケースは最近ありますが、若い医師が臨床をガッツリ続けながらチャレンジできる環境や文化はなかなかありません。

だからこそ、私自身がキャリアのロールモデルになりたいと思い、今でも週に一度は内視鏡医として働き続けています。二足の草鞋のせいで患者さんに不利益になるならやめますが、そうならないように自分の事業の教育システムで自身の成長を促進し、もともとの夢であるExpertを今でも目指しています。

同じビジョンに向かって走れるフラットな組織を目指して

ー今後、どのような人材を採用していく予定か聞かせてください。

今はBizDev人材の採用を強化していきたいです。OPExPARK(オペパーク)は、医療とビジネスをうまく組み合わせて、世の中に認めてもらう必要があります。これまでは私が細かなこと含めすべて判断を下してきましたが、固定概念に縛られている面もあり、一緒に考えてくれる人がいると心強いです。特に、同じビジョンに向かって一緒に走っていける人を集めていきたいですね。バックグラウンドの違う人同士のベクトルをいかに揃えるか、私もまだ勉強中ですが、これから試行錯誤しながら強い組織を作っていきたいと思っています。

ー組織を作っていく上で、意識していることがあれば教えてください。

フラットな組織づくりを心がけています。医療業界は完全なトップダウン型なのですが、コンサルでは1年目がパートナーに対して正しいことを教えてあげるというシーンもよくあって、衝撃的だったことを覚えています。役職や入社年数に関係なく、建設的な議論ができる組織にしたいですし、純粋に皆で正しいことをしていける会社にしたいです。

最後に

Beyond Next Venturesでは、ディープテックスタートアップの起業や経営に関心がある方とのカジュアル面談を実施しています。DTx(デジタル・セラピューティクス)等の医療・ヘルスケア、創薬・バイオ、アグリ・フード、AI、宇宙など様々なスタートアップのCXOポジションの紹介、また、経営者を目指す方に向けて、技術シーズをもつ研究者との共同創業を実践するプログラム「INNOVATION LEADERS PROGRAM」への参加推薦などを行っています。少しでもご興味のある方は、ぜひご連絡ください!

Hiroki Mikuni

Hiroki Mikuni

Manager