研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。
ILP第7期生 山本さん、嶋田さんは、将来的な独立も視野に入れながら自身のビジネススキルを外部のスタートアップ環境で試したい、先端技術に触れてみたい、という思いでILPに参加されました。
プロフィール
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
山本 ひかる氏
製造業向けBtoBプラットフォーマー
嶋田 真奈氏
ーどんな研究の事業化に取り組まれましたか?
山本:私はヘルスケア領域のフェムテックに関する新規事業に参加しました。婦人科疾患領域の医療サービスを提供する事業です。私がILPに応募した時はまだ事業化前でしたが、今は起業され数名のメンバーで事業拡大に向けて取り組みを進めています。現勤務先では医療機器ビジネスのマーケティングに携わっているので、それを活かして市場調査や参入すべき領域の選定、成功するための要因(KSF)などを調べて、資料にまとめたりしていました。
嶋田:私は昆虫食事業を手がけている創業初期の株式会社グリラスにジョインしました。山本さんが参加された研究スタートアップよりは規模は大きく、セールスや商品開発などの役割が社内で決まっていました。その中で、私も本職でマーケティングに近しい仕事を担当していることもあり、会社やプロダクトのブランディング戦略の立案などの仕事を担当しました。
ーILPに参加したきっかけを教えてください。
山本:大きく2つあります。1つ目は、自分のビジネスやマーケティングスキルがどの程度通用するか、社外でチャレンジしたかったためです。同じ医療業界を選んだため貢献しやすいと思っていましたが、実際に始まると分からないことだらけでした。
2つ目は、新しい市場に参入する面白さ・ワクワク感を再び経験したかったためです。元々手術用ロボットのスタートアップで働いていたため、新規事業の立ち上げには興味がありました。しかし、ライフイベントとのバランスもあり、スタートアップに今すぐ転職する選択肢はありませんでした。このプログラムは、描いているキャリアプランや勤務先での立場を維持したまま新規事業に挑戦できることが魅力でした。
嶋田:私は将来的に起業や独立を考えて、今自分が持っている力を試してみたかったのと、社内だけでは関われない新しい技術に触れたかったので応募しました。昆虫食は全く経験がありませんでしたが、以前からSNS上で面白そうだと思っていたので、思い切って応募しました。
ーILPに参加したメリットはありましたか?
嶋田:現状を維持しつつ、経営者に近い視点で事業に伴走できる点ではないでしょうか。例えば、アドバイザリーやコンサルの立場でスタートアップと関わる場合、リスクは抑えられるものの上下関係ができてしまいフラットな関係で仕事をするのが難しい。一方で、スタートアップにジョインするのも、急激な環境の変化や生活と仕事のバランスを考えると、簡単な意思決定ではありません。その点、このプログラムを活用すれば、リスクを抑えつつ事業創りに関われます。これは他では体験できないユニークな点だと思います。
山本:「挑戦したいこと」のイメージが具体化していなくとも参加できるのも良い点だと思います。大前提としてチャレンジする意思は必要ですが、参加しながら自分が挑戦したいことの方向性を明確にしていける機会は貴重だと思いました。
ー現職の傍ら、ILPに参加するのは大変ではなかったですか?
山本:平日は仕事が遅いため土日に連絡や資料づくりをしていました。勤務先での業務に支障がでないよう、ジョインしたタイミングで関わり方を相談していたので、無理をしている感覚はありませんでした。
嶋田:私は仕事を定時に切り上げ、平日の夜にコミットしていました。土日はミーティングには参加していましたが、プライベートの時間も十分確保できていましたね。プログラムに参加する際にコミット可能な時間を先方に共有していましたし、私たちの本業を持った立場についても先方は理解してくださっていたので、関わり方の自由度は高かったです。
ーILPでの事業づくりから得た経験・気づきはありますか?
山本:起業家の事業に対する意思決定のスピード感を間近で感じられたことでしょうか。スタートアップの初期では、これから5、10年と事業を急拡大させて、大成功させることを全員が共通認識として持っていますし、熱量も大きいです。論理的な根拠を集めるよりも走りながら進めて、同時並行で複数の案件を進めていくのが常です。
例えば、企業ロゴの決定、企業HP立ち上げ、特許戦略など重大な案件についても、話がでたその日のうちから目的設定や業者の選定、詳細プロセスのブレイクダウンなどを同時に進め、1週間後には大枠を仕上げていました。これはステークホルダーが多く説得材料の提示が重視される大企業ではまず実現が難しいスピード感だと思います。
自ずと経営者と同じように「会社の成長のための最善策は?」という視点を意識するようになりましたし、普段の仕事でも事業全体から逆算して考えたり、三手・四手先を以前より想像しつつ進めていくようになれたのではと思います。
嶋田:私は自分の働き方を再考するきっかけになりました。ILP参加前は「事業の立ち上げ=プレイヤーとして事業をつくる」と考えていましたが、サポーターとして事業に関わる選択肢もあると知りました。実際に参加後から、経営者やスタートアップの従業員で道に迷われている方にコーチングができるように、スクールに通い始めました。今まで見えなかった、選択肢が見えるようになったのは、このプログラムに参加できたからだと思います。
ー技術バックグラウンドがなくてもお力を発揮できましたか?
山本:市場・競合分析方法やまとめ方については想像つきやすかったですが、資金調達時に求められる事業計画や財務計画に沿って、長期的なロードマップを練る部分は分からないことだらけでした。新規事業に関わるのであれば、マーケティング以外の領域も勉強が必須だと痛感しました。
嶋田:スタートアップでは何をするにしても時間とリソースが圧倒的に足りません。そのため、意見交換のための日程調整や議事録の作成、ちょっとした調べ物ですら大きなサポートになりえます。大企業にいると当たり前に行っていた習慣やスキルが、外では異なる評価をされることを学べるのは貴重だと思います。
ーILP参加の2カ月間、最も貴重に感じたことはなんでしたか?
嶋田:「何がなんでも自分の事業を成功させる」という想いを持った創業者の方と働けたことです。グリラスCEOの渡邉さんは、起業する15年以上前からコオロギの研究をされており、事業に対する愛着や力のかけ方が非常に強い方でした。数字よりも先に実現したい世界や社会課題に対してどのようなスタンスをとるかから考えるのです。そういった熱い想いに感化され自分も挑戦したい気持ちが自然と湧き上がってきました。参加後も日常生活の中で食について考えたり、コオロギを食べてみたりと自分の行動が変わりました。
山本:創業者の方のお話をセミナーなどで聞いたり、オンラインサロンなどに入ったりしても、創業者の働き方や事業にかける想いや思考法といった深い部分まで知ることができる機会は少ないと思います。一方で、プログラム参加中は事業に対して本音ベースで議論する、想いをシェアする機会が多々あります。求められることも多いですが、自らの想いで事業を育てていく方とフラットに関われたのは貴重な経験でした。
ーILPはどんな人におすすめですか?
山本:自分のキャリアにもっと何かをプラスしたい方、スキルを試してみたい方は、参加をお勧めしたいです。自分の携わっている領域以外を勉強したいのであれば、それが経験できる環境に身を置いてしまうのが効率的です。仕事を辞めるなどせずに、創業者と事業をつくりながらノウハウを学べる体験はなかなかできません。ただ一方で、求められる役割が曖昧だったり、すぐに変わったりもするので、そんな状況でも柔軟にやるべきことを探して楽しめる人でないと辛いかもしれません。
嶋田:事業の経営者や責任者の視点に立つ経験をしてみたい方にはお勧めしたいです。私も参加期間中は気づいたら食や昆虫食のニュースを調べたり、日常の中で何が事業に生かせるかを常に考えたりしていました。また議事録を取るという一見地味なアクション1つをとっても、事業の成功にどのように繋げるかを常に意識するようになりました。自分の仕事について無我夢中で考える経験をしてみたい方にはこのプログラムは向いているかなと。
ー社内での新規事業立ち上げとは違いましたか?
山本:社内の新規事業は、自分が精通した領域や精通せずとも情報が入りやすい環境であることが多いため、各調査やアクションも一定の経験を元に行えるケースが多いと思います。
一方で、ILPでは未経験の領域・新しい環境に挑むので、0の状態からのアクションが求められます。となると、普段使っていない能力やマーケティングの感覚が鍛えられるので、そういった点で大きく異なります。
嶋田:最新の技術や特許に直接関われるという点も魅力です。社内発の場合、関与できる技術情報に立場や役割によって制限がかかることもありますが、このプログラムでは全て知ろうとすれば知れます。
私自身まだ社会人3年目なので、参加当初は自分にできることがあるか不安でした。しかし全力で取り組んだ結果、驚くような出会いや経験があったので、将来のキャリアやスキルに不安を感じている若い方や女性の方には、ぜひ一歩を踏み出してほしいです。
山本:将来、大企業に成長する可能性を秘めた企業のCEOと密接に関われる機会は、滅多にありません。素晴らしいリーダーシップをお持ちだったり、突出したスキルをお持ちだったり、そうした経営メンバーとの貴重な出会いを求めてプログラムに参加するのもいいと思います。
普段とは異なるビジネス経験ができますし、思ったように貢献ができなくとも自身の経験としてマイナスなことは何もありません。むしろ新しい環境に身を置くことが今後のキャリア形成にもプラスに働いてきます。