蔭山:ディープテック領域で新しい事業を創出するためには、周囲がしっかりサポートできるエコシステムの構築こそが大事であるという考えのもと、本セッションでは「ディープテック・スタートアップの創出に向けた支援エコシステムの最前線」について、NEDOの伊吹さん、JETROの樽谷さん、名古屋市の木野瀬さん、そしてBeyond Next Venturesの私(蔭山)の4名でディスカッションしていきます。
登壇者
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
イノベーション推進部
伊吹 信一郎
NEDOに入構後、研究開発型スタートアップ支援事業の立ち上げと運営、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)の立ち上げに従事。2017年7月から内閣府に出向。研究開発型スタートアップの公共調達の活用推進と、スタートアップ・エコシステム拠点形成戦略の立案に取り組む。2022年7月から現職、変わらずスタートアップ支援に携わっている。
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)
イノベーション部 次長(スタートアップ担当)
樽谷 範哉
JETROにて20年以上にわたり日系スタートアップの海外展開や海外企業の日本進出をサポート。サンフランシスコ・シリコンバレー滞在時は、Techstars、Berkeley Skydeck、Alchemistなど著名アクセラレータやVCと連携し、PMF検証や資金調達支援・パートナー発掘を目的としたアクセラレーションプログラムを立ち上げ・運営。帰国後は、北米のみならず世界のメンターや投資家とのネットワークを構築し、日系スタートアップの資金調達・ノウハウ・ネットワーク獲得をサポートしている。
名古屋市 経済局イノベーション推進部
スタートアップ支援室
木野瀬 友人
連続起業家/エンジニア。株式会社ニワンゴの共同創業、ニコニコ動画の運営、デジタル医療の研究開発、グローバルベンチャーキャピタルの日本の立ち上げを経験。現在はスタートアップのCTOをはじめ、名古屋市のファンドの組成支援や人材交流の仕組みづくりなどのスタートアップのエコシステムの構築支援に従事。東海高校卒業、慶應義塾大学総合政策学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了、デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツマネジメント研究科首席修了。
Beyond Next Ventures株式会社
投資部門
蔭山 裕行
大学ではフェムト秒レーザーを活用した分子反応ダイナミクスの時間分解計測をテーマに研究。2020年4月にアクセンチュア 戦略部門に入社。主に通信業や金融業の企業をクライアントとして、多様な領域における新規事業の立上げ・推進支援に従事。2023年8月にキャピタリストとして当社に参画。研究成果の日本経済への還元を橋渡しすることで、研究者が活き活きと活動できる余白を持った社会作りを目指す。東京大学理学系研究科化学専攻修了、理学修士。
目次
日本のスタートアップ・エコシステムの強みと課題は?
伊吹:様々な事業会社がエコシステムの中に組み込まれているのが強みだと思います。まさにBeyond Next Venturesさんの創業年である2014年頃から、代表の伊藤さんとも連携して、様々なプレーヤーを巻き込んでスタートアップ支援事業を成長させてきました。また、私が内閣府で「スタートアップ・エコシステム拠点都市」というものを作っていた時も、いかに地方の企業を巻き込むかを意識していました。
このように、視点の異なる人たちを巻き込んでエコシステムを作れることが日本の強みであり、今後さらに強化していくべき点だと思います。
一方で、課題としては「チームビルディング」が挙げられると思います。その点に関しては、JETROさんをはじめ、様々な支援機関と連携しながら取り組んでいます。
樽谷:日本の強みは、ディープテック領域のエコシステムが強いこと、そして、パテントのアプリケーションが豊富だということです。私は海外のVCと接する機会が多いため、そのような点を思い切りポジティブに打ち出して「投資しないともったいないですよ」と彼らに積極的に発信しています。
日本のスタートアップに対しては、海外での資金調達やテックジャイアント企業との事業連携の実現に向けて、「海外のメンターによるメンタリング」が必要不可欠だと考えています。さらに、そのメンターから知り合いを繋いでいただき、繋がりの連鎖まで生み出すことが重要です。なので、私としては海外との接点を沢山作り、日本の人たちとの繋がりが生まれる活動に重きを置いています。
日本のスタートアップについては楽観的に捉えていますが、あえてネガティブなことも言うと、伊吹さんと同じく「チームビルディング」が課題だと思います。日本のスタートアップを見ると、どうしても似たような人たちが集まるケースが多く、高校や大学での知り合い同士で起業される方も少なくありません。
一方で海外では人種や経験もバラバラですし、女性、男性の共同創業も多いです。アーリーな時期から多様なメンバーでチームを組んでいるからこそ、世界の市場に通用するプロダクト作りができるのだと思います。
配偶者よりも重要な「共同創業者選び」。日本と海外の差は
(蔭山) 日本と海外で創業チームの作り方での違いがあれば教えてください。
樽谷:欧米では、友だち同士ではなく、「ジョブディスクリプション」で起業仲間を選んでいる傾向が日本より強い印象です。人柄や相性というよりは、その人の能力が欲しいからチームに誘うわけです。そのため、身の回りの友人や知人に声をかけていくのではなく、様々な会合に顔を出して、自分が必要な能力を有する人を見つけては声をかけていきます。
特にチームに誘うべきなのが、「連続起業家」です。Exitを経験している人が一人でもチームにいるだけで、会社全体の視座が高くなるため、目指すバリュエーションが段違いに跳ね上がります。しかし、日本、特に地方には連続起業家の数が圧倒的に少ないので、そもそもの母数を増やさないといけないというのが課題かもしれません。
(蔭山) 連続起業家の木野瀬さんから見て、共同創業者探しについてどうお考えですか?
木野瀬:まず、共同創業者探しというのは、配偶者探しよりも重要だと思います。なぜなら、起業すればExitするまでは配偶者よりも共同創業者と一緒にいる時間の方が長くなるからです。そんな重要なことを産学連携本部や自治体に相談していてはいけません(笑)。今回の「BRAVE」のような共同創業者候補・経営人材候補と出会えるプログラムを活用するのでもいいですし、出会い方はなんでもいいので、死にもの狂いで最高のパートナーを見つけてほしいです。
また、チームビルディングに関して名古屋市が取り組んでいるのは「ブランディング」です。スタートアップを魅力的に打ち出し、優秀な人材に来てもらう流れを作るのです。三河地方には、トヨタやデンソーといった大手事業会社に優秀な人材が数万~数十万人はいます。仮に、そのうちの100人に一人がスタートアップに来てくれるだけで、500〜1,000人の人材が流動する計算になります。
スタートアップが各支援を最大限活用するには?
伊吹:役所系の支援機関に関して言えば、各機関によって得意・不得意領域があるので、相談内容によって使い分けるのがおすすめです。補助金などの相談は自治体に、サイエンスリスクに関してはNEDOなど、それぞれの機関の強みにマッチした相談をしていくのがよいと思います。
ただし、共同創業者探しは自分で考え、行動を起こすしかありません。私の知っているスタートアップ起業家は、かなりアングラで色々な事業会社の特定の方に個別にアプローチして何度も訪問していました。やり方は千差万別ではありますが、ご自身のネットワークで色んな人を頼っていくと良いのかなと思います。
最近は支援機関同士の連携が進んでいるため、相談先を迷った時には、遠慮なく「どこに相談すればいいですか」と問い合わせてみるのもいいかもしれませんね。
木野瀬:まず、ビジネスリスクに関してはVC(ベンチャーキャピタル)、ファイナンスリスクに関してはVCかNEDOさんに相談したほうがいいでしょう。サイエンスリスクについてはNEDOさんのDTSU(ディープテック・スタートアップ支援事業)などに相談をして解決していくのがいいのかなと思います。
一方で、伊吹さんと同じですが、ヒューマンリスクは自分で解決するしかありません。
今後目指したい姿・スタートアップ関係者へのメッセージ
(蔭山) 最後に、今後目指していきたい姿について聞かせてください。
伊吹:自己矛盾になりますが、最終的にはNEDOの支援がなくてもスタートアップが育つ環境を作っていきたいです。一方で、どうしても事業の成長過程では研究開発上のリスクが発生するものなので、そのようなリスクに関しては様々な機関と協力しながら支援していきたいですね。そのためにも、今後は支援者同士の連携を強めながら、スタートアップが成長しやすい環境を作っていきたいと思います。
樽谷:実際に私たち(JETRO)のもとに相談に来てくれる人のほとんどが紹介、つまりリファレンス経由で、友だちのスタートアップ起業家に「ここいいよ」と言われて相談に来られるケースがほとんどです。そして、実際に私たちのプロジェクトを通じて成功していく案件も殆どがリファレンス経由です。
この「リファレンス文化」を世界60億人という規模感で作っていかなければいけないと感じています。そのためには、日本のVCを世界のVCに繋げる、日本のメンターを世界のメンターに繋げる、というふうに、「みんな知り合い」の仲良しグループにどれだけ日本のエコシステムの人たちを入れられるか、が大事だと思って、僕は今必死になってその活動に取り組んでいるところです。
木野瀬:名古屋のエコシステムは飛躍的に成長し、5年前に比べるとスタートアップは1.5倍に増え、年間の投資金額も2倍以上になりました。大学発スタートアップの資金調達額で見ると名古屋大学が全国3位です。ここから先のキーワードは、やはり「グローバル化」です。日本の大企業の海外のソーシング拠点はシンガポール、シリコンバレー、ボストン、ベルリンの4拠点に集中していることが多いです。なぜなら、そこにスタートアップが数多く集中しているからです。私は、そのような拠点に日本のスタートアップや支援機関を連れていけるような取り組みをさらに強化していきたいと考えています。