新しい市場に挑むディープテックスタートアップへの出向で、若手社員は何を学ぶのか?

鷺山:Beyond Next Venturesで次世代の起業家発掘・育成を担当している鷺山(さぎやま)です!

大手企業からスタートアップへの研修出向が人材育成のトレンドとなりつつあります。その中でいま注目を集めるのが、“新規性の高いビジネス”に挑む初期的なディープテックスタートアップへの出向です。

今回は、SUSMED、TOWINGに若手社員を出向しているトヨタ自動車・住友商事、そして、大手企業の新規事業推進の支援を担当している経産省をお呼びし、パネルディスカッションを行いました。

出向はスタートアップ・大手企業双方のためになると思いますので、今日のイベントが多くの方の役に立つと嬉しいです。

第一部では政策的な立場から出向が注目される背景及び今後の課題や方向性、第二部では実際に出向をおこなっている企業様から具体的なお話を伺っていきます。

第一部:経済産業省における大手企業のイノベーション人材育成支援の取り組み

経済産業省 産業創造課・新規事業創造推進室 登坂 直樹 氏

登坂:私は経済産業省の新規事業創造推進室でスタートアップ支援を行っています。経済産業省では、今スタートアップ支援が盛り上がっており、大企業とスタートアップ人材の交流の新たな政策を作っています。

新規事業を興す人材の育成

人づくりについては、スタートアップに関係する部署への異動や研修制度などを実施しています。今回の「スタートアップへの出向」は、主に「人づくり」に該当する活動であり、スタートアップのスピード感で新規事業の立ち上げを経験する人を増やすことで、大企業の中での新規事業の創出やオープンイノベーションが加速することを期待しています。

先日、「スタートアップへの出向によってどんな力が身に付くか?」についてアンケートを実施したところ、「困難な状況でもやり抜く力が養われた」という結果が出ています。スタートアップ出向を通じて、新規事業を興す過程で直面する様々な壁を乗り越えるという経験が生きていることが分かります。

新規事業の創出を後押しする社内の仕組みづくり

組織づくりについては、社内公募や新規事業担当部署を設立する活動を進めています。

今回、令和3年度からスタートする支援策の一つとして、「スタートアップ・中小企業への兼業副業・出向等支援補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」を開始しました。

これは、スタートアップへの兼業・副業・出向等を行う企業に対して、関連費用や人件費を一部支援する活動です。スタートアップへの出向の一助になれば嬉しいと思っております。詳細はこちらをご覧ください:https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2022/k220131003.html

第二部:大企業からディープテックスタートアップへの出向~狙いと体験できること

鷺山:人材育成を目的としてディープテックスタートアップへ出向を積極的に行う企業の狙いと、実際に出向した社員にどんな体験ができるかについて、お話いただきました。

まず初めに、社員を出向に送り出す企業側の目線として、トヨタ自動車の松岡さん住友商事の三浦さんより、スタートアップ出向の取り組み背景、期待すること、出向を実現するうえでのハードルなどを伺いました。

出向に送り出す企業側の視点

鷺山:まずは自己紹介をお願いいたします。

トヨタ自動車株式会社 法規認証部 松岡氏

松岡:私は、トヨタ自動車の法規認証部にて自動車に関連する新たな法規の確認や社内共有などを行っています。車両を製品として世の中にお届けする際に、法規に準じていないと販売ができない可能性があるため、その法規の動向をキャッチして、社内で必要な開発部署に伝え、製品と法規の整合を取る仕事と、車両の認可を取得する仕事をしています。

住友商事株式会社 メディカルサイエンス部 三浦氏

三浦:住友商事のメディカルサイエンス部にて、製薬会社やアカデミアの創薬、製薬会社の製薬(ものづくり)を支援する様々なサービスを展開しています。BtoBのみならず、BtoCや新しい薬を開発するなど新規事業の取り組みにもチャレンジしています。

スタートアップ出向の取り組みについて

鷺山:スタートアップへの出向は会社としていつ頃から取り組まれているのでしょうか。

松岡:これまではトヨタのグループ会社等に出向して経験を積むことが主流でしたが、近年ではその幅が広がり、幅広い異業種の企業やスタートアップに出向する流れが増えています。自動車を作るだけの会社からモデルチェンジしなければいけない、という全社的な考えが背景にあります。

三浦:住友商事では2019年度からスタートアップへの出向の支援を始めています。我々が出資しているスタートアップ企業も、関係ない第三者の企業も含まれますが、出向の際に会社が人件費の一部を負担してくれます。

鷺山:ありがとうございます。出向の取り組みではどんな世代の方がご参加されるのでしょうか。

松岡:色んなものを吸収して、持って帰ってきたものを会社に反映してほしい思いがあり、一般的に若手が中心です。

三浦:弊社の場合は若手管理職くらいまで、30歳前後の人が多いです。

出向する社員に期待すること

鷺山:実際に出向を実施する際に、どんな期待を寄せて送り出しているのでしょうか。

松岡:うちの社長もよく「生きるか死ぬかの戦いだ!」とメディア等で語っていますが、会社自体がそういう立場にあります。そのため、若手社員にも修羅場の経験をできるだけ沢山させたいという思いがあります。ただ、社内では難しいので、積極的に外に送り出して、経験を積んできてもらうことを期待しております。

鷺山:5年前と直近1年では、期待するものは変わりつつあるのでしょうか。

松岡:自動車業界が置かれている環境自体がこの5年で大きく変わってきています。今までは競争相手が自動車業界の他社でしたが、今はIT業界まで含まれます。そのため、自動車業界以外の異業種への出向も積極的に行っています。

三浦新規事業開発は会社の生命線であると思っています。私どもの会社の中で失いがちなスピード感や業務の幅を、スタートアップというダイナミックな環境で吸収してほしいという人材育成面から出向を行っています。そのため、メガベンチャーというよりは、数十人規模のスタートアップに出向する機会が多いかもしれません。

もう一つは、出資先のスタートアップへの出向では、出資の関係プラスアルファの部分に重きを置き、業績拡大に貢献できる人間を現場に出させていただいて、スピード感を持って育成していくという観点で取り組んでいます。

出向という取り組みへのハードル

鷺山:スタートアップへの出向に際して、不安やハードルはありましたか。

三浦:全く異なる環境なので、うまくやれるのか?という不安は少しありました。ただ、出向にいたる過程で、先方の経営陣の皆さんと関係構築ができたため、スムーズに送り出すことができました。

鷺山:資本関係のない企業への出向ではどのようなハードルがありましたか。

松岡:私は実はあまり不安はありませんでした。出向する本人が自ら情報を収集して、どんな候補があるか、どんな経験をしたいか、その経験をするためにどんな会社があるか、といったことを調べ上げ、彼らのプレゼンを聞いたうえで判断したからだと思います。

鷺山:本人が決めて、本人が上司を納得させるという自主性を尊重されているのですね。

松岡:出向は「修羅場経験」なので、本人の意思がしっかりしていないとまず成り立たないですよね。企業という温室から外に出るなら、その意思をちゃんと示してもらわなければ安心して送り出せません。逆に、そこさえしっかりできれば快く送り出すようにしています。

出向後の社員の変化

鷺山:実際に出向した方はどんな成長をしていますか?

松岡:本人が想定していた修羅場よりも、さらに激しい修羅場を経験しているようです。凹んだり、喜んだりと、いい感じに揉まれています。それを経験して仕事のスピード感や考え方に大きく変化があるように思います。

三浦視座が高くなり、視野が広がった印象を受けます。あって当然だと思っていたものがない環境で、自分なりの答えや気づきを経営陣にシェアするなど、送り出す前には想定していなかったほど大きな幅のあることに取り組んでくれています。

実際にスタートアップに出向している社員側の視点

鷺山:続いて、実際に出向を経験したご本人にお話を伺います。今回は、住友商事から不眠障害治療用アプリを開発するSUSMED(以下、サスメド)に出向をしている九鬼さんトヨタ自動車から人工土壌を活用した次世代栽培システムを開発する名古屋大学発ベンチャーのTOWING(以下、トーイング)に出向をしている山田さんにご登壇いただきました。

出向を希望した背景

鷺山:まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。

住友商事株式会社 メディカルサイエンス部 部長付 九鬼 嵩典 氏
(不眠障害治療ソフトウェアのサスメド出向中)

九鬼:私は住友商事に新卒で入社し、幅広く新規事業開発を検討する中で、治療用アプリに非常に強い興味を持ちました。2020年8月に担当者としてサスメド社に出資させていただいた後、同年10月から出向して事業開発をお手伝いしています。

サスメドは2016年に設立され、現在約30名のメンバーが在籍しているディープテックスタートアップです。私は事業開発部にて治療用アプリ(DTx)事業の開発支援と臨床試験のシステム構築を担当しています。また、オープンイノベーション関連のイベントや、採用や広報活動の一部も担当するなどスタートアップらしく幅広い業務に携わっています。

トヨタ自動車株式会社 法規認証部 部付 法規渉外グループ 山田 大河 氏
(宇宙農業のトーイング出向中)

山田:私は2017年にトヨタ自動車に入社し、法規認証部にて政府が出した規制強化案に対するロビー活動を行っておりました。2021年から少し業務が変わり、排ガス規制の前段階となる調査にて、大気汚染の深刻度をリサーチし、政府の政策立案者の方と一緒に規制をつくる活動をしていました。

その中で、会社の置かれている状況に自分がどう食らいついていくかを考えたときに、「スタートアップで修行したい!」と思い、上司に相談して出向を決めました。

出向中のトーイング社では、営業と事業開発を担当しています。トーイングは名古屋大学で土壌の研究をしているメンバーが2020年に立ち上げた会社です。土をゼロからデザインして作る技術を生かして、地球の農業と宇宙の農業の発展を目指しています。

鷺山:どのような視点で出向先企業を選択し、どういった経緯で出向を実現されたのでしょうか。

九鬼:出向先のサスメド社についてはもともと存じ上げていましたが、Beyond Next Venturesさん経由でさらに深く知ったことがきっかけです。

当時、治療用アプリを開発する数少ないスタートアップの一社であるサスメド社に興味をもち、BNVさんに資金調達ニーズをヒアリングしたところ、資金調達中だということを知り、本格的に出資検討に入りました。

鷺山:自分が出向しようと思ったきっかけはありますか。

九鬼:実際に会社の中に入って事業開発をしたいという強い想いがありました。会社としても、外に出て事業開発に携わってほしいという要望もあり、私と会社のニーズが合致した、というのが出向の背景です。

鷺山:ありがとうございます。山田さんはご自分で探されたとのことですが、最初にスタートアップで挑戦したいと思ったきっかけはありましたか。

山田:会社から「新しい価値を創造する人材になってほしい」というスローガンが掲げられている中で、与えられた仕事をしているだけではその力が身についていないなと。

そこで、社内に若手派遣プログラムがあることを知り、上司に「スタートアップで挑戦したい」という自分の想いを打ち明けました。すると、かなり好意的に受け止めていただき、応援してくださいました。

受け入れ先の企業は自分で探す必要があり、社内で色んな方にヒアリングをする中でトーイングを紹介していただき、先方にも「受け入れてください」とお願いして今に至ります。

鷺山:「ここに出向しよう」という決め手はあったのでしょうか。

山田:私は、新規事業の立ち上げと推進を実行する力を身につけたく、シードやアーリーステージのスタートアップで事業開発を経験したいと考えており、トーイング社はピッタリでした。

一方で、相手側の目線に立った時に、特に私のような新規事業畑ではない人間を社員数が数名のフェーズで受け入れると進捗が遅れてしまうかもしれません。そのため、なるべく当時の自分との接点が多い分野を探しました。もともと私は大学で化学を専攻していたこと、直近の仕事では大気汚染の仕事もしていたため、好意的に受け取っていただきました。

出向前との違い

鷺山:大組織と小規模な組織ではガバナンスや意思決定も全く異なると思いますが、いかがでしょうか?

九鬼:商材も違いますし、人も常に足りない状況なので、やはり色々な面で違います。一方で、カルチャー視点でいうと、サスメドには大手企業出身の方が多く、かつ、IPO前の時期で内部統制もしっかり構築されているフェーズだったため、仕事の進め方は案外似ているな、というのが率直な感想です。限りなく大手に近い小さな組織、というイメージです。

山田スピード感が全然違います。出向前は、「最初の1か月は仕事よりも人間関係に慣れることが大事」と送り出されたのですが、いざ中に入るとそれどころではありませんでした。1か月後には単独で出張に行き、現地農家さんに出向先企業の代表としてヒアリングを行う機会もありました。

あとは、自由度と裁量が大きいですね。それは良い面もありますが、辛いところもあります。例えば、最初に任された仕事が取引先様からの調査コンサル案件でしたが、今まで調査資料を作ったことがなかったため、やり方を相談したところ、「まずは好きなようにやってみてください」と言われました。

大企業だと経験がある方に話を聞いたりヒントを貰えますが、言葉通りゼロから自分で未知なる業務の進め方やアウトプットイメージを組み立てていきます。この点では今も苦労していますが、かなりやりがいがあるのも事実で、日々エキサイティングに過ごしています。

鷺山:山田さんはどうやってその環境を乗り越えたのですか。

山田:社長との距離もかなり近いため、仕事以外でも日々接点を増やして、世間話みたいなところから農家さんの考え方や農業に関する知識を色んな所から集めました。少し泥臭いですが、そういったことをしながら少しずつ知識を身に着けていきました。

出向を通じて得たこと

鷺山:経営陣の近くにいることでどんなメリットがありますか。

山田経営陣は視野が広くて、描いている絵も大きいです。自分がなかなか縮こまったアイデアしか出せないところを、短時間で大きな絵を描き、それがいかに効果的であるかまで考えて、日々さまざまなアイデアをポンポン出していらっしゃるので、ものすごく参考になります。

九鬼:特に出向先のサスメド社長の上野さんは、医師でもいらっしゃいます。「持続可能な医療の実現」というミッションのためにブレずに生きている創業者というのは、本当に違う生き物なのだなと感じています。

鷺山:最後に、スタートアップへの出向によって一番変わったことを教えてください。

九鬼ミッション・ビジョンへの向き合い方自分の強みを相対的に客観視できているという点です。また、住友商事として医薬でデジタル治療をやっていくと決めた中で、先端で事業を行っているスタートアップの中に入らせてもらって、一気にインサイダーになれた点ですかね。中の人と同じ言葉で会話できて、キャッチアップのスピードも格段に上がりました。

山田:まだ出向して数カ月なので学び途中ですが、高速でPDCAを回していく力が当時と比較して身についたと思います。この力は、今後も出向を通じて高まっていくと思います。

鷺山:ありがとうございます。これからも引き続き近況を聞かせてください!トヨタ自動車の松岡さん・山田さん、住友商事の三浦さん・九鬼さん、経産省の登坂さん、本日は貴重なお話を頂き本当にありがとうございました!

最後に:スタートアップへの出向を検討中の企業の方へ

当社では、国内・インドのディープテックスタートアップ約60社へ出資を実行しております。スタートアップ側のニーズのヒアリングや面談設定など行いますので、ご興味のある企業のご担当者の方は、ぜひ以下のメールアドレスまでご連絡ください。
Beyond Next Ventures 人材支援担当 鷺山
hrsupport+intra@beyondnextventures.com

Shota Sagiyama

Shota Sagiyama

Executive Officer, Head of HR Support