ディープテックユニコーンの航海図|TECHNIUM Global Conference 2025 開催レポートNo.3

Beyond Next Venturesが共催として参画した、日本初のディープテックに特化した国際カンファレンスである「TECHNIUM Global Conference」。日本のディープテックスタートアップを牽引するトッププレイヤーが集結し、多数のセッションが行われました。

本カンファレンスは完全招待制で開催され多くの反響をいただいており、当日ご来場が叶わなかった方にも内容をご紹介したくセッションレポートを公開いたします。

イベントレポート3では、当日開催された“ディープテックユニコーンの航海図”についてご紹介いたします。

ディープテックユニコーンの航海図 -挑戦と突破のリアル- powered by Beyond Next Ventures

モデレーター
ー南場 智子(株式会社デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 、株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役会長)

登壇者
ー関山 和秀(Spiber株式会社 取締役兼代表執行役)
ー鍵本 忠尚(株式会社ヘリオス 代表執行役社長CEO、医師、株式会社パワーエックス 取締役会長)
ー加藤 真平(株式会社ティアフォー 創業者兼代表取締役CEO)
ー滝野 一征(株式会社Mujin CEO兼共同創業者)

南場智子氏がモデレーターを務めたセッション「ディープテックユニコーンの航海図」は、開始前から会場が満席となるほどの注目を集めた。

今回登壇した4名に共通するのは、ディープテックスタートアップの創業者であるということ。そしていずれも企業価値が10億ドル以上に到達する可能性が高い「ネクストユニコーン」として国内外で高い注目を集めているということだ。

彼らが挑んでいるのは、技術的にも社会的にもフロンティアとなる領域。バイオものづくり、再生医療、自動運転、ロボティクスと、領域こそ異なるものの、共通しているのは「誰も航路を引いていない領域」に自ら船を出しているという点だ。

冒頭で南場氏は、「ディープテックのフロンティアを切り拓く皆さんに、なぜこの道を選んだのか伺いたい」と登壇者に投げかけた。この問いかけに導かれるように、それぞれの原点と覚悟が語られていった。

南場氏の率直な問いかけに、起業家たちは心を開く

原点と挑戦、大切にしている思い

医師から起業家へと転身した鍵本氏。起業の原点には、「目の前に患者さんがいても、薬や手術法がなければ医者は無力。この限界を一生味わうのは嫌だ」という臨床医時代の強い思いがあった。鍵本氏が立ち上げたヘリオスは医療系だったこともあり「薬事承認がとれるかとれないかで0か100かというくらい違う」と、医療系ならではのチャレンジも経験してきた。

「ヘリオスでは、ガーンと株価が1/20にまでなったこともある。そこから復活するまでは年単位で時間がかかりました」(鍵本氏)。

鍵本氏が語ったように、ディープテック企業を経営する上では資金や時間をはじめ、様々な困難が降りかかる。こうした困難を乗り越えるときに、大切なものはなにか?

「何年もの間、ニコニコ笑って経営できるかっていう胆力の勝負ですよ」(鍵本氏)。鍵本氏のように医師出身であったり、技術がバックグラウンドにあったりすれば、自社の技術が世界的に勝てるか冷静に分析して、困難な局面でも踏ん張る力になるのだという。

バイオ素材開発に取り組むSpiberの関山氏は、仲間の存在の大切さを強調した。「事業が進めば進むほど、難関もチャレンジも大きくなる。自分の場合は、共同代表とずっと一緒にやってきて、親友のようなもの。孤独を感じることがなかったのは幸いだった」。共同代表とは大学の研究室時代からの仲。「蜘蛛の糸を人工的に量産できたら、世の中の役に立つのではないか?」というアイデアの起点から、ともに走り抜けてきたのだ。
関山氏がバイオテクノロジーの道を志した背景には、高校時代にこの分野の第一人者、冨田勝教授の話を聞いたことが影響しているという。恩師や同世代とのつながりが、関山氏の起業家としてのキャリアを蜘蛛の糸のように紡いでいる。

仲間の大切さという点では、CTOのロセン博士とタッグを組んでやってきたMujinの滝野氏も同様の思いだろう。滝野氏は起業前、ウォーレンバフェットの会社として有名な、製造業の中でも世界最高の利益水準を誇るイスカル社に勤務。生産方法を提案する技術営業をやってきた。その中で、ロボットを動かすためのプログラミングが、まったく自動化されていない現実に直面してきた。ロボットが自分で考える「モーションプランニング」の技術があれば、社会構造に大きな変革をもたらせるのではないか?

こうした課題意識のもと、出会ったのがロボット工学の権威であるロセン博士だった。彼とタッグを組むことで、事業化が難しいとされるロボットベンチャー業界で成長を遂げてきた。

ビジョンが最初のプロダクト

蜘蛛の糸の量産や自動運転。どれも最初は「絵空事」のような響きがないだろうか?本当に実現するかわからない、まだなにも実体がないところから始まるディープテックにおいては、「ビジョンこそが最初のプロダクトなのです」と加藤氏は語る。なにも存在しない段階であっても、強いビジョンで共感者を巻き込んでいく。そういった力もディープテックには欠かせないといえる。

加藤氏自身は自動運転が社会課題の解決に貢献できると強く確信している。「よくGoogleやテスラがライバルとして見られます。Googleやテスラに打ち勝てるというストーリーがあると、また次のスタートアップ、ディープテックが生まれてくると思います。自分としてはそういった考えでやっていきたいなと思っております」

ディープテック起業家のビジョンが現実のものとなるまでは、10年単位で時間がかかることも珍しくない。滝野氏は「自社の創業当時にたくさんいた、『ロボットベンチャー仲間』はほとんど残っていない」という。「彼らの技術が悪かったわけではないのです。技術的にはいいものがあったのに、成長しきるまで資金がもたなかったのです」。 

そんなディープテックならではの数々の障壁に対して、4人の回答に共通していたのは、「それでも自分がやる」という強い覚悟だった。

活発な議論はマクロな政策領域にまで及んだ

終盤には、南場氏が「起業家のみなさんは決して他責思考をしないから難しいかもしれないけれど、国や行政、VCなどのあり方についてのご意見もぜひ伺いたい」と促した。

ディープテック投資について、滝野氏は「時間もお金もかかるが、一度成功すれば、その産業からキックアウトされることも非常に難しく、すごく長く繁栄できる」と説明。「起業家はもちろんのこと、金融機関などファイナンス側、社会全体としての理解が必要」だと話した。国が保証するローンなど、日本のスタートアップ支援制度にも追い風が吹いていることを示した。

イベント当日の昼に中国から帰ってきたという関山氏は「中国の会社は我々との共同研究が大きな実績となり、それは多額の補助金獲得へも繋がります。そういった支援のスピード感や金額の大きさには驚かされます」といい、ディープテックに力を入れることが、世界的に非常に重要な潮流になっていることを示唆した。鍵本氏も同様の視点から、「ウクライナがドローンを数多く作ったように、ディープテックがうまくいっている国というのは『自国を自分で守る』という意識が強いのではないか」と考察した。

南場氏の「ここはもっと居酒屋で深堀してきいてみたいお話ですね」「ビジョンこそが最初のプロダクト、いい言葉ですね!」といった言葉の端々から、旺盛な好奇心や起業家へのリスペクトが感じられた。このセッションで明らかになった数々のエピソードは、南場氏がモデレーターを務めたからこそ引き出せたのではないだろうか。

「この4人に続くディープテックが日本からたくさん出てくるといいなと思いますし、世界で大勝ちしていってほしいです」と、南場氏はディープテックにかかわるすべての人を鼓舞した。

本カンファレンスの目的の一つに掲げられた「Connecting」。「起業家として自分より先に1周、2周している先輩方の意見がなによりも貴重だ」と話した加藤氏に対して、「繋がりましょう!」と朗らかな笑顔で答えた南場氏。先輩、後輩、同輩、様々なつながりがあって、起業家たちは前に進めるということが強く感じられるセッションになった。

TECHNIUM Global Conferenceは、来年もディープテックの仲間たちの再会と共創の場になることを目指す。

2025年5月7・8日に開催したTECHNIUM Global Conferenceには、2日間で約2000名が参加しました。500件以上の最先端技術・研究シーズのShowcaseがあったほか、医療・創薬・バイオ・クライメートテック、宇宙、AIなど分野別のセッションも数多く開催。そのほかにも、研究者、スタートアップ、投資家、事業会社が集う実践的なネットワーキングの機会も提供しました。商談・マッチングブースでの面談件数は1000件にものぼり、賑わいを見せていました。

TECHNIUM Global Conference
公式Webサイト:https://tcnm-gc.com/

Akito Arima

Akito Arima

Partner

Keigo Yato

Keigo Yato

Venture Capitalist