研究領域屈指のVC・アクセラレーターのBeyond Next Venturesが、ディープテックで社会を変える【未来の経営人材(CxO)】を輩出するために運営する「INNOVATION LEADERS PROGRAM」(通称、ILP)の卒業生インタビューシリーズ。
ILP第1期生 株式会社atta代表取締役CEOの春山さんは、1度目の起業から3社の企業勤めを経験し、「もう一度事業を立ち上げたい」と模索する中でILPと出会います。今回は、ILP参加の背景やキャリアの変遷などについて伺いました。「これ」と決めたらとにかく速い春山さんの実行力を、ぜひご覧ください。
プロフィール
株式会社atta 代表取締役CEO
春山 佳久氏
2004年、カルフォルニア大学ロサンゼルス校 航空宇宙工学科卒業。電通、Google等でのセールスを経て、故郷の北海道で農業×IT分野で起業。一部事業を譲渡後、Huluの初期メンバーの一人として日本事業の立ち上げに参加。その後は、外資ネットサービスの日本における事業責任者、洋菓子製造販売 BAKEのCOO・海外事業責任者を経て、2018年3月に現職株式会社attaを創業。
ーILPと出会うまでのキャリアについて教えてください。
20代後半で“野菜のネット流通”領域で起業しました。起業のきっかけは、海外留学から戻り、翌春に電通に入社するまでの半年間ソフトバンクでアルバイトをした経験からでした。
アルバイトでは初めてビジネスの世界を見て、当たり前に事業が立ち上がる文化、そして意思決定の速さに感動しました。「自分も事業を創る側で仕事がしたい」という強い想いが生まれました。
その後、電通・Googleと広告業界で働きましたが、起業への転機は20代後半の思わぬタイミングで訪れました。私の実家は北海道の農家なのですが、父親が倒れ急遽北海道で農家を継ぐことになったのです。
とはいえ、普通に野菜の生産・販売をするのは嫌だと思い、周囲の農家も巻き込んで「旬の北海道野菜」をパッケージにし、定期的に顧客に届けるBtoCの通販モデルを思いつきます。
運よく事業会社からの出資も決まり、事業準備に着手。しかし、意気揚々と1年半の準備期間を経てスタートしたこの事業は、僅か半年で撤退を迎えます。
今思えば当然ですが、既存の有機野菜通販会社という競合がいて、洗練された事業が展開されている領域だったこと。そして、北海道の実家周辺を基点に組んだモデルだったため、供給できる品種や地理・気候的要因が事業の大きな障害でした。毎回野菜の種類を変えるのも大変だし、冬は野菜の種類が少ないからジャガイモだけ3kg送ったら困るよな、とか(笑)
事業を立ち上げる上で、事業モデルをしっかりと考えて始めることの大切さ、供給を組み上げることの難しさを学べた貴重な経験でした。
東京に戻った後の日々と、ILPとの出会い
その後東京で再びネット産業に戻り、動画サービス「Hulu」の日本事業立ち上げや、外資の旅行ネットサービスの日本の事業責任者を経験します。
事業買収等もあり会社を離れることになりましたが、次のキャリアとして「日本からグローバルに展開できる事業に関わりたい」と思い、魅力あるスイーツ事業の積極展開を目指している「BAKE」に入社を決めました。同社では5つの海外子会社と各国の現地フランチャイズ提携企業とともに日本のお菓子を海外で展開することができました。
1度目の起業から3社の企業勤めが続きましたが、「もう一度事業を立ち上げたい」という気持ちは持ち続けていました。とはいえ、自分が腹落ちしたビジネスでないと続かない。考えを整理した結果、過去の経験から、「在庫を持たないビジネス」「サブスクリプションモデル」「グローバル」という3つの軸を決めて、事業モデルを日々考えていました。
そんな中、2017年にILPの存在を知りました。ILPは「研究・技術を基にした事業を磨き、研究者と共同創業を目指す」という内容で、これまで経験してきたネット事業とは大分異質なものでした。だからこそ、今までの常識や視点の枠を壊すことや、技術から事業を導き出していくことのプロセスを知れることが、純粋に面白そうだと感じ、応募しました。
ーILPではどんな研究チームにジョインしましたか?
ILPでは、研究チームと共に約2カ月間、精神疾患治療サービスの事業づくりに加わりました。医療領域のサービスなので、製品や顧客に加えて医療機関・規制・法律といった多くの要素を俯瞰する必要がありました。
ILPを終えて感じたことは、“スタートアップは熱気がある”ということ。特に、プログラムのセミナー講演のひとつ、「ペプチドリームのL字カーブの成長と成功」を聞いたときは、改めて「サラリーマンなんかやってる場合じゃない!」という気持ちになりました。ILPの同期も起業を目指している方が多かったので、刺激を受けたのもありました。
プログラムが終わった後は、仕事を続けながらも毎日事業テーマを考えていまして、ふとした気づきがきっかけで、attaの創業へとつながります。
ーILP卒業後、attaを創業された背景を教えてください
2017年にBAKEでタイに出張した時に、ふと「宿泊先を探すときにホテルや民泊など一度に探すことができないのはなぜだ?」という疑問が浮かびました。利用者からすれば、宿泊できる場所ならホテルも民泊も関係ない。でもそれをまとめて探せるサービスがないのです。
すぐ調べたところ、北米では既にサービス提供会社があり、$20-50M級の資金調達をしていること、アジアではサービス提供会社がいないこと、そして日本国内では、民泊の法整備と共に市場もこれから出来上がっていくことなどが矢継ぎ早に見えてきました。
そこからの展開は早いもので、出張から1カ月後には、事業の市場性を基に意中の仲間を口説き、翌年の法人設立を目指すというマイルストーンを決めました。
ちなみに、1回目に起業をした時は、役割分担を考えずにメンバーを集めて苦労した経験があります。そのため、今回は過去の仕事で出会った仲間の中で、最適と思う仲間から、デザイナー、バックエンドのエンジニア、フロントのエンジニアと必要最低限かつキーとなる3名だけに声をかけ、信頼感と経験の両面で強いチームを組むことができました。
シリコンバレー訪問と、仲間からの熱烈な応援が資金調達を後押し
仲間と議論を続けながら、2018年3月にはモック(プロダクトの画面イメージ)とビジネスプランが完成。まずは、一番ノウハウを持っている相手の懐に飛び込んでみようと、シリコンバレーのトラベル分野専門のVCへ会いに行きました。
結果として投資を受けることはできませんでしたが、専門家である彼らの目線を知るとともに、この事業の成功のカギがどこにあるのかを再認識することができたのは大きな収穫でした。また、米国で起業している知人を回ったところ、「すぐやった方がいいよ」や「あのVCに会いなよ」という熱烈な応援が相次ぎ、強く肩を押されました。
結果、帰国して翌日には、勧められたVCに訪問し、それが後にシードラウンドの資金調達先となりました。あの応援がなければ、プロトタイプ開発を待つことで、もっと資金調達は遅れていたかもしれません。
旅行領域にイノベーションを。 ドラえもんのようなTravel Buddyになる
今後の展開としては、アジアでの国を跨いだ進出や、サービスを通じたユーザー体験自体を大きく変えていくようなサービスの改善も考えています。意外に思われるかもしれませんが、旅行・宿泊情報検索サービスは、もう20年も前から今に近い形が確立されています。つまり、データを集約し、比較し、申し込むといったサービスは、大きくは変わっておらず、イノベーションと呼べるような変化はあまり起きていません。
私たちは、今のサービスの延長に、『ドラえもん』のように便利で、かつ旅行の体験を大きく向上するようなサービスを提供し、旅行者のTravel Buddyになることを目指しています。ぜひ注目していてください!