弁護士のスタートアップ監査役が期待される理由とその役割|スタートアップで働く弁護士のまなび場 vol.3

「スタートアップで働く弁護士のまなび場」は、スタートアップというフィールドに一歩踏み出した先輩弁護士のご活動や体験談をお届けし、弁護士の皆さまのキャリアを後押しすることを目的に開催しています。

第3回目のテーマは、「スタートアップでの監査役のキャリア」。現在スタートアップの監査役として活躍されている3名をお呼びして、具体的な仕事内容、就任までの経緯などを詳しくお話いただきました。

登壇者プロフィール

株式会社スペースマーケット 取締役(監査等委員長)

石原 遥平 氏

慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2011年弁護士登録後、弁護士法人淀屋橋・山上合同にてコーポレート・ガバナンス、M&A、会社訴訟・非訟その他の企業法務から一般民事事件、刑事事件まで幅広く従事。2016年7月、(株)スペースマーケットに入社(出向)し、自治体や企業提携交渉、資金調達、内部監査等も担当。2019年12月に東証マザーズ上場を担当マネージャーとして経験。2020年4月より出向期間満了に伴い事務所に復帰。同社General Counselを経て2021年3月より取締役(監査等委員)就任。dely株式会社や株式会社RECEPTIONISTの社外監査役も務める。

ゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所 パートナー弁護士
株式会社CureApp 非常勤監査役・Faber Company株式会社 非常勤監査役

根本 鮎子 氏

05年司法試験合格、06年東京大学法学部卒業。13年ジョージタウン大学ローセンター(LL.M.)修了、同年ニューヨーク州司法試験合格。クリフォードチャンス法律事務所(2007年~)、K&L Gates外国法共同事業法律事務所(2011年~)でのM&A、コーポレート支援業務を経験。製薬、医療機器、再生医療等のヘルスケア業界の企業法務・コンプラインスを専門とし、医薬品企業法務研究会国際問題研究部会アドバイザー、同臨床研究部会アドバイザー、厚生労働省医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)サポーター、一般社団法人日本生物資源産業利用協議会(CIBER)倫理審査委員・同運営委員も務める。2020年9月より株式会社CureApp 非常勤監査役、2021年1月よりFaber Company株式会社非常勤監査役

三浦法律事務所 パートナー
OnBoard株式会社 CEO
株式会社センシンロボティクス株式会社メディカルノート 社外取締役監査等委員

松澤 香 氏

02-17年、森・濱田松本法律事務所。独立後、共同パートナーと三浦法律事務所設立。M&A・スタートアップ支援等企業法務のほか、国会に設置された第三者調査委員会のマネジメントや公的・民間機関のガバナンス改革に従事。17年、東京未来ビジョン懇談会メンバーとして、都知事に対し、多様性欠如による意思決定の誤謬について問題提起。20年、株式会社センシンロボティクス・株式会社メディカルノート社外取締役監査等委員。慶應大学・ハーバード大学ロースクール修了。弁護士・ニューヨーク州弁護士。The Best Lawyers in Japan 2021・2022受賞(Corporate Governance and Compliance Practice部門)。

モデレーター

MICIN株式会社 Public Affairs / Legal
「スタートアップで働く弁護士のまなび場」共同幹事

浅原 弘明 氏

弁護士。慶應義塾大学法学部法律学科、東京大学法科大学院、University of Virginia School of Law(LLM及びVisiting Scholar (Healthcare Law))。司法試験合格後、シティユーワ法律事務所、 Hughes Hubbard & Reed法律事務所、株式会社MICINに勤務。医療・ヘルスケア領域を専門に活動。経済産業省セルフケアを支える機器・ソフトウェア(プログラム)に関する検討委員会及び同WG(仮称)、医療機器開発ガイドラインニーズ検討分科会委員。趣味は料理(茶色)。いつも半袖。

企画・運営

Beyond Next Ventures株式会社
執行役員

鷺山 昌多

中央大学、会計学科卒。Beyond Next Venturesにて次世代の起業家発掘・育成を担当。まなび場シリーズは、スタートアップでの新しい機会とロールモデルを創り出し、新しい産業の中でより自由に活躍できるプロフェッショナルを爆発的に増やす活動として行っています。

スタートアップ監査役になるまで

スタートアップの上場経験を持つ石原さん

石原:私は弁護士事務所に4年半ほど務めた後、スペースマーケットというスタートアップに出向しました。社員として上場準備を経験して、マネージャーとして審査から東証とのやりとりまで、上場に関わる全ての業務を経験しました。2020年に事務所に復帰し、2年程経ったところです。社外監査役としては2017年頃から活動し、その後、4社の監査役を担っています。

VCとの繋がりから監査役となった根本さん

根本:私は、クリフォードチャンス法律事務所に入り、医療機器メーカーへの出向の機会をいただき、1年間法務部員として関わらせていただきました。その後、K&L Gates法律事務所に入り、所属中にワシントンDCのジョージタウン大学に留学しました。

クリフォードチャンス時代から「スタートアップは、コンプライアンスで損をしているのではないか」という問題意識があり、留学後は厚生労働省医療系ベンチャー・トータルサポート事業のサポーターとして、ヘルスケアベンチャーのサポートをしています。

また、浅原さん、Beyond Next Venturesさんとのご縁で2020年からCureAppの監査役をしています。それとは別で、Faber Companyの監査役も務めています。

女性弁護士の監査役就任サポートをおこなう松澤さん

松澤:私は弁護士登録後、現 森・濱田松本法律事務所に所属していました。その後ハーバードロースクールに入り、パブリックセクターのリーダーシップやガバナンスを学びました。

日本に帰国後、2011年に国会に設置された原発事故調査委員会の調査課長として出向したことが大きな転機となりました。東京電力はガバナンスがしっかりした会社ですが、事故の原因を考えたときにその意思決定主体におけるダイバーシティの欠如が見えないリスクとなっていることに非常に大きな問題意識を持ちました。

その後、法律事務所全体で、スタートアップを応援したいという思いで、2019年に三浦事務所を設立しました。

監査役としては、2020年にドローン系スタートアップのセンシンロボティクス、医療系のメディカルノートの社外取締役・監査等委員を務めています。

また、2021年にOnboard株式会社を設立しました。「ダイバーシティは成長戦略である」ということを掲げています。日本企業の意思決定主体におけるダイバーシティは確保されないことがまだまだ多いため、コーポレートガバナンスのあるべき姿を踏まえて、その辺りを応援したい、そして企業価値の向上につなげたいという想いがあり、監査役・監査等委員候補を含む女性役員の育成と企業とのマッチングをしています。

スタートアップ監査役とは

具体的な監査役の仕事

浅原:具体的な監査役のお仕事について聞かせていただけますでしょうか。

石原:私は、取締役監査等委員長と非常勤の監査役をやっています。

まずメインの監査等委員長の仕事ですが、最初に1年間の監査計画を作り、監査基準を作ります。そして毎月の監査調書を作り、取締役会がこの監査項目に沿って開催されているかをチェックします。さらに、その結果を監査等委員会に報告しながら、会社の悩みを他の社外監査役や監査等委員の社外取締役の方々にご相談して、社内の取締役会に伝える仕事がルーティンです。なので、頻繁に社内の人とやり取りをしながら、監査法人との面談、四半期ごとのレビューをするのがメインの仕事です。

非常勤の社外監査役は、月に1回の取締役会と監査役会に出席しています。事業内容を出来る限り把握はしていますが、専門的な話よりは、素朴な疑問や他社と比較しての不足点を差し込む役割を担っています。

鷺山:根本さんはいかがでしょうか。

根本:私は社外監査役なので、レギュラーな仕事としては取締役会と監査役会への参加です。内部監査部門との連携のためにミーティングもしています。

社内のことも理解する必要があるので、役員の方や法務の方との面談もしています。イレギュラーですが社内調査の仕事もします。

浅原:ありがとうございます。松澤さんはいかがでしょうか。

松澤:私は監査等委員でして、基本的にはお二方と同じ仕事内容です。が、もう少し踏み込んだお話をします。監査等委員は微妙な存在で、取締役会で1票を持つ一方で、監査等委員として意見を述べることがあります。なので、執行に対するガバナンスの要だということを意識して、仕事を進めています。

株主や従業員を含めた全ステークホルダーの目線で執行と議論をすること、中長期的な企業価値の向上に対して、迅速な意思決定とガバナンスをどう両立させていくのかを意識するように心掛けています。

最初に監査役に就いたきっかけ

浅原:どういった経緯で監査役という立場に立ったのか、そして、社外取締役や監査等委員を担うのに必要な経験や資質をお伺いできますか?

根本:1社目はBeyond Next Venturesさんとのご縁です。ヘルスケアとスタートアップに関する仕事をやりたいとお伝えしており、お誘いいただきました。2社目は企業様から直接コンタクトをいただき、現在お声がけいただいている3社目は知り合い経由です。

最初の1社での監査役実務経験が次に繋がると思うので、まずは何でもよいので一歩を踏み出すことが大切だと思います。

必要な経験と資質については、私の場合は、医療機器・製薬会社・IT系の会社への出向の経験や所外での活動(医法研やCIBER等)が今に活かされていると思います。

鷺山:10年ほど弁護士経験を積まれた後に監査役になられたケースが多いと思いますが、どうしてそのタイミングだったのか?そして実際に踏み込んだ時に何が求められたのか、お伺いできますか?

根本:最初のきっかけはBeyond Next Venturesとのご縁だったのですが、そこを掴めた背景として女性弁護士である点もアドバンテージになっていたのではと思います。

(日弁連の)社外役員名簿には、子供がいることも書いています。当初は育児中であることが仕事に対してマイナスになると考えていましたが、結果的にそうではないと気づきました。自分らしさを発揮しつつ、やりたいことを言い続けることが大切だと思います。

石原:1社目はたまたま知り合った経営者の方から紹介されました。2社目はロースクールの先輩が顧問をしている会社からの紹介、あとは事務所にいた頃にMBOを手伝った会社からお声かけいただきました。

スペースマーケットには出戻り役員として入っています。その他、高校時代の野球部の同期が取締役をやっている会社と、野球部の後輩が社長をやっている会社にお声かけをいただきました。まとめると昔の縁とご紹介ですね。

必須の経験はないと思うのですが、弁護士の皆さんがお持ちのリーガルマインドはプラスになると思います。

それからインハウスの経験は執行側の考え方がわかるのでプラスになると思います。育児も大事な経験で、子育てしている方は、自分たちの子供のために良い世界を残したいという共通のミッションがあるので、そういった部分もプラスに働くと思います。

浅原:松澤さんもお願いいたします。

松澤知人経由で全部Facebookのメッセンジャーで連絡をもらっています。友達の友達や、他の勉強家でお会いした方であることが多いです。

弁護士である監査役が何について役に立つかですが、特にスタートアップは、問題点が議題に上がってきたときに、見落とされた論点についてアラートを鳴らせる人のニーズが高いように思います。なので、何か引っかかったら必ず質問できる能力がすごく大事だと思っています。

浅原:必要な資質や能力を具体的にどう身につけているのかお伺いできますか。

松澤:改めて基礎的に理解するために、監査役、監査等委員の教科書に載っている本は、一通り読みました。ただ現場に出て思うのは、顧問弁護士としてアドバイスするのと、監査役としてアドバイスをするのとでは、全然視点が違うということです。

なので、改めて教科書で学んだり、監査役協会さんのセミナー等を受けることが大事だと思います。あとは、周りの監査役のメンバーとディスカッションをすることも役立つと思います。

浅原:ありがとうございます。ご自身で学ばれた後、監査役を教育するための会社を立ち上げられたということは、現状に対して何か足りないと思われたのでしょうか?

松澤:監査役に関する細かな情報・実務については、基本的に取締役会・監査役会はクローズドな世界ですので、本を読むだけでは限界があります。実際に監査役をやったとき、どういうときに発言すべきか、その前提として誰とコミュニケーションをとって、どんな準備をすべきか、最終的に企業価値向上につなげていくには、どんな役割を果たすべきか、ということは外からでは分かりにくいと感じます。

その辺りを、スキルやマインドセット・前提となる法的責任・ガバナンスの考え方、会計やファイナンス・アカウンティングの知識を経験者からしっかり学んだうえで、自信を持って踏み出してほしいと思います。

浅原:ありがとうございます。続いて石原さんお願いいたします。

石原:松澤さんと同じく、他の方から学ぶことを最初に行いました。最初は社外監査役として何をやればいいか全く分からず、本も読みました。でも全く頭に入ってこず…。

特に社外取締役で有名な方がいると、限られた時間の中でどう発言すべきか迷うタイミングがあります。しかし、その中でもズバッと一言で「これは実際どうなんですか?」と指摘をすることは経験から学んでいきました。

浅原:名だたる社外取締役がいる中で最初に発言をするとき、どういう角度で発言することを心がけていますか。

石原素朴な疑問が一番大切だと思います。なので、事業を完全に分かっていなくてもいいと思います。俯瞰したときに「これってどうなんですか?」と言えることが大切ですね。

あとその会社から求められている役割を確認することも大事です。例えば、私が監査役をやっている会社は、役員は皆20代ですが、社長が私の野球部の後輩ということもあり、「気になることがあったらビシッと言ってください」と言われています。なので疑問に思ったときは、すぐ言うようにしています。

根本:私は上場に向かう会社の支援をしたことが今に繋がっていると思います。あとは、Onboardさんの研修で、会社の中で何が行われているのか、様々な修羅場をくぐり抜けてきた社外役員の方々のお話を聞けたことがよかったと思います。

2-3 就任時の不安

浅原:就任にあたっての責任に対して不安になることはなかったですか。またその不安に対してどういう対処をされましたか。

石原:関係の薄い方からの紹介のときは、責任限定契約や保険などが気になることがあります。ただそこを気にしてばかりいるとなかなか踏み出せないので、バランスの問題かなと思います。

松澤:就任時の不安への対応は、正直に申し上げると、会社のメンバーによるところが大きいと思います。まず一番は代表者が信用できる人か、ですね。それから会社のミッションに共感できるか、を見ています。あと、社外監査役であれば常勤の監査役や他の社外監査役のメンバーなどが信頼できる人かどうかも確認しています。

浅原:コミュニケーションのとり方も重要なんですね。最後に根本さんお願いいたします。

根本:責任限定契約は、自分からタイミングをみて聞いてもよいと思います。そこは遠慮するところではなく、就任する方なら質問されるであろうというポイントなので、聞いていいと思います。

鷺山:スタートアップのように外部情報が少ない場合、いかにその企業を見極めているのでしょうか。

松澤:例えば、常勤の方が執務されている体制を見ますね。誰からどんな情報をとり、どんな委員会に出席をして、どんなコミュニケーションをしているかなど確認しています。スタートアップですし、自ら、執行役員全員と1on1をお願いすることも良いと思います。
私の経験では、監査役になるとSlackに招待され、Slackの全チャンネルが見られるようになります。この部分で、透明性が担保されていると思います。

まとめると、意思決定プロセスを把握しておくこと、常勤の人の体制を把握すること、情報共有される状態にしておき、なにかあれば自ら動くという3点が重要だと思います。

鷺山:役員・社長が「〇〇な人だったら注意」という判断基準はありますか。

松澤:私の経験だと、何か起きたときに真っ先に監査役や監査等委員に相談がくる経営陣は大丈夫という感じがしますね。問題が遅れて報告されたときにはテコ入れすべきと判断しています。

監査役の稼働と報酬

浅原:みなさん様々な会社と関わっていると思いますが、月に平均して1つの会社のためにどのくらいの時間を使っていますか。また、稼働に応じたタイムチャージだった場合の報酬水準は、弁護士事務所でのタイムチャージと比較してどの程度なのでしょう?

根本:取締役会と監査役会をミニマムで、その他ミーティング出席や資料確認等に時間を使っています。報酬は(弁護士事務所での)タイムチャージと比べたら割に合わないのですが、取締役会での議論を見られるのが貴重なので、報酬をもらって勉強させていただいているという感じです。

松澤:率直に申し上げると、スタートアップの社外取締役をやるときはペイしない前提で受けてます。なので私はミッションに共感しない限りは役員としての仕事は受けないことにしています。

報酬に関しては、自分の経験が得られることやそれを通じての社会貢献が役員の仕事で実現したい価値だと思っています。ただ、最初に仕事を受けるときに稼働の目安は絶対聞いた方がいいですね。

浅原:報酬はそんなに気にされないとのことですが、聞いておいた方が良いタイミングはありますか。

松澤:私は一番最初に聞きます。他社との兼任もあるので実際にご迷惑をかけないか、しっかり貢献できるのか、役員会の頻度や稼働時間帯、時間数と合わせて聞いています。

浅原:根本さんはこのあたりどうですか。

根本:私は初回には聞けなかったですね。正式に就任するまでの間に聞きました。

浅原:石原さんはどうですか。

石原:僕も初回では聞けなかったですね。稼働時間も各社全然違うのですが、社内にいた時と同じくらいSlackに常駐してます。お金よりも経験を買いにいっているという感じです。他の社外監査役はタイムチャージベースというと半分いけばいい方だと思います。

まとめ

浅原:全体の感想としては、外から見えづらい仕事内容をお聞きすることができて、自分が共感するような会社に対して貢献したいと思いました。

鷺山:まずは一つ目の扉を開くと2つ目3つ目は簡単に開くようになる。だから、一歩を踏み出すタイミングが大事だと感じました。そして1つ目の扉をあけるために、ご縁を大事にしましょうという話でした。根本さんの話にもあった通り、VCもその入り口になり得ます。ただし、誰にでも声がかかるわけではないので、自分ならではの魅力や専門性を発信することも重要だというのが今日の学びですね。

今日は皆さまありがとうございました。次回の弁護士のまなび場をお楽しみに!

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Shota Sagiyama

Shota Sagiyama

Executive Officer / Talent Partner